今回は『大鏡』より「雲林院の菩提講」について解説をしていきます。
これは大鏡の始まりの場面です。
どのような形式で大鏡が語られているのかは、たびたびご紹介してきました。
今回のお話がその根拠となる内容です。
他のお話を理解する上でも、知っておくと役立ちますので読み取っていきましょう。
・あらすじ
・本文(読み仮名付き)
・現代語訳
・品詞分解
・ポイント
以上の内容を、順番にお話していきます。
大鏡をわかりやすい現代語訳で読んでみたいという方は、まず定番の「ビギナーズ・クラシック」シリーズをおすすめします。
大鏡「雲林院の菩提講」現代語訳・解説
本文に入る前に、まずは登場人物を整理しましょう。
登場人物
登場人物には物語上の「架空の人物」と、歴史上「実在した人物」がいますので、分けて説明します。
作者 (書き手)
※「大鏡」の作者は不詳とされているので、架空でも実在でもない存在として先に載せておきます。※
雲林院の菩提講に参詣した人物。老夫婦と老人の再会の場面を目撃し、その会話を聞いて記録している存在。
架空の人物
翁…大宅世継(おおやけのよつぎ)
元・皇太后の召使い。宇多天皇の時代の人物で、繁樹より年上。老夫婦の夫にあたる。繁樹との再会を喜び、互いの昔を語り合う。
いま一人の翁…夏山繁樹(なつやまのしげき)/幼名:大犬丸(おおいぬまる)
太政大臣貞信公(藤原忠平)が蔵人少将だった頃、小舎人童として仕えていた。のちに元服の際、太政大臣から「繁樹」という名を授かる。年齢は覚えていないと言う。雲林院の菩提講の場で、昔の知人である大宅世継と再会する。
嫗…夏山繁樹の妻
繁樹とともに雲林院の菩提講に参詣していた。特に発言は描かれない。
年三十ばかりなる侍めきたる者
聴衆の一人。老人たちの話を聞き、「面白いが信じられない」と近寄って言う。 ※解説の中では「若侍」と省略して表現している箇所があります※
実在の人物
「雲林院の菩提講」においては、「登場する」というよりは「名前が出てくる」という感じです。
入道殿下(藤原道長)
996年生〜1028年没。
直接の登場はなく、回想という形で登場する。大鏡は道長の繁栄を中心に描かれており、主人公とも言える存在。
太政大臣貞信公(藤原忠平)
880年生〜949年没。
繁樹(大犬丸)のかつての主人。元服時に「繁樹」という名を授けた人物。(夏の山には樹木が繁るということにちなんでいる。歌人としても有名な貞信公らしい縁語が用いられている)
母后の宮(班子女王)
833年生〜900年没。
宇多天皇の母。世継が召使いをしていたとして登場する。
(宇多天皇)
867年生〜931年没。
過去の天皇(在位期間:887〜897年)。この話では、「御時」が宇多天皇の時代と言われているため、登場人物の中に載せておく。
では登場人物を理解したところで、ざっくりと「雲林院の菩提講」をまとめると下記の通りです。
あらすじ
作者が雲林院の菩提講に参詣したところ、二人の老人(と一人の老人の妻)が偶然再会し、同じ場所に座っているのを見た。老人は、これまでの見聞を語り合い、入道殿下(藤原道長)の様子についても話したいと思っていたところだったとして再会を嬉しく思っている。
年齢の話になると、いくつかはわからないものの二人の言葉から、彼らが太政大臣貞信公(藤原忠平)や宇多天皇の時代を直接知るほどの昔の人間であることがうかがえる。常識では考えられないほどの長寿であることがわかった。作者はそのことに驚きあきれる。
老人たちのやりとりを聞いていた周囲の人々のうち、身分のある者たちは話に興味を示して近寄るなどした。
三十歳ほどの侍らしき者が現れ、「面白いことを言う老人たちだが、まったく信じられない」と笑ったので、二人の老人は顔を見合わせて大声で笑った。
ここからはいよいよ本文です。
読み取っていきましょう。
読み仮名付き本文・現代語訳・品詞分解
さいつころ、雲林院の菩提講に詣でて侍りしかば、
先日、雲林院の菩提講に参詣いたしましたところ、
さいつころ、 | さきごろ、先日、この間 |
雲林院 | 名詞(実在する寺院。現在の京都市北区紫野にある) |
の | 格助詞 |
菩提講 | 名詞(極楽往生のために、法華経の教えを分かりやすく説明すること。雲林院の菩提講は有名だった) |
に | 格助詞 |
詣で | ダ行下二段活用動詞「詣づ」(参詣する、寺院に行く)連用形 |
て | 接続助詞 |
侍り | ラ行変格活用補助動詞「侍り」(~ます、ございます)連用形 【丁寧】書き手→読み手 |
しか | 過去の助動詞「き」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
例の人よりはこよなう年老い、うたてげなる翁二人、嫗と行き合ひて同じ所に居ぬめり。
普通の人よりかけ離れて年老い、異様な感じがするおじいさん二人と、おばあさんとがばったり出会って、同じ場所に座ったようだ。
例 | 名詞(普通) |
の | 格助詞 |
人 | 名詞 |
より | 格助詞 |
は | 係助詞 |
こよなう | ク活用の形容詞「こよなし」(かけ離れている)連用形「こよなく」のウ音便 |
年 | 名詞 |
老い、 | ヤ行上二段活用「老ゆ」(老いる)連用形 |
うたてげなる | ナリ活用の形容動詞「うたてげなり」(異様な感じがする)連体形 |
翁 | 名詞(おじいさん) |
二人、 | 名詞 |
嫗 | 名詞(おばあさん) |
と | 格助詞 |
行き合ひ | ハ行四段活用動詞「行き合ふ」(ばったり出会う) |
て、 | 接続助詞 |
同じ | シク活用の形容詞「同じ」連体形 |
所 | 名詞 |
に | 格助詞 |
居 | ワ行上一段活用動詞「居る」(座る)連用形 |
ぬ | 完了の助動詞「ぬ」終止形 |
めり。 | 婉曲の助動詞「めり」(~のようである)終止形 |

これは、菩提講が始まるのを待っている間の出来事です。
この老人が菩提講をする人ではないことを、確認しましょうね。
あはれに同じやうなる者のさまかなと見侍りしに、これらうち笑ひ、見交はして言ふやう、
しみじみと(語り手の私は)「同じような人たちの有り様だなあ」と見ていたのですが、彼ら(=老人たち)が笑って、互いに見合わせて言うことには、
あはれに、 | ナリ活用の形容動詞「あはれなり」(しみじみと感動する)連用形 |
同じ | シク活用の形容詞「同じ」連体形 |
やうなる | 比況の助動詞「やうなり」(~のようだ)連体形 |
者 | 人 |
の | 格助詞 |
さま | ありさま |
かな | 終助詞(~だなあ) |
と | 格助詞 |
見 | マ行上一段活用動詞「見る」連用形 |
侍り | ラ行変格活用補助動詞「侍り」(~ております)連用形 【丁寧】書き手→読み手に対する敬意 |
し | 過去の助動詞「き」連体形 |
に、 | 接続助詞 |
これら | 代名詞(この人たち) |
うち笑ひ、 | ハ行四段活用動詞「うち笑ふ」(笑う)連用形 |
見交はし | サ行四段活用動詞「見かはす」(互いに見る)連用形 |
て | 接続助詞 |
言ふ | ハ行四段活用動詞「言ふ」連体形 |
やう、 | 名詞(ことには) |
「年ごろ、昔の人に対面して、いかで世の中の見聞くことをも聞こえ合はせむ、
(世継のセリフ)「長年、昔なじみにあって、どうにかして(これまでに)見聞きしてきたことを心の隔てなくお話し申し上げたい、
「年ごろ、 | 名詞(長年) |
昔 | 名詞 |
の | 格助詞 |
人 | 名詞 ※昔の人…昔なじみ、古くからの友人 |
に | 格助詞 |
対面し | サ行変格活用動詞「対面す」(会って話す)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
いかで | 副詞(どうにかして) |
世の中 | 名詞 |
の | 格助詞 |
見聞く | カ行四段活用動詞「見聞く」(見聞きする)連体形 |
こと | 名詞 |
を | 格助詞 |
も | 係助詞 |
聞こえ合はせ | サ行下二段活用動詞「聞こえ合はす」(心の隔てなくお話申し上げる)未然形 【謙譲】翁(世継)→いま一人の翁(繁樹)に対する敬意 |
む、 | 意志の助動詞「む」終止形 |
このただ今の入道殿下の御ありさまをも、申し合はせばやと思ふに、あはれにうれしくも会ひ申したるかな。
現在の入道殿下(=藤原道長)のご様子についても相談申し上げたいものだと思っていましたが、すばらしく嬉しくも会い申し上げたことですよ。
こ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
ただ今 | 名詞(現在) |
の | 格助詞 |
入道殿下 | 名詞(藤原道長を指す) |
の | 格助詞 |
御有様 | 名詞(ご様子) |
を | 格助詞 |
も、 | 係助詞 |
申し合はせ | サ行下二段活用動詞「申し合はす」(相談申し上げる)未然形 【謙譲】翁(世継)→いま一人の翁(繁樹)に対する敬意 |
ばや | 【自己の願望】終助詞(~たいものだ) |
と | 格助詞 |
思ふ | ハ行四段活用動詞「思ふ」連体形 |
に、 | 接続助詞 |
あはれに | ナリ活用の形容動詞「あはれなり」(すばらしい)連用形 |
うれしく | シク活用の形容詞「うれし」連用形 |
も | 係助詞 |
会ひ | ハ行四段活用動詞「会ふ」連用形連用形 |
申し | サ行四段活用補助動詞「申す」連用形 【謙譲】翁(世継)→いま一人の翁(繁樹)に対する敬意 |
たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
かな。 | 終助詞 |
今ぞ心安く黄泉路もまかるべき。
今こそ安心して黄泉路(冥途への道)を行くことができます。
今 | 名詞 |
ぞ | 係助詞 (係) |
心安く | ク活用の形容詞「心安し」(安心だ)連用形 |
黄泉路 | 名詞(冥途へ行く道のこと) |
も | 係助詞 |
まかる | ラ行四段活用動詞「まかる」(行く)終止形 【丁寧】翁(世継)→いま一人の翁(繁樹)や話を聞いている人に対する敬意 |
べき。 | 可能の助動詞「べし」連体形 (結) |
思しきこと言はぬは、げにぞ腹ふくるる心地しける。
(言いたいと)思っていることを言わないのは、本当に腹がふくれる(嫌な)気持ちがするものですな。
思しき | シク活用の形容詞「思し」(思っている)連体形 |
こと | 名詞 |
言は | ハ行四段活用動詞「言ふ」未然形 |
ぬ | 打消の助動詞「ず」連体形 |
は、 | 係助詞 |
げに | 副詞(本当に) |
ぞ | 係助詞 (係) |
腹 | 名詞 |
ふくるる | ラ行下二段活用動詞「ふくる」(ふくれる)連体形 |
心地 | 名詞(気持ち) |
し | サ行変格活用「す」連用形 |
ける。 | 詠嘆の助動詞「けり」連体形 (結) |

「腹ふくるる心地」とは、お腹がいっぱいという物理的なことではなく、ここでは言いたいことを我慢して心の中にたまって気持ちが悪い状態のことを言います。
かかればこそ、昔の人はもの言はまほしくなれば、
こういうわけなので、昔の人は何か言いたいくなったら、
かかれば | 接続詞(こういうわけなので)※ラ行変格活用動詞「かかり」已然形+接続助詞「ば」という解釈もある |
こそ、 | 係助詞(係) |
昔 | 名詞 |
の | 格助詞 |
人 | 名詞 |
は | 係助詞 |
もの | 名詞 |
言は | ハ行四段活用動詞「言ふ」未然形 |
まほしく | 希望の助動詞「まほし」(~したい)連用形 |
なれ | ラ行四段活用動詞「なる」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
穴を掘りては言ひ入れ侍りけめとおぼえ侍り。
穴を掘って(そこに向かって言いたいことを)言ったのでしょうと思います。
穴 | 名詞 |
を | 格助詞 |
掘り | ラ行四段活用動詞「掘る」連用形 |
て | 接続助詞 |
は | 係助詞 |
言ひ入れ | ラ行下二段活用動詞「言ひ入る」(中の人に言う※ここでは穴の中に人はいないが、言いたいことを穴に向かって言うということを表している)連用形 |
侍り | ラ行変格活用補助動詞「侍り」連用形 【丁寧】翁(世継)→いま一人の翁(繁樹)に対する敬意 |
けめ | 過去推量の助動詞「けむ」已然形 (結) |
と | 格助詞 |
おぼえ | ヤ行下二段活用動詞「おぼゆ」(思われる)連用形 |
侍り。 | ラ行変格活用補助動詞「侍り」終止形【丁寧】翁(世継)→いま一人の翁(繁樹)に対する敬意 |
返す返すうれしく対面したるかな。
重ね重ねうれしい対面であることです。(=会ってお話したことは嬉しいことです。)
返す返す | 副詞(重ね重ね) |
うれしく | シク活用の形容詞「うれし」連用形 |
対面し | サ行変格活用動詞「対面す」(会って話す)連用形 |
たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
かな。 | 終助詞 |
さても、いくつにかなり給ひぬる。」
それはそうと、(あなた=繁樹は)何歳になられましたか。」
さても、 | 接続詞(それはそうと) |
いくつ | 名詞(どれほど、何歳) |
に | 格助詞 |
か | 格助詞 (係) |
なり | ラ行四段活用動詞「なり」連用形 |
給ひ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形 【尊敬】翁(世継)→いま一人の翁(繁樹)に対する敬意 |
ぬる。」 | 完了の助動詞「ぬ」連体形 (結) |
と言へば、いま一人の翁、「いくつといふこと、さらにおぼえ侍らず。
と言うと、もう一人のおじいさん(=繁樹)は、「何歳かということは、少しも覚えていません。
と | 格助詞 |
言へ | ハ行四段活用動詞「言ふ」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
いま | 副詞(もう) |
一人 | 名詞 |
の | 格助詞 |
翁、 | 名詞 |
「いくつ | 名詞 |
と | 格助詞 |
いふ | ハ行四段活用動詞「いふ」連体形 |
こと、 | 名詞 |
さらに | 打消をともなって…副詞(少しも~ない) |
おぼえ | ヤ行下二段活用動詞「おぼゆ」(連用形 |
侍ら | ラ行変格活用補助動詞「侍り」未然形 【丁寧】いま一人の翁(繁樹)→翁(世継)に対する敬意 |
ず。 | 打消の助動詞「ず」終止形 |
ただし、おのれは、故太政の大臣貞信公、蔵人の少将と申しし折の小舎人童、大犬丸ぞかし。
とは言うものの、私(=繁樹)は亡き太政大臣貞信公が蔵人の少将と(世の人々が)申し上げていたときの小舎人童、大犬丸なのです。
ただし、 | 接続詞(とは言うものの) |
おのれ | 代名詞(私) |
は、 | 係助詞 |
故太政の大臣貞信公、 | 名詞(人名。藤原忠平のこと) |
蔵人の少将 | 名詞(役職名。武官である近衛少将が天皇の秘書である蔵人を兼任する人をこのように呼ぶ) |
と | 格助詞 |
申し | サ行四段活用動詞「申す」連用形 【謙譲】いま一人の翁(繁樹)→貞信公への敬意 |
し | 過去の助動詞「き」連体形 |
折 | 名詞 |
の | 格助詞 |
小舎人童、 | 名詞(貴人に仕える少年のこと) |
大犬丸 | 名詞(人名。繁樹が少年のころに呼ばれていた名前) |
ぞ | 終助詞 |
かし。 | 終助詞 ※「ぞかし」…なのだよ |

藤原忠平は、藤原時平の弟です。
菅原道真を大宰府に追いやった人物でしたね。
兄の死後、政治の実権を握ったのでした。
幼名…幼少期につけられる名前。元服するときに名をつけるまで用いられる。
ぬしはその御時の母后の宮の御方の召使、高名の大宅世継とぞ言ひ侍りしかな。
あなた(=世継)はその御代(ここでは宇多天皇の時代)の皇太后の召使で、名高い大宅世継と言われた方ですね。
ぬし | 代名詞(あなた) |
は | 係助詞 |
そ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
御時 | 名詞(天皇の治めていた時代のこと。ここでは宇多天皇の時代とされているが、史実を見ると上皇時代ではないかと考えられる) |
の | 格助詞 |
母后の宮 | 名詞(天皇の母親、皇太后) |
の | 格助詞 |
御方 | 名詞(高貴な人を指す敬称) |
の | 格助詞 |
召使 | 名詞(貴人や役人の身の回りの雑用にあたる人) |
高名 | 名詞(名高い、有名) |
の | 格助詞 |
大宅世継 | 名詞(人名) |
と | 格助詞 |
ぞ | 係助詞(係) |
言ひ | ハ行四段活用動詞「言ふ」連用形 |
侍り | ラ行変格活用補助動詞「侍り」連用形 【丁寧】いま一人の翁(繁樹)→翁(世継)に対する敬意 |
し | 過去の助動詞「き」連体形(結) |
かな | 終助詞 |
されば、ぬしの御年は、おのれにはこよなくまさり給へらむかし。
だから、あなた(=世継)のご年齢は、私(=繁樹)よりこの上なく上でいらっしゃいるでしょう。
されば、 | 接続詞(だから) |
ぬし | 名詞 |
の | 格助詞 |
御年 | 名詞 |
は、 | 係助詞 |
おのれ | 代名詞 |
に | 格助詞 |
は | 係助詞 |
こよなく | ク活用の形容詞「こよなし」(この上ない)連用形 |
まさり | ラ行四段活用動詞「まさる」(上である)連用形 |
給へ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」已然形 【尊敬】いま一人の翁(繁樹)→翁(世継)への敬意 |
ら | 存続の助動詞「り」未然形 |
む | 推量の助動詞「む」終止形 |
かし。 | 終助詞 |
自らが小童にてありしとき、ぬしは二十五、六ばかりの男にてこそはいませしか。」
私(=繁樹)が幼い子どもであったときに、あなた(=世継)は二十五、六歳ほどの男性でいらっしゃいました。」
自ら | 代名詞(私) |
が | 格助詞 |
小童 | 名詞(幼い子ども) |
に | 断定の助動詞「なり」連用形 |
て | 接続助詞 |
あり | ラ行変格活用動詞「あり」連用形 |
し | 過去の助動詞「き」連体形 |
とき、 | 名詞 |
ぬし | 代名詞 |
は | 係助詞 |
二十五、六 | 名詞 |
ばかり | 副助詞(ほど) |
の | 格助詞 |
男 | 名詞 |
に | 断定の助動詞「ぬ」連用形 |
て | 接続助詞 |
こそ | 係助詞 (係) |
は | 係助詞 |
いませ | サ行変格活用動詞「います」(いらっしゃる)連用形 【尊敬】いま一人の翁(繁樹)翁(世継)に対する敬意 |
しか。」 | 過去の助動詞「き」已然形 (結) |
と言ふめれば、世継、「しかしか、さ侍りしことなり。さてもぬしの御名はいかにぞや。」
と言うと、世継が、「そうそう、そのようでございました。ところであなた(=繁樹)のお名前はどうでしたか。(→何とおっしゃいましたか。)」
と | 格助詞 |
言ふ | ハ行四段活用動詞「言ふ」終止形 |
めれ | 婉曲の助動詞「めり」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
世継、 | 名詞(人名。大宅世継のこと) |
「しかしか、 | 感動詞(そうそう) |
さ | 副詞(そのように) |
侍り | ラ行変格活用動詞「侍り」連用形 【丁寧】翁(世継)→いま一人の翁へ(繁樹)に対する |
し | 過去の助動詞「き」連体形 |
こと | 名詞 |
なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 |
さても | 接続詞(ところで) |
ぬし | 代名詞 |
の | 格助詞 |
御名 | 名詞(お名前) |
は | 係助詞 |
いかに | 副詞(どう) |
ぞ | 係助詞 |
や。」 | 係助詞 |
と言ふめれば、「太政大臣殿にて元服仕まつりしとき、『きむぢが姓は何ぞ。』と仰せられしかば、
と言うので、「太政大臣殿のもとで元服し申し上げた時に、(太政大臣殿が)『お前の姓は何だ。』と仰られたので、
と | 格助詞 |
言ふ | ハ行四段活用動詞「言ふ」終止形 |
めれ | 婉曲の助動詞「めり」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
「太政大臣殿 | 名詞(ここでは貞信公:藤原忠平を指す) |
にて | 格助詞 |
元服 | 名詞(男子が成人になる儀式) |
仕まつり | ラ行四段活用動詞「仕まつる」(~し申し上げる)連用形 【謙譲】いま一人の翁(繁樹)→太政大臣殿への敬意 |
し | 過去の助動詞「き」連体形 |
時、 | 名詞 |
『きむぢ | 代名詞(おまえ) |
が | 格助詞 |
姓 | 名詞(名字) |
は | 係助詞 |
なに | 代名詞 |
ぞ。』 | 終助詞 |
と | 格助詞 |
仰せ | サ行下二段活用動詞「仰す」(おっしゃる)未然形 【尊敬】いま一人の翁(繁樹)→太政大臣殿への敬意 |
られ | 尊敬の助動詞「らる」連用形 【尊敬】いま一人の翁(繁樹)→太政大臣殿への敬意 |
しか | 過去の助動詞「き」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
『夏山となむ申す。』と申ししを、やがて、繁樹となむ付けさせ給へりし。」
『夏山と申します。』と申し上げたところ、すぐに(太政大臣殿は)繁樹と名付けてくださいました。」
『夏山 | 名詞 |
と | 格助詞 |
なむ | 係助詞(係) |
申す。』 | サ行四段活用動詞「申す」連体形(結) 【謙譲】いま一人の翁(繁樹)→太政大臣殿への敬意 |
と | 格助詞 |
申し | サ行四段活用動詞「申す」連用形 【謙譲】いま一人の翁(繁樹)→太政大臣殿への敬意 |
し | 過去の助動詞「き」連体形 |
を、 | 接続助詞 |
やがて、 | 副詞(すぐに) |
繁樹 | 名詞 |
と | 格助詞 |
なむ | 係助詞 (係) |
付け | カ行下二段活用動詞「付く」(命名する、名付ける)未然形 |
させ | 尊敬の助動詞「さす」連用形 いま一人の翁(繁樹)→太政大臣殿への敬意 |
給へ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」已然形 【尊敬】いま一人の翁(繁樹)→太政大臣殿への敬意 |
り | 完了の助動詞「り」連用形 |
など言ふに、いとあさましうなりぬ。
などと言うので、(私=作者は)大変驚いてしまった。
など | 副助詞 |
言ふ | ハ行四段活用動詞「言ふ」連体形 |
に、 | 接続助詞 |
いと | 副詞 |
あさましう | シク活用の形容詞「あさまし」(驚く)連用形「あさましく」のウ音便 |
なり | ラ行四段活用動詞「なる」連用形 |
ぬ。 | 完了の助動詞「ぬ」終止形 |
誰も、少しよろしき者どもは、見おこせ、居寄りなどしけり。
誰でも、まあ悪くない身分の人たちは(=まあ悪くない身分の人たちはみな)、こちらを見たり、(老人たちに)近寄ったりしました。
誰 | 代名詞 |
も | 係助詞 |
少し | 副詞 |
よろしき | シク活用の形容詞「よろし」(悪くない)連体形 |
者ども | 名詞 |
は、 | 係助詞 |
見おこせ、 | サ行下二段活用動詞「見おこす」(こちらを見る)連用形 |
居寄り | ラ行四段活用動詞「居寄る」(近寄る)連用形 |
など | 副助詞 |
し | サ行変格活用動詞「す」連用形 |
けり。 | 過去の助動詞「けり」終止形 |
年三十ばかりなる侍めきたる者の、せちに近く寄りて、
三十歳ほどの侍のように見える人が、ひたすらに(老人たちの)近くに寄って、
年 | 名詞 |
三十 | 名詞 |
ばかり | 副助詞(ほど) |
なる | 断定の助動詞「なり」連体形 |
侍めき | カ行四段活用動詞「侍めく」(侍のように見える)連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
者 | 名詞 |
の | 格助詞 |
せちに | ナリ活用の形容動詞「せちなり」(ひたすらに)連用形 |
近く | ク活用の形容詞「近し」連用形 |
寄り | ラ行四段活用動詞「寄る」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
「いで、いと興あること言ふ老者たちかな。さらにこそ信ぜられね。」
「おやまぁ、大変面白みがあることを言う老人たちだな。全く信じることができない。」
「いで | 感動詞(おやまあ) |
いと | 副詞 |
興 | 名詞(面白み) |
ある | ラ行変格活用動詞「あり」連体形 |
こと | 名詞 |
言ふ | ハ行四段活用動詞「言ふ」連体形 |
老者たち | 名詞(老人) |
かな。 | 終助詞 |
さらに | 副詞+打ち消し(全然〜ない) |
こそ | 係助詞 (係) |
信ぜ | サ行変格活用動詞「信ず」未然形 |
られ | 可能の助動詞「らる」未然形 |
ね。 | 打消の助動詞「ぬ」已然形 (結) |
と言へば、翁二人見交はしてあざ笑ふ。
と言ったので、おじいさん達二人(=世継と繁樹)は、互いに顔を見合わせて高笑いをする。
と | 格助詞 |
言へ | ハ行四段活用動詞「言ふ」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
翁 | 名詞 |
二人 | 名詞 |
見交はし | サ行四段活用動詞「見交はす」(互いに見る)連用形 |
て | 接続助詞 |
あざ笑ふ。 | ハ行四段活用動詞「あざ笑ふ」(高笑いをする)終止形 |
ポイント
では、今回のお話のポイントを確認していきましょう。
①大宅世継と夏山繁樹という老人が見聞きしたことを語る。
②老人二人の会話を近くで若侍が聞きながら、ときおり言葉をはさむ。
③周囲にはそのやりとりを聞いている人がおり、作者もそのうちの一人であり自分の感想を交えながら語りを記録しているという構造。
まあまあの教養がある人のことを指す。
教養があれば、老人たちの話に登場する人物がどの時代の人かも理解できる。それによって老人たちの話に興味を示して近寄り、耳を傾けた。
二人は事実を言っているのに、若侍が二人の話を疑い、理解できないことを軽くバカにしている。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は『大鏡』より「雲林院の菩提講」を解説しました。
このお話は、『大鏡』の語りの構造が説明されている場面と言えます。長寿の老人二人(とその妻)が再会し、これまで見聞きしてきたことを語り、それを周囲の人々や若い侍のような人物が聞いて反応します。
そして、作者である聞き手がその様子を記録しているという構図になっているのです。それによって「歴史物語」としての信ぴょう性や価値が高まるという効果もあります。
またこの文章では、文法的に押さえておきたいポイントもたくさん含まれています。助動詞などをしっかり理解して読み取りましょう。
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