更科日記「門出」現代語訳 オタク気質の作者がハマったものは?

古文

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今回は更級さらしな日記から「門出かどで」の現代語訳、解説をしていきます。
日記と言うことで作者の菅原孝標女にも触れながら、内容をおさえていきましょう。
このお話の中では作者の物語に対する強い憧れが語られています。
実はこの菅原孝標女は無類のオタク女子でした。
本文で語られている熱い思いは何に向けられたものなのか、読み解いていきましょう。

更級日記「門出」現代語訳・解説

ではさっそく本文とその現代語訳、そして解説をしていきます。

読み仮名付き本文・現代語訳・品詞分解

あづまぢの道みちの果はてよりも、なほ奥おくつ方に生おひ出いでたる人ひと、
【訳】都から東へ行く道の最果てよりも、もっと奥の方で(ある上総国で)生まれ育った人で、

あづまぢ
名詞(都のある京都から東の国に行く道のり)
の 格助詞
道 名詞
の 格助詞
果て 名詞(最果て)
より 格助詞
も、 係助詞
なほ 副詞(いっそう、さらに)
奥つ方
名詞(奥の方。ここでは現在の千葉県中央部である上総国を指す)
に 格助詞
生ひ出で
ダ行下二段活用動詞「生ひ出づ」(生れ育つ)連用形
たる 完了の助動詞「たり」(~た)連体形
人、 名詞

「道の果て」「なほ奥つ方」なんて、「自分はド田舎者です」と自虐的に感じられます…

作者は「上総国生まれ」と言っていますが、実は都の生まれです。

なぜこのように言ったのかについては、源氏物語への憧れが関係していているそうです。

東の国出身の浮舟に自分を重ねているという説があります。

 

いかばかりかはあやしかりけむンを、いかに思おもひはじめけることにか、
【訳】どんなにかみすぼらしかっただろうに、どうして(そのように)思い始めたのか、

いかばかり 副詞(どんなにか)
か 係助詞【強意】
は 係助詞【強意】
あやしかり
シク活用の形容詞「あやし」(みすぼらしい。ここでは田舎に住んでいた自分のことをそのように表現している)連用形
けむ
過去推量の助動詞「けむ」(~ただろう)の連体形
を、 接続助詞(逆接確定条件:~のに)
いかに 副詞(どうして)
思ひはじめ
マ行下二段活用動詞「思ひはじむ」(思い始める)連用形
ける 過去の助動詞「けり」連体形
こと 名詞
に 断定の助動詞「なり」連用形
か、 係助詞【疑問】

 

世よの中なかに物語ものがたりといふウもののあんなるを、いかで見みばやと思おもひつつ、
【訳】世の中に物語というものがあるそうだが、どうにかして見たいと思いながら、

世の中 名詞
に 格助詞
物語 名詞
と 格助詞
いふ ハ行四段活用動詞「いふ」連体形
もの 名詞
の 格助詞
あん
ラ行変格活用動詞「あり」連体形の「ある」の撥音便
なる 伝聞の助動詞「なり」連体形
を、 格助詞
いかで
副詞+願望=強い願望(どうにかして)
見 マ行上一段活用動詞「見る」未然形
ばや 願望の終助詞(~たい)
と 格助詞
思ひ ハ行四段活用動詞「思ふ」連用形
つつ、 接続助詞(~ながら)

 

つれづれなる昼間ひるま、宵居よいいなどに、姉あね、継母ままははなどやうの人々ひとびとの、
【訳】手持ち無沙汰だった昼間や、夜遅くまで起きている時に、姉や継母などというような人が、

つれづれなる
ナリ活用の形容動詞「つれづれなり」(手持ち無沙汰だ)連体形
昼間、 名詞
宵居 名詞(夜遅くまで起きている時)
など 副助詞
に、 格助詞
姉、 名詞
継母
名詞(高階成行の女。作者の父の第二婦人であり、作者の実母ではない。)
など 副助詞
やう 名詞(~風、~のよう)
の 格助詞
人々 名詞
の、 格助詞

「継母」というと、関係が悪そうなイメージがあるかもしれませんが、作者と継母・姉とも関係はとても良好だったそうです。

 

その物語ものがたり、かの物語ものがたり、光源氏ひかるげんじのあるやうなど、ところどころ語かたるを聞きくに、
【訳】その物語、あの物語、光源氏のありさまなど、ところどころ語るのを聞くと、

そ 代名詞
の 格助詞
物語、 名詞
か 代名詞
の 格助詞
物語、 名詞
光源氏
名詞(『源氏物語』の主人公である光源氏のこと)
の 格助詞
あるやう 名詞(ありさま)
など、 副助詞
ところどころ 名詞
語る ラ行四段活用動詞「語る」
を 格助詞
聞く カ行四段活用動詞「聞く」連体形
に、 接続助詞(~と)

いとどゆかしさまされど、わが思おもふままに、そらにいかでかおぼえ語かたらむ。
【訳】ますます物語を読みたい思いが募るけれど、私の思う通りに(姉や継母が)そらんじて、どうして思い出して語るだろうか、いや語れない。

いとど 副詞(ますます)
ゆかしさ
名詞(心がひかれること。ここでは物語を読みたいと思うことを指す)
まされ
ラ行四段活用動詞「まさる」(増える。ここでは思いが募ることを表している)已然形
ど、 接続助詞(逆接確定条件:~けれど)
わ 名詞(わたし)
が 格助詞
思ふ ハ行四段活用動詞「思ふ」連体形
まま 名詞(思う通り)
に、 格助詞
そらに、
ナリ活用の形容動詞「そらなり」(そらんじる、暗記して言う)連用形
いかで
副詞+推量=反語(どうして~か、いや~ない)
か 係助詞【疑問】 結び:む
おぼえ語ら
ラ行四段活用動詞「おぼえ語る」(思い出して語る)未然形
む。
推量の助動詞「む」連体形 【係り結び】

物語を手に入れるために都へ行きたい気持ちが募っているのがわかりますが、

どうして姉や継母は知っているのに、作者だけ物語を読んだことがないのでしょうか?

作者たち一家は、都に住んでいたことがあります。

作者も都から現在の地へ下向した記憶はあるのですが、物語は読んだことがないようです。都にいた時の作者の年齢が幼かったのかもしれません。

当時は紙は貴重で、容易に手に入れることはできず、読んで覚えた部分を「こんなんだったわよね」と語り伝えるしかなかったんです。

あまりにも楽しそうに語る姉や継母の様子を見て、作者は居ても立っても居られなくなってしまったんですね。

いみじく心こころもとなきままに、等身とうしんに薬師仏やくしほとけをつくりて、手洗てあらひなどして、人ひとまにみそかに入いりつつ、
【訳】たいそうじれったいので、等身大の薬師如来像を作って、手を洗って身を清めて、人目がない隙にこっそりと(薬師仏のある部屋に)入っては、

いみじく
シク活用の形容詞「いみじ」(ひどく、たいそう)連用形
心もとなき
ク活用の形容詞「心もとなし」(じれったい)連体形
まま 名詞
に、 格助詞
等身 名詞(等身大、人と同じ大きさ)
に 格助詞
薬師仏 名詞(薬師如来像のこと)
を 格助詞
つくり
ラ行四段活用動詞「つくる」(おそらく作者本人が作ったのではなく、誰かにこっそり作らせたのだと推測できます)連用形
て、 接続助詞
手洗ひ 名詞(手を洗って身を清めること)
など 副助詞
し サ行変格活用動詞「す」連用形
て、 接続助詞
人ま 名詞(人目がない隙に)
に 格助詞
みそかに
ナリ活用の形容動詞「みそかなり」(こっそりとしている)連用形
入り ラ行四段活用動詞「入る」連用形
つつ、 接続助詞

物語への思いが募るものの思うようにいかない「心もとなき」状況である作者は、驚きの行動に出ます!

それは一体どのような行動でしょうか?

等身大の薬師仏を作っちゃいました!

そうですね、とはいえ作者自身が仏像を彫ったわけではないと思います。

仏師にこっそり作らせて、お姉さまや継母にバレないようにこっそりお祈りしてたんだと思われます。

(等身大だし、バレないなんて難しいと思いますが…)

 

「京きょうに疾とく上あげげ給たまひて、物語ものがたりの多おおく候さぶらふなる、ある限かぎり見みせ給たまへ。」と、
【訳】「(私を)都に早く行かせなさって、物語が多くございますという、(物語を)ある限りお見せください。」と、

京 名詞
に 格助詞
疾く
ク活用の形容詞「疾し」(時期が早いこと)連用形
上げ
ガ行下二段活用動詞「上ぐ」(都へ行かせる)連用形
給ひ
ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形【尊敬】作者→薬師仏への敬意
て、 接続助詞
物語 名詞
の 格助詞
多く ク活用の形容詞「多し」連用形
候ふ
ハ行四段活用動詞「候ふ」終止形【丁寧】作者→薬師仏への敬意
なる、 伝聞の助動詞「なり」連体形
ある ラ行変格活用動詞「あり」連体形
限り 名詞
見せ
サ行下二段活用動詞「見す」(見せる)連用形
給へ。」
ハ行四段活用補助動詞「給ふ」命令形【尊敬】作者→薬師仏への敬意
と、 格助詞

 

身みを捨すてて額ぬかをつき、祈いのり申もうすほどに、
【訳】身体を投げ出して額を床について、お祈り申し上げるうちに、

身 名詞
を 格助詞
捨て
タ行下二段活用動詞「捨つ」(捨てる)連用形 ※身を捨つ…身体を投げ出す
て 接続助詞
額 名詞(ひたい)
を 格助詞
つき、
カ行四段活用動詞「つく」連用形 ※額をつく…ひたいを地面につけて祈る
祈り ラ行四段活用動詞「祈る」連用形
申す
サ行四段活用補助動詞「申す」連体形【謙譲】作者→薬師仏への敬意
ほど 名詞
に、 格助詞

「身を捨てて額をつき」という表現から、作者の必死な様子が感じられますね。
本人は必死なのでしょうが、熱い思いに微笑ましく感じてしまいます。

 

十三じゅうさんになる年とし、上のぼらむとて、九月ながつき三日みか門出かどでして、いまたちといふ所ところに移うつる。
【訳】13歳になる年に、都へ行こうということで、9月3日に出発して、いまたちというところに移った。

十三 名詞(13歳)
に 格助詞
なる ラ行四段活用動詞「なる」連体形
年、 名詞
上ら
ラ行四段活用動詞「上る」(都に行く)未然形
む
意志の助動詞「む」(~よう)の連体形
とて、 格助詞
九月三日 名詞
門出し
サ行変格活用動詞「門出す」(出発すること)連用形
て、 接続助詞
いまたち
名詞(地名)※実際の旅立ちの前に、一時的に移った場所だと考えられる。
と 格助詞
いふ ハ行四段活用動詞「いふ」連体形
所 名詞
に 格助詞
移る。 ラ行四段活用動詞「移る」終止形

お祈りの効果があったんですかね!?

真偽のほどはわかりませんが、この文章の流れからは作者の「その甲斐あってか」という気持ちが感じられますね。

念願叶ってついに作者は上京が決まり、「いまたち」というところに移ります。

「いまたち」ってどこなんでしょう?

当時は旅をする際に今の家を出て、良い方角へ移ってから旅の支度を整えて出発していたんです。

なので都の「いまたち」へ引っ越したのではなく、旅の準備をする仮の場所を「いまたち」と呼んだという説があります。

 

年としごろ遊あそびなれつる所ところを、あらはにこほち散ちらして、たち騒さわぎて、
【訳】長年遊び慣れたところを、(家の中が)丸見えに(なるほど)壊して散らかして、騒ぎ立て、

年ごろ 名詞(長年)
遊びなれ
ラ行下二段活用動詞「遊びなる」(遊び慣れる)
つる 完了の助動詞「つ」連体形
所 名詞
を、 格助詞
あらはに
ナリ活用の形容動詞「あらはなり」(丸見えだ)連用形
こほち散らし
サ行四段活用動詞「こほち散らす」(壊して散らかす)連用形
て、 接続助詞
たち騒ぎ
ガ行四段活用動詞「立ち騒ぐ」(騒ぎ立てる)連用形
て、 接続助詞

お引越しするときに家を壊しちゃうんですか!?

「もうここには戻らない」という気持ちの表れです。

京へ行くのですから、これまでの生活をまっさらにして向かおうということですね。

 

日ひの入いり際ぎわの、いとすごく霧きりわたりたるに、
【訳】夕日が沈もうとしている頃で、たいそうもの寂しく霧が一面に立ち込めているときに、

日 名詞
の 格助詞
入り際 名詞(日が沈もうとしている頃)
の、 格助詞
いと 副詞(大変、とても)
すごく
ク活用の形容詞「すごし」(もの寂しい)連用形
霧りわたり
ラ行四段活用動詞「霧りわたる」(霧か一面に立ち込める)連用形
たる 存続の助動詞「たり」連体形
に、 格助詞

車くるまに乗のるとて、うち見みやりたれば、
【訳】車に乗ろうとして、ふと(家に)視線を向けると、

車 名詞
に 格助詞
乗る ラ行四段活用動詞「乗る」終止形
とて、 格助詞
うち見やり
ラ行四段活用動詞「うち見やる」(ふと視線を向ける)連用形
たれ 完了の助動詞「たり」已然形
ば、
接続助詞 ※已然形+「ば」(~ところ)

人ひとまには参まいりつつ、額ぬかをつきし薬師仏やくしほとけの立たち給たまへるを、
【訳】人目がない隙に何度もお参りしては、ひたいをついて(お祈りしていた)薬師仏が立っていらっしゃるのを、

人ま 名詞(人目がない隙に)
に 格助詞
は 係助詞
参り
ラ行四段活用動詞「参る」(お参りする)連用形 【謙譲】作者→薬師仏への敬意
つつ、 接続助詞(反復:何度も~ては)
額 名詞(ひたい)
を 格助詞
つき カ行四段活用動詞「つく」連用形
し 過去の助動詞「き」連体形
薬師仏 名詞
の 格助詞
立ち タ行四段活用動詞「立つ」連用形
給へ ハ行四段活用補助動詞「給ふ」已然形 【尊敬】作者→薬師仏への敬意
る 存続の助動詞「り」連体形
を、 格助詞

見捨みすて奉たてまつる、悲かなしくて、人知ひとしれずうち泣なかれぬ。
【訳】見捨て申し上げること、が悲しくて、人知れふと涙がこぼれおちた。

見捨て
タ行下二段活用動詞「見捨つ」(見捨てる)連用形
奉る、
ラ行四段活用補助動詞「奉る」(~申し上げる)連体形 【謙譲】作者→薬師仏への敬意
悲しく シク活用の形容詞「悲し」連用形
て、 接続助詞
人 名詞
知れ ラ行下二段活用動詞「知る」未然形
ず 打消の助動詞「ず」連用形
うち泣か
カ行四段活用動詞「うち泣く」(ふと涙がこぼれ落ちる)未然形
れ 自発の助動詞「る」連用形
ぬ。 完了の助動詞「ぬ」終止形

一生懸命拝んでいた薬師仏は、置いて行っちゃうんですね…

そうですね。薬師仏は家と一緒に壊すこともできず、残っている姿を見て「見捨て奉る」と、作者も心の残りに思い涙を流しています。

作者とその家族

本文にも出てきた姉や継母など、更級日記に登場する家族についても触れておきましょう。

継母:高階成行たかしなのなりゆきの女むすめ

孝標の第二婦人であり、作者の実母ではありません。
実母は近所に出かけるのも嫌がるほどの面倒くさがりとのこと。
孝標が上総国に行くことが決まり、実母がついてこないので彼女を連れて行ったとも言われています。

宮仕えの経験もあり、知識と教養のあるキャリアウーマン。
作者たち姉妹にとって最高の家庭教師だったことでしょう。

継母が父と離婚したあとも作者は和歌のやり取りなどの交流を続けていたと言われています。
よくある物語で継母が継子をいじめるなんてことは、この親子にはなかったようです。

この人こそが作者に物語の面白さを伝え、物語の沼へ導いた張本人です。

姉:名前不明
本文でも登場するお姉ちゃん。
上総の国へ一緒に行き、継母と物語や光源氏について語っているところから、彼女もまた作者を物語の沼に導いた一人だと言えます。

そして父と兄が上総国で共に生活をしていました。

父:菅原孝標すがわらのたかすえ
学問の言えに生まれたものの、エリート菅原家のシンボルである学者職の長官にはなれず、高齢になってからも地方へ任務として行っていました。

兄:菅原定義すがはらのさだよし
作者の面倒をよく見てくれた優しいお兄ちゃん。
優しいだけではなく、曲がったことが大嫌いで天皇に意見を言うことも。
そんな兄は父が叶わなかった大学頭や文章博士に就任し、家業を立て直しました。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

作者である菅原孝標女の熱い思いは「物語」に向けられていましたね。
そんな作者を物語の沼へ導いたのが、継母と姉の二人だということも分かりました。
物語を思うあまりに「自分も現物が見てみたいから都へ行きたい!」と仏像を作ってお祈りするという、なかなかぶっ飛んだ少女だったようです。

念願叶って13歳になる年に上京が決まったのですが、旅立ちの時にあの薬師仏の姿を見て、置いていくのが心苦しく感じられて涙を流す場面で終わっています。

人物像やその時の状況を理解しながら読むと、より楽しめるのではないでしょうか?
更級日記の他の章段も是非読んでみてください。

この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

自分の生徒には直接伝えられるけど、
聞きたくても聞けない…などと困っている方にも届けたくて、ブログを始めました。

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