今回は韓昌黎集より韓愈の「雑説」について解説をしていきます。
雑説とは思いついたことをきままに書いた論説文のことを言います。
この記事では
・白文
・書き下し文(読み仮名付き)
・語句の意味/解説
・現代語訳
以上の内容を順番にお話していきます。
「雑説」書き下し文・現代語訳・解説

白文
① 世有伯楽、然後有千里馬。
② 千里馬常有、而伯楽不常有。
③ 故雖有名馬、祇辱於奴隷人之手、
④ 駢死於槽櫪之間、不以千里称也。
⑤ 馬之千里者、一食或尽粟一石。
⑥ 食馬者、不知其能千里而食也。
⑦ 是馬也、雖有千里之能、
⑧ 食不飽、力不足、才美不外見。
⑨ 且欲与常馬等、不可得。
⑩ 安求其能千里也。
⑪ 策之不以其道、
⑫ 食之不能尽其材、
⑬ 鳴之而不能通其意。
⑭ 執策而臨之曰、「天下無馬。」
⑮ 嗚呼、其真無馬邪、其真不知馬也。
書き下し文(読み仮名付き)・語句解説・現代語訳
①世に伯楽有りて、然る後に千里の馬有り。
| 語句 | 意味/解説 | 
| 世 | 世の中 | 
| 伯楽 | 馬の良しあしを見分ける名人 | 
| 然る後 | そのあとで | 
| 千里の馬 | 一日に千里を走ることができる馬 ※千里…3900km | 
【訳】世の中には馬の良しあしを見分ける名人がいて、その後で一日に千里を走ることができる馬が存在する。
②千里の馬は常に有れども、伯楽は常には有らず。
| 語句 | 意味/解説 | 
| 常には~ず | いつも~とは限らない | 
【訳】一日に千里を走る馬は常に存在するが、伯楽はいつもいるとは限らない。
③故に名馬有りと雖も、祇だ奴隷人の手に辱められ、
| 語句 | 意味/解説 | 
| 故に | そのため | 
| 祇だ~ | 【限定】ただ~だけだ | 
| A於(置き字)B | 【受身】BにAされる | 
| 奴隷人 | 使用人 | 
| 辱められ | 粗末に扱われ | 
【訳】そのため名馬がいたとしても使用人によって粗末に扱われ、
④槽櫪の間に駢死し、千里を以つて称せられざるなり。
| 語句 | 意味/解説 | 
| 槽櫪の間 | 馬小屋 | 
| 駢死 | 首を並べて死ぬ | 
| 称 | 称える | 
【訳】馬小屋で首を並べて死に、千里の馬として称えられることもないのである。
⑤馬の千里なる者は、一食に或いは粟一石を尽くす。
| 語句 | 意味/解説 | 
| 馬の千里なる者 | 千里を走る名馬 | 
| 一食 | 一回の食事 | 
| 或いは | ある時には | 
| 粟 | 雑穀 | 
| 一石 | 単位。約60リットル。 | 
【訳】千里を走る名馬は、一回の食事である時には雑穀一石を食べ尽くしてしまう。
⑥馬を食ふ者は、其の能く千里なるを知りて食はざるなり。
| 語句 | 意味/解説 | 
| 食ふ | 飼う、育てる | 
| 其の | 飼っている馬のことを指す | 
| 能く | ~できる | 
| 千里なる | 一日に千里走れること | 
【訳】馬を飼う者は、その馬が一日に千里走ることができることを知って育てているのではない。
⑦是の馬や、千里の能有りと雖も、
| 語句 | 意味/解説 | 
| や(也) | 主語を強調 | 
| 能 | 能力 | 
| ~と雖も | たとえ~としても | 
【訳】この馬は、たとえ千里を走る能力があったとしても、
⑧食飽かざれば、力足らず、才の美外に見れず。
| 語句 | 意味/解説 | 
| 食 | 食糧 | 
| 飽かざれば | お腹いっぱいになるほどでなければ | 
| 才の美 | 優れた才能 | 
【訳】食糧がお腹いっぱいになるほどでなければ、力が足りず、優れた才能が表に表れることがない。
⑨且つ常馬と等しからんと欲するも、得べからず。
| 語句 | 意味/解説 | 
| 且つ | その上 | 
| 常馬 | 普通の馬 | 
| 等しからんと | 同じようにありたいと | 
| 欲するも | 望んでも | 
| 得べからず(不可) | ~できない | 
【訳】その上普通の馬と同じようにありたいと望んでも、できない。
⑩安くんぞ其の能く千里なるを求めんや。
| 語句 | 意味/解説 | 
| 安くんぞ~や(也) | 【反語】どうして~か、いや~だ。 | 
| 其の | 馬 | 
| 能く | ~できる | 
【訳】どうしてその馬に一日に千里を走ることを求めることができようか、いやできない。
⑪之を策つに其の道を以てせず、
| 語句 | 意味/解説 | 
| 之 | 千里の馬を指す | 
| 策つ | 鞭で打つ | 
| 其の道 | 千里の馬にふさわしいやり方 | 
| 以てせず | 用いない | 
【訳】千里の馬を鞭で打つのに、千里の馬にふさわしいやり方を用いず、
⑫之を食ふに其の材を尽くす能はず、
| 語句 | 意味/解説 | 
| 其の材 | 千里の馬としての才能 | 
| 尽くす | 発揮させる | 
| 能はず | ~できない | 
【訳】千里の馬を育てる時も千里の馬としての才能を発揮させることができず、
⑬之に鳴けども其の意に通ずる能はず。
| 語句 | 意味/解説 | 
| 之に | (千里の馬が)飼い主に | 
| 其の意 | 馬の気持ち | 
| 通ずる | 理解する | 
【訳】(千里の馬が)飼い主に(苦痛や不満を)鳴いて訴えても、(飼い主は)馬の気持ちを理解することができない。
⑭策を執りて之に臨みて曰はく、「天下に馬無し。」と。
| 語句 | 意味/解説 | 
| 策 | 鞭 | 
| 執りて | 手にして | 
| 之 | 千里の馬を指す | 
| 臨みて | 向かって | 
| 天下 | この世 | 
| 馬 | ここでは名馬を指す | 
【訳】鞭を手にして(飼い主が)千里の馬に向かって言うことには、「この世に名馬はいない」と。
⑮嗚呼、其れ真に馬無きか、其れ真に馬を知らざるか。
| 語句 | 意味/解説 | 
| 嗚呼 | あぁ | 
| 其れ~か(邪) | 【疑問】いったい~か | 
| 真に | 本当に | 
| 其れ~か(也) | 【疑問】それとも~か | 
| 知らざる | 見抜けない | 
【訳】ああ、いったい本当に名馬がいないのか、それとも本当に名馬を見抜けないのか。
どういうこと?
「伯楽がいてこそ千里の馬が存在する」
また、千里の馬だとしても十分に食事を与えなければ、その力を発揮することができないとも言っています。
これは優れた君主の在り方を示しているのです。
常馬=普通の人物伯楽=優れた人材を見抜いて登用する君主
奴隷人=身分が低く、優秀な人材を見抜く力のない役人粟一石=十分な報酬や地位
を指しています。
つまり言い換えると
優れた君主は…
才能ある人物を見抜く力があり、その人物を手厚く面倒を見ることで才能を開花させることができる
ということを言っています。
まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は韓昌黎集より韓愈の「雑説」について解説をしました。
・千里の馬を見極める伯楽の存在の大切さ
・千里の馬の力を発揮させるには十分な食糧が必要
というお話から、君主のあるべき姿を述べていることがわかりました。
どんなに優秀な人も、それを活かせる人のもとで正当な評価を受けてこそ力が発揮できるというお話でした。

 
  
  
  
  

コメント