今回は、2024年に実施された共通テストで出題されたお話を取り上げます。
『草縁集』の「車中雪」について、どのような内容だったのか、あらすじや文法上のポイントなどを押さえていきましょう。
本文は『草縁集』(国文学研究資料館所蔵)
出典: 国書データベース,https://doi.org/10.20730/200013808を参照の上、作成しました。
草縁集とは
成立:江戸時代後期
編者:天野 政徳(あまの まさのり)※国学者であり歌人でもあった
ジャンル:歌文集
今回取り上げる「車中雪」は、擬古物語と言われます。
擬古物語とは、源氏物語以降に影響を受けるなどして平安時代の貴族を主人公にした物語のことを言います。
現代でも源氏物語などを題材にした小説や漫画も、数多くありますよね。
鎌倉時代以降、すでに行われていたことで源氏物語のすごさがわかります。
2025年の共通テストでは、『源氏物語』そのものが出題されていますね。
2024年の大河ドラマで話題になったことも関係しているのでしょうか。
2014年のセンター試験以来の出題だったそうです。
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登場人物
主人公…仕事が忙しくてお出かけできていなかったが、急に思い立って桂の院へ向かう
源少将、藤式部…通常ならば主人公がお出かけの際にはお供をする風流人と名高い人物
家司、大夫、かのしぶしぶなりし人々…今回、主人公のお供をすることになった人たち
童…主人公に源少将からの手紙を届ける、見た目の好ましい子ども
院の預かり…桂の院の管理人
あらすじ(あずき解釈)
主人公は最近仕事が忙しくて、お出かけができていなかった。
「桂の院を建て増しした」って言われていたのに、全然行けてなかったし。
しかし雪に誘われて「よし、桂に行こう!」と思い立つ。
いつものお出かけに連れて行くのは源少将や藤式部たちだけど、今回は急なことだし親しい従者を4、5人連れて行くことにした。
ご機嫌で雪を楽しんでいたら、雪が消えていく…。
みんな死ぬほど嫌がってるけど、帰るのもかっこ悪いしな~。
法倫寺の法会に参加するってことにして、このままでかけることにする。
するとまた真っ暗闇になって、一面の雪景色に。
さっきまでテンションが下がりまくっていた人たちも、にっこにこ。
まだ桂ではないけど、牛車を止めて簾をあげて雪を満喫。
「月の中にいるみたいに光輝いて、なんとも言えない!」と和歌を詠む。
そうしていると、童が源少将からの手紙を持ってやってきた。
内容は、自分を置いて行ったことの恨み言…。
「雪が降り捨てられたあたりには、私の恨みだけが何重にも積もってるわ~」って。
それを読んだ主人公は、「ふふっ」っと笑って「君が来るかと思って、雪に跡をつけてきてたのに、君は知らなかったの~?」と返事を書いて「待つ」の意味を込めて折り取った松の木に結びつけて託した。
そうこうしているうちに日が暮れてきた。
月の里だけあって、月が光輝いて雪もますますキラキラしていて、素晴らしい夜だ!
そして桂の院の管理人が出てきて、「こんな風にいらっしゃるとは思わなかったので、お出迎えもできなくて…」とペコペコする。
「牛の頭に乗った雪を払います」と言っては烏帽子を落とすし、「通り道をきれいにします!」と言っては、せっかくの雪を踏みつけて台無しにする。
本人は海老みたいに手足を真っ赤にして、桂の寒さの中で風邪を引いて回ってるみたいだ。
みんなそわそわして、牛車を移動させようとするのを「そうだよな」と思いながらも、ここの景色も見過ごし難いと思う主人公であった。
草縁集「車中雪」現代語訳・解説
本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳
おほやけごとの打ちしきりて、例の御しのび歩きなるもをさをさし給はず。
朝廷の行事が度重なって、お決まりのお忍び外出もほとんどなさらない。
語句 | 意味 |
おほやけごと | 名詞(朝廷の仕事、儀式、行事などを指す) |
の | 格助詞 |
打ちしきり | ラ行四段活用動詞「打ちしきる」(度重なる)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
例 | 名詞(いつものこと) |
の | 格助詞 ※例の…いつもの、お決まりの |
御しのび歩き | 名詞(お忍びのおでかけ)【尊敬】作者→主人公に対する敬意 |
なる | ラ行四段活用動詞「なる」(お行きになる) |
も | 係助詞 |
をさをさ | 副詞(滅多に、ほとんど) |
し | サ行変格活用動詞「す」連用形 |
給は | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」未然形 【尊敬】作者→主人公に対する敬意 |
ず。 | 打消の助動詞「ず」終止形 |
ここらの人の恨みおひ給へるころなりければ、
たくさんの人の恨みを買いなさる頃だったので、
語句 | 意味 |
ここら | 副詞(たくさん) |
の | 格助詞 |
人 | 名詞 |
の | 格助詞 |
恨み | 名詞(うらみ、不満) |
おひ | ハ行四段活用動詞「負ふ」(身に受ける)連用形 |
給へ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」已然形 【尊敬】作者→主人公に対する敬意 |
る | 完了の助動詞「り」連体形 |
ころ | 名詞 |
なり | 断定の助動詞「なり」連用形 |
けれ | 過去の助動詞「けり」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
桂の院つくりそへ給ふものから、あからさまにも渡り給はざりしを、
桂の院を建て増しなさるけれども、少しも行かれなかったのだが、
語句 | 意味 |
桂 | 名詞(地名。現在の京都市西京区を指す) |
の | 格助詞 |
院 | 名詞(貴族の邸宅などを指す建造物) ※桂の院…『源氏物語』で光源氏が明石の君のところへ通うために立てた別邸 |
つくりそへ | ハ行四段活用動詞「つくり添ふ」(造る+付け加える=建て増すと解釈) |
給ふ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連体形 【尊敬】作者→桂の院を建て増しした人への敬意 |
ものから、 | 接続助詞(~けれども) |
あからさまに | ナリ活用の形容動詞「あからさまなり」(少しも~ない)連用形 |
も | 係助詞 |
渡り | ラ行四段活用動詞「渡る」(行く)連用形 |
給は | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」未然形 【尊敬】作者→主人公への敬意 |
ざり | 打消の助動詞「ず」連用形 |
し | 過去の助動詞「き」連体形 |
を、 | 接続助詞(~だが) |
友まつ雪にもよほされてなむ、ゆくりなく思し立たすめる。
友を待つかのように後から降る雪を待って融け残っている雪に誘われて、突然思いつきなさるようだ。
語句 | 意味 |
友 | 名詞 |
待つ | タ行四段活用動詞「待つ」連体形 |
雪 | 名詞 ※友待つ雪…後から降って来る雪を待つかのように融け残っている雪 |
に | 格助詞 |
もよほさ | サ行四段活用動詞「もよほす」(誘う) |
れ | 受身の助動詞「る」連用形 |
て | 接続助詞 |
なむ、 | 係助詞 ※結び:める |
ゆくりなく | ク活用の形容詞「ゆくりなし」(思いがけない、突然だ) |
思し立た | タ行四段活用動詞「思し立つ」(決心する、思いつく)未然形 |
す | 尊敬の助動詞「す」終止形 【尊敬】作者→主人公への敬意 |
める。 | 推定の助動詞「めり」連体形 【係り結び】 |

「友待つ雪」は大伴家持が「白雪の 色わきがたき 梅が枝に 友待つ雪ぞ 消え残りたる」と詠んだ歌が、もとになったと思われます。
源氏物語においては、浮舟・若菜上などで「友待つ雪」という表現が用いられています。
かうやうの御歩きには、源少将、藤式部をはじめて、
このようなお出かけには、源少将、藤式部をはじめとして、
語句 | 意味 |
かうやうの | ナリ活用の形容動詞「斯様なり」(このような)連体形 |
御歩き | 名詞(お出かけ) 【尊敬】作者→主人公への敬意 |
に | 格助詞 |
は、 | 係助詞 |
源少将、 | 名詞(人名。男女ありえるが、ここでは女性か) |
藤式部 | 名詞(人名。紫式部が藤式部と呼ばれていたと言われている) |
を | 格助詞 |
はじめて、 | マ行下二段活用動詞「始む」連用形+接続助詞「て」=(はじめとして) |
今の世のいうそくと聞こゆるわかうどのかぎり、必ずしも召しまつはしたりしを、
今の世間の博識と評判になっている若い女房を全て、きまって呼び寄せて共になさっていたけれども、
語句 | 意味 |
今 | 名詞 |
の | 格助詞 |
世 | 名詞(世間) |
の | 格助詞 |
いうそく | 名詞「有職」(博識) |
と | 格助詞 |
聞こゆる | ヤ行下二段活用動詞「聞こゆ」(評判になる)連体形 |
わかうど | 名詞「若人」(若い女房) |
の | 格助詞 |
かぎり、 | 名詞(全て) |
必ず | 副詞(きまって) |
しも | 副助詞 |
召しまつはし | サ行四段活用動詞「召しまつはす」(呼び寄せて共にいさせなさる)連用形 【尊敬】作者→主人公への敬意 |
たり | 存続の助動詞「たり」連用形 |
し | 過去の助動詞「き」連体形 |
を、 | 接続助詞 |
とみのことなりければ、かくとだにもほのめかし給はず、
急なこと(=急に思いついたこと)だったので、このようなことさえそれとなく言うこともならさず、
語句 | 意味 |
とみ | ナリ活用の形容動詞「頓なり」の語幹(急だ) |
の | 格助詞 「とみなり」は連体修飾格となっている |
こと | 名詞 |
なり | 断定の助動詞「なり」連用形 |
けれ | 過去の助動詞「けり」連用形 |
ば、 | 接続助詞 |
かく | 副詞(このように) ※ここでは「桂の院へと出かけること」をさす |
と | 格助詞 |
だに | 副助詞(~さえ) |
も | 係助詞 |
ほのめかし | サ行四段活用動詞「ほのめかす」(ほのかに伝える、それとなく言う)連用形 |
給は | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」未然形 【尊敬】作者→主人公への敬意 |
ず、 | 打消の助動詞「ず」連用形 |
「ただ親しき家司四人五人して」とぞおぼしおきて給ふ。
ただ親しい家の従者を四人五人連れて(行こう)」とお決めになる。
語句 | 意味 |
「ただ | 副詞(わずかに、ただ) |
親しき | シク活用の形容詞「親し」(親しい、仲がいい)連体形 |
家司 | 名詞(家の事務を担当する職員。男性を指すと考えられる) |
四人五人 | 名詞 |
し | サ行変格活用動詞「す」連用形 |
て | 接続助詞 |
(行かむ)」 | などが省略されていると考えるとよい |
と | 格助詞 |
ぞ | 係助詞 ※結び:給ふ |
おぼしおき | カ行四段活用動詞「思し置く」(心に決める)連用形 【尊敬】作者→主人公への敬意 |
て | 接続助詞 |
給ふ。 | ハ行四段活用動詞「給ふ」連体形 【尊敬】作者→主人公への敬意 【係り結び】 |
やがて御車引き出でたるに、「空より花の」と打ち興じたりしも、
すぐに御車を引き出しているときに、「空より花の」と心から楽しんでいたのだが、
語句 | 意味 |
やがて | 副詞(すぐに) |
御車 | 名詞(「車」は牛車を表し、尊敬を表す接頭語「御」がついている) 【尊敬】作者→主人公への敬意 |
引き出で | ダ行下二段活用動詞「引き出づ」(引き出す)連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
に、 | 接続助詞 |
「空 | 名詞 |
より | 格助詞 |
花 | 名詞 |
の」 | 格助詞 |
と | 格助詞 |
打ち興じ | サ行変格活用動詞「打ち興ず」(心から楽しむ)連用形 |
たり | 完了の助動詞「たり」連用形 |
し | 過去の助動詞「き」連体形 |
も、 | 接続助詞(~けれども) |

「空より花の」のもととなる和歌は…
冬ながら 空より花の 散りくるは 雪のあなたは 春にや あるらむ
【訳】冬であるけれども、空から花が舞い散ってくるのは、雪の向こうの方は、春であるのだろうか
という『古今和歌集』に収録された清原深養父の作品です。

「桂の院へ行く!」と決めて、ウキウキして牛車に乗りながら鼻歌交じりで「空より花の~」と、雪の和歌として有名な歌を口ずさんでいるという様子が感じ取れますね!
めでゆくまにまにいつしかと散りうせぬるは、かくてやみぬとにやあらん。
ずっと感動している間にいつの間にか散り失せてしまったのは、このようにして(雪が降るのも)終わってしまうと言うことであろうか。
語句 | 意味 |
めで | ダ行下二段活用動詞「愛づ」(感動する、心ひかれる)連用形 |
ゆく | カ行四段活用補助動詞「ゆく」(ずっと~する)連体形 |
まにま | 名詞(~につれて) |
に | 格助詞 |
いつしか | 副詞(いつの間にか) |
と | 格助詞 |
散り失せ | サ行下二段活用動詞「散り失す」連用形 |
ぬる | 完了の助動詞「ぬ」連体形 |
は、 | 係助詞 |
かくて | 副詞(このようにして) |
やみ | マ行四段活用動詞「やむ」連用形 |
ぬ | 完了の助動詞「ぬ」終止形 |
と | 格助詞 |
に | 断定の助動詞「なり」連用形 |
や | 疑問の係助詞 ※結び:ん |
あら | ラ行変格活用動詞「あり」未然形 |
ん。 | 推量の助動詞「む」連体形 【係り結び】 |
「さるはいみじき出で消えにこそ」と、人々死にかへり妬がるを、
「そうであるのは、ひどく見劣りがすることだ」と人々は死ぬほど強く嫌がるのを、
語句 | 意味 |
「さるは | 接続詞(そうであるのは) |
いみじき | シク活用の形容詞「いみじ」(ひどい、はなはだしい)連体形 |
出で消え | 名詞(見劣りがする) |
に | 格助詞 |
こそ」 | 強意の係助詞 ※結び:省略 |
と、 | 格助詞 |
人々 | 名詞(ここでは「家司四人五人」を指す) |
死にかへり | ラ行四段活用動詞「死に返る」(死ぬほど強く)連用形 ※副詞的に使われている |
妬がる | ラ行四段活用動詞「妬がる」(憎らしがる、嫌がる) |
を、 | 接続助詞 |
「げにあへなくくちをし」と思せど、「さて引きかへさむも人目悪かめり。
「本当にどうしようもなくて残念だ」とお思いになるが、「そうは言っても、もし引き返したとしたら体裁が悪いようだ。
語句 | 意味 |
「げに | 副詞(本当に) |
あへなく | ク活用の形容詞「敢へ無し」(どうしようもない)連用形 |
くちをし」 | シク活用の形容詞「口惜し」(残念だ)終止形 |
と | 格助詞 |
思せ | サ行四段活用動詞「思す」(お思いになる)已然形 【尊敬】作者→主人公への敬意 |
ど、 | 接続助詞 |
「さて | 接続詞(そうは言うものの) |
引きかへさ | サ行四段活用動詞「引き返す」未然形 |
む | 仮定・婉曲の助動詞「む」(もし~としたら)連体形 |
も | 係助詞 |
人目 | 名詞(他人の見る目) |
悪か | ク活用の形容詞「悪し」の連体形「悪かる」の撥音便「悪かん」の「ん」の無表記 ※「人目悪し」を「体裁が悪い、きまりが悪い」と解釈 |
めり。 | 婉曲の助動詞「めり」終止形 |
なほ法輪の八講にことよせて」と思しなりて、ひたやりにいそがせ給ふほど、
やはり法輪寺の法華八講会にかこつけて」と次第に思いにおなりになって、ひたすらに急ぎなさるうち、
語句 | 意味 |
なほ | 副詞(やはり) |
法輪 | 名詞(京都の嵐山にある法輪寺を指す) ※『枕草子』では、代表的な寺として挙げられている |
の | 格助詞 |
八講 | 名詞(法華経の八巻を説法する行事のこと) |
に | 格助詞 |
ことよせ | サ行下二段活用動詞「事寄す」(かこつける、口実にする)連用形 |
て」 | 接続助詞 |
と | 格助詞 |
思しなり | サ行四段活用動詞「思し成る」(次第に思うようにおなりになる)連用形 【尊敬】作者→主人公への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
ひたやりに | 副詞(ひたすらに) |
急が | ガ行四段活用動詞「急ぐ」未然形 |
せ | 尊敬の助動詞「す」連用形 作者→主人公への敬意 ※使役で「(牛車を引く者に)急がせた」と解釈することもできるのでは? |
給ふ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連体形 【尊敬】作者→主人公への敬意 |
ほど、 | 名詞(間、うち) |
又もつつ闇にくもりみちて、ありしよりけに散り乱れたれば、
またも真っ暗闇に曇りが満ちて(=一面の曇り空となり)、以前よりさらに超えて(雪が)散り乱れたので、
語句 | 意味 |
またも | 副詞(またしても) |
つつ闇 | 名詞(真っ暗闇) |
に | 格助詞 |
曇り | 名詞 |
みち | タ行四段活用動詞「満つ」(満ちる)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
あり | ラ行変格活用動詞「あり」連用形 |
し | 過去の助動詞「き」連体形 ※「ありし」…以前の |
より | 格助詞 |
けに | ナリ活用の形容動詞「異なり」(さらに超える)連用形 |
散り乱れ | ラ行下二段活用動詞「散り乱る」連用形 |
たれ | 完了の助動詞「たり」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
道のほとりに御車たてさせつつ見給ふに、
道のほとりに御車を立たせながら御覧になると、
語句 | 意味 |
道 | 名詞 |
の | 格助詞 |
ほとり | 名詞(かたわら) |
に | 格助詞 |
御車 | 名詞 |
たて | タ行四段活用動詞「立つ」(止める)未然形 |
させ | 使役の助動詞「さす」連用形 |
つつ | 接続助詞(~て) |
見 | マ行上一段活用動詞「見る」連用形 |
給ふ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連体形 【尊敬】作者→主人公に対する敬意 |
に、 | 格助詞 |
何がしかの山、くれがしかの河原も、ただ時の間に面変はりせり。
どこそこかの山や、かれそれかの河原も、たったほんの少しの間に様子が変わっている。
語句 | 意味 |
何がし | 代名詞(どこそこ) |
か | 疑問の係助詞 |
の | 格助詞 |
山、 | 名詞 |
くれがし | 代名詞(かれそれ) |
か | 疑問の係助詞 |
の | 格助詞 |
河原、 | 名詞 |
ただ | 副詞(たった) |
時 | 名詞 |
の | 格助詞 |
間 | 名詞 ※「時の間」…ほんの少しの間 |
に | 格助詞 |
面変はり | 名詞(様子が変わること) |
せ | サ行変格活用動詞「す」未然形 |
り。 | 完了の助動詞「り」終止形 |
かのしぶしぶなりし人々も、いといたう笑み曲げて、
あの嫌々であった人たちも、とてもひどく嬉しさで顔をほころばせて、
語句 | 意味 |
か | 代名詞 |
の | 格助詞 |
しぶしぶなり | ナリ活用の形容動詞「渋々なり」連用形 |
し | 過去の助動詞「き」連体形 |
人々 | 名詞 |
も、 | 係助詞 |
いと | 副詞(とても) |
いたう | 副詞(ひどく)のウ音便 |
笑み曲げ | ガ行下二段活用動詞「笑み曲ぐ」(嬉しさで顔をほころばせる)連用形 |
て、 | 接続助詞 |

雪が消えて行っているのを死ぬほど嫌がっていた人たちも、一面に降り乱れた雪にご満悦のようですね。
「これや小倉の峰ならまし」「それこそ梅津のわたりならめ」と、
「これは小倉の峰であろうか」「それこそが梅津の渡し場だろう」と、
語句 | 意味 |
「これ | 代名詞 |
や | 疑問の係助詞 ※結び:まし |
小倉 | 名詞(京都の小倉山のこと) |
の | 格助詞 |
峰 | 名詞 |
なら | 断定の助動詞「なり」未然形 |
まし」 | 推量の助動詞「まし」連体形 【係り結び】 |
「それ | 代名詞 |
こそ | 強意の係助詞 ※結び:め |
梅津 | 名詞(京都の右京区にある。川港として重要な場所だった) |
の | 格助詞 |
渡り | 名詞(渡し場) |
なら | 断定の助動詞「なり」未然形 |
め」 | 推量の助動詞「む」已然形 【係り結び】 |
と、 | 格助詞 |
口々にさだめあへるものから、松と竹とのけぢめをだに、とりはづしてたがへぬべか めり。
口々に言い合っているけれども、松と竹との区別さえ、うっかりして間違えてしまいそうだ。
語句 | 意味 |
口々に | 副詞 |
定めあへ | ハ行四段活用動詞「定め合ふ」(議論し合う、言い合う)已然形 |
る | 存続の助動詞「り」連体形 |
ものから、 | 接続助詞(~けれども) |
松 | 名詞 |
と | 格助詞 |
竹 | 名詞 |
と | 格助詞 |
の | 格助詞 |
けぢめ | 名詞(区別) |
を | 格助詞 |
だに、 | 副助詞(~でさえ) |
とりはづし | サ行四段活用動詞「取り外す」(うっかり間違える)連用形 |
て | 接続助詞 |
違へ | ハ行下二段活用動詞「違へる」(間違える) |
ぬ | 強調の助動詞「ぬ」(~てしまう)終止形 |
べか | 推量の助動詞「べし」連体形「べかる」の撥音便「べかん」の「ん」の無表記 |
めり。 | 推量の助動詞「めり」 |

ここでは、松と竹が区別がつかないほど、雪がたくさん降っている様子を表しています。
「あはれ世に面白しとはかかるをや言ふならんかし。
「ああ、世の中にある趣があることとはこのようなことを言うのだろうかねえ。
語句 | 意味 |
「あはれ、 | 感動詞(ああ) |
世 | 名詞(世の中) |
に | 格助詞 |
面白し | ク活用の形容詞「面白し」(趣がある)終止形 |
と | 格助詞 |
は | 係助詞 |
かかる | 連体詞(このような) |
を | 格助詞 |
や | 疑問の係助詞 ※結び:む |
言ふ | ハ行四段活用動詞「言ふ」終止形 |
なら | 断定の助動詞「なり」未然形 |
む | 助動詞「む」連体形 【係り結び】 |
かし。 | 終助詞(~ねえ) |
猶ここにてを見栄やさまし」とて、やがて下すだれかかげ給ひつつ、
やはりここで(雪を)見て美しさを味わおう」と言って、そのまま下簾を高く上げなさりながら、
語句 | 意味 |
猶 | 副詞(やはり) |
ここ | 代名詞 |
にて | 格助詞 |
を | 格助詞 |
見栄やさ | サ行四段活用動詞「見栄やす」(見て美しさを味わう) |
まし」 | 意志の助動詞「まし」終止形 |
とて、 | 格助詞 |
やがて | 副詞(そのまま) |
下簾 | 名詞(牛車の簾の内側にかけて垂らすのれんのような長い二本の布を指す) |
かかげ | ガ行下二段活用動詞「掲ぐ」(高く上げる) |
給ひ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形 【尊敬】作者→主人公への敬意 |
つつ、 | 接続助詞(~ながら) |
ここもまた 月の中なる 里ならし 雪の光も よに似ざりけり
和歌:ここもまた月の中にある里であるらしい。雪の光も世の中に並ぶものが無い(くらい素晴らしい)ことよ。
語句 | 意味 |
ここ | 代名詞 |
も | 係助詞 |
また | 副詞 |
月 | 名詞 |
の | 格助詞 |
中 | 名詞 |
なる | 断定の助動詞「なり」連体形 |
里 | 名詞 |
ならし | 断定の助動詞「なり」連体形+推定の助動詞「らし」が変化したもの=(~であるらしい) |
雪 | 名詞 |
の | 格助詞 |
光 | 名詞 |
も | 係助詞 |
よ | 名詞(世の中) |
に | 格助詞 |
似 | ナ行上一段活用動詞「似る」未然形 |
ざり | 打消の助動詞「ず」連用形 |
けり | 詠嘆の助動詞「けり」(~ことよ)終止形 |

桂は月の名所です。
その地名は、月が美しいことから中国の故事からつけられたと言われています。

ここでは、雪の美しい景色を、月の光に照らされていると例えているのですね。

そうです。
「まだ月の名所の桂の院に到着していないけれども、ここもまた月の里である桂のようだ」と言っているのです。
「世に似ず」とは「類がなく、すばらしい」ということを表しています。
など興ぜさせ給ふほど、かたちをかしげなる童の、すゐかん着たるが、
などと面白がりなさるうちに、顔つきがとても愛らしい童で水干を着ている童が、
語句 | 意味 |
など | 副助詞 |
興ぜ | サ行変格活用動詞「興ず」(面白がる※ここでは雪を堪能していることを表す)未然形 |
させ | 尊敬の助動詞「さす」連用形 |
給ふ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連体形 【尊敬】作者→主人公に対する敬意 |
ほど、 | 名詞(うち) |
かたち | 名詞(顔つき、見た目) |
をかしげなる | ナリ活用の形容動詞「をかしげなり」(すばらしい、とても愛らしい)連体形 |
童 | 名詞(子ども) |
の | 格助詞 |
すゐかん | 名詞「水干」(狩衣のような衣服 ※「千と千尋の神隠し」のハクのような服装) |
着 | カ行上一段活用動詞「着る」連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
が、 | 接続助詞 |
手を吹く吹く御あととめ来て、榻のもとにうづくまりつつ、
手に息を吹きかけながら後ろを尋ね求めて来て、榻のあたりにしゃがみながら、
語句 | 意味 |
手 | 名詞 |
を | 格助詞 |
吹く吹く | カ行四段活用動詞「吹く」(息を吹きかける)の副詞的用法(~ながら) |
御あと | 尊敬の接頭語「御」+名詞(後ろ)【尊敬】作者→主人公に対する敬意 |
とめ来 | カ行変格活用動詞「尋め来」(尋ね求めて来る)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
榻 | 名詞(牛車の道具。牛車を引く持ち手を乗せたり、乗り降りの際に踏み台としても使われた) |
の | 格助詞 |
もと | 名詞(あたり) |
に | 格助詞 |
うずくまり | ラ行四段活用動詞「うずくまる」(しゃがむ) |
つつ、 | 接続助詞(~しながら) |

主人公が乗っている牛車に追いついた童は、ひざまづくようにしゃがみ込んだのですね。
「これ御車に」とてさし出でたるは、源少将よりのみせうそこなりけり。
「これを御車(に乗っていらっしゃる方)に」と言って差し出したのは、源少将からのお手紙であった。
語句 | 意味 |
「これ | 代名詞 |
御車 | 名詞 【尊敬】童→主人公に対する敬意 |
に」 | 格助詞 |
とて | 格助詞 |
差し出で | ダ行下二段活用動詞「差し出づ」(差し出す)連用形 |
たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
は、 | 係助詞 |
源少将 | 名詞 |
より | 格助詞 |
の | 係助詞 |
みせうそこ | 名詞「御消息」尊敬の接頭語「御」+名詞(手紙)【尊敬】作者→主人公に対する敬意 |
なり | 断定の助動詞「なり」連用形 |
けり。 | 過去の助動詞「けり」終止形 |
大夫とりつたへて奉るを見給ふに、「いつもおくらかし給はぬをかく、
大夫が取り次いで差し上げるのを(主人公は)ご覧になると、「いつもは(私を)置いていきなさらないのに、(今回は)このようにして(置いていかれたので)、
語句 | 意味 |
大夫 | 名詞(役職の一つ。ここでは主人公のお供をしている家司の一人を指す) |
とりつたへ | ハ行下二段活用動詞「取り伝ふ」(取り次ぐ、受け取って渡す) |
て | 接続助詞 |
奉る | ラ行四段活用動詞「奉る」(差し上げる)連体形 【謙譲】作者→主人公への敬意 |
を | 格助詞 |
見 | マ行上一段活用動詞「見る」連用形 |
給ふ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連体形 【尊敬】作者→主人公に対する敬意 |
に、 | 接続助詞 |
「いつも | 副詞 |
おくらかし | サ行四段活用動詞「後らかす」(後に残す、置いていく) |
給は | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」未然形 【尊敬】源少将→主人公に対する敬意 |
ぬ | 打消の助動詞「ず」連体形 |
を、 | 格助詞 |
かく、 | 副詞(このように) |
白雪の ふり捨てられし あたりには うらみのみこそ 千重に積もれれ
和歌:白雪が降り捨てられた辺りでは、(あなたに置き去りにされた私の)恨みばかりが千重に積もっている
語句 | 意味 |
白雪 | 名詞 |
の | 格助詞 |
ふり捨て | タ行下二段活用動詞「ふり捨つ」(置き去りにする、見捨てる)未然形 ※ここでは、「降る」と「振る」がかけられている |
られ | 受身の助動詞「らる」連用形 |
し | 過去の助動詞「き」連体形 |
あたり | 名詞 |
に | 格助詞 |
は | 係助詞 |
恨み | 名詞 |
のみ | 副助詞(~だけ) |
こそ | 強意の係助詞 ※結び:れ |
千重 | 名詞(何重にも重なっている様子) |
に | 格助詞 |
積もれ | ラ行四段活用動詞「積もる」(積み重なる)已然形 |
れ | 完了の助動詞「り」已然形 【係り結び】 |
とあるを ほほ笑み給ひて、たたうがみに、
とあるので、ほほ笑みなさって、(懐から取り出した)畳紙に、
語句 | 意味 |
と | 格助詞 |
ある | ラ行変格活用動詞「あり」連体形 |
を、 | 接続助詞 |
ほほ笑み | マ行四段活用動詞「ほほ笑む」連用形 |
給ひ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形 【尊敬】作者→主人公への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
たたうがみ | 名詞「畳紙」(懐に入れておく紙。和歌を書いたり、鼻をかむのにも使用した) |
に、 | 格助詞 |
とめ来やと ゆきにしあとを つけつつも まつとは人の 知らずやありけん
和歌:(あなたが私を)尋ね求めて来るだろうかと 雪に(牛車が)進んだ跡をつけながらも 待つとはあなたは 知らなかったのだろうか
語句 | 意味 |
とめ来 | カ行変格活用動詞「尋め来」(尋ね求めて来る)終止形 |
や | 疑問の係助詞(~か) |
と | 格助詞 |
ゆき | 名詞(※ここでは「雪」と「行き」をかけている) |
に | 格助詞 |
し | 過去の助動詞「き」連体形 |
あと | 名詞(痕跡) |
を | 格助詞 |
つけ | カ行下二段活用動詞「つく」連用形 |
つつ | 接続助詞(~ながら) |
も | 係助詞 |
待つ | タ行四段活用動詞「待つ」終止形 |
と | 格助詞 |
は | 係助詞 |
人 | 代名詞(あなた) |
の | 格助詞 |
知ら | ラ行四段活用動詞「知る」未然形 |
ず | 打消の助動詞「ず」連用形 |
や | 疑問の係助詞 |
あり | ラ行四段活用動詞「あり」連用形 |
けむ | 過去の原因推量の助動詞「けむ」連体形 |

「知らずやありけむ」を疑問で訳しましたが、反語にすると「あなたは知らなかったのだろうか、いや知らないはずはない(私の思いを分かってくれたよね?)」と解釈できて面白いかもしれませんね。
やがてそこなる松を雪ながら折らせ給ひて、その枝にむすびつけてぞたまはせたる。
すぐにそこにある松を雪のまま折り取りなさって、その枝に結びつけてお与えになった。
語句 | 意味 |
やがて | 副詞(すぐに) |
そこ | 代名詞 |
なる | 断定の助動詞「なり」連体形 |
松 | 名詞 |
を | 格助詞 |
雪 | 名詞 |
ながら | 接続助詞(~のまま) |
折ら | ラ行四段活用動詞「折る」(折り取る)未然形 |
せ | 尊敬の助動詞「す」連用形 作者→主人公への敬意 |
給ひ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形 【尊敬】作者→主人公への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
そ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
枝 | 名詞 |
に | 格助詞 |
結びつけ | バ行四段活用動詞「結びつく」連用形 |
て | 接続助詞 |
ぞ | 強意の係助詞 ※結び:たる |
たまはせ | サ行下二段活用動詞「賜はす」(お与えになる)連用形 【尊敬】作者→主人公への敬意 |
たる。 | 完了の助動詞「たり」連体形 |
やうやう暮れかかるほど、さばかりあまぎらひたりしも、
だんだん日が暮れはじめる頃に、あんなにも空一面が曇っていたのに、
語句 | 意味 |
やうやう | 副詞(だんだん) |
暮れかかる | ラ行四段活用動詞「暮れかかる」(日が暮れはじめる)連体形 |
ほど、 | 名詞(頃) |
さばかり | 副詞(あんなにも) |
あまぎらひ | ラ行四段活用動詞「天霧らふ」(空一面が曇る) |
たり | 存続の助動詞「たり」連用形 |
し | 過去の助動詞「き」連体形 |
も、 | 接続助詞 |
いつしかなごりなく晴れわたりて、名に負ふ里の月影はなやかにさし出でたるに、
いつの間にか跡形もなく晴れ渡って、(月にゆかりのある)名を持っている里(=桂)の月の光が明るく美しく輝き出しているので、
語句 | 意味 |
いつしか | 副詞(いつの間にか) |
なごりなく | ク活用の形容詞「名残なし」(跡形もない)連用形 |
晴れわたり | ラ行四段活用動詞「晴れ渡る」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
名 | 名詞 |
に | 格助詞 |
負ふ | ハ行四段活用動詞「負ふ」(持っている)連体形 |
里 | 名詞 |
の | 格助詞 |
月影 | 名詞(月明かり、月光) |
はなやかに | ナリ活用の形容動詞「華やかなり」(明るく美しい)連用形 |
さし出で | ダ行下二段活用動詞「差し出づ」(輝き出す) |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
に、 | 接続助詞 |
雪の光もいとどしく映えまさりつつ、あめつちのかぎり、
雪の光もいっそう華やかさが増しながら、天と地の果てまで、
語句 | 意味 |
雪 | 名詞 |
の | 格助詞 |
光 | 名詞 |
も | 係助詞 |
いとどしく | シク活用の形容詞「いとどし」(ますます、いっそう) |
映え | 名詞(見映え、華やかさ) |
はえまさり | ラ行四段活用動詞「増さる」(増す)連用形 |
つつ、 | 接続助詞 |
あめつち | 名詞(天と地) |
の | 格助詞 |
かぎり、 | 名詞(果て) |
白銀うちのべたらんがごとくきらめきわたりて、あやにまばゆき夜のさまなり。
白銀を一面に広げたかのようにきらきらと輝いて、言い表せないほどにまぶしい夜の様子である。
語句 | 意味 |
白銀 | 名詞(銀、銀色) ※白く光る、降り積もった雪を表す語として用いられる |
うちのべ | 接頭語「打ち」(一面に)+バ行下二段活用動詞「のぶ」(広げる)連用形 |
たら | 完了の助動詞「たり」未然形 |
む | 婉曲の助動詞「む」連体形 |
が | 格助詞 |
ごとく | ク活用の形容詞「ごとし」(~のようだ)連用形 |
きらめき | カ行四段活用動詞「きらめく」(きらきらと輝く)連用形 |
わたり | ラ行四段活用補助動詞「渡る」(一面に~する)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
あやに | 副詞「奇に」(言い表せない) |
に | 格助詞 |
まばゆき | ク活用の形容詞「まばゆし」(まぶしい)連体形 |
夜 | 名詞 |
の | 格助詞 |
さま | 名詞(様子) |
なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 |
院のあづかりも出で来て、「かう渡らせ給ふとも知らざりつれば、
(桂の)院の管理人も出て来て、「このようにお越しになると言うことも知らなかったので、
語句 | 意味 |
院 | 名詞 |
の | 格助詞 |
あづかり | 名詞「預かり」(管理人) |
も | 係助詞 |
出で来 | カ行変格活用動詞「出で来」(出て来る)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
「かう | 副詞(このように) |
渡ら | ラ行四段活用動詞「渡る」(いらっしゃる)未然形 【尊敬】院の管理人→主人公への敬意 |
せ | 尊敬の助動詞「す」連用形 【尊敬】院の管理人→主人公への敬意 |
給ふ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」終止形 【尊敬】院の管理人→主人公への敬意 |
と | 格助詞 |
も | 係助詞 |
知ら | ラ行四段活用動詞「知る」未然形 |
ざり | 打消の助動詞「ず」連用形 |
つれ | 完了の助動詞「つ」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
とくも迎へ奉らざりしこと」など言ひつつ、頭ももたげで、
早くに出迎え申し上げなかったことよ」などと言いながら、頭も持ち上げないで、
語句 | 意味 |
とく | 副詞「疾く」(すぐに) |
も | 係助詞 |
迎へ | ハ行下二段活用動詞「迎ふ」(出迎える)連用形 |
奉ら | ラ行四段活用補助動詞「奉る」(~申し上げる)未然形 【謙譲】院の管理人→主人公への敬意 |
ざり | 打消の助動詞「ず」連用形 |
し | 過去の助動詞「き」連体形 |
こと」 | 名詞(ことだよ) |
など | 副助詞 |
言ひ | ハ行四段活用動詞「言ふ」連用形 |
つつ、 | 接続助詞 |
頭 | 名詞 |
も | 係助詞 |
もたげ | ガ行下二段活用動詞「もたぐ」(持ち上げる)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
よろづに追従するあまりに、牛の額の雪かきはらふとては、
あれこれとご機嫌を取るあまりに、牛の額の雪をかき払うと言っては、
語句 | 意味 |
よろづに | 副詞(あれこれと) |
追従する | サ行変格活用動詞「追従す」(ご機嫌を取る、こびへつらう)連体形 |
あまり | 名詞 |
に、 | 格助詞 |
牛 | 名詞 |
の | 格助詞 |
額 | 名詞 |
の | 格助詞 |
雪 | 名詞 |
かきはらふ | ハ行四段活用動詞「かき払ふ」(残らず払いのける)終止形 |
とて | 格助詞 |
は、 | 係助詞 |
軛に触れて烏帽子を落とし、御車やるべき道きよむとては、
軛に触れて烏帽子を落とし、御車を行かせる予定の道をきれいにすると言っては、
語句 | 意味 |
軛 | 名詞 |
に | 格助詞 |
触れ | ラ行下二段活用動詞「触る」(触れる)連用形 |
て | 接続助詞 |
烏帽子 | 名詞(男性がかぶる帽子。平安時代では人前で着用していないのはありえないことだった) |
を | 格助詞 |
落とし、 | サ行四段活用動詞「落とす」連用形 |
御車 | 名詞 |
やる | ラ行四段活用動詞「遣る」(行かせる)終止形 |
べき | 当然(予定)の助動詞「べし」連体形 |
道 | 名詞 |
きよむ | マ行下二段活用動詞「清む」(きれいにする)終止形 |
とて | 格助詞 |
は、 | 係助詞 |
あたら雪をも踏みしだきつつ、足手の色をえびになして、桂風を引きありく。
せっかくの雪をも踏みつけながら、足や手の色を海老(のよう)に(赤く)して、桂風の中を、風邪をひきながら歩き回る。
語句 | 意味 |
あたら | 連体詞(せっかくの) |
雪 | 名詞 |
を | 格助詞 |
も | 係助詞 |
踏みしだき | カ行四段活用動詞「踏みしだく」(踏みつける)連用形 |
つつ、 | 接続助詞 |
足手 | 名詞(足と手) |
の | 格助詞 |
色 | 名詞 |
を | 格助詞 |
海老 | 名詞 |
に | 格助詞 |
なし | サ行四段活用動詞「なす」(~にする)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
桂風 | 名詞 |
を | 格助詞 |
引きありく。 | カ行四段活用動詞「引き歩く」(歩き回る)終止形 |

「風」は桂の寒さを表す「風」と、寒い中歩き回って「風邪」を引くということが掛けられています。

管理人さん、やっちゃってますね~
お出迎えができなかったから、挽回しようと色々したのに全て裏目に出てしまってます…
人々「いまはとく引き入れてむ。かしこのさまもいとゆかしきを」とて、
人々は、「もうこうなっては早く(中に)引き入れよう。あちらの様子もとても見たいよ」と言って、
語句 | 意味 |
人々、 | 名詞 |
「いま | 名詞 |
は | 係助詞 |
とく | 副詞(早く) |
引き入れ | ラ行四段活用動詞「引き入る」(引き入れる) |
て | 完了の助動詞「つ」未然形 |
む。 | 意志の助動詞「む」終止形 |
かしこ | 代名詞(あちら) |
の | 格助詞 |
さま | 名詞 |
も | 係助詞 |
いと | 副詞 |
ゆかしき | シク活用の形容詞「ゆかし」(見たい)連体形 |
を」 | 間投助詞 |
とて、 | 格助詞 |
もろそそきにそそきあへるを、「げにも」とは思すものから、ここもなほ見過ぐしがたうて。
一斉に(牛車を移動しようと)みなでそわそわすると、(主人公も)「その通りだ」とお思いになるものの、ここもやはり見過ごすことができなくてね。
語句 | 意味 |
もろそそき | 接頭辞「もろ」(一斉に)+カ行下二段活用動詞「そそく」(そわそわする)連用形 |
に | 格助詞 |
そそきあへる | ハ行四段活用動詞「そそきあふ」(みなでそわそわする)連体形 |
を、 | 接続助詞 |
「げにも」 | 副詞(その通りだ) |
と | 格助詞 |
は | 係助詞 |
思す | サ行四段活用動詞「思す」連体形 【尊敬】作者→主人公への敬意 |
ものから、 | 接続助詞 |
ここ | 代名詞 |
も | 係助詞 |
なほ | 副詞(やはり) |
見過ぐしがたう | シク活用の形容詞「見過ぐし難し」(見過ごすことができない) |
て。 | 終助詞 |
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、2024年の共通テストで取り上げられた『草縁集』の「車中雪」を読んできました。
敬語や和歌など、読み取りに苦労する内容だったかもしれませんね。
しかしよくよく読んでみると、雪に一喜一憂する人々のお話でした。
雪を楽しむ主人公一行と、それをもてなそうと空回りしてしまう桂の院の管理人が対照的でしたね。
みなさんはどのように感じましたか?
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