大和物語「姨捨②(月のいと明き夜~)」品詞分解・現代語訳・解説|男の思いとは?

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前回に続いて、大和物語より第百五十六段「姨捨②(月のいと明き夜~)」について解説をしていきます。

妻におばの悪口を吹き込まれて、幼い頃から親のように世話をしてくれたおばを、深い山に捨ててくるように言われ、実行する決意をしたのでした。

大和物語「姨捨」品詞分解・現代語訳・解説

本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳

これまでのお話:信濃国に更級といふ所に、男住みけり。

つきのいとかき

語句 意味
名詞
格助詞
いと 副詞(とても)
明かき ク活用の形容詞「明かし」(明るい)連体形
夜、 名詞

【訳】月がとても明るい夜、

 

おうなども、いざたま

語句 意味
嫗ども、 名詞(おばあさん)+接尾語「ども」【呼びかけ】
いざ 感動詞(さあ)
給へ。 ハ行四段活用動詞「給ふ」(命令形【尊敬】男→おばへの敬意

【訳】「おばあさんよ、さあいらっしゃい。

 

いざ給へ…【慣用表現】「いざ」のあとに「行く」「来る」を省略

 

てらとうときわざすなる、たてまつらむ。」とければ、

語句 意味
名詞
格助詞
尊き ク活用の形容詞「尊し」(価値がある)連体形
わざ 名詞(行事)
サ行変格活用動詞「す」終止形
なる、 伝聞の助動詞「なり」連体形
見せ サ行下二段活用動詞「見す」(見せる)連用形
奉ら ラ行四段活用補助動詞「奉る」未然形【謙譲】男→おばへの敬意
む。」 意志の助動詞「む」終止形
格助詞
言ひ ハ行四段活用動詞「言ふ」連用形
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ば、 接続助詞

【訳】寺でありがたい法会をするということです、見せて差し上げましょう。」と言ったので、

 

法会…寺などで仏の教えを伝える集会のこと。

当時、大きな寺院の法会には、たくさんの人が集まりました。
「すごいイベントやってるから、見せてあげるよ!」と誘っている感じですね。

 

かぎりなくよろこびてれにけり。

語句 意味
限りなく ク活用の形容詞「限りなし」(この上なく)連用形
喜び バ行四段活用動詞「喜ぶ」連用形
接続助詞
負は ハ行四段活用動詞「負ふ」(背負う)未然形
受身の助動詞「る」連用形
完了の助動詞「ぬ」連用形
けり。 過去の助動詞「けり」終止形

【訳】この上なく喜んで背負われた。

 

この時点でおばは、まさか自分が男に捨てられるなんて微塵も思っていなかったんでしょうね…

 

たかやまふもとみければ、そのやまにはるばるとりて、

語句 意味
高き ク活用の形容詞「高し」連体形
名詞
格助詞
名詞(ふもと。山の下の方)
格助詞
住み マ行四段活用動詞「住む」連用形
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ば、 接続助詞
代名詞
格助詞
名詞
格助詞
はるばると 副詞(はるか遠く)
入り ラ行四段活用動詞「入る」連用形
て、 接続助詞

【訳】(男は)高い山の麓に住んでいたので、その山のはるか遠くに入って、

 

たかやまみねの、べくもあらぬに、きてげてぬ。

語句 意味
高き ク活用の形容詞「高し」(高い)連体形
名詞
格助詞
名詞
の、 格助詞【同格】(~で)
下り来 カ行変格活用動詞「下り来」(下りて来る)終止形
べく 可能の助動詞「べし」連用形
係助詞
あら ラ行変格活用動詞「あり」未然形
打消の助動詞「ず」連体形
(峰/所など) 省略されている
に、 格助詞
置き カ行四段活用動詞「置く」連用形
接続助詞
逃げ ガ行下二段活用動詞「逃ぐ」連用形
接続助詞
カ行変格活用動詞「来」連用形
ぬ。 完了の助動詞「ぬ」終止形

【訳】高い山の峰で、下りて来ることもできそうもない所に、置いて逃げてきた。

 

つまり、「下りて来ることができないくらい高い山の峰に、おばを置いて逃げてきた」ということです。

腰が曲がったおばが、自力で戻って来るのは無理ですよね…

 

「やや。」とど、いらもせで、げていえおもるに、

語句 意味
「やや。」 感動詞(これこれ)
格助詞
言へ ハ行四段活用動詞「言ふ」已然形
ど、 【逆接】接続助詞
いらへ 名詞(返事)
係助詞
サ行変格活用動詞「す」未然形
で、 【打消】接続助詞
逃げ ガ行四段活用動詞「逃ぐ」連用形
接続助詞
名詞
格助詞
カ行変格活用動詞「来」連用形
接続助詞
思ひ ハ行四段活用動詞「思ふ」(考える)連用形
をる ラ行変格活用補助動詞「をり」(~している)連体形
に、 接続助詞

【訳】「これこれ。」と言うけれども、返事もしないで、逃げて家に帰ってきて考えていると、

 

はらてけるおりは、はらちてかくしつれど、

語句 意味
言ひ ハ行四段活用動詞「言ふ」連用形
腹立て タ行下二段活用動詞「腹立つ」(腹を立てる)連用形
ける 過去の助動詞「けり」連体形
名詞(その時)
は、 係助詞
腹立ち タ行四段活用動詞「腹立つ」連用形
接続助詞
かく 副詞(このように)
サ行変格活用動詞「す」連用形
つれ 完了の助動詞「つ」已然形
ど、 【逆接】接続助詞

【訳】(妻が姑の悪口を)言って(そのことを真に受けて)腹を立てた時は、腹が立ってこのようにしてしまったが、

 

「かく(このように)」とは、おばを山に捨ててきたことを指しています。

 

としごろおやのごとやしなつつあいにければ、

語句 意味
年ごろ 名詞(長年)
名詞
格助詞
ごと 比況の助動詞「ごとし」の語幹(~のように)
養ひ ハ行四段活用動詞「養ふ」(育てる)連用形
つつ 接続助詞【継続】(~し続けて)
相添ひ ハ行四段活用動詞「相添ふ」(一緒にいる)連用形
完了の助動詞「ぬ」連用形
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ば、 接続助詞

【訳】長年親のように(男を)育て続けて、一緒に生活してきたので、

 

いとかなしくおぼえけり。

語句 意味
いと 副詞(とても)
悲しく シク活用の形容詞「悲し」連用形
おぼえ ヤ行下二段活用動詞「おぼゆ」(思われる)連用形
けり。 過去の助動詞「けり」終止形

【訳】とても悲しく思われた。

 

おばへの感謝の思いがあふれてきたのですね。

それと同時に、後悔の念がこみあげてきているようです。

 

このやまかみより、つきもいとかぎりなくかくでたるをながめて、

語句 意味
代名詞
格助詞
名詞
格助詞
名詞
より、 格助詞
名詞
係助詞
いと 副詞(たいそう)
限りなく ク活用の形容詞「限りなし」(この上ない)連用形
明かく ク活用の形容詞「明かし」(明るい)連用形
出で ダ行下二段活用動詞「出づ」連用形
たる 存続の助動詞「たり」連体形
格助詞
ながめ マ行四段活用動詞「ながむ」(連用形
て、 接続助詞

【訳】この山の上から、月がたいそうこの上なく明るく出ているのを眺めて、

 

おばを捨ててきた山の上から、月が出てきたんですね。

 

ひとられず、

語句 意味
夜一夜 名詞
名詞(眠ること)
係助詞
ナ行下二段活用動詞「寝」未然形
られ 可能の助動詞「らる」未然形
ず、 打消の助動詞「ず」連用形

【訳】一晩中全く寝られず、→一睡もできなかった

 

も」がついていることで「全く寝ることができない」という強調を表す慣用表現となっています。

一晩中、おばを捨ててきた後悔の思いに苦しんだのでしょうか。

 

かなしうおぼえければ、かくみたりける、

語句 意味
悲しう シク活用の形容詞「悲し」連用形「悲しく」のウ音便
おぼえ ヤ行下二段活用動詞「おぼゆ」連用形
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ば、 接続助詞
かく 副詞(このように)
詠み マ行四段活用動詞「詠む」連用形
たり 完了の助動詞「たり」連用形
ける、 過去の助動詞「けり」連体形
(歌) 省略されている

【訳】悲しく思われたので、このように詠んだ歌を、

 

和歌:わがこころ なぐさめかねつ 更級さらしな姨捨山おばすてやまつき

語句 意味
代名詞
格助詞
名詞
慰めかね ナ行下二段活用動詞「慰めかぬ」(慰めることができない)連用形
※「かぬ」【不可能】
完了の助動詞「つ」終止形
更級 名詞
【詠嘆】間投助詞
姨捨山 名詞(長野県にある冠着山カムリキヤマを指す)
格助詞
照る ラ行四段活用動詞「照る」連体形
名詞
格助詞
マ行上一段活用動詞「見る」連用形
接続助詞

【訳】私の心をどうしても慰めることができない。更級の姨捨山に照る(この上もなく明るい)月を見ていると。

 

通常ならば「更級や 姨捨山に照る月を見て わが心 慰めかねつ」となるでしょう。
しかし、ここでは倒置法が用いられています。
それによって、「どうしても慰めることができない、自分の悲しい思い」を強調しているのです。

 

みてな、またきてむかにける。

語句 意味
格助詞
詠み マ行四段活用動詞「詠む」連用形
接続助詞
なむ、 係助詞 ※結び:ける
また 副詞(もう一度)
行き カ行四段活用動詞「行く」連用形
接続助詞
迎へ ハ行下二段活用動詞「迎ふ」(迎える)
持て来 カ行変格活用動詞「持て来」(持ってくる)連用形
完了の助動詞「ぬ」連用形
ける。 過去の助動詞「けり」連体形【係り結び】

【訳】と詠んで、もう一度(山へ戻って)行って(おばを)迎え連れてきた。

 

直訳すると「持ってくる」となりますが、人に対してなので「連れてきた」と表現しました。

 

それよりのちなむ、姨捨山おばすてやまといける。

語句 意味
それ 代名詞
より 格助詞
名詞
なむ、 係助詞 ※結び:ける
姨捨山 名詞
格助詞
いひ ハ行四段活用動詞「いふ」連用形
ける。 過去の助動詞「けり」連体形【係り結び】

【訳】それより後、(この山を)姨捨山と言うようになった。

 

この話に出て来る山が、「姨捨山」と呼ばれるようになったのです。

 

なぐさがたしとは、これがよしになありける。

語句 意味
慰め難し ク活用の形容詞「慰め難し」(慰めがたい)終止形
格助詞
は、 係助詞
これ 代名詞
格助詞
よし 名詞(理由、いわれ)
断定の助動詞「なり」連用形
なむ 係助詞 ※結び:ける
あり ラ行変格活用動詞「あり」連用形
ける。 過去の助動詞「けり」連体形【係り結び】

【訳】慰め難いという時、(姨捨山を引き合いに出すのは、)このようないわれがあったのだ。

 

和歌で「姨捨山」や「慰め難し」という言葉が、同時に読まれることが多くありました。

【例】後拾遺和歌集

月見ては 誰の心ぞ なぐさまぬ 姨捨山の 麓ならねど
(月を見て、誰の心も慰められないことよ。ここは姨捨山のふもとではないけれども。)

大和物語の読者は、都に住む人が中心です。
地方のことは分からないので、このように理由を説明していると思われます。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は大和物語より「姨捨」を解説しました。
妻に言われるままに、長年世話をしてくれたおばを山に捨ててしまった男。
しかし、始めの気持ちを思い出し、おばを連れて戻るというお話でした。

連れて戻った後、嫁とも円満に暮らせているといいなと思いました。

この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

自分の生徒には直接伝えられるけど、
聞きたくても聞けない…などと困っている方にも届けたくて、ブログを始めました。

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