今回は十八史略より「水魚之交(水魚の交はり)」について解説をしていきます。
「水魚の交わり」とは、なくてはならない仲間、友人をさす言葉です。
今回のお話は、三国志でも有名な劉備と諸葛亮との出会いの話です。
どういうことなのか、詳しい内容を見ていきましょう。
この記事では
・書き下し文(読み仮名付き)
・語句の意味/解説
・現代語訳
以上の内容を順番にお話していきます。
「水魚之交」書き下し文・現代語訳・解説

白文
① 琅琊諸葛亮、寓居襄陽隆中、毎自比管仲・楽毅。
② 備訪士於司馬徽。
③ 徽日、「識時務者、在俊傑。
④ 此間自有伏竜・鳳雛。
⑤ 諸葛孔明・龐士元也。」
⑥ 徐庶亦謂備日、「諸葛孔明臥竜也。」
⑦ 備三往乃得見亮、問策。
⑧ 亮日、「操擁百万之衆、挟天子令諸侯。
⑨ 此誠不可与争鋒。
⑩ 孫権拠有江東、国険而民附。
⑪ 可与為援、而不可図。
⑫ 荊州用武之国。
⑬ 益州険塞、沃野千里、天府之土。
⑭ 若跨有荊・益、保其巖阻、天下有変、
⑮ 荊州之軍向宛・洛、益州之衆出秦川、
⑯ 孰不箪食壺漿、以迎将軍乎。」
⑰ 備日、「善。」
⑱ 与亮情好日密。
⑲ 日、「孤之有孔明、猶魚之有水也。」
書き下し文(読み仮名付き)・語句解説・現代語訳
①琅琊の諸葛亮、襄陽の隆中に寓居し、毎に自ら管仲・楽毅に比す。
| 語句 | 意味/解説 |
| 琅琊 | 現在の山東省臨沂市の北部の地名。 |
| 諸葛亮 | 諸葛亮孔明。劉備に軍師として仕えることになる。 |
| 襄陽の隆中 | 現在の湖北省襄陽市を指す。 |
| 寓居 | 仮住まい |
| 毎に | 常に、事あるごとに |
| 自ら | 自分から |
| 比す | なぞらえる |
| 管仲 | 人名。春秋時代の斉の国の政治家。 |
| 楽毅 | 人名。燕の将軍。 |
【訳】琅琊の諸葛亮孔明は、襄陽の隆中に仮住まいをし、事あるごとに自分を管仲や楽毅になぞらえていた。

この部分は、諸葛亮の自己評価の部分です。
孔明は自分の才能を、管仲や楽毅になぞらえていました。

なぜこの二人なのでしょうか?

孔明は、斉の国の出身です。
管仲は、その斉での優秀な宰相。
楽毅は斉を攻めて追い込んだ名将だったので、孔明にとっては歴史上の英雄をあげることが自然だったと考えられます。

諸葛亮は、自分の能力に自信があったようですね。
②備士を司馬徽に訪ふ。
| 語句 | 意味/解説 |
| 備 | 人名。劉備のこと。 |
| 士 | 優れた人材 |
| 司馬徽 | 人名。襄陽の人。人を見る目があったとされている。 |
| 訪ふ | 尋ねる |
【訳】劉備は優れた人材について司馬徽に尋ねた。

この頃、劉備には関羽や張飛といった優れた武将がついていました。
しかし、武闘派だけではだめだと思ったのです。
曹操軍を倒して国を復興させるには、優れた軍師が必要だと考えました。

だから、司馬徽に「誰か良い人いない?」と聞いたと言うことですね。
③徽曰はく、「時務を識る者は、俊傑に在り。
| 語句 | 意味/解説 |
| 徽 | 司馬徽のこと |
| 時務 | その時局に為すべき事柄 |
| 識る | 深く理解する |
| 俊傑 | 普通の人より優れている |
【訳】司馬徽が言うことには、「その時局に為すべき事柄を深く理解する人は、普通の人より優れた人の中にいる。
④此の間自づから伏竜・鳳雛有り。
| 語句 | 意味/解説 |
| 此の間 | この辺り |
| 自づから | 自然と |
| 伏竜 | 伏して隠れている竜 |
| 鳳雛 | 鳳凰の雛 |
【訳】この辺り(襄陽周辺)には伏竜・鳳雛がいる。
⑤諸葛孔明・龐士元なり。」と。
| 語句 | 意味/解説 |
| 諸葛孔明 | 諸葛亮孔明のこと |
| 龐士元 | 人名。名は統、字は士元。司馬徽に優れた人物だと評価された。 |
【訳】諸葛亮孔明と龐士元である。」と。
⑥徐庶も亦備に謂イひて日はく、「諸葛孔明は臥竜なり。」と。
| 語句 | 意味/解説 |
| 徐庶 | 人名。字は元直。劉備に仕えていた。 |
| 亦 | 同じく |
| 謂ひて曰はく | (相手に)言う |
| 臥竜 | 勢いや能力を持ちながら横になって寝ている龍→優れた能力を持ちながら、世間に知られていない人物。 |
【訳】徐庶も同じく劉備に言うことには、「諸葛亮孔明は臥竜です。」と。

諸葛亮の客観的な評価が、ここからわかります。

諸葛亮は、世に知られる前から明主たちに注目されていたんですね。
⑦備三たび往きて乃ち亮を見るを得て、策を問ふ。
| 語句 | 意味/解説 |
| 往く | 行く |
| 乃ち | やっと |
| 見る | お目にかかる、会う |
| 得 | ~できる |
| 策 | 戦略(ここでは国を復興させるための方法) |
| 問ふ | 尋ねる、問う |
【訳】劉備は三度行ってやっと諸葛亮孔明に会うことができ、戦略を尋ねた。

これは、有名な三顧の礼の場面です。
劉備は孔明に会いに行ったものの、二度は不在でした。
三度目はなんと…昼寝中。
孔明は、劉備を何時間も待たせたのです。
劉備のお供の関羽や張飛はブチギレでしたが、劉備はそれをたしなめます。
劉備は、立場や身分に関係なく相手を敬い、礼を尽くしたのでした。

劉備の人柄と、それだけ優秀な軍師が欲しかったという劉備の思いがわかる出来事ですね。
⑧亮日はく、「操は百万の衆を擁し、天子を挟みて諸侯に令す。
| 語句 | 意味/解説 |
| 操 | 人名。曹操。魏の英雄。 |
| 衆 | 軍勢 |
| 擁す | 率いる |
| 天子 | 後漢の皇帝を指す |
| 挟む | 傀儡(あやつり人形)とする |
| 令す | 指示する、指図する |
【訳】諸葛亮孔明が言うことには、「曹操は百万の軍勢を率い、皇帝をあやつり人形のようにして諸侯に指図しています。

曹操は、当時幼かった皇帝を手元に置き、実権を握っていました。
⑨此れ誠に与に鋒を争ふべからず。
| 語句 | 意味/解説 |
| 誠に | 本当に |
| 与に | 一緒に~する |
| 鋒を争ふ | 刃を向けて争う |
| べからず | 【禁止】~してはいけない |
【訳】これは本当に一緒に刃を向けて争ってはいけません。

これは、どういうことを言っているのでしょうか?

「こんな相手と戦争してはいけません」と言っています。
勢力も大きく、皇帝を意のままにあやつる曹操と今戦うことに反対しているのです。

いつかは倒すべき相手だけど、今はその時ではないってことですね。
⑩孫権は江東を拠有し、国険にして民附く。
| 語句 | 意味/解説 |
| 孫権 | 人名。呉の初代皇帝となる人物。 |
| 江東 | 地名。長江下流の南側を指す。 |
| 拠有す | 占有する |
| 険にして | 険しい |
| 民 | 人々 |
| 附く | つき従う |
【訳】孫権は江東を占有し、その国は険しく、人々はつき従っています。

孫権については…
①江東は険しいところで攻め込みにくい
②民衆は孫権を信頼し、付け入る隙がない
と言っています。
⑪与に援を為すべくして、図るべからず。
| 語句 | 意味/解説 |
| 与に | 一緒に |
| 援 | 助ける |
| べし | ~してよい |
| 図る | ものにしようとする |
【訳】ともに助け合ってもよいが、ものにしようとしてはなりません。

「同盟を結んで、お互いに助け合う関係になるのはいいとしても、自分たちのものにしようとするのは良くない」と言っていますね。
敵対する相手ではなく、協調する相手であるという意味です。

じゃあどうすればいいのかが、この後に語られるのですね。
⑫荊州は武を用ゐるの国なり。
| 語句 | 意味/解説 |
| 荊州 | 長江の中流のあたり(中国の中央に位置する)。 現在の湖南省・湖北省にまたがる地域を指す。劉備と諸葛亮が対面している場所。 |
| 武 | 軍事、戦力 |
| 用ゐる | 使う、使用する |
【訳】荊州は戦力を使うのに適した国です。
⑬益州は険塞にして、沃野千里、天府の土なり。
| 語句 | 意味/解説 |
| 益州 | 現在の四川省一帯を指す |
| 険塞 | 険しく遮られた土地 |
| 沃野 | 肥沃(作物を作るのに適した養分や水などが十分にある状態であること)な土地 |
| 千里 | 「一里×1000倍」から転じて、とても長い距離を指す |
| 天府の土 | 土が肥えて作物がよくできる土地 |
【訳】益州は険しく遮られて場所で、よく肥えた土地がどこまでも広がっており、まさに天府の土地です。

「益州は地形が険しく天然の要塞のようであり、食べ物に困ることもない」という場所なのですね。

そうです。
また、益州はまだ曹操や孫権の手に渡っていないのが、ポイントです。
益州は後に、劉備が蜀を建国する地となります。
⑭若し荊・益を跨有し、其の巖阻を保ち、天下変有らば、
| 語句 | 意味/解説 |
| 若し~ば | もし~ならば |
| 荊・益 | 荊州と益州のこと |
| 跨有 | またがって所有する |
| 巖阻 | 険しい岩山 |
| 保つ | 維持する |
| 天下 | 国 |
| 変 | 急に起こる異常な事態(ここでは戦乱の世になること) |
【訳】もし荊州と益州をまたがって所有し、その険しい岩山を維持し、国が戦乱の世になったらならば、
⑮荊州の軍は宛・洛に向かひ、益州の衆は秦川に出づれば、
| 語句 | 意味/解説 |
| 宛・洛 | 宛県(現在の河南省南陽市)と洛陽を指す。曹操軍にとっての主要都市。 |
| 衆 | 大勢の人(ここでは軍衆=軍隊とした) |
| 秦川 | 現在の陝西省(特に長安)を指す |
【訳】荊州の軍は宛県と洛陽に向かい、益州の軍隊は秦川に出撃すれば、
⑯孰か箪食壺漿して、以つて将軍を迎へざらんや。」と。
| 語句 | 意味/解説 |
| 孰か~ざらんや | 【反語】誰が~しないことがあろうか。いや~する。 |
| 箪食壺漿 | 歓迎の意を表すこと(食べ物や飲み物を器に入れて用意すること) |
| 将軍 | 劉備を指す |
【訳】誰が食べ物や飲み物を用意して、将軍を迎えないことがあろうか、いや迎えます。」と。

これが、諸葛亮が劉備に伝えた策でした。
荊州と益州と領有し、その上で孫権と手を組むということです。
⑰備曰はく、「善し。」と。
| 語句 | 意味/解説 |
| 善し | 良い |
【訳】劉備が言うことには、「それは良い」と。
⑱亮と情好日に密なり。
| 語句 | 意味/解説 |
| 亮 | 人名。諸葛亮孔明のことを指す |
| 情好 | 仲の良さ |
| 日に密なり | 日ごとに親密である |
【訳】諸葛亮と(劉備の)仲の良さは日ごとに親密になっていった。
⑲曰はく、「孤の孔明有るは、猶ほ魚の水有るがごときなり。」と。
| 語句 | 意味/解説 |
| 孤 | 私。諸侯が、自分のことを謙遜して言う呼び方。ここでは劉備を指す。 |
| 猶ほ~ごとし | 【比況】ちょうど~と同じである。 |
【訳】言うことには、「自分に諸葛亮がいるのは、魚に水があるのと同じである。」と。

魚にとって水は、なくてはならないものです。
自分にとっての諸葛亮は、なくてはならないものだと言っています。
軍師を得た喜びと、優秀な諸葛亮を大切に思う気持ちが感じられる一文ですね。
まとめ

いかがでしたでしょうか。
諸葛亮が劉備に伝えた策は
- 曹操と孫権の手が及んでいない荊州・益州を領有すること
- その後孫権と手を結んで、打倒曹操を目指すこと
それによって、劉備の目指す国の復興が叶うというものでした。
三顧の礼の場面からは、礼を尽くす劉備の人柄も感じることができました。



コメント
ありがとうございます。友達が今回のテスト1位でした。
コメントありがとうございます。
多くの方の役に立つ内容となるよう、さらに精進いたします。