「人之性悪(人の性は悪なり)」現代語訳・解説・ひらがなで読み方付 – 悪とはどういうことなのか?

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今回は荀子じゅんしの「人之性悪(人の性は悪なり)」について解説していきたいと思います。
「人の性は悪なり」とはどういう意味なのでしょうか?
「人の性は悪なり」とは「人の本性は悪である」と訳します。
一体どういう意味なのでしょうか?
人は生まれながらにして悪人なのか?
悪だからどうすることもできないのでしょうか?
荀子がこのように考えるようになった時代背景についても触れていきたいと思います。

「人之性悪(人の性は悪なり)」現代語訳・解説

それでは早速「人之性悪(人の性は悪なり)」について見ていきましょう。
荀子の言う「悪」とは何を指しているのか、考えてみてください。

内容(白文・書き下し文・現代語訳・解説)

では続いて書き下し文と現代語訳、その解説をしていきますね。

白文

書き下し文(漢字の読み方は現代仮名遣いで表記)

現代語訳
※青…単語
※赤…指示語

人之性悪、其善者偽也。

ひとせいあくなり、ぜんなるものなり。

人間の本性は悪であり、それが善であるものは後天的に作られたものである。

※性…本性、生まれながらの性質
※偽…作為、後天的に作られたもの

いきなり「人間の本性は悪」で「善の人は作られたもの」っていう、意味が分かりません。

現代語訳だけを見ると分かりづらいかもしれませんね。

当時は戦国時代で乱世でした。

なぜ人は争うのか、争いをやめさせ、乱世を治めるにはどのようにすればいいのか?と多くの人が考えた時代なのです。

そんな中で荀子は人が争ってしまうのは本来の性質によるものとした上で、学ぶことでその性質をおさえることができると言ったのがこの一文の意味になります。

なるほど…
その本来の性質というのが、このあと挙げられることなんですね。

そうです。
1つずつ見ていきましょう。

今人之性、生而有好利焉。

いまひとせいは、まれながらにしてこのり。

今、人の本性は生まれつき利益を好む(心)がある。

※利…利益
※焉…置き字(断定)

順是、故争奪生而辞譲亡焉。

これしたがふ、ゆえ争奪そうだつしょうじて辞譲じじょうほろぶ。

この本性のままに行動する、そのため争いや奪い合いが起こって、相手を敬い自分を控えめにして人に譲る心がなくなってしまうのだ。

※之…「好利(利を好む)」心を指す
※故に…そのため
※争奪…争って奪い合うこと
※辞譲…相手を敬い、自分を控えめにして譲ること
※亡ぶ…なくなる
※而…置き字(順接)
※焉…置き字(断定)

生而有疾悪焉。

まれながらにして疾悪しつおり。

(また人の本性には)生まれつき他人をねたみ憎む心がある。

※疾悪…人を嫉み憎む心

順是、故残賊生而忠信亡焉。

これしたがふ、ゆえ残賊ざんぞくしょうじて忠信ちゅうしんほろぶ。

この本性のままに行動する、そのため人を傷つける心が生じて真心と誠実さがなくなってしまうのでだ。

※是…疾悪
※残賊…人を傷つける心
※忠信…真心と誠実さ

生而有耳目之欲、有好声色焉。

まれながらにして耳目じもくよく有り、声色せいしょくこのり。

(また人間の本性には)生まれつき聞きたい、見たいという欲望があり、音楽と美人を好む性質がある。

※耳目の欲…聞きたい、見たいという欲望
※声色…音楽と女性の魅力(ここでは「美人」として訳)

順是、故淫乱生而礼義文理亡焉。

これしたがふ、ゆえ淫乱いんらんしょうじて礼義れいぎ文理ぶんりほろぶ。

この本性のままに行動するため、みだらな心が生じて、社会の規範や作法、物事の秩序がなくなってしまうのだ。

※是…耳目の欲
※淫乱…みだらな心
※礼儀…社会の規範や作法
※文理…物事の秩序

本性として挙げられたのは

  • 利を好む(利益を好む心)
  • 疾悪しつお(他人をねたみ憎む心)
  • 声色せいしょくを好む(歌舞音曲と美人を好む性質)

これらのままに行動すると社会の秩序が世が乱れてしまうと言っています。

然則従人之性、順人之情、必出於争奪、合於犯文乱理而帰於暴。

しからばすなわひとせいしたがひ、ひとじょうしたがはば、かなら争奪そうだつで、犯文はんぶん乱理らんりがっしてぼうす。

そうであるならば人間の本性に従い、人間の感情のままに行動すれば、必ず争いや奪い合いが生まれ、秩序や道理を乱し、混乱状態に陥るという結果になる。

※然らば則ち…そうであるならば
※情…感情
※順…力のままに行動する
※出で…~という状態が生まれる
※犯文乱理…秩序や道理を乱すこと
※合して…いくつかのものが1つになる(ここでは争いや奪い合いが生まれ、犯文乱理が起きることで「暴に帰す」という1つの結果になるという意味で解釈)
※暴に帰す…混乱状態に陥る

故必将有師法之化、礼義之道、然後出於辞譲、合於文理而帰於治。

ゆえかならまさ師法しほう礼義れいぎみちびりて、しかのち辞譲じじょうで、文理ぶんりがっしてせんとす。

だから必ず規範による教えと、社会の規範や作法による指導があって、そうしてから人に譲る心が生まれ、物事の秩序にかなうようになり、最後には世の中がよく治まることになる。

※将…【再読文字】将ニ~セントす(これから~しようとする、今にも~しそうだ)
※師法の化…正しい導き手(先生)による規範の感化
※道き…指導
※然る後…そうしてから、そのようにした後(師法の化と礼義の道きを受けた後を指す)
※合して…
※治…世の中がよく治まること
※帰せ…最後にはそうなる、(あるところに)落ち着く

ここの現代語訳は少し複雑ですね。
再読文字「将」に苦戦した方もいるのでは?
下記のように解釈して現代語訳をすることをオススメします。

必将かならずと読むのが一般的
必将(必ず〇〇が先にあって、後から△△する)
ここでは「必ず〇〇があって、そうしてから△△する」と訳

用此観之、然則人之性悪明矣。

これつてこれれば、しからばすなわひとせいあくなることあきらかなり。

以上の点から考えると、そうであるならば人間の本性が悪であることは明白である。

※此を用つて之を観れば…以上の点から考えると

「用此観之」は結論を述べる時の決まり文句です。

※明らか…明白だ

其善者偽也。

ぜんなるものなり。

それが善であるということは人のしわざである。

※其…「生まれながらにして」(生まれた時の状態)を指す
※者…もの、こと、人(ここでは「こと」と訳)
※偽…人のしわざ、人為

「偽」という文字や意味から考えると、良くない作為的な感じがしますね。
しかしここでは、師による教育と本人の努力ということを指して「人のしわざ」と言っています。

本文の説明は以上になります。
結局のところ、作者である荀子にとっての「悪」と「善」はどういうことだったのでしょうか?

荀子にとっての善悪とは?

荀子にとっての善悪について、まとめておきましょう。

1.「悪」とは?
欲望に弱い者のこと

2. 欲望とは…
・利を好む(利益を好む心)
・疾悪(他人をねたみ憎む心)
・声色を好む(歌舞音曲と美人を好む性質)
など
2. 「善」になるには?
・師法の化

・礼義の道き
が必要であるとし、

その教えに従って努力をすることが大切

以前、孟子の「不忍人之心」では人は生まれながらにして善であり、それに向かう心があるというお話をしました。

まとめ

いかがでしたでしょうか?
今回は荀子の「人之性悪(人の性は悪なり)」について、解説をしました。
人間の本性には
・利益を好む心
・人をねたみ憎む心
・歌舞音曲と美人を好む性質
があるとし、「どうしてもそんな気持ちになることあるよね~」という人間の状態を指して「悪」と言っています。

その性質のままに皆が行動すれば、世の中は混乱して治まりません。
しかし、学び、努力することで悪の性質をコントロールし、善となれると言うのが荀子の唱えた「性悪説」の考え方でした。

孟子の性善説の話と比較して読むと、面白いのでオススメです。

この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

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コメント

  1. 痴れ者 より:

    >必将
    >必将(かならず)と読むのが一般的

    「必ず将に〜す」と訓読してしまうと、意訳せざるをえなくなるんですよね。
    「いまにも〜しようとする」のようには訳せない。

    • あずき あずき より:

      コメントありがとうございます。
      今回は使用している教科書の内容に準じて、「必ず将に~す」と訓読しました。
      今後ともよろしくお願いいたします。

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