白居易「長恨歌⑦金闕の西廂に玉扃を叩き~」現代語訳・解説
今回は、道士と太真という仙女が対面します。
この仙女は、本当に楊貴妃の魂なのか?
道士の訪問を受け、どのような対応をしたのかを、語句の意味を理解しながら読み取っていきましょう。
白文・書き下し文(読み仮名付き)・現代語訳・語句解説
89 金闕西廂叩玉扃
金闕の西廂に玉扃を叩き
【訳】(道士は)黄金造りの御殿の西側の建物の、宝石で飾られた扉を叩き、
| 金闕 |
黄金造りの(金で装飾された)御殿
|
| 西廂 | 正殿の西側の建物 |
| 玉扃 | 宝石で飾られた扉 |
| 叩き | (門や扉を)叩く |
90 転教小玉報双成
転じて小玉をして双成に報ぜしむ
【訳】(仙女の侍女である)小玉に双成へと取り次がせた。
| 転じて | 次から次へと取り次ぐ |
| 小玉 | 仙女の侍女の名前 |
| ~をして…しむ | ~に…させる |
| 双成 | 仙女の侍女の名前 |

楊貴妃のもとへたどり着くには、何人もの侍女への取り次ぎが必要だったみたいですね。
91 聞道漢家天子使
聞道くならく漢家 天子の使ひなりと
【訳】(侍女が道士に)聞くところによると、「漢の国の天子(=漢の武帝)の使いである。」と。
| 聞道くならく | 聞くところによると |
| 漢家 | 漢王朝、漢の国 |
| 天子の使ひ |
ここでは天子=漢の武帝ということになっている
|
| なり | ~である |
92 九華帳裏夢魂驚
九華の帳裏 夢魂驚く
【訳】花模様が織り上げられたカーテンの内側で、夢にさまよっていた(楊貴妃の)魂は、目が覚めた。
| 九華の帳 | 花模様が織り上げられたカーテン |
| 裏 | 内側、中 |
| 夢魂 | 夢を見ている魂。夢にさまよう魂。 |
| 驚く | 目が覚める |
93 攬衣推枕起徘徊
衣を攬り枕を推して 起ちて徘徊す
【訳】(楊貴妃は)上着を手に取り枕を押し出し、起き上がって(部屋の中を)行ったり来たり歩き回る。
| 衣 | 上着 |
| 攬り | 手に取る |
| 枕 | 枕 |
| 推して | 押し出す |
| 起ちて | 起き上がり |
| 徘徊す | 行ったり来たり歩き回る |

寝ぼけていたところに、突然愛しい人の使いが来たとなったら、そりゃ慌てますよね…

「徘徊す」というところでは、「どうしよう、どうしよう」と部屋を歩き回り、動揺が感じ取れます。
94 珠箔銀屛邐迤開
珠箔 銀屛 邐迤として開く
【訳】真珠が編み込まれた美しいすだれや銀色に輝く屏風が、次から次へと開かれた。
| 珠箔 | 真珠が編み込まれた美しいすだれ |
| 銀屛 | 銀色に輝く屏風 |
| 邐迤として |
次から次へと続く様子。本来は、山が果てしなく続く景色を表すのに用いられる。
|
| 開く | 開ける |

アワアワしていた楊貴妃が、いよいよ登場するのですね…!!
95 雲鬢半偏新睡覚
雲鬢 半ば偏きて新たに睡りより覚め
【訳】雲のように美しい髪は半分偏っていて、眠りから覚めたばかりのようであり、
| 雲鬢 |
鬢(耳のそばから垂れ下がる髪)が雲のようにふんわりとして美しい様子
|
| 半ば | 半分 |
| 偏きて | 整っていない、偏っている |
| 新たに | ~したばかり |
| 眠りより覚め | 眠りから覚める |
96 花冠不整下堂来
花冠 整はず堂より下り来たる
【訳】花の冠が乱れている状態で、部屋から下りて来た。
| 花冠 | 花の冠 |
| 整はず | 整っていない→乱れている |
| 堂 | 部屋 |
| より | ~から |
| 下り来たる | おりて来た |

なんかわからんけど、美人の無防備な姿って萌えますね。

おそらく作者も、この表現は「楊貴妃は慌ててだらしない様子で下りて来た」というよりは、無防備な美しさや艶っぽさを表したかったと私は考えます。
97 風吹仙袂飄颻挙
風吹きて仙袂を飄颻として挙がり
【訳】風が吹いて仙女の上着の袖が、ひらひらと翻って舞い上がり、
| 風吹きて | 風が吹いて |
| 仙袂 | 仙女の上着の袖 |
| 飄颻として | ひらひらと翻って |
| 挙がり |
上がる ※ここでは「飄颻」と関連付けて「舞い上がる」と訳
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98 猶似霓裳羽衣舞
猶ほ霓裳羽衣の舞に似たり
【訳】ちょうどかつての霓裳羽衣の舞のようである。
| 猶ほ~に似たり | ちょうど~のようである |
| 霓裳羽衣の舞 |
玄宗皇帝が作り、楊貴妃が得意としたとされる舞曲である「霓裳羽衣の曲」の舞。
|

前半で「霓裳羽衣の曲」という表現が、出てきていましたね。

玄宗皇帝が作ったもので、仙女が舞うようなイメージの曲だったんですよね。楊貴妃が得意だった曲でした。

そうです。楊貴妃が仙女となった今、風に着物が吹かれるだけで「霓裳羽衣」を舞っているように見えると言っています。

「これは楊貴妃に間違いない!」って確信したってことですね。
99 玉容寂寞涙闌干
玉容 寂寞として涙 闌干
【訳】美しい顔は心が満たされず寂し様子で、涙がとめどなく流れる。
| 玉容 | 玉のように美しい顔立ち |
| 寂寞として |
心が満たされず寂しい様子で ※「寂寞」とは孤独や虚しさを含んだ寂しさ
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| 涙 | なみだ |
| 闌干 | 涙がとめどなく流れる |
100 梨花一枝春帯雨
梨花 一枝 春 雨を帯ぶ
【訳】(楊貴妃が涙を流す様子は)一枝の梨の花が、春の雨に濡れているようだった。
| 梨花 | ナシの花 |
| 一枝 | ひとえだ |
| 春 | 春の |
| 雨を帯ぶ | 雨に濡れている |


この長恨歌の表現がもとになり、「梨花一枝春の雨を帯ぶ」は美しい人が悲しみに暮れて涙を流している様子を表現するようになりました。

なぜ楊貴妃は、涙を流しているのですか?

それはこの後のやりとりを見ると、理解しやすいのですが…
楊貴妃も、ずっと天子に会いたかったはずです。しかし、会うことは叶いません。道士という能力者を通じてしか、天子と意思疎通ができないという現実を嘆いているのではないでしょうか。
続き:情を含み睇を凝らして君王に謝す~


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