ここまでのお話は…源氏物語「須磨の秋②げにいかに~」
では続きを読んでいきましょう。
この場面は「須磨の秋」の中でも、私は一番好きです。
身から出た錆とは言いながら、愛する人たちと別れて須磨へ流れて来た源氏。
親しくしていた仲間や家臣が離れていく中、須磨についてきてくれた家臣たち。
その家臣たちとの和歌のやりとりが、深い絆を感じさせてくれます。
寂しいながらも温かい気持ちになる、救いとなる場面だと思います。
源氏物語「須磨の秋③前栽の花いろいろ咲き乱れ~」現代語訳・解説
本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳
前栽の花いろいろ咲き乱れ、おもしろき夕暮れに、海見やらるる廊に出で給ひて、
前栽の花が色とりどりに咲き誇り、趣のある夕暮れに、海が遠くに見える渡り廊下にお出になって、
語句 | 意味 |
前栽 | 名詞(庭の植え込みを指す) |
の | 格助詞 |
花 | 名詞 |
いろいろ | 副詞 |
咲き乱れ、 | ラ行下二段活用動詞「咲き乱る」(咲き誇る、咲き乱れる)連用形 |
おもしろき | ク活用の形容詞「おもしろし」(趣がある)連体形 |
夕暮れ | 名詞 |
に | 格助詞 |
海 | 名詞 |
見やら | ラ行四段活用動詞「見やる」(遠くを眺める)未然形 |
るる | 自発の助動詞「る」連体形 |
廊 | 名詞(渡り廊下) |
に | 格助詞 |
出で | ダ行下二段活用動詞「出づ」(出る)連用形 |
給ひ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形 【尊敬】書き手→源氏への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
たたずみ給ふ御さまの、ゆゆしう清らなること、
たたずんでいらっしゃる(源氏の)ご様子が、不吉なほどに美しいことは、
語句 | 意味 |
たたずみ | マ行四段活用動詞「たたずむ」(立ち止まること)連用形 |
給ふ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連体形 【尊敬】書き手→源氏への敬意 |
御さま | 名詞(ご様子) |
の、 | 格助詞 |
ゆゆしう | シク活用の形容詞「ゆゆし」(不吉である)連用形「ゆゆしく」のウ音便 |
清らなる | ナリ活用の形容動詞「清らなり」(とても美しい)連体形 |
こと、 | 名詞 |

「ゆゆしう清らなる」って、美しさと「不吉である」ことがしっくりこないのですが…

源氏物語において、源氏の美しさを「ゆゆし」と表現している箇所があります。
当時は、美しすぎると神に連れて行かれる(=命を落とす)という考えがありました。それ故に、「ゆゆし(不吉である)」なのです。
所がらはましてこの世のものと見え給はず。
(須磨という)場所柄だけにいっそう(源氏の美しさは)この世のものとは見えなさらない。
語句 | 意味 |
所がら | 名詞(場所柄) |
は | 係助詞 |
まして | 副詞(なおさら、いっそう) |
こ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
世 | 名詞 |
の | 格助詞 |
もの | 名詞 |
と | 格助詞 |
見え | ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」(連用形 |
給は | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」未然形 【尊敬】書き手→源氏への敬意 |
ず。 | 打消の助動詞「ず」終止形 |

「所がらはまして」とありますが、須磨という場所にはどんな意味があるのでしょうか?

以前 話したことがありましたが、この須磨の地は、在原行平が流された地です。
そこから「貴族が都を離れてひっそり暮らす場所と言えば須磨」というイメージが定着したと考えられます。
また、わびしい場所に対して源氏の華やかな美しさが「この世のものと見え給はず」だったことは、容易に想像がつきますね。
白き綾のなよよかなる、紫苑色など奉りて、
白い綾の柔らかなものに、紫苑色などを(重ねて)お召になって、
語句 | 意味 |
白き | ク活用の形容詞「白し」(白い)連体形 |
綾 | 名詞(綾織物) |
の | 格助詞 |
なよよかなる | ナリ活用の形容動詞「なよよかなり」(柔らかい)連体形 |
紫苑色 | 名詞(秋に着る襲カサネ色目の一つ。表が薄紫で、裏が青色) |
など | 副助詞 |
奉り | ラ行四段活用動詞「奉る」(お召しになる) 【尊敬】書き手→源氏への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
こまやかなる御直衣、帯しどけなくうち乱れ給へる御さまにて、
濃い藍色の御直衣に、帯はだらりとしておくつろぎなさっているご様子で、
語句 | 意味 |
こまやかなる | ナリ活用の形容動詞「こまやかなり」(色が濃い)連体形 |
御直衣、 | 名詞(男性の平服) |
帯 | 名詞 |
しどけなく | ク活用の形容詞「しどけなし」(しまりがない)連用形 |
うち乱れ | ラ行下二段活用動詞「うち乱る」(だらしなくなる、くつろぐ)連用形 |
給へ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」已然形 【尊敬】書き手→源氏への敬意 |
る | 存続の助動詞「り」連体形 |
御さま | 名詞 |
に | 格助詞 |
て、 | 接続助詞 |
「釈迦牟尼仏弟子。」と名のりて、ゆるるかに読み給へる、また世に知らず聞こゆ。
「釈迦牟尼仏弟子。」と名乗って、ゆったりと経を唱えていらっしゃる声は、これもまたこの世の中に例がなく(美しく)聞こえる。
語句 | 意味 |
「釈迦牟尼仏弟子。」 | 名詞(「お釈迦様の弟子」という意味。経文の一節を唱えたとする解釈もある) |
と | 格助詞 |
名のり | ラ行四段活用動詞「名のる」(名乗る) |
て、 | 接続助詞 |
ゆるるかに | ナリ活用の形容動詞「ゆるるかなり」(ゆったりと)連用形 |
読み | マ行四段活用動詞「読む」(経を唱える)連用形 |
給へ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」 【尊敬】書き手→源氏への敬意 |
る、 | 存続の助動詞「り」連体形 |
また | 副詞 |
世 | 名詞 |
に | 格助詞 |
知ら | ラ行四段活用動詞「知る」未然形 |
ず | 打消の助動詞「ず」連用形 |
聞こゆ。 | ヤ行下二段活用動詞「聞こゆ」(聞こえる)終止形 |
沖より舟どもの歌ひののしりて漕ぎ行くなども聞こゆ。
沖からいくつもの舟が(舟歌を)大声で歌って漕いで行くのなども聞こえる。
語句 | 意味 |
沖 | 名詞(沖合い) |
より | 格助詞 |
舟ども | 名詞(舟たち→いくつもの舟) |
の | 格助詞 |
歌ひののしり | ラ行四段活用動詞「歌ひののしる」(大声で歌う)連用形 |
て | 接続助詞 |
漕ぎ行く | カ行四段活用動詞「漕ぎ行く」(漕いで行く)連体形 |
など | 副助詞 |
も | 係助詞 |
聞こゆ。 | ヤ行下二段活用動詞「聞こゆ」終止形 |
ほのかに、ただ小さき鳥の浮かべると見やらるるも、心細げなるに、
(それらの舟が)ぼんやりと、まるで小さい鳥が浮かんでいるように遠くに見えるのも、もの寂しい感じがする上に、
語句 | 意味 |
ほのかに、 | ナリ活用の形容動詞「ほのかなり」(かすかだ、ぼんやりしている)連用形 |
ただ | 副詞(まるで) |
小さき | ク活用の形容詞「小さし」(ちいさい)連体形 |
鳥 | 名詞 |
の | 格助詞 |
浮かべ | バ行四段活用動詞「浮かぶ」已然形 |
る | 存続の助動詞「り」連体形 |
と | 格助詞 |
見やら | ラ行四段活用動詞「見やる」(遠くに見る)未然形 |
るる | 自発の助動詞「る」連体形 |
も、 | 係助詞 |
心細げなる | ナリ活用の形容動詞「心細げなり」(もの寂しい感じだ)連体形 |
に、 | 添加の接続助詞(~の上) |
雁のつらねて鳴く声、楫の音にまがへるを、うちながめ給ひて、
雁が列を作って鳴く声が、楫の音によく似ているのを、もの思いにふけりながら眺めなさって、
語句 | 意味 |
雁 | 名詞(がん。渡り鳥の一種) |
の | 格助詞 |
つらね | ナ行下二段活用動詞「つらぬ」(並ぶ、列を作る)連用形 |
て | 接続助詞 |
鳴く | カ行四段活用動詞「鳴く」連用形 |
声、 | 名詞 |
楫 | 名詞(舟を漕ぐ道具) |
の | 格助詞 |
音 | 名詞 |
に | 格助詞 |
まがへ | ハ行四段活用動詞「まがふ」(よく似る)已然形 |
る | 存続の助動詞「り」連体形 |
を、 | 格助詞 |
うちながめ | マ行下二段活用動詞「うちながむ」(物思いにふけって眺める)連用形 |
給ひ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形 【尊敬】書き手→源氏への敬意 |
て、 | 接続助詞 |

どういうことでしょうか?

舟を漕ぐときに楫を動かす「ギーコ、ギーコ」という音が、雁の鳴き声によく似ているということです。
涙のこぼるるをかき払ひ給へる御手つき、黒き御数珠に映え給へるは、
涙がこぼれるのを払いのけなさるお手つきが、黒い御数珠に映えていらっしゃる(美しさ)には、
語句 | 意味 |
涙 | 名詞 |
の | 格助詞 |
こぼるる | ラ行下二段活用動詞「こぼる」(こぼれる)連体形 |
を | 格助詞 |
かき払ひ | ハ行四段活用動詞「かき払ふ」(払いのける)連用形 |
給へ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」已然形 【尊敬】書き手→源氏への敬意 |
る | 存続の助動詞「り」連体形 |
御手つき、 | 名詞(お手つき) |
黒き | ク活用の形容詞「黒し」(黒い)連体形 |
御数珠 | 名詞 |
に | 格助詞 |
映え | ヤ行下二段活用動詞「映ゆ」(引き立って見える)連用形 |
給へ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」已然形 【尊敬】書き手→源氏への敬意 |
る | 存続の助動詞「り」連体形 |
は、 | 係助詞 |

「黒い数珠」を引き合いに出すことで、源氏の手の白さが表現されています。
当時の貴族にとっては、手の白さも美しさの一つなのでした。
ふるさとの女恋しき人々の心、みな慰みにけり。
都の女を恋しく思う人々の心も、みな慰められるのであった。
語句 | 意味 |
ふるさと | 名詞(もとの住まいのこと。ここでは都を指す) |
の | 格助詞 |
女 | 名詞 |
恋しき | シク活用の形容詞「恋し」(恋しい)連体形 |
人々 | 名詞 |
の | 格助詞 |
心、 | 名詞 |
みな | 副詞 |
慰み | マ行四段活用動詞「慰む」(慰められる、気がまぎれる)連用形 |
に | 完了の助動詞「ぬ」連用形 |
けり。 | 過去の助動詞「けり」終止形 |

どういうことなのでしょうか?

お供の人々は、都に家族や大切な人を残して須磨にきていたんでしたよね。
恋しく思う気持ちはあったと思いますが、近くに「光源氏」という美しくて、人としてもすばらしい人がいることで気がまぎれたということです。
和歌:初雁は 恋しき人の つらなれや 旅の空飛ぶ 声の悲しき
初雁の列は、(私が)恋しく思う(都の)人の仲間なのだろうか。旅の空を飛んで行く声が悲しく聞こえることだ。
語句 | 意味 |
初雁 | 名詞(その秋に初めて北から渡って来る雁のことを言う) |
は | 係助詞 |
恋しき | シク活用の形容詞「恋し」連体形 |
人 | 名詞 |
の | 格助詞 |
つら | 名詞(①列 ②仲間) ※「雁」の縁語となっており、ここでは①②の意味が掛けられている |
なれ | 断定の助動詞「なり」已然形 |
や | 疑問の係助詞(係) |
旅 | 名詞 |
の | 格助詞 |
空 | 名詞 |
飛ぶ | バ行四段活用動詞「飛ぶ」連体形 |
声 | 名詞 |
の | 格助詞 |
悲しき | シク活用の形容詞「悲し」連体形(結) |

ここでの「雁」は、「都に残してきた恋しい人」を思い出させる存在です。
雁の鳴き声が悲しく聞こえて、都に残してきた人も悲しんで泣いているのでないだろうか…という切ない気持ちが感じられます。
とのたまへば、良清、
とおっしゃると、良清が、
語句 | 意味 |
と | 格助詞 |
のたまへ | ハ行四段活用動詞「のたまふ」(おっしゃる)已然形 【尊敬】書き手→源氏への敬意 |
ば、 | 接続助詞 |
良清 | 人名(源良清。源氏の家来の一人) |
和歌:かきつらね 昔のことぞ 思ほゆる 雁はその世の 友ならねども
次から次へと昔のことが思い出されます。雁はそのときの友ではないのですが。
語句 | 意味 |
かきつらね | ナ行下二段活用動詞「かきつらぬ」(次々と思いを巡らせる)連用形 |
昔 | 名詞 |
の | 格助詞 |
こと | 名詞 |
ぞ | 係助詞(係) |
思ほゆる | ヤ行下二段活用動詞「思ほゆ」(思われる、感じられる)連体形(結) |
雁 | 名詞 |
は | 係助詞 |
そ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
世 | 名詞(とき、時代) ※その世…都にいた頃を指す |
の | 格助詞 |
友 | 名詞 |
なら | 断定の助動詞「なり」未然形 |
ね | 打消の助動詞「ず」已然形 |
ども | 逆接確定条件の接続助詞 |

この和歌において「雁」は、都でのことを思い出させる存在となっています。

先ほどの源氏の和歌を受けて、雁と都に残してきた人をリンクさせているのですね。
民部大輔、
民部大輔は、
語句 | 意味 |
民部大輔 | 名詞(人名。藤原惟光のこと。民部省の役職についていたので、ここでは役職名で呼ばれている。源氏の乳母子で、最も信頼できる家臣。) |
和歌:心から 常世を捨てて 鳴く雁を 雲のよそにも 思ひけるかな
(自らの)意志で常世の国を捨てて鳴く雁を、雲のかなたの別のところのことだと思っていたことだよ。
語句 | 意味 |
心 | 名詞(意志) |
から | 格助詞 |
常世 | 名詞(常世の国のことを指す。海の彼方にあると考えられていた理想郷のこと。ここでは自分の故郷を指している) |
を | 格助詞 |
捨て | タ行下二段活用動詞「捨つ」(捨てる/俗世間から逃れる)連用形 |
て | 接続助詞 |
鳴く | カ行四段活用動詞「鳴く」連体形 |
雁 | 名詞(渡り鳥である雁は、古くは常世からやって来る鳥だと思われていた) |
を | 格助詞 |
雲 | 名詞 |
の | 格助詞 |
よそ | 名詞(別のところ) |
に | 格助詞 |
も | 係助詞 |
思ひ | ハ行四段活用動詞「思ふ」連用形 |
ける | 過去の助動詞「けり」連体形 |
かな | 終助詞(~ことだ) |

ここでの「雁」は、ともに自らの意志で都(故郷)を捨てて来た存在として用いられています。前に雁を見た時には、気にも留めなかったのでしょう。
それが今になって、自分が雁と同じ状況だと気付いたと言っています。
前右近将監、
前右近将監は、
語句 | 意味 |
前右近将監 | 名詞(人名。架空の人物。尉の蔵人。空蝉の継子。源氏と親しくしていた為に右近将監の任を解かれたため、「前」となっている。) |
「常世出でて 旅の空なる かりがねも つらにおくれぬ ほどぞ慰む
常世の国を出て旅の空にある雁も、仲間に取り残されないでいる間は 心が慰められます。
語句 | 意味 |
常世 | 名詞 |
出で | ダ行下二段活用動詞「出づ」(出る)連用形 |
て | 接続助詞 |
旅 | 名詞 |
の | 格助詞 |
空 | 名詞 |
なる | 存在の助動詞「なり」(~にいる)連体形 |
かりがね | 名詞(雁のこと) |
も | 係助詞 |
つら | 名詞(仲間) |
に | 格助詞 |
おくれ | ラ行下二段活用動詞「おくる」(遅れる、取り残される)未然形 |
ぬ | 打消の助動詞「ず」連体形 |
ほど | 名詞(間) |
ぞ | 係助詞(係) |
慰む | マ行四段活用動詞「慰む」(慰められる、気がまぎれる)連体形(結) |

この部分は「 」でくくられているので、前右近将監の発言のように見えますが…

音で見るとわかるように、これも和歌ですね。
ここでは「雁」は、仲間と一緒に旅をしている存在として詠まれいます。
自分たちも故郷を捨てたとはいえ、仲間が一緒だから寂しくないと言っています。
友惑はしては、いかに侍らまし。」と言ふ。
仲間を見失っては、どんなに(心細いこと)でしょう。」と言う。
語句 | 意味 |
友 | 名詞(仲間) |
惑はし | サ行四段活用動詞「惑わす」(見失う)連用形 |
て | 接続助詞 |
は、 | 係助詞 |
いかに | 副詞(どれほど) |
侍ら | ラ行変格活用動詞「侍り」未然形 【丁寧】前右近将監→聞き手(源氏)への敬意 |
まし。」 | 反実仮想の助動詞「まし」連体形 |
と | 格助詞 |
言ふ。 | ハ行四段活用動詞「言ふ」終止形 |
親の常陸になりて下りしにも誘われで、参れるなりけり。
この人は、親が常陸介になって地方に行くのにもついていかずに、(源氏のお供としてこの地に)参上したのであった。
語句 | 意味 |
親 | 名詞(ここでは前右近将監の父である、伊予介を指す) |
の | 格助詞 |
常陸 | 名詞(常陸介…常陸国の役人。常陸国は、現在の茨城県※南西部を除く) |
に | 格助詞 |
なり | ラ行四段活用動詞「なり」連用形 |
て | 接続助詞 |
下り | ラ行四段活用動詞「下る」(都から地方に行く)連用形 |
し | 過去の助動詞「き」連体形 |
に | 格助詞 |
も | 係助詞 |
誘は | ハ行四段活用動詞「誘ふ」(連れて行く)未然形 |
れ | 受身の助動詞「る」未然形 |
で、 | 接続助詞(~ないで、~ずに) |
参れ | ラ行四段活用動詞「参る」(参上する、お仕えする)已然形 【謙譲】書き手→源氏への敬意 |
る | 完了の助動詞「り」連体形 |
なり | 断定の助動詞「なり」連用形 |
けり。 | 過去の助動詞「けり」終止形 |
【直訳】(親に)連れて行かれずに
【意訳】(親に)ついて行かずに

前右近将監は、もともとは出世コースにいた人でした。
しかし源氏と親しくしていたことで、右近将監の任を解かれてしまいます。
もともと親しくしていた人の中には、自分の身を守るために源氏と距離を置いた人もいました。
そんな中、前右近将監は「私も須磨に連れて行ってください」と自分から志願して源氏と共に須磨へ来たのでした。
下には思ひくだくべかめれど、誇りかにもてなして、つれなきさまにしありく。
心の中では思い悩むに違いないだろうが、誇らしげに振る舞って、平然とした様子で日々を過ごしている。
語句 | 意味 |
下 | 名詞(内心) |
に | 格助詞 |
は | 係助詞 |
思ひくだく | ハ行四段活用動詞「思ひくだく」(思い悩む)終止形 |
べか | 推量の助動詞「べし」連体形「べかる」の撥音便「べかん」の「ん」無表記 |
めれ | 推定の助動詞「めり」已然形 |
ど、 | 逆接確定条件の接続助詞(~けれども) |
誇りかに | ナリ活用の形容動詞「誇りかなり」(誇らしげである)連用形 |
もてなし | サ行四段活用動詞「もてなす」(振る舞う)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
つれなき | ク活用の形容詞「つれなし」(平然としている)連体形 |
さま | 名詞 |
に | 格助詞 |
しありく。 | カ行四段活用動詞「しありく」(あれこれと日々を過ごす)終止形 |

なんか、泣けてきました。

前回のお話では、源氏がお供の人々を気遣って冗談を言ったり、和歌や絵などに興じていましたね。
それに対してお供の人々も、源氏を思いやっている様子が描かれています。
源氏が須磨へ行くにあたり、親しくしていた人たちが離れて行きました。
そんな中、自分の大切な人を都に残して須磨について来てくれたお供の人々と源氏との絆は深いものだったのです。

そのことが、この和歌のやりとりでもうかがえます。

これらのことが、私がこの場面が好きな理由です。
みなさんも、感じ取っていただけたでしょうか?
続き:月のいとはなやかにさし出でたるに~
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