無名抄「出で映えすべき歌のこと/関路の落葉」現代語訳・解説

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今回は『無名抄』より「出で映えすべき歌のこと」について解説をしていきます。

『無名抄』とは
作者:鴨長明(1155年生-1216年没)
成立:不詳(作者没までに成立したと考えられている)
ジャンル:歌論書(和歌の本質についてまとめられたもの)
内容:和歌に関する技術的なことや、歌人に関するエピソードなど多岐に渡る
この記事では、
・登場人物
・あらすじ
・本文(読み仮名付き)
・現代語訳
・品詞分解
・ポイント
以上の内容を順番にお話していきます。

無名抄「出で映えすべき歌のこと」現代語訳・解説

まずは本文に入る前に、登場人物を確認しましょう。

登場人物

建春門の女院
後白河院女御の平滋子たいらのしげこのこと。

頼政卿
源頼政。平安時代後期の武将であり、歌人。俊恵は頼政を「並外れた歌詠みの名人」と評価している。

俊恵
平安時代末期の僧であり、歌人。平安後期の歌人として有名な源俊頼の子。鴨長明の師。歌会や歌合を積極的に開催し、衰退しつつあった歌の世界に刺激を与えた存在。頼政は、俊恵の和歌の才能を認めていた。

能因
能因法師のこと。平安時代中期の僧であり歌人。旅をしながら和歌を詠むことから「漂泊の歌人」として知られている。
この話においては直接の登場ではなく、「都をば 霞とともに 立ちしかど 秋風ぞ吹く 白河の関」という和歌の作者として名前が出てくる。

ざっくりあらすじ

後白河院の御所で歌合が催されることになった。「関路落葉」という題に対して、頼政卿が詠んだ歌は、「都には まだ青葉にて 見しかども 紅葉散りしく 白河の関」というものだった。頼政卿は歌合に向けて、たくさんの和歌を詠んだが当日まで思い悩んで、俊恵に相談をする。
すると俊恵は、「能因法師の歌に似ているけれど、歌合で映える歌だと思います」と言う。
頼政卿は「俊恵がそういうなら、歌合せはこの歌でいこう。負けたらあなたの責任ですよ」と言葉をかけて、歌合に向かう。
頼政卿は歌合が終わると、すぐに俊恵に歌合で勝利したことへのお礼を伝えてきた。それを聞いて俊恵は、「歌は映えると思っていたけれど、勝敗を聞くまでは胸がドキドキしたよ。でもこれで私の評判もあがったなって思ったよ」と鴨長明に語った。

 

読み仮名付き本文・現代語訳・品詞分解

建春門けんしゅんもん女院にょういん殿上てんじょう歌合うたあわせに、関路せきじ落葉らくようといだいに、頼政よりまさきょううたに、
建春門院が法住寺殿で催された歌合で、「関路落葉」という題に対して、頼政卿の歌に、

建春門の女院 名詞(人名。後白河院の女御である平滋子のこと)
格助詞
殿上 名詞(御所。ここでは法住寺ほうじゅうじ殿を指す)
格助詞
歌合 名詞(歌人を左右にわけて、優劣を競う平安貴族の遊び)
に、 格助詞
関路 名詞(関所に通じる道)
落葉 名詞(落ち葉)
格助詞
いふ ハ行四段活用動詞「いふ」連体形
名詞(歌合などでは決められた題にそって和歌を詠むことが流行っていた)
に、 格助詞
頼政卿 名詞(人名。源頼政のこと。武将であり、歌人としても有名だった)
格助詞
名詞
に、 格助詞

【和歌】みやこには まだ青葉あおばにて しかども 紅葉もみじりしく 白河しらかわせき

都ではまだ青葉として見たけれども、紅葉が散り敷く白河の関

名詞(京都を指す。)
格助詞
係助詞
まだ 副詞
青葉 名詞(緑色の葉のこと)
格助詞
接続助詞
マ行上一段活用動詞「見る」連用形
しか 過去の助動詞「き」已然形
ども 逆接確定条件の接続助詞(~けれども)
紅葉 名詞(赤や黄色に変わった葉のこと)
散りしく カ行四段活用動詞「散りしく」(葉などが散って、あたり一面を敷きつめる)連体形
白河の関 名詞(地名。現在の福島県白河市にある。みちのく(東北)への玄関口として知られている関所)

 

まれてはべりしを、そのたび、このだいうたをあまたみて、
とお詠みになっていましたが、(頼政は)その時、この題の歌をたくさん詠んで、

格助詞
詠ま マ行四段活用動詞「詠む」未然形
尊敬の助動詞「る」連用形 書き手→頼政卿への敬意
接続助詞
侍り ラ行変格活用動詞「侍り」連用形 【丁寧】書き手→読み手への敬意
過去の助動詞「き」連体形
を、 接続助詞
代名詞
格助詞
度、 名詞(とき)
代名詞
格助詞
名詞
格助詞
あまた 副詞(たくさん)
詠み マ行四段活用動詞「詠む」連用形
て、 接続助詞

 

当日とうじつまでおもわづらひて、俊恵しゅんえびてせられければ、
(歌合の)当日まで思い悩んで、俊恵を呼んでお見せになったところ、

当日 名詞(その日。ここでは歌合の当日を指す)
まで 副助詞
思ひわづらひ ハ行四段活用動詞「思ひわづらふ」(思い悩む)連用形
て、 接続助詞
俊恵 名詞(人名。平安時代末期の僧であり、歌人。平安後期の歌人として有名な源俊頼の子。鴨長明の師。)
格助詞
呼び バ行四段活用動詞「呼ぶ」連用形
接続助詞
見せ サ行下二段活用動詞「見す」(見せる)未然形
られ 尊敬の助動詞「らる」連用形 書き手→頼政卿への敬意
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ば、 接続助詞

「この歌は、かの能因のういんが『秋風あきかぜ白河しらかわせき』というたはべり。
(俊恵が)「この歌は、あの能因法師の『(都をば霞とともに経ちしかど)秋風ぞ吹く白河の関』という歌に似ています。

「こ 代名詞
格助詞
名詞
は、 係助詞
代名詞
格助詞
能因 名詞(人名。平安時代中期の僧であり歌人。旅をしながら和歌を詠むことから「漂泊の歌人」として知られている)
格助詞
『秋風ぞ吹く白河の関』 「都をば 霞とともに 立ちしかど 秋風ぞ吹く 白河の関」(都を春霞が立つとともに出発したが、秋風が吹く白河の関)※長い旅をしていたことへの思いを詠んでいる、能因法師の和歌
格助詞
いふ ハ行四段活用動詞「いふ」連体形
名詞
格助詞
ナ行上一段活用動詞「似る」連用形
接続助詞
侍り。 ラ行変格活用動詞「侍り」終止形 【丁寧】俊恵→頼政卿への敬意

 

されど、これはえすべきうたなり。
しかし、こ(の和歌)は歌合の場で映えるに違いない歌です。

されど、 接続詞(しかし、けれども)
これ 代名詞
は、 係助詞
出で映え 名詞(見映えがする ※ここでは歌合の場で映えることを指す)
サ行変格活用動詞「す」終止形
べき 当然の助動詞「べし」(~に違いない、必ず~する)連体形
名詞
なり。 断定の助動詞「なり」終止形

 

かのうたならねど、かくもとりなしてと、へしげにめるとこそえたれ。
あの(能因の)歌ではないけれども、このように(素材を)取り扱おうと(という意志で)、(能因の歌を)圧倒するかのように詠んだと思われました。

代名詞
格助詞
名詞
なら 断定の助動詞「なり」未然形
打消の助動詞「ず」已然形
ども、 逆接確定条件の接続助詞(~けれども)
かく 副詞(このように)
係助詞
とりなし サ行四段活用動詞「とりなす」(取り扱う)
強意の助動詞「つ」未然形
意志の助動詞「む」終止形
と、 格助詞
へしげに ナリ活用の形容動詞「へしげなり」(圧倒するかのようだ)連用形
詠め マ行四段活用動詞「詠む」已然形
完了の助動詞「り」連体形
格助詞
こそ 係助詞【係】
見え マ行下二段活用動詞「見ゆ」(思われる)連用形
たれ。 完了の助動詞「たり」已然形【結】

 

たりとて、なんとすべきさまにはあらず。」とはかければ、
(能因の歌に)似ているからといって、欠点としなければならない理由ではない。」と判断したので、

ナ行上一段活用動詞「似る」連用形
たり 存続の助動詞「たり」終止形
とて、 格助詞
名詞(欠点、落ち度)
格助詞
サ行変格「す」終止形
べき 当然の助動詞「べし」連体形
さま 名詞(理由)
断定の助動詞「なり」連用形
係助詞
あら ラ行変格活用動詞「あり」未然形
ず。」 打消の助動詞「ず」終止形
格助詞
計らひ ハ行四段活用動詞「計らふ」(判断する)連用形
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ば、 接続助詞

 

いまくるまさしせてられけるとき、「貴房きぼうはかしんじて、さらばこれをだすべきにこそ。
(頼政卿は)牛車を近付けてお乗りになったちょうどその時、「あなたの判断を信じて、それならばこれを出すのがよいだろう。

今、 名詞(ちょうど今)
名詞(この時代においては牛車を指す)
さし寄せ サ行下二段活用動詞「さし寄す」(近付ける)連用形
接続助詞
乗ら ラ行四段活用動詞「乗る」未然形
尊敬の助動詞「る」連用形 書き手→頼政卿への敬意
ける 過去の助動詞「けり」連体形
時、 名詞
「貴房 名詞(僧に対して敬意を表す呼び方。ここでは俊恵を指す)
格助詞
はからひ 名詞(判断)
格助詞
信じ サ行変格活用動詞「信ず」(信じる)連用形
て、 接続助詞
さらば 接続詞(それならば)
これ 代名詞
格助詞
出だす サ行四段活用動詞「出だす」(出す)終止形
べき 適当の助動詞「べし」連体形
断定の助動詞「なり」連用形
こそ。 係助詞【係】
(あらむ など) 結びの省略

 

のちとがはかけもうすべし。」とかけて、でられにけり。
あとの過ち(=歌合で負けた責任)は(あなたに)かぶせ申し上げよう(=負っていただこう)。」と言葉をかけて、出られた。

名詞(あと)
格助詞
名詞(過ち、罪 ※ここでは歌合で負けることを指す)
係助詞
かけ カ行下二段活用動詞「かく」(かぶせる、かつがせる)連用形
申す サ行四段活用補助動詞「申す」(~申し上げる)終止形 【謙譲】頼政卿→俊恵への敬意
べし。」 意志の助動詞「べし」終止形
格助詞
言ひかけ カ行下二段活用動詞「言ひかく」(言葉をかける)連用形
て、 接続助詞
出で ダ行下二段活用動詞「出づ」(出る)未然形
られ 尊敬の助動詞「らる」連用形 書き手→頼政卿への敬意
完了の助動詞「ぬ」連用形
けり。 過去の助動詞「けり」終止形

 

そのたび、このうたおものごとくえしてちにければ、
その時、この歌は、思った通り見映えがして勝ったので、

代名詞(ここでは歌合の時を指す)
格助詞
度、 名詞(とき)
代名詞
格助詞
歌、 名詞
思ひ 名詞(考え)
格助詞
ごとく 比況の助動詞「ごとし」(~の通りだ)連用形
出で映え 名詞(見映えがする )
サ行変格活用動詞「す」連用形
接続助詞
勝ち タ行四段活用動詞「勝つ」連用形
完了の助動詞「ぬ」連用形
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ば、 接続助詞

 

かえりてすなち、よろこつかしたりけるとぞ。
(頼政卿は)帰るとすぐに、(俊恵に)お礼をお伝えになったということだ。

帰り ラ行四段活用動詞「帰る」(ここでは歌合を終えて帰ることを指す)
接続助詞
すなはち、 副詞(すぐに)
喜び 名詞(お礼)
言ひ遣はし サ行四段活用動詞「言ひ遣はす」(言ってよこす ※頼政卿が人を使って俊恵にお礼を伝えたことを指す)連用形
たり 完了の助動詞「たり」連用形
ける 過去の助動詞「けり」連体形
格助詞
ぞ。 係助詞(係)
(言へる など) 結びの省略

 

ところありて、しかもうしたりしかど、
「(歌に)見どころがあるので、そのように(=歌合で見映えがする歌だと頼政卿に)申し上げたけれども、

見る マ行上一段活用動詞「見る」連体形
名詞 ※見る所…見どころ
あり ラ行変格活用動詞「あり」連用形
て、 接続助詞
しか 副詞(そのように)
申し サ行四段活用動詞「申す」連用形 【謙譲】俊恵→頼政卿への敬意
たり 完了の助動詞「たり」連用形
しか 過去の助動詞「き」已然形
ど、 逆接確定条件の接続助詞(~けれども)

 

かざりしほどは、あいなくよそにてむねつぶれはべりしに、
勝敗を聞かなかったうちは、むやみに離れた場所で胸がドキドキしましたが、

勝ち負け 名詞(勝敗)
聞か カ行四段活用動詞「聞く」未然形
ざり 打消しの助動詞「ず」連用形
過去の助動詞「き」連体形
ほど 名詞(あいだ、うち)
は、 係助詞
あいなく ク活用の形容詞「あいなし」(むやみに)連用形
よそ 名詞(離れた場所)
にて 格助詞(~で)
名詞
つぶれ ラ行下二段活用動詞「つぶる」(つぶれる ※胸つぶれる…ドキドキする)連用形
侍り ラ行変格活用補助動詞「侍り」連用形 【丁寧】俊恵→書き手(鴨長明)への敬意 ※「見る所ありて~」は、俊恵が書き手(鴨長明)に対して語った内容と解釈。
過去の助動詞「き」連体形
に、 逆接確定条件の接続助詞(~けれども)

頼政卿の歌は素晴らしいと思っていたものの、俊恵は歌合の勝敗を聞くまでは、気が気ではなかったということですね。
歌合の場にいるわけではないので「よそにて」なのでしょう。

 

いみじき高名こうみょうしたりとなむ、こころばかりはおぼえはべりし。」とぞ、俊恵しゅんえ かたはべりし。
大変な手柄を立てて(自分の)評価を高めたと、心の中でだけは思われました。」と、俊恵は話していました。

いみじき シク活用の形容詞「いみじ」(大変、非常に)連体形
高名 名詞(評判が高い)※高名す…手柄を立てて評価を高める
サ行変格活用動詞「す」連用形
たり 完了の助動詞「たり」終止形
格助詞
なむ、 係助詞【係】
心ばかり 名詞「心」+副助詞「ばかり」…心の中だけ
係助詞
おぼえ ヤ行下二段活用動詞「おぼゆ」(思われる)連用形
侍り ラ行変格活用補助動詞「侍り」連用形 【丁寧】俊恵→書き手(鴨長明)
し。」 過去の助動詞「き」連体形【結】
格助詞
ぞ、 係助詞【係】
俊恵 名詞
語り ラ行四段活用動詞「語る」(話す)連用形
侍り ラ行変格活用補助動詞「侍り」連用形 【丁寧】書き手(鴨長明)→読み手
し。 過去の助動詞「き」連体形【結】

 

ポイント

頼政卿と能因法師の和歌の似ている点と、異なる点はどこか?
頼政卿:都には まだ青葉にて 見しかども 紅葉散りしく 白河の関
能因法師:都をば 霞とともに 立ちしかど 秋風ぞ吹く 白河の関
似ている点
都から白河の関への距離を、季節の移り変わりによって表現している点
異なる点
頼政卿「青葉」「紅葉」という植物の色の変化で季節を対比させているのに対し、能因法師「(春)霞」「秋風」というわかりやすく季節を表す語を用いている
頼政卿は「青葉」「紅葉」「白河の関」という色の対比があるが、能因法師の歌にはない表現である
能因法師の歌の「立ち」が掛詞となっている(霞が「立つ」と、旅「立つ」が掛けられている)が、頼政卿の歌にはそのような技法は用いられていない。
俊恵の思い
頼政卿と能因法師の歌のどちらが優れているということではなく、優れた能因法師の和歌を上手にアレンジした頼政卿の歌は、歌合せで映えるだろう。

まとめ

いかがでしたでしょうか?
今回は『無名抄』より「出で映えすべき歌のこと」の解説をしました。頼政も俊恵もすぐれた歌人として知られています。このお話ではそんな頼政も、歌合に際してたくさん歌を詠んで、どれを出せばいいのかと悩んでいる様子がうかがえます。また、その件で相談を受けた俊恵も頼政の和歌の腕を評価しているし、自分の歌に対する判断にも自信があったはずなのに、勝敗がわかるまでドキドキしていたと言っています。
どのような人物なのか、想像すると楽しく読めると思います。

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この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

自分の生徒には直接伝えられるけど、
聞きたくても聞けない…などと困っている方にも届けたくて、ブログを始めました。

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