世間胸算用「蛸売りの八助①昔から今に~」現代語訳・解説

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『世間胸算用せけんむなざんよう』より「蛸たこ売りの八助はちすけ」について解説していきます。

まず初めに、『世間胸算用』についておさえましょう。

世間胸算用
成立: 江戸時代
作者: 井原西鶴
ジャンル: 浮世草子(当時の人々の生活、風習や感情についてありのままに描いた小説)
内容: 様々な商人の大晦日の過ごし方や、売り掛け代金の取り立てに関するやり取りなどが描かれている。

 

今回の内容をざっくり紹介すると、以下の通りです。

あらすじ

蛸売りを専門にしていた「蛸売りの八助」という人物のお話です。
八助は、堺から奈良まで行商に行くこと24、5年のベテラン。
しかし、大晦日には対してお金が残らず、正月に雑煮を食べるのがやっとの貧しい生活。
その理由として、八助の強欲非常な行動が挙げられています。

・母親に頼まれたお使いで手数料を取る
・「産婆を呼んできて」という緊急事態でも、茶漬けという報酬を得てからでないと行かない
・村の念仏講仲間に、晒を買ってきてと頼まれても手数料を取る

作者は「八助が貧乏なのは、強欲なせいで天罰が下ってんだわ」と言います。

それでは

・本文(読み仮名付き)
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説

を見ながら、詳しく内容を読んでいきましょう。

 

世間胸算用「蛸売りの八助①昔から今に~」現代語訳・解説

本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳

昔むかしから今いまに、同おなじ顔かおを見みるこそをおかしき世よの中なか、

昔から今まで、同じ人の顔を見るのがおかしな世の中だが、

語句 意味
昔 名詞
から 格助詞
今 名詞
に、 格助詞
同じ シク活用形容詞「同じ」連体形
顔 名詞
を 格助詞
見る マ行上一段活用動詞「見る」連体形
こそ 係助詞
をかしき シク活用形容詞「をかし」(おかしい、面白い)
世 名詞
の 格助詞
中、 名詞

「をかし」の意味が違っていませんか?

そうなんです。

江戸時代になると、「をかし」は平安時代のような「風情がある、趣がある」といった意味ではなくなります。
現代に近い「おかしい、面白い」という滑稽さを表すようになるのです。

 

この二十四にじゅうし、五ご年ねんも、奈良なら通かよひいする魚屋さかなやありけるが、

ここ24、5年も、奈良に通い売りをする魚屋があったが、

語句 意味
こ 代名詞
の 格助詞
二十四、五年 名詞
も、 係助詞
奈良 名詞
通ひ 名詞(ここでは「行商、通い売り」と解釈)
する サ行変格活用動詞「す」連体形
魚屋 名詞
あり ラ行変格活用動詞「あり」連用形
ける 過去の助動詞「けり」連体形
が、 接続助詞

 

この人は大阪にある堺から、奈良へ行商へ行っていたようですね。

 

行ゆく度たびにただ一色ひといろに極きわめて、蛸たこよりほかに売うることなし。

行くたびにただ一種類に決めて、蛸以外ほかに売ることはない。

語句 意味
行く カ行四段活用動詞「行く」連体形
度 名詞
に 格助詞
ただ 副詞(たった)
一色 名詞(一種類)
に 格助詞
極め マ行下二段活用動詞「極む」(決める)連用形
て、 接続助詞
蛸 名詞(たこ)
より 格助詞(~以外)
ほか 名詞
に 格助詞
売る ラ行四段活用動詞「売る」連体形
こと 名詞
なし。 ク活用形容詞「なし」終止形

 

後のちには人ひとも、「蛸たこ売うりの八助はちすけ」とて、見み知しらぬ人ひともなく、

後には人も、「蛸売りの八助」と呼んで、見知らない人もなく、

語句 意味
後 名詞
に 格助詞
は 係助詞
人 名詞
も、 係助詞
「蛸売りの八助」 名詞
とて、 格助詞
見知ら ラ行四段活用動詞「見知る」(見てよく知っている)未然形
ぬ 打消の助動詞「ず」連体形
人 名詞
も 係助詞
なく、 ク活用形容詞「なし」連用形

 

八助さん、かなりの有名人のようですね。

 

それそれに商あきなひいの道みち付つきて、ゆるりと三人口さんにんぐちを過すぎける。

いくつかの得意先ができて、ゆったりと家族三人暮らしていけた。

語句 意味
それそれ 代名詞(これこれ、しかじか)
に 格助詞
商ひ 名詞(取引)
の 格助詞
道 名詞
付き カ行四段活用動詞「付く」連用形
て、 接続助詞
ゆるり 副詞(ゆったり)
と 格助詞
三人口 名詞(一家三人の暮らし)
を 格助詞
過ぎ ガ行上二段活用動詞「生活する、暮らす」
ける。 過去の助動詞「けり」連体形

 

ここは良く分からない表現が多いです。

細かく見ていきましょう。

「それそれに」は「あちらこちら」というニュアンスで捉えました。
「商ひの道」は「取引先、得意先」と解釈しています。

それが「付く」とは「お得意さんができる」ということですね。

「三人口を過ぎける」とは、「家族三人が暮らしていけた」ということです。

ちなみに係り結びでもないのに、文末が「ける」なのはなぜなのでしょうか?

はっきりとしたことは言えませんが、この後にも係り結びではない場所で文末が「ける」になっている部分があります。
この時代になると、これまで読んできた平安時代の表現とは異なる部分があるようです。
ここでは、普通に過去の表現として「~した」と訳しました。

なるほど…
八助はしっかり稼いでいるようですね。
だいぶ生活には余裕があったのでしょうか?

それが、そうでもないようですね。
続きを読んでいきましょう。

 

されども大晦日おおつごもりに、銭ぜに五百ごひゃく持もつてつひいに年としを取とりたることなし。

しかし大晦日に、銭500文を持って年を越したことはまだ一度もない。

語句 意味
されども 接続詞(そうであるけれども、しかし)
大晦日 名詞
に、 格助詞
銭五百 名詞(五百文のお金)
持つ タ行四段活用動詞「持つ」連用形「持ち」の促音便
て 接続助詞
つひに 副詞+打消「なし」を伴って(まだ一度も~ない)
年 名詞
を 格助詞
取り ラ行四段活用動詞「取る」連用形
たる 完了の助動詞「たり」連体形
こと 名詞
なし。 ク活用形容詞「なし」終止形
当時の物価は、かけ蕎麦がおよそ16文、米一升が150文、酒一升が200文

「年を取りたる」とありますが、ここでは「年を越す」と訳しました。

 

口くち食くうて一杯いっぱいに、雑煮ぞうに祝いおうた分ぶんなり。

食べるだけで精一杯で、(正月には)雑煮で祝う程度である。

語句 意味
口 名詞
食う ハ行四段活用動詞「食ふ」連用形「食ひ」のウ音便
て 接続助詞
一杯 名詞(ギリギリの限度)
に、 接続助詞
雑煮 名詞
祝う ハ行四段活用動詞「祝ふ」連用形
た 完了の助動詞「た※特殊型」
分 名詞(程度)
なり。 断定の助動詞「なり」終止形

 

特別に裕福な生活をしている、というわけではないようですね。

 

この男おとこ、つねづね世よ渡わたりに油断ゆだんせず、

この男は、普段から世渡りを怠らず、

語句 意味
こ 代名詞
の 格助詞
男、 名詞
つねづね 名詞(ふだん、いつも)
世渡り 名詞
に 格助詞
油断せ サ行四段活用動詞「油断す」(注意を怠る)未然形
ず、 打消の助動詞「ず」連用形

 

「世渡り」とは、人と付き合いながら、社会の中で生活していくことを言います。

 

一人ひとりある母親ははおやの頼たのまれて、火桶ひおけ買こうて来くるにも、

たった一人の母親が頼みなさって、手あぶり火鉢を買って来ることにも、

語句 意味
一人 名詞
ある ラ行変格活用動詞「あり」連体形
母親 名詞
の 格助詞
頼ま マ行四段活用動詞「頼む」
れ 尊敬の助動詞「る」連用形 作者→母親への敬意
て、 接続助詞
火桶 名詞(手あぶり火鉢のこと。手を温めるための道具)
買う ハ行四段活用動詞「買ふ」連用形「買ひ」のウ音便
て 接続助詞
来る カ行変格活用動詞「来」連体形
に 格助詞
も、 係助詞

 

はや間銭あいせん取とりてただは通とおさず。

いやはや手数料を取ってただでは通さない。

語句 意味
はや 感動詞(いやはや…呆れるなどの感情の時に発する)
間銭 名詞(手数料)
取り ラ行四段活用動詞「取る」連用形
て 接続助詞
ただ 名詞
は 係助詞
通さ サ行四段活用動詞「通す」未然形
ず。 打消の助動詞「ず」終止形

 

「ただでは通さず」は文字通り「ただ=無料では通さない」と言うことです。

母親の頼みですら、お金を取らないとやってあげないという徹底っぷりだったのですね。

 

まして他人たにんのことには、取とり上あげ婆ばば呼よんで来きてやる険けわしき時ときも、

言うまでもなく他人の言うことでは、産婆を呼んできてやるという慌ただしい時でも、

語句 意味
まして 副詞(言うまでもなく)
他人 名詞
の 格助詞
こと 名詞
に 格助詞
は、 係助詞
取り上げ婆 名詞(助産師、産婆)
呼ん バ行四段活用動詞「呼ぶ」連用形「呼び」の撥音便
で 接続助詞
来キ カ行変格活用動詞「来ク」連用形
て 接続助詞
やる ラ行四段活用動詞「やる」連体形
険しき シク活用形容詞「険し」(慌ただしい)連体形
時 名詞
も、 係助詞

 

茶漬ちゃづけ飯めしを食くはわずには行ゆかぬものなり。

茶漬け飯を食わないでは行かないものである。

語句 意味
茶漬け飯 名詞
を 格助詞
食は ハ行四段活用動詞「食ふ」未然形
ず 打消の助動詞「ず」連用形
に 格助詞
は、 係助詞
行か カ行四段活用動詞「行く」未然形
ぬ 打消の助動詞「ず」連体形
もの 名詞
なり。 断定の助動詞「なり」終止形

 

なんと、キッチリというか…がめつい人なんですね。

 

いかに欲よくの世よに住すめばとて、念仏講ねんぶつこう仲間なかまの布ぬのに利りを取とるなどは、

どんなに欲の世の中に住むとしても、念仏講仲間の布(を買ってくる時)に利益を(上乗せしてお金を)取るなどというのは、

語句 意味
いかに 副詞(どんなに~だとしても)
欲 名詞
の 格助詞
世 名詞
に 格助詞
住め マ行四段活用動詞「住む」已然形
ば 接続助詞
とて、 格助詞
念仏講仲間 名詞(念仏をする仲間)
の 格助詞
布 名詞(ここでは白装束などに使う奈良晒を指す)
に 格助詞
利 名詞(利益)
を 格助詞
取る ラ行四段活用動詞「取る」(得る)連体形
など 副助詞
は、 係助詞

「欲の世」とは、利益を得ようとする欲望で動いている世の中という意味合いでしょう。

 

【念仏講】
仏教の教えに基づいて念仏を唱えて往生を願う集まり。
江戸時代では、共同体のつながりを深めるための集まりの意味も強まり、広く普及した。

 

八助が奈良に行商のついでに、村の人に頼まれた奈良晒に利益を上乗せしてお金を取っていたということです。

 

まことに死ねがな目めくじろの男おとこなり。

本当に強欲非道の男である。

語句 意味
まことに 副詞(まったく、本当に)
死ね ナ行変格活用動詞「死ぬ」命令形
がな 願望の終助詞(~くれればなあ)
目 名詞
くじろ ラ行四段活用動詞「くじる」(えぐり取る)
の 格助詞
男 名詞
なり。 断定の助動詞「なり」終止形

 

「死ねがな目くじろ」は「死んでくれればなあ、目をえぐり取ってやろう」という意味です。
これは強欲非道な心を表す慣用表現となっています。

 

これほどにしてもあのざまなれば、天てんのとがめの道理どうりぞかし。

これほどに(強欲なことを)していてもあのざまなので、天罰(が下るの)はのもっともなことだよ。

語句 意味
これ 代名詞
ほど 名詞
に 格助詞
し サ行変格活用動詞「す」連用形
て 接続助詞
も 係助詞
あ 代名詞
の 格助詞
ざま 名詞(「様子」を罵っていう表現)
なれ 断定の助動詞「なり」已然形
ば、 接続助詞
天 名詞
の 格助詞
とがめ 名詞(非難)
※天のとがめ…天罰
の 格助詞
道理 名詞(もっともなこと)
ぞ 係助詞
かし。 終助詞(~よ)

 

Q.「あのざま」とは、どのようなことを指している?

A.八助が大晦日に五百文も持たず、食べるだけで精一杯。
正月には雑煮を食べる程度の貧しい生活をしていることを指す。

→小銭を得ることに一生懸命だが、それが強欲非道の行為であるから「天のとがめ」が下されて、貧しいありさまとなっている

 

そもそも奈良ならに通かよふう時ときより今いまに、蛸たこの足あしは日本国にほんごくが八本はちほんに極きわまりたるものを、

そもそも奈良に通い始めた時から今に至るまで、蛸の足は日本国では8本と決まっているのに、

語句 意味
そもそも 接続詞
奈良 名詞
に 格助詞
通ふ ハ行四段活用動詞「通ふ」連体形
時 名詞
より 格助詞
今 名詞
に、 格助詞
蛸 名詞
の 格助詞
足 名詞
は 係助詞
日本国 名詞
が 格助詞
八本 名詞
に 格助詞
極まり ラ行四段活用動詞「極まる」(決まる)連用形
たる 存続の助動詞「たり」連体形
ものを、 接続助詞【逆接確定条件】~のに

 

一本いっぽんづつ切きりて、足あし七本しちほんにして売うれども、誰たれかこれに気きのつかぬことにて売うりける。

1本ずつ切って、足を7本にして売ったが、誰もこれに気が付かないのため(足を7本にした蛸を)売っていた。

語句 意味
一本 名詞
づつ 接尾語(~ずつ)
切り ラ行四段活用動詞「切る」連用形
て、 接続助詞
足七本 名詞
に 格助詞
し サ行変格活用動詞「す」連用形
て 接続助詞
売れ ラ行四段活用動詞「売る」已然形
ども、 接続助詞
誰 代名詞
か 副助詞
これ 代名詞(このこと)
に 格助詞
気 名詞(気持ち、心)
の 格助詞
つか カ行四段活用動詞「つく」未然形
ぬ 打消の助動詞「ず」連体形
こと 名詞
に 格助詞
て 接続助詞
売り ラ行四段活用動詞「売る」連用形
ける。 過去の助動詞「けり」連体形

ここでもまた文末が「ける」になっていますが、係り結びですか?

先ほどもありましたね。
また世間胸算用の他の話にも、「金子十両包みて、上書きに『貧病の妙薬、金用丸、よろづによし。』と記して、内儀のかたへおくられける。」という表現がありました。

これも係り結びなどなく、しれっと連体形が使われていますね。

ここでは「誰か」の「か」を係助詞として係り結びかと解釈しようと思いましたが、疑問や反語の意味ではしっくりこなかったので、通常の過去の助動詞として訳をしました。

こういうわけの分からない事が出てくるから、古文が嫌いになるんですよね~

 

その足あしばかりを、松原まつばらの煮売屋にうりやに定さだまつて買ふう者ものあり。

その(切った)足だけを、松原の煮売屋で決まって買う人がいる。

語句 意味
そ 代名詞
の 格助詞
足 名詞
ばかり 副助詞(~だけ)
を、 格助詞
松原 名詞(地名。現在の大阪府松原市。八助が堺から奈良へ向かう途中にある地域)
の 格助詞
煮売屋 名詞(現代の惣菜屋のようなもの。焼き魚などを売る焼売屋に対して、煮物を売る)
に 格助詞
定まつ ラ行四段活用動詞「定まる」(決まる)連用形「定まり」の促音便
て 接続助詞
買ふ ハ行四段活用動詞「買ふ」連体形
者 名詞
あり。 ラ行変格活用動詞「あり」終止形

 

さりとはおそろしの人心ひとごころぞかし。

本当にまあ恐ろしい人心だよ。

語句 意味
さりとは 接続詞(本当に、まあ)
おそろし シク活用形容詞「おそろし」終止形
の 格助詞
人心 名詞(人間の気持ち)
ぞ 係助詞
かし。 終助詞(~よ)

「おそろしの人心」という表現がしっくりきません…

そうですね、通常の古文の表現であれば「おそろしき人心」と連体形が用いられるのが普通ですね。
ここでは「優しい人」と同様に捉えましょう。
映画のタイトルにも「おそろしの森」という表現がありました。
江戸時代の文章は、これまでやってきた平安時代の古文の表現とは異なる部分もあるようですね。

 

Q.何が「おそろしの人心」なのか?

A.八助が不正をして商売をしていること、それを知りながら煮売屋は、切り取った足を仕入れているということ

→自分の儲けのために、人をだますようなことをしている八助と、それを知りながら自分の利益のために仕入れをしている煮売屋を「おそろし」としている。

 

お金を稼ぐことに熱心な八助。
しかし、人への思いやりを欠いた行動を作者は「強欲」と言っています。
客をだますような商売をしている八助ですが、このあとどうなるのでしょうか?

 

続き:ものには七十五度とて~

この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

自分の生徒には直接伝えられるけど、
聞きたくても聞けない…などと困っている方にも届けたくて、ブログを始めました。

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