史記より「澠池之会(澠池の会)②秦王飲酒酣にして~」について解説をしていきます。
秦王からの誘いを受け、ためらう趙王を説得した廉頗と藺相如。
藺相如は趙王に同行して澠池へ行き、廉頗は趙に残り何かあった時に趙を守ることにしたのでした。
今回は澠池に到着し、秦王とのやりとりについて語られています。
この記事では
・書き下し文(読み仮名付き)
・語句の意味/解説
・現代語訳
以上の内容を順番にお話していきます。
「澠池之会(澠池の会)②秦王飲酒酣にして~」書き下し文・現代語訳・解説
白文
①秦王飲酒酣曰、
②「寡人窃聞、趙王好音。
③請奏瑟。」
④趙王鼓瑟。
⑤秦御史前書曰、
⑥「某年月日、秦王与趙王会飲、令趙王鼓瑟。」
⑦藺相如前曰、
⑧「趙王窃聞、秦王善為秦声。
⑨請奉盆缻秦王、以相娯楽。」
⑩秦王怒不許。
⑪於是相如前進缻、因跪請秦王。
⑫秦王不肯撃缻。
⑬相如曰、「五歩之内、相如請得以頸血濺大王矣。」
⑭左右欲刃相如。
⑮相如張目叱之。
⑯左右皆靡。
⑰於是秦王不懌、為一撃缻。
⑱相如顧召趙御史、書曰、
⑲「某年月日、秦王為趙王撃缻。」
⑳秦之群臣曰、「請以趙十五城為秦王寿。」
㉑藺相如亦曰「請以秦之咸陽為趙王寿。」
㉒秦王竟酒、終不能加勝於趙。
㉓趙亦盛設兵以待秦。
㉔秦不敢動。
書き下し文(読み仮名付き)・語句解説・現代語訳
①秦王飲酒酣にして曰はく、
語句 | 意味 |
酣 | 真っ盛り。たけなわ。 |
【訳】秦王は酒を飲み酒宴がたけなわになると言った、
②「寡人窃かに聞く、趙王音を好むと。
語句 | 意味 |
寡人 | 私(自分をへりくだって言う表現) |
窃かに | ひそかに、こっそり |
音 | 音楽 |
【訳】「私は趙王が音楽がお好きだと耳にしました。
「窃かに」の訳し方がよくわかりません。
「窃かなり」はひそかに、こっそりという意味があります。
ここでは「なんとなく聞いたことがある」という感じで訳をしました。
誰かがこっそり教えてくれたんだけど…という感じですかね。
③請ふ瑟を奏せよ。」と。
語句 | 意味 |
請ふ | 【相手への願望】どうか~してほしい |
瑟 | 大琴 |
奏せよ | 演奏しなさい |
【訳】どうか瑟を演奏してください。
④趙王瑟を鼓す。
語句 | 意味 |
鼓す | (楽器などを)かきならす、弾く |
【訳】趙王は瑟をかきならした。
⑤秦の御史前みて書して曰はく、
語句 | 意味 |
御史 | 記録官 |
前みて | 進み出て |
書して | 書いて |
【訳】秦の記録官は進み出て書き記して言うことには、
⑥「某年月日、秦王趙王と会飲し、趙王をして瑟を鼓せしむ。」と。
語句 | 意味 |
某年月日 | 某年、月、日 |
会飲し | 会食し |
~をして…せしむ | 【使役】~に…させる |
【訳】「某年、月、日(〇年〇月〇日)、秦王は趙王と会食し、趙王に瑟を弾かせた。」と。
秦王が趙王を部下のように扱い、言うことを聞かせたということをわざわざ記録させたのです。
その様子を見て、藺相如が出てくるわけですね。
⑦藺相如前みて曰はく、
【訳】藺相如が進み出て言うことには、
⑧「趙王窃かに聞く、秦王善く秦声を為すと。
語句 | 意味 |
善く | 上手に、巧みに |
秦声 | 秦の音楽 |
為す | する |
【訳】「趙王は、秦王は秦の音楽がお上手だと聞いております。
⑨請ふ盆缻を秦王に奉じ、以て相ひ娯楽せん。」と。
語句 | 意味 |
請ふ~ | 【相手への願望】どうか~してほしい |
盆缻 | 打楽器の名前 |
奉じ | ささげる |
以て | それによって |
相ひ | 一緒に |
娯楽せん | 楽しもう |
【訳】どうか盆缻を秦王にささげますので、これで一緒に楽しんでいただきたいです。」と。
⑩秦王怒りて許さず。
語句 | 意味 |
許さず | 承諾する |
【訳】秦王は怒って(藺相如の提案を)承諾しなかった。
秦王は自分たちの方が格上だと思っているので、藺相如(趙王)が自分たちを下に見るような態度をとってきたので怒ったのです。
自分らは趙王に対してひどい態度をとってるのに…嫌な奴。
だから、また藺相如はブチ切れちゃうんですね。
⑪是に於いて、相如前みて缻を進め、因りて跪きて秦王に請ふ。
語句 | 意味 |
是に於いて | その時 |
進め | 差し出し |
因りて | そこで |
跪きて | ひざまずく、膝を地につけてかしこまること |
請ふ | 望み求める、お願いする |
【訳】その時、藺相如は進み出て盆缻を差し出し、そこでひざまずいて秦王にお願いした。
⑫秦王缻を撃つことを肯んぜず。
語句 | 意味 |
撃つ | 叩く |
肯んぜず | 承知しない |
【訳】(しかし、)秦王は缻を叩くことを承知しなかった。
⑬相如曰はく、「五歩の内、相如請ふ頸血を以て大王に濺ぐを得ん。」と。
語句 | 意味 |
五歩の内 | 五歩の距離、近いこと |
請ふ~矣(置き字) | ひとつ~させていただきますぞ |
頸血 | 自分の首の血 |
大王 | 秦王を指す |
濺ぐ | 注ぐ |
得 | できる |
【訳】藺相如が言うことには、「(秦王と私の距離は)五歩の距離です、私は自分の首の血を大王にそそがせていただきますぞ。」と。
自分の命と引き換えに、秦王の命を奪うぞ!と言っているのです。
出ました!藺相如、お得意の脅し!
⑭左右相如を刃せんと欲す。
語句 | 意味 |
左右 | (秦王の)側近 |
刃 | 斬る |
【訳】(秦王の)側近は藺相如を斬ろうとした。
⑮相如目を張りて之を叱す。
語句 | 意味 |
目を張りて | 目を大きく見開く(怒ったり驚いた時の様子を言う) |
之 | 秦王の側近を指す |
叱す | 叱責する、叱りつける |
【訳】藺相如は目を大きく見開いて秦王の側近たちを叱りつけた。
⑯左右皆靡く。
語句 | 意味 |
靡く | 後ずさりする |
【訳】側近は皆後ずさりした。
藺相如の迫力に圧倒されて、思わず後ずさりしてしまったのですね。
⑰是に於いて、秦王懌ばざるも、為に一たび缻を撃つ。
語句 | 意味 |
是に於いて | その時 |
懌ばざるも | 嫌々ながら |
一たび | 一度 |
撃つ | たたく |
【訳】その時、秦王は嫌々ながらも、(趙王の)ために一度缻をたたいた。
⑱相如顧みて趙の御史を召し、書せしめて曰はく、
語句 | 意味 |
顧みて | 振り返って |
召し | 呼び寄せる |
しめて | 【使役】~させて |
【訳】藺相如は振り返って趙の記録官を呼び寄せて、書かせて言うことには、
⑲「某年月日、秦王趙王の為に缻を撃つ。」と。
【訳】「某年月日(〇年〇月〇日)、秦王が趙王の為に盆缻をたたいた。」と。
⑳秦の群臣曰はく、「請ふ趙の十五城を以つて秦王の寿を為さん。」と。
語句 | 意味 |
群臣 | 多くの臣下 |
請ふ~ | 【相手への願望】どうか~してほしい |
十五城 | 十五の都市 |
寿を為さん | 長寿を祈って |
【訳】秦の臣下たちが言うことには、「どうか十五の都市を差し出して秦王の長寿を祝ってほしい。」と。
㉑藺相如も亦た曰はく、「請ふ秦の咸陽を以つて趙王の寿を為さん。」と。
語句 | 意味 |
亦た | 同じように |
咸陽 | 地名。秦の都。 |
【訳】藺相如も同じように言うことには、「どうか秦の咸陽を差し出して趙王の長寿を祝ってほしい。」と。
秦王相手に一歩も譲らない藺相如、頼もしいですね!
㉒秦王酒を竟ふるまで、終に勝ちを趙に加ふる能はず。
語句 | 意味 |
竟ふる | 終わる |
終に | とうとう |
勝ち | 相手を負かす |
加ふる | 与える |
能はず | 【不可能】~することができない |
【訳】秦王は酒宴が終わるまで、とうとう趙を屈服させることができなかった。
「勝ちを趙に加ふる能わず」の意味がわかりません。
直訳すると「趙に負けを与えることができなかった」ということです。
㉓趙も亦盛んに兵を設け、以て秦を待つ。
語句 | 意味 |
盛んに | 充実している |
兵 | 兵馬 |
設け | 配置する |
【訳】趙もまた兵馬を充実させて配置し、秦を待ちかまえた。
㉔秦敢へて動かず。
語句 | 意味 |
敢へて~ず | 【否定】無理に~しようとしない |
動く | 行動する(ここでは趙に攻め込むことを指す) |
【訳】秦は無理に(趙を)攻めようとしなかった。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は史記より「澠池之会②」を解説しました。
このお話でも藺相如の勇ましさ、頼もしさが十分に感じられました。
勢いのすごさに、趙王は頼もしくもあり、ヒヤヒヤもしたかもしれませんね。
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