今回は『古今和歌集 仮名序』の冒頭部分である、「やまと歌は」について解説をしていきます。
成立:平安時代前期(最初の勅撰和歌集)
※勅撰和歌集…天皇(または上皇)の命によって作られた和歌集のこと。古今和歌集は醍醐天皇の命によって作られた。
撰者:紀友則、紀貫之、凡河内躬恒 、壬生忠岑(紀貫之が中心となった)
特徴:遣唐使の廃止に伴い、盛んになった「国風文化」を反映している。「たをやめぶり」という言葉に象徴されるように、優雅で繊細な表現が用いられている。『万葉集』と比べると、技巧が盛り込まれ、洗練された和歌で構成されている。
仮名序とは
『古今和歌集』に添えられた序文の一つ。
・和歌の本質
・和歌の成り立ちと歩み
・和歌の種類
・和歌のあるべき姿
・古の歌人
・六歌仙
・『古今和歌集』を編纂する過程や事情など
という内容となっている。今回の「やまと歌」は、「和歌の本質」に該当する。
ここでは
・現代語訳
・品詞分解
・ポイント
について、順番にお話していきます。
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古今和歌集 仮名序「やまと歌は」現代語訳・解説

読み仮名付き本文・現代語訳・品詞分解
やまと歌は、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける。
和歌は、人の心をもとにして、たくさんの言葉となったものである。
| やまと歌 | 名詞(和歌) |
| は、 | 係助詞 |
| 人 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 心 | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| 種 | 名詞(もと) |
| と | 格助詞 |
| し | サ行変格活用動詞「す」連用形 |
| て、 | 接続助詞 |
| よろづ | 名詞(たくさん) |
| の | 格助詞 |
| 言の葉 | 名詞(和歌、歌) |
| と | 格助詞 |
| ぞ | 係助詞【係】 |
| なれ | ラ行四段活用動詞「なる」已然形 |
| り | 完了の助動詞「り」連用形 |
| ける。 | 過去の助動詞「けり」連体形【結】 |

心の「種」という表現は、言の「葉」と対になっていますね。
世の中にある人、ことわざしげきものなれば、
世の中にいる人は、出来事や行為がたくさんある(=生きているとたくさんの出来事に触れる)ので、
| 世の中 | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| ある | ラ行変格活用動詞「あり」連体形 |
| 人、 | 名詞 |
| ことわざ | 名詞(出来事と行為) |
| しげき | ク活用の形容詞「しげし」(たくさんある)連体形 |
| もの | 名詞 |
| なれ | 断定の助動詞「なり」已然形 |
| ば、 | 接続助詞 |
心に思ふことを、見るもの聞くものにつけて言ひ出だせるなり。
心に感じたことを、見るもの聞くものに乗せて言葉にしている(=自分の感情を、見聞きしたものを用いて表現している)のである。
| 心 | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| 思ふ | ハ行四段活用動詞「思ふ」(思う、感じる)連体形 |
| こと | 名詞 |
| を、 | 格助詞 |
| 見る | マ行上一段活用動詞「見る」連体形 |
| もの | 名詞 |
| 聞く | カ行四段活用動詞「聞く」連体形 |
| もの | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| つけ | カ行下二段活用動詞「つく」(つける ※ここでは、自分の思いや感情を、見聞きしたものを用いて表現することを指す)連用形 |
| て、 | 接続助詞 |
| 言ひ出だせ |
サ行四段活用動詞「言ひ出だす」(口に出す、言葉にして言う)已然形
|
| る | 存続の助動詞「り」連体形 |
| なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 |
花に鳴く鶯、水にすむ蛙の声を聞けば、
花で鳴くウグイスや、水辺に住むカジカガエルの鳴き声を聞くと、
| 花 | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| 鳴く | カ行四段活用動詞「鳴く」連体形 |
| 鶯、 | 名詞(ウグイス) |
| 水 | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| すむ | マ行四段活用動詞「すむ」(住む)連体形 |
| 蛙 | 名詞(ここではカジカガエルのこと。初夏から秋にかけて美しい鳴き声を出す) |
| の | 格助詞 |
| 声 | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| 聞け | カ行四段活用動詞「聞く」已然形 |
| ば、 | 接続助詞 |

「花に鳴く鶯」と「水にすむ蛙」も、対句表現になっていますね。
生きとし生けるもの、いづれか歌を詠まざりける。
この世に生きるものは全て、どれが歌を詠まなかっただろうか、いや詠んだ。(=この世に生きるものは全て、和歌を詠んでいるのである)
| 生き | カ行四段活用動詞「生く」(生きる)連用形 |
| と | 格助詞 |
| し | 強意の副助詞 |
| 生け | カ行四段活用動詞「生く」已然形 |
| る | 存続の助動詞「り」連体形 |
| もの、 | 名詞 ※生きとし生けるもの…この世に生きるものすべて |
| いづれ | 代名詞(どれ) |
| か | 反語の係助詞【結】 |
| 歌 | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| 詠ま | マ行四段活用動詞「詠む」未然形 |
| ざり | 打消の助動詞「ず」連用形 |
| ける。 | 過去の助動詞「けり」連体形【結】 |

これはどういうことでしょうか?

紀貫之は自分の思いを言葉に乗せて発するという行為を、「和歌を詠む」ことだと言っています。
だから鳴いているウグイスやカジカガエルも、ただ声を発しているだけでなく、自分の思いを鳴き声に乗せて発している(=和歌を詠んでいる)のだと言っています。
力をも入れずして天地を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、
力を入れずに天と地の神々を動かし、目に見えない荒々しい神々さえもしみじみと感じさせ、
| 力 | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| も | 係助詞 |
| 入れ | ラ行下二段活用動詞「入る」(入れる)未然形 |
| ず | 打消の助動詞「ず」連用形 |
| して、 | 接続助詞 |
| 天地 | 名詞(天と地の神々) |
| を | 格助詞 |
| 動かし、 | サ行四段活用動詞「動かす」連用形 |
| 目 | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| 見え | ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」(見える)未然形 |
| ぬ | 打消の助動詞「ず」連体形 |
| 鬼神 | 名詞(荒々しい神) |
| を | 格助詞 |
| も | 係助詞 |
| あはれ |
ナリ活用の形容動詞「あはれなり」(しみじみとした思いである、趣深く感じる)語幹 ※形容動詞の語幹用法
|
| と | 格助詞 |
| 思は | ハ行四段活用動詞「思ふ」未然形 |
| せ、 | 使役の助動詞「す」連用形 |
もととなる文章:『詩経』大序より「故に得失を正し,天地を動かし,鬼神を感ぜしむるは,詩より近きは莫し。」
意味:政治の得失を正し、天地の神々を動かし、鬼神を感動させるのに、詩より優れるものはない。
→ 詩や和歌が人に大きな感動を与えることを示す言葉
男女の仲をも和らげ、猛き武士の心をも慰むるは、歌なり。
男女の仲を親密にさせ、荒々しい武士の心をも穏やかにするのは、和歌である。
| 男女 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 仲 | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| も | 係助詞 |
| 和らげ、 | ガ行下二段活用動詞「和らぐ」(仲良くさせる、親密にさせる)連用形 |
| 猛き | ク活用の形容詞「猛し」(荒々しい)連体形 |
| 武士 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 心 | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| も | 係助詞 |
| 慰むる | マ行下二段活用動詞「慰む」(穏やかな気持ちにさせる)連体形 |
| は、 | 係助詞 |
| 歌 | 名詞 |
| なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 |
「力をも入れずして~」と「男女の仲
ポイント
A. 和歌のこと。「唐歌」と呼ばれる漢詩に対応している。
① 人の心をもとにして、さまざまな言葉になったもの
② 心に思ったことを、見るものや聞くものに乗せて言い表したもの
③ 鶯や蛙であっても、生きているものはみな詠むもの
・力を使わずに天地を動かすことができる
・荒ぶる神々をしみじみとした思いにさせることができる
・男女の仲を親密にすることができる
・荒々しい武士の心を穏やかにすることができる
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は、『古今和歌集仮名序』より「やまと歌は」を解説しました。
古今和歌集の序文として、紀貫之が和歌に対する考えを述べています。
しっかりと読み取ることは、できましたか?


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