今回も前回に続いて、『古事記』より「倭建命」を解説していきます。
命からがら伊吹山を下りた倭建命。なんとか意識を回復して、大和へ戻っていきます。いよいよ「倭建命」のしめくくりです。しっかりと読み取っていきましょう。
古事記「倭建命③そこより出でまして、能煩野に到りし時に~」現代語訳・解説

登場人物
倭建命/八尋の白ち鳥
大和へ帰ろうとしている。伊吹山での出来事の後、体調がよくならないまま旅を続けていた。亡くなったあと、八尋の白ち鳥となりその魂は羽ばたいていった。
后たちと御子たち
倭建命の后たちと子どもたち。倭建命の死の知らせを聞いて、駆け付ける。
あらすじ
能煩野に到着すると、故郷を思う歌を詠む。そこには、愛国心と故郷への懐かしさが込められていた。しかし、その故郷には、もう自分は二度とたどり着けないと悟る。そこで若い従者たちの健康を願う歌も詠んだ。そして倭建命の病気は急変し、危篤になる。最期に詠んだ歌では、自分の愛する妻である美夜受比売と、そこに置いてきた草なぎの剣への思いが綴られていた。
倭建命の死を知った后たちと皇子たちが、能煩野の地へとやって来る。すると御陵を作り、水に浸かっている田を這い回り、大声で泣きながら歌を詠んだ。
倭建命は大きな白鳥に姿を変え、天空を飛んで行った。后たちと皇子たちは自分の足が傷つく痛みも忘れて、白鳥を追いかけた。その後、白鳥は河内国の志幾に留まったのでそこに御陵を作り、白鳥の御陵と名付けられた。しかし、白鳥はさらにそこから空高く飛んで行った。
本文(書き下し分)・現代語訳・品詞分解
これまでのお話:「倭建命②かれ、しかくして、御合して~」現代語訳・解説
そこより出でまして、能煩野に到りし時に、国を思ひて、歌ひて言はく、
そこから(都へと向かって)いらっしゃって、能煩野に到着したときに、故郷(=大和の国)を思い偲んで和歌を吟じて言うことには、
| そこ |
代名詞(倭建命は伊吹山を下りてから、尾津、三重へと進んでいた)
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| より | 格助詞 |
| 出でまし |
サ行四段活用動詞「出でます」( いらっしゃる)連用形【「行く」の尊敬語】作者→倭建命への敬意
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| て、 | 接続助詞 |
| 能煩野 |
名詞(現在の三重県鈴鹿市から亀山市を指す地名と考えられている※『日本書紀』では能褒野と表記されている。)
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| に | 格助詞 |
| 到り | ラ行四段活用動詞「到る」(到着する)連用形 |
| し | 過去の助動詞「き」連体形 |
| 時 | 名詞 |
| に、 | 格助詞 |
| 国 | 名詞(故郷) |
| を | 格助詞 |
| 思ひ |
ハ行四段活用動詞「思ふ」(思い偲ぶ、思い起こす)連用形
|
| て、 | 接続助詞 |
| 歌ひ | ハ行四段活用動詞「歌ふ」(和歌を吟じる)連用形 |
| て | 接続助詞 |
| 言はく、 |
ハ行四段活用動詞「言ふ」未然形+接尾語「く」(言うことには)
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倭は 国のまほろば たたなづく 青垣 山籠もれる 倭しうるはし
大和は、国の(中で)この上なく素晴らしい場所だ。幾重にも重なり青々とした垣根のような山々、その山々に囲まれている大和は本当に美しい
| 倭 | 名詞(地名。現在の奈良県にある大和国のこと) |
| は | 係助詞 |
| 国 | 名詞(国) |
| の | 格助詞 |
| まほろば |
名詞(本当に優れたところ、この上なく素晴らしい場所)
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| たたなづく |
名詞(幾重にも重なっていること。「青垣」「青垣山」、「柔肌」にかかる枕詞)
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| 青垣 |
名詞(周りを囲む山々を垣根に例える表現。青々とした山が垣根のように取り囲んでいる。国ぼめに使われる)
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| 山籠もれ |
ラ行四段活用動詞「山籠もる」(山に囲まれている)已然形
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| る | 存続の助動詞「り」連体形 |
| 倭 | 名詞(地名。現在の奈良県にある大和国のこと) |
| し | 強意の副助詞 |
| うるはし | シク活用の形容詞「うるはし」(美しい)終止形 |
自分の国が豊かになることを願い、歌を吟じたりすること。
予祝(未来に起こる幸福を事前に祝うこと)による、呪術的な意味合いもある。

この歌からは、倭建命の愛国心と、故郷を思う懐かしさや寂しさが感じられます。
また、歌ひて言はく、
また、和歌を吟じて言うことには、
| また、 | 接続詞 |
| 歌ひ | ハ行四段活用動詞「歌ふ」(和歌を吟じる)連用形 |
| て | 接続助詞 |
| 言はく、 |
ハ行四段活用動詞「言ふ」未然形+接尾語「く」(言うことには)
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命の 全けむ人は たたみこも 平群の山の 熊樫が葉を 髻華に挿せ その子
命が無事である人は、平群の山の大きな樫の木の葉をかんざしに挿しなさい。おまえたちよ
| 命 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 全け |
ク活用の形容詞「全し」(無事である)上代(=奈良時代までを指す)の未然形
|
| む | 推量の助動詞「む」連体形 |
| 人 | 名詞 |
| は | 係助詞 |
| たたみこも |
名詞(敷物にする「こも」という草。その敷物を難渋にも重ねることから「へ」という音を持つ「平群」「隔つ」にかかる枕詞。)
|
| 平群 | 名詞(地名。現在の奈良県生駒郡平群町を指す) |
| の | 格助詞 |
| 山 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 熊樫 | 名詞(大きな樫の木のこと。大きな樫の木の葉は、生命の象徴でもあった) |
| が | 格助詞 |
| 葉 | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| 髻華 | 名詞(古代のかんざしで、髪や冠に挿すもの) |
| に | 格助詞 |
| 挿せ | サ行四段活用動詞「挿す」命令形 |
| そ | 代名詞 |
| の | 格助詞 |
| 子 | 名詞 ※その子…倭建命に同行している従者たちのこと |

なぜ熊樫の葉を、かんざしにしろと言ったのですか?

髻華は単なる髪飾りではなく、かんざしとして挿すことでその植物の生命力や、その植物をはやしている大地の神の力を自分に移すという意味がありました。
ここでは、自分の命が尽きようとしていることを悟った倭建命が、一緒にいる従者の無事や健康を願ったのです。

神に対してやらかしてしまったためにこのような結果になってしまいましたが、倭建命は神の加護を大切にしたり、従者を思いやったりという気持ちがある人なのですね。
この歌は、思国歌そ。また、歌ひて言はく、
この歌は、思国歌である。また、和歌を吟じて言うことには、
| こ | 代名詞 |
| の | 格助詞 |
| 歌 | 名詞 |
| は、 | 係助詞 |
| 思国歌 |
名詞(故郷を思い出し偲ぶ歌であり、国土をたたえる歌である。)
|
| そ | 係助詞【係】 |
| (なる など)。 | ※結びの省略 |
| また、 | 接続詞 |
| 歌ひ | ハ行四段活用動詞「歌ふ」(和歌を吟じる)連用形 |
| て | 接続助詞 |
| 言はく、 |
ハ行四段活用動詞「言ふ」未然形+接尾語「く」(言うことには)
|
愛しけやし 我家の方よ 雲居立ち来も
恋しくてたまらないことよ。我が家の方から、雲が湧き起こってくるよ
| 愛しけ | シク活用の形容詞「愛し」(恋しくてたまらない) |
| やし | 詠嘆の間投助詞(~よ) |
| 我家 | 名詞(我が家) |
| の | 格助詞 |
| 方 | 名詞(我が家) |
| よ | 上代の格助詞(~から) |
| 雲居 | 名詞(雲) |
| 立ち来 | カ行変格活用動詞「立ち来」(終止形 |
| も | 終助詞(~ことよ) |

自分はもう故郷までは命がもたないことを悟りつつも、故郷に帰りたいという強い気持ちが伝わって、切なくなりますね…
これは、片歌そ。
これは、片歌である。
| これ | 代名詞 |
| は、 | 係助詞 |
| 片歌 |
名詞(上代において五・七・七の二つの片歌を一組としてやりとりされた歌を「旋頭歌」と呼んだ。ここでは、その旋頭歌の半分にあたる部分であることを指す。
|
| そ | 係助詞【係】 |
| (なる など)。 | ※結びの省略 |
この時、御病、いとにはかなり。 しかくして、御歌に言はく、
この時、(倭建命の)病気は急変して危篤になった。 そうして、歌に詠んだことには、
| こ | 代名詞 |
| の | 格助詞 |
| 時、 | 名詞 |
| 御病、 | 名詞(ご病気) |
| いと | 副詞(非常に、とても) |
| にはかなり。 |
ナリ活用の形容動詞「にはかなり」(病状が急変して危篤になる)終止形
|
| しかくして | 接続詞(そうして) |
| 御歌 | 名詞(天皇、皇后、皇太子などが詠んだ歌) |
| に | 格助詞 |
| 言はく、 |
ハ行四段活用動詞「言ふ」未然形+接尾語「く」(言うことには)
|
をとめの 床の辺に わが置きし 剣の大刀 その大刀はや
乙女(=美夜受比売)の寝床の辺りに私が置いてきた剣の太刀(=草なぎの剣)、その太刀よ
| をとめ |
名詞(成人した若い女性。ここでは美夜受比売のこと)
|
| の | 格助詞 |
| 床 | 名詞(寝床) |
| の | 格助詞 |
| 辺 | 名詞(辺り) |
| に | 格助詞 |
| わ | 代名詞(私) |
| が | 格助詞 |
| 置き | カ行四段活用動詞「置く」連用形 |
| し | 過去の助動詞「き」連体形 |
| 剣の大刀 | 名詞(剣と大刀は同じような意味を表す。鋭い刀剣) |
| そ | 代名詞 |
| の | 格助詞 |
| 大刀 | 名詞(長くて大きな直刀) |
| はや | 詠嘆の連語=係助詞「は」+間投助詞「や」(~よ) |

死を目前にして、妻である美夜受比売のことを思い出し、そこに草なぎの剣を忘れてきたことを悔やむ気持ちが詠まれています。
歌ひ終はりて、すなはち崩りましき。
(倭建命は)吟じ終わると、すぐにお亡くなりになった。
| 歌ひ | ハ行四段活用動詞「歌ふ」(和歌を吟じる)連用形 |
| 終はり | ラ行四段活用動詞「終はる」(終わる)連用形 |
| て、 | 接続助詞 |
| すなはち | 副詞(すぐに) |
| 崩り | ラ行四段活用動詞「崩る」(亡くなる)連用形 |
| まし | サ行四段活用動詞「ます」(おいでになる)【尊敬】作者→倭建命への敬意 |
| き。 | 過去の助動詞「き」終止形 |

無念でしたでしょうね…。とても切ない気持ちになりました。
しかくして、駅使を奉りき。
そうして、(従者たちは倭建命の死を報告するために)早馬使いを(朝廷に)参上させた。
| しかくして、 | 接続詞(そうして) |
| 駅使 |
名詞(早馬使い。緊急の連絡を馬で素早く届ける使者のこと。ここでは、倭建命が亡くなったことを伝える役割。)
|
| を | 格助詞 |
| 奉り |
ラ行四段活用動詞「奉る」(参上させる)連用形 【謙譲】作者→朝廷(天皇)への敬意
|
| き。 | 過去の助動詞「き」終止形 |
ここに、倭に坐しし后たちと御子たちと、もろもろ下り到りて、
そこで、大和にいらっしゃった后たちと皇子たちと、すべての人々が(能煩野に)下向して来て、
| ここに、 | 接続詞(そこで) |
| 倭 | 名詞(大和の地のこと) |
| に | 格助詞 |
| 坐し |
サ行変格活用動詞「坐す」(いらっしゃる)連用形【尊敬】作者→后たちと御子たちへの敬意
|
| し | 過去の助動詞「き」連体形 |
| 后たち | 名詞 |
| と | 格助詞 |
| 御子たち | 名詞 |
| と、 | 格助詞 |
| もろもろ | 名詞(全ての人々) |
| 下り到り | ラ行四段活用動詞「下り到る」(下向して来る) |
| て、 | 接続助詞 |
御陵を作りて、すなはち、そこのなづき田を腹這い廻りて哭き、歌詠みして言はく、
(倭建命の后たちと皇子たちは倭建命の)お墓を作って、そのまま、その地の水に浸かっている田を這い回って、大声で泣き、歌を詠んで言うことには、
| 御陵 | 名詞(天皇などのお墓) |
| を | 格助詞 |
| 作り | ラ行四段活用動詞「作る」連用形 |
| て、 | 接続助詞 |
| すなはち、 | 接続詞(そのまま) |
| そこ | 代名詞 |
| の | 格助詞 |
| なづき田 | 名詞(水に浸かっている田) |
| を | 格助詞 |
| 腹這ひ廻り |
ハ行四段活用動詞「腹這ふ」(腹を下にして這い回る)連用形
|
| て、 | 接続助詞 |
| 哭き、 |
カ行四段活用動詞「哭く」(大声で泣く。特に人が亡くなった時の悲しみを表す)
|
| 歌詠み | 名詞(和歌を作ること) |
| し | サ行変格活用動詞「す」連用形 |
| て | 接続助詞 |
| 言はく、 |
ハ行四段活用動詞「言ふ」未然形+接尾語「く」(言うことには)
|

なぜ田んぼを這い回るのでしょうか?

はっきりとしたことは言えませんが、古くから世界的に農作物は、その地で生まれる→成育する→実を結ぶ→死ぬということを繰り返していると考えられてきたようです。田を「魂を再生させる場所」と捉えているとすると、亡くなった倭建命を、その地の田で蘇らせようとしていると考えることができます。
なづき田の 稲幹に 稲幹に 這ひ廻ろふ 野老蔓
水に浸かっている田の、稲の茎に這い回っている野老蔓のように私たちは亡き人(=倭建命)にまとわりついて這い回っていることよ
| なづき田 | 名詞(水に浸かっている田) |
| の | 格助詞 |
| 稲幹 | 名詞(稲の茎。※ここでは倭建命のなきがらや御陵を表している) |
| に | 格助詞 |
| 稲幹 | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| 這ひ廻ろふ | ハ行四段活用動詞「這い廻ろふ」(這い回る)連体形 |
| 野老蔓 | 名詞(現在は野老と呼ばれるヤマノイモ科の植物のこと。ここでは倭建命のなきがらや御陵にまとわりつくようにしている自分たちのことを表している) |
ここに、八尋の白ち鳥と化り、天に翔りて、浜に向かひて飛び行きき。
そこで、(倭建命は)とても大きな白鳥になって、天空に空高く飛んで、浜辺に向かって飛んで行った。
| ここに、 | 接続詞(そこで) |
| 八尋 | 名詞(とても大きいこと) |
| の | 格助詞 |
| 白ち鳥 | 名詞(白鳥。※八尋白智鳥) |
| と | 格助詞 |
| 化り、 | ラ行四段活用動詞「化る」連用形 |
| 天 | 名詞(天空) |
| に | 格助詞 |
| 翔り | ラ行四段活用動詞「翔る」(空高く飛ぶ)連用形 |
| て、 | 接続助詞 |
| 浜 | 名詞(浜辺) |
| に | 格助詞 |
| 向かひ | ハ行四段活用動詞「向かふ」(向かう)連用形 |
| て、 | 接続助詞 |
| 飛び行き | カ行四段活用動詞「飛び行く」(飛んで行く)連用形 |
| き。 | 過去の助動詞「き」終止形 |
しかくして、その后と御子たちと、その小竹の刈杙に、足を切り破れども、その痛みを忘れて、哭き追ひき。
そうして、その后と皇子たちは、その篠竹の切り株で足を切って裂いたけれども、その痛みも忘れて、泣きながら(白鳥を)追いかけた。
| しかくして、 | 接続詞(そうして) |
| そ | 代名詞 |
| の | 格助詞 |
| 后 | 名詞 |
| と | 格助詞 |
| 御子たち | 名詞 |
| と、 | 格助詞 |
| そ | 代名詞 |
| の | 格助詞 |
| 小竹 | 名詞(小さい竹、ここでは篠竹を指す) |
| の | 格助詞 |
| 刈杙 | 名詞(小竹などを刈り取ったあとの切り株) |
| に、 | 格助詞 |
| 足 | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| 切り破れ | ラ行四段活用動詞「切り破る」(切って裂く)已然形 |
| ども、 | 逆接確定条件の接続助詞(~けれども) |
| そ | 代名詞 |
| の | 格助詞 |
| 痛み | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| 忘れ | ラ行下二段活用動詞「忘る」(忘れる)連用形 |
| て、 | 接続助詞 |
| 哭き追ひ |
ハ行四段活用動詞「哭き追ふ」(泣きながら追いかける)連用形
|
| き。 | 過去の助動詞「き」終止形 |
かれ、その国より飛び翔りて、河内国の志幾に留まりき。
それで、(白鳥は)その国(=能煩野のある伊勢国)から空高く飛び去り、河内国の志幾にとどまった。
| かれ、 | 接続詞(それで) |
| そ | 代名詞 |
| の | 格助詞 |
| 国 |
名詞 ※その国…能煩野のある伊勢国(現在の三重県)を指す
|
| より | 格助詞 |
| 飛び翔り |
ラ行四段活用動詞「飛び翔る」(空高く飛び去る)連用形
|
| て、 | 接続助詞 |
| 河内国 | 名詞(地名。現在の大阪府) |
| の | 格助詞 |
| 志幾 |
地名(現在の大阪府羽曳野市にある白鳥陵のある辺りを指すのか)
|
| に | 格助詞 |
| 留まり | ラ行四段活用動詞「留まる」連用形 |
| き。 | 過去の助動詞「き」終止形 |
かれ、そこに御陵を作りて鎮め坐せき。
それで、(后たちと皇子たち)そこに御陵を作って(倭建命の御霊を)お鎮めになった。
| かれ、 | 接続詞(それで) |
| そこ | 代名詞 |
| に | 格助詞 |
| 御陵 | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| 作り | ラ行四段活用動詞「作る」連用形 |
| て | 接続助詞 |
| 鎮め |
マ行下二段活用動詞「鎮む」(祀りことで魂を鎮める)連用形
|
| 坐せ |
サ行下二段活用補助動詞「坐す」(~ていらっしゃるようにさせる)連用形【尊敬】作者→后たちと御子たちへの敬意
|
| き。 | 過去の助動詞「き」終止形 |

「鎮め坐せき」を直訳すると、「(倭建命の御霊を后たちと皇子たちが)鎮めていらっしゃるようにさせた」となりますが、わかりにくいですね。
「坐す」が、后たちと皇子たちへの敬意であることを踏まえて、単純に「(倭建命の御霊を后たちと皇子たちが)お鎮めになった」としました。
すなはち、その御陵を名付けて白鳥の御陵といふ。
そういうわけで、その御陵を名付けて白鳥の御陵という。
| すなはち、 | 接続詞(そういうわけで) |
| そ | 代名詞 |
| の | 格助詞 |
| 御陵 | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| 名付け | カ行下二段活用動詞「名付く」(名付ける)連用形 |
| て | 接続助詞 |
| 白鳥の御陵 | 名詞(現在の大阪府羽曳野市にある白鳥陵のこと) |
| と | 格助詞 |
| いふ。 | ハ行四段活用動詞「いふ」終止形 |
しかれども、また、そこよりさらに天に翔りて飛び行きき。
そう(=白鳥の御陵が作られた)ではあるが、(白鳥は)再び、そこからさらに天空に高く飛んで行った。
| しかれども、 | 接続詞(そうではあるが) |
| また、 | 副詞(再び) |
| そこ | 代名詞 |
| より | 格助詞 |
| さらに | 副詞(その上、ますます) |
| 天 | 名詞(天空) |
| に | 格助詞 |
| 翔り | ラ行四段活用動詞「翔る」(空高く飛ぶ)連用形 |
| て | 接続助詞 |
| 飛び行き | カ行四段活用動詞「飛び行く」(飛んで行く)連用形 |
| き。 | 過去の助動詞「き」終止形 |
まとめ
いかがでしたでしょうか?
3回に分けて『古事記』の倭建命を解説してきました。
倭建命は、どのような人物だったのでしょうか?
弟橘比売命にとっては、自分を守ってくれた愛情深い人であり、自分の命を差し出してまで任務を遂げてほしいと思う人物でした。
また、后たちや皇子たちにとっては、自分が傷ついても追いかけ、どうにかして蘇らせたい大切な存在であったこともわかります。
人として魅力的だったと思われる、倭建命。最期は白鳥となり、その行方は誰にもわからないまま話は終わります。このことにより、倭建命は英雄にとどまらず、神になったことが強く印象付けられます。
みなさんには倭建命が、どのような人であるとうつりましたか?
参考文献
青空文庫 現代語訳 古事記 稗田の阿禮、太の安萬侶 武田祐吉訳(2025年12月28日閲覧)
『新編古典探求』東京書籍
『新全訳古語辞典』大修館書店
『ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 古事記』角川ソフィア文庫


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