世間胸算用「蛸売りの八助②ものには七十五度とて～」現代語訳・解説

『世間胸算用』より「蛸売りの八助」について解説していきます。
今回は、後半部分を解説します。

今回の内容をざっくり紹介すると、以下の通りです。

あらすじ

前回に引き続き、「蛸売りの八助」という人物のお話です。
強欲非道なせいで、裕福にはなれないと言われていた八助。

とは言え、バレないのをいいことにお客をだますような商売を続けていました。
なんと、大晦日の忙しさに紛れて、蛸の足をいつもより多く二本切り落すということまでし始めます。
これが、ついにバレる時がきます。
碁を打っていた「法体したる親仁」に、蛸の足が足りないことを指摘されます。

親仁「かわいそうに…、奈良中の者がコイツに騙されたんだな。お前の顔は覚えたからな！」

八助「おめえみたいな、大晦日にのんびり碁を打ってるやつなんかに蛸売らねえから！」

というやり取りをして、帰った八助。
しかしこの噂はあっという間に広まり、八助は「足切り八助」として有名になってってしまいました。
そうして、生活が立ち行かなくなってしまったのでした…

それでは

を見ながら、詳しく内容を読んでいきましょう。

世間胸算用「蛸売りの八助②ものには七十五度とて～」品詞分解・現代語訳・解説

本文・品詞分解（語句解説）・現代語訳

これまでのお話：昔から今に～

ものには七十五しちじゅうご度どとて、必かならず顕あらわるる時節じせつあり。

ものには七十五度と言って、必ず（悪事は）明らかになる時がある。

「ものには七十五度」と言うのは、物事には限度があるということを表す慣用句です。
「人の噂も七十五日」ということわざもあるように、「七十五」には一つの区切りを表す意味があるようです。

ここでは八助のよう不正を繰り返していると、必ず明らかになる時が来ると言っています。

過すぎつる年としの暮くれに、足あし二に本ほんづつ切きりて六本ろっぽんにして、忙いそがしまぎれに売うりけるに、

昨年末に、足を二本ずつ切って六本にして、（年末の）忙しさに紛れて売ったところ、

 「過ぎつる年の暮れ」は直訳すると「経過した年の年末」となるので、ここでは「昨年末」と表現しました。

「忙しまぎれに売りける」とは、忙しすぎて間違えて足を二本ずつ切り落としてしまったということですか？

そうではないでしょう。
みんなバタバタしてるからバレないだろうと高をくくって、いつもより多めに切り落とすという不正を働いたということを言っています。

これも詮索せんさくする人ひとなく、売うつて通とおりけるに、

これも細かく調べる人もなく、売って歩いたところ、

手貝てがいの町まちの中なかほどに、表おもてに菱垣ひしがきしたる内うちより呼よび込こみ、

手貝町の中ほどで、表に菱垣を立てている家から（八助を）呼び込み、

蛸たこ二に杯はい売うつて出でる時とき、法体ほったいしたる親仁おやじぢろりと見みて、碁ごを打うちさして立たち出いで、

蛸二杯を売って（その家から）出る時、髪を剃った隠居オヤジが鋭く睨んで、碁を打っていた手を止めて出てきて、

「何なにとやら裾すその枯かれたる蛸たこ。」と、足あしの足たらぬを吟味ぎんみしだし、

「なんとなく足元の寂しい蛸だ。」と、（蛸の）足が足りないのを念入りに調べ始め、

「これはどこの海うみよりあがる蛸たこぞ。

「これはどこの海から揚がった蛸か。

足あし六ろっ本ぽんづつは、神代じんだいこの方かた、何なにの書しょにも見みえず。

足が６本ずつ（の蛸）というのは、神代以来、何の本書物にも見えない。

不憫ふびんや、今いままで奈良なら中じゅうの者ものが、一いっ杯ぱい食くうたであらろう。

気の毒だなあ、今まで奈良中の人が、（八助に）だまされのだろう。

「一杯食う」というのは「だまされる」という慣用句です。
ここでは蛸を「一杯、二杯」と数えることに掛けて言っています。

魚屋さかなや、顔かお見み知しつた。」と言いへえば、

魚屋、（お前の）顔は覚えたぞ。」と言ったので、

「こなたのやようなる、大晦日おおつごもりに碁ごを打うつてゐいる所ところでは売うらぬ。」と言いひい分ぶんしてぞ帰かえりける。

「この人のような、大晦日に碁を打っている所では売らない。」と悪態をついて帰った。

「売らぬ」の「ぬ」は、なぜ係り結びがあるわけでもないのに文末が連体形なのでしょうか？

これもまた、時代の流れで言い回しが変化したものですね。
打消の助動詞「ず」の連体形「ぬ」が、終止形の場所に来るようになったのです。
現代の「ない」に当たる表現ですね。
文末に来ているからと言って、「完了」の意味ではないことは、接続からも理解できますね。

それに対して「帰りける」の「ける」は、係助詞「ぞ」を受けての係り結びとなっていますね！

蛸の足を切っているという不正を見破られた八助は、法師に向かって捨て台詞を吐いて去っていきます。

ここでの「こなた」はもちろん「法体したる親仁」のことですね！

その後のち、誰たが沙汰さたするともなく世間せけんに知しれて、

その後、誰が噂するともなく世間に（このことが）知られて、

さるほどに狭せまい所ところは、隅すみから隅すみまで、「足あし切きり八助はちすけ」と言いひいふらして、

そうこうしているうちに狭い所では、隅から隅まで、「足切り八助」と言いふらして、

「狭い所」とは「奈良の町」を指します。

誰が噂を広めたというよりは、「狭い所だから、あっという間に奈良中に広まった」という感じですね。

一生いっしょうの身み過すぎの止とまること、これ、おのれが心こころからなり。

一生の暮らしが行き詰まることは、これも、自分自身の心によるものである。

「身過ぎの止まる」とは、直訳すると「暮らしの手立てが停止する」となります。
つまり「生活が立ち行かなくなる、暮らしが行き詰まる」と言うことです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は世間胸算用より「蛸売りの八助」を解説しました。
江戸時代の作品ということで、平安時代の古典作品よりも現代に近い言葉遣いが見られる作品でした。
普段よりも、少し読みやすい作品だったのではないでしょうか？

前半部分では、強欲非道な八助の様子が語られていました。

お金にがめつく、商売に関してもお客をだますようなことをして儲けを得ている割に裕福とは言えない生活だったのは、「天のとがめ」だと語られていました。

後半部分では、ついに八助の不正が「法体したる親仁」に見破られます。
指摘された八助は、「大晦日に碁を打ってるような所に、俺のタコ売ってやらないからー！」と捨て台詞を吐いて帰ります。

しかしこのことは、あっという間に世間に広まります。
商売をしていた奈良中にも広まり、生活に困るようになってしまったという結末でした。

みなさんはこのお話を読んで、どのように感じましたか？