十八史略より「流涕斬馬謖(流涕して馬謖を斬る)」について見ていきます。
この記事では
・書き下し文(読み仮名付き)
・語句の意味/解説
・現代語訳
以上の内容について順番に説明していきます。
「流涕斬馬謖(流涕して馬謖を斬る)」現代語訳・解説
内容(白文・書き下し文・現代語訳・語句解説)
① 亮明年率大軍攻祁山。
亮明年大軍を率ゐて祁山を攻む。
語句 | 意味/解説 |
亮 | 人名。諸葛亮のこと。 |
明年 | 次の年。※建興6年(228年) |
大軍 | 多数の軍勢 |
祁山 | 甘粛省南東部の山のこと。魏の山。 |
【訳】諸葛亮は次の年大軍を率いて祁山を攻撃した。
諸葛亮は227年に北伐を決めます。
「北伐」とは南方から向かい、北方勢力と戦うことを言います。
蜀の国の軍隊は、北方にある魏を倒すために出陣したのです。
祁山は、諸葛亮が魏を攻めようとして六度失敗した場所でもあります。
② 戎陣整斉、号令明粛。
戎陣整斉にして、号令明粛なり。
語句 | 意味/解説 |
戎陣 | 戦陣。 |
整斉 | 整いそろっていること |
号令 | 命令 |
明粛 | 明らかで厳しいこと |
【訳】(諸葛亮の軍の)戦陣は整い揃っていて、命令は明らかで厳しい。
③ 始魏以昭烈既崩、数歳寂然無聞、略無所備。
始め魏昭烈既に崩じ、数歳寂然として聞こゆる無きを以つて、略ぼ備ふる所無し。
語句 | 意味/解説 |
始め | 当初 |
魏 | 国名 |
昭烈 | 人名。劉備のこと。 |
既に | 前に |
崩じ | 亡くなり |
数歳 | 数年 |
寂然として | ひっそりとして静か |
略ぼ | ほとんど |
~所無し | ~していない |
【訳】当初魏は劉備が前に亡くなり、数年ひっそりとして静かであって(戦争をするとか言うのを)聞くことが無かったので、ほとんど(戦争に)備えていなかった。
魏は「蜀は劉備がいるから脅威なのであって、彼の死後何も行動を起こしていない」として油断していました。
そんな蜀の諸葛亮から攻め込まれたと知って、魏の国全体がびっくりして慌てたということですね。
④ 猝聞亮出、朝野恐懼。
猝に亮の出づるを聞きて、朝野恐懼す。
語句 | 意味/解説 |
猝に | 突然 |
朝野 | 朝廷と民間 |
恐懼す | 恐れ畏まること |
【訳】突然諸葛亮が出陣したのを聞いて、(魏の国の)朝廷だけでなく(そこで生活する)民衆も恐れ畏まった。
⑤ 於是天水・安定等郡、皆応亮。
是に於いて天水・安定等の郡、皆亮に応ず。
語句 | 意味/解説 |
是に於いて | そこで |
天水 | 地名。現在の甘粛省定西市通渭県の西側 |
安定 | 地名。現在の甘粛省鎮原の南東 |
郡 | 県よりも大きなまとまりを言う |
応ず | 応じる、受け入れる |
【訳】そこで天水や安定などの郡は、皆諸葛亮を受け入れた。
ここで、位置関係を把握しておきましょう。
天水郡と安定郡、そして南安軍は、魏の国の祁山攻め込んできた蜀軍に対抗するのではなく、従うことにしたということです。
⑥ 関中響震。
関中響震す。
語句 | 意味/解説 |
関中 | 地名。函谷関と武関の内側。現在の陝西省西安市一体を指す。 |
響震す | 驚き騒ぐ |
【訳】関中は驚き騒いだ。
⑦ 魏主如長安、遣張郃拒之。
魏主長安に如き、張郃をして之を拒がしむ。
語句 | 意味/解説 |
魏主 | 人名。ここでは曹魏二代目皇帝の曹叡を指す |
長安 | 地名。 |
如き | 行く |
張郃 | 人名。魏の武将。呉に備えていたが、曹叡に呼び戻された。 |
之 | 諸葛亮の軍勢 |
拒ぐ | 防ぐ、守る |
AをしてBしむ | 【使役】AにBさせる |
【訳】魏主である曹叡は長安に行き、張郃にこれを防がせた。
⑧ 亮使馬謖督諸軍、戦于街亭。
亮馬謖をして諸軍を督し、街亭に戦はしむ。
語句 | 意味/解説 |
AをしてBしむ | 【使役】AにBさせる |
諸軍 | 多くの軍勢 |
督す | 率いる |
(于) | 【置き字】場所を表す |
街亭 | 地名。現在の甘粛省天水市の北部を指す。 |
【訳】諸葛亮は馬謖に多くの軍勢を率い、街亭で戦わせた。
⑨ 謖違亮節度。
謖亮の節度に違ふ。
語句 | 意味/解説 |
謖 | 人名。馬謖のこと。 |
節度 | 指示 |
違ふ | 背く |
【訳】馬謖は諸葛亮の指示に背いた。
⑩ 郃大破之。
郃大いに之を破る。
語句 | 意味/解説 |
郃 | 人名。張郃のこと。 |
大いに | 非常に、とても |
之 | 馬謖の率いる軍勢 |
破る | 打ち破る |
【訳】張郃は馬謖軍を思い切り打ちのめした。
何があったのでしょうか?
どうやら馬謖は手柄欲しさに、独断で張郃軍と戦ったようです。
その土地に詳しくないにも関わらず、部下の進言も聞き入れず無茶な戦い方をして大敗してしまいました。
その土地を知り尽くしたベテラン武将の張郃が相手に、完全な勇み足でしたね。
⑪ 亮乃還漢中。
亮乃ち漢中に還る。
語句 | 意味/解説 |
乃ち | そこで(なんと) |
漢中 | 現在の陝西省漢中市。蜀の国。 |
還る | 戻る |
【訳】そこで諸葛亮は漢中に戻った。
⑫ 亮為政無私。
亮政を為すに私無し。
語句 | 意味/解説 |
政を為す | 政治を行う |
私 | 私情 |
【訳】諸葛亮は政治を行うにあたり私情をはさむことはなかった。
⑬ 馬謖素為亮所知。
馬謖素より亮の知る所と為る。
語句 | 意味/解説 |
素より | はじめから |
知る | 目をかける、才能を認める |
AのBする所と為る | 【受身】AにBされる |
【訳】馬謖ははじめから諸葛亮に目をかけられていた。
⑭ 及敗軍流涕斬之。
敗軍に及びて流涕して之を斬る。
語句 | 意味/解説 |
敗軍 | 戦いに負けること |
流涕して | 涙を流して泣く |
之 | 馬謖のことを指す |
斬る | 処刑する |
【訳】戦いに敗れたことに対して(諸葛亮は)涙を流して泣き馬謖を処刑した。
⑮ 而卹其後。
而して其の後を卹む。
語句 | 意味/解説 |
而して | そうして |
其の後 | 馬謖を処刑した後 |
卹む | 気の毒に思う、情けをかける |
【訳】そうしてその後(残された馬謖の子どもを)気の毒に思い面倒を見た。
どういうことでしょうか?
諸葛亮は、失態を犯した馬謖を処刑しました。
しかし残された馬謖の子どものことは、馬謖が生きていたときと同じような待遇で面倒を見たのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
十八史略から「流涕斬馬謖(流涕して馬謖を斬る)」の解説をしました。
「泣いて馬謖を斬る」という言葉のもととなるお話でした。
意味は、「規律を保つために個人的な感情は入れずに、違反をした者は処罰をする」です。
諸葛亮にとって馬謖は、可愛がっていた部下でした。
しかし独断で行動し、敗北の原因となった罪は重いと判断しました。
軍の統率のためにも、諸葛亮は泣く泣く馬謖を処刑するしかなかったのです。
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