白氏長慶集より白居易の「香炉峰下、新卜山居草堂初成、偶題東壁」について解説をしていきます。
44歳で江州に左遷され、46歳のときに草堂を建てました。
その時の生活への思いを詠んだのが、今回の詩です。
白居易の思いを感じ取ってみましょう。
この記事では
・書き下し文(読み仮名付き)
・語句の意味/解説
・現代語訳
以上の内容を順番にお話していきます。
「香炉峰下、新卜山居草堂初成、偶題東壁」書き下し文・現代語訳・解説
白文
香炉峰下、新卜山居草堂初成、偶題東壁
① 日高睡足猶慵起
② 小閣重衾不怕寒
③ 遺愛寺鐘欹枕聴
④ 香炉峰雪撥簾看
⑤ 匡廬便是逃名地
⑥ 司馬仍為送老官
⑦ 心泰身寧是帰処
⑧ 故郷何独在長安
漢詩のきまり
本文の解説に入る前に、簡単に漢詩のきまりをおさらいしておきましょう。
つまり、今回は「七言律詩」となります。
押韻は
2句目:寒(kan)
4句目:看(kan)
6句目:官(kan)
8句目:安(an)
です。
今回は1句目では韻を踏んでいません。
※1句目で韻を踏まない場合もあります。
対句については、本文の中で解説します。
書き下し文(読み仮名付き)・語句解説・現代語訳
題名:香炉峰下、新たに山居を卜し草堂初めて成り、偶東壁に題す
語句 | 意味 |
香炉峰 | 廬山の北の峰の名前 |
下、 | ふもと |
新たに | 新しく |
山居 | 家を建てる |
卜し | 占い(家を建てる土地の吉凶を占うことを指している) |
草堂 | 粗末な建物のこと |
初めて~ | ~したばかり |
成り、 | 完成する |
偶 | 思いがけず、ふと |
東壁 | 東側の壁 |
題す | 詩を書きつける |
【訳】香炉峰のふもとに、新しく家を建てるために土地の吉凶を占い、草堂が完成したばかりなので、ふと東側の壁に詩を書きつけた
①日高く 睡り足りて 猶ほ起くるに慵し
語句 | 意味 |
日 | 太陽、陽 |
睡り | 睡眠 |
足りて | 十分で |
猶ほ | やはり |
起くる | 起きる |
慵し | 億劫だ |
【訳】陽は高く昇り 睡眠は十分だが やはり起きるのは億劫だ
長安で働いていた時は、夜明け前に出勤していました。
左遷されて干され、暇な仕事になったので、昼まで寝ている状況です。
②小閣に 衾を重ねて 寒を怕れず
語句 | 意味 |
小閣 | 小さな二階建ての家 |
衾 | 掛け布団 |
寒 | 寒さ |
怕れず | 心配ない |
【訳】小さな二階建ての草堂で、布団を重ねているので、寒さは心配ない
③遺愛寺の鐘は 枕を欹てて聴き
語句 | 意味 | 意味 |
遺愛寺 | 香炉峰の北にあった寺のこと | 十五(←三×五)夜 |
枕を欹てて | 枕から頭を上げて耳をすませて | 空にのぼったばかりの月 |
聴き | 聞く | 色、光 |
【訳】遺愛寺の鐘の音は、枕から頭を上げて耳を澄ませて聞き
④香炉峰の雪は 簾を撥げて看る
語句 | 意味 |
香炉峰 | 廬山の一峰。形が香炉に似ている山。 |
簾 | すだれ |
撥げて | はね上げる、勢いよく持ち上げる |
看る | 見る |
【訳】香炉峰の雪はすだれをあげてながめる
外から聞こえる鐘の音は寝たまま聞き、雪景色も寝床から出ないで眺めているのです。
寒いだろうし、起きる理由もないから布団から出ない感じ、わかります~
- 遺愛寺の鐘と香炉峰の雪
- 「枕を欹てて聴き」と「簾を撥げて看る」(聴覚と視覚)
⑤匡廬は便ち 是れ名を逃るるの地
語句 | 意味 |
匡廬 | 廬山の別名 |
~便ち是れ… | ~こそ…である |
名 | 名利(名声、名誉と利益) |
逃るる | 避ける |
地 | 場所 |
【訳】廬山こそ名利を避けるのにふさわしい場所であり
⑥司馬は仍ほ 老を送るの官為り
語句 | 意味 |
司馬 | 州の長官の補佐役。閑職とされていた。 |
仍ほ | やはり |
老を送る | 余生を送る |
官 | 官職 |
為り | 【断定】~である |
【訳】司馬もやはり余生を送るのにふさわしい官職である。
この時白居易は江州に左遷されていて、司馬という役職についていた。
本来、軍事をつかさどる役職です。
しかし、実際は仕事を与えられずにいました。
そんな状況の中、ここは名誉や利益から離れた場所だが、老後にのんびり過ごすにはちょうどいいと言っているのですね。
- 匡廬→名を逃るるの地
- 司馬→老いを送るの官
⑦心泰く 身寧きは 是れ帰する処
語句 | 意味 |
心泰く | 心が穏やかだ |
身寧き | 身が穏やかだ |
帰する処 | 落ち着くべき場所、安住の地 |
【訳】心身ともに穏やかに過ごせるところこそ、安住の地だろう
⑧故郷 何ぞ独り長安のみに在らんや
語句 | 意味 |
何ぞ~んや | 【反語】どうして~だろうか、いや~ではない。 |
独り | 【限定】ただ~だけ |
長安 | 中国の古都 |
【訳】故郷は、どうして長安だけだろうか、いや長安だけではない。
ここは心が安らぐ場所だ、故郷は都である長安だけではないと言っています。
「左遷されてきたけど、ここは心やすらぐいいところだよ!」と言っているのですね。
長安を「故郷」と言っていますが、白居易の生まれ故郷ではありません。
16歳から住んでいるため、「ほぼ故郷」として詠んだのでしょう。
白居易は本当に、この場所が安住の地だと思っているのでしょうか?
どうでしょうか…この後、白居易はまた長安に戻り、役人として活躍します。
それを考えると、この詩で詠んでいることが全てではないような気がします。
干されて仕事がない状態に、不満を感じてもいたはずです。
だとすると、強がっているように感じられますね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は白居易の「香炉峰下、新卜山居草堂初成、偶題東壁」を解説しました。
悠々自適ののんびりした生活を描いていて、「ここは心が安らぐ場所だ!」などと言っている白居易。
確かに長安で夜明け前から出勤して、バリバリ働いていたころに比べると「楽だなあ~」と感じてゆっくりできたかもしれません。
でも「このままでは終わらないぞ!」という思いもあり、強がりのようにも感じられる詩でした。
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