今回は杜甫の「春望」について解説をしていきます。
「春望」とは、春の日の眺めです。
作者である杜甫(712-770)は、唐の時代の詩人です。
李白と並び、有名な詩人です。
この詩は、杜甫が757年の安禄山の乱で長安に軟禁されていた時の作品です。
当時杜甫は、やっとの思いで役人になったばかりでした。
役人であったために、反乱軍につかまってしまったのです。
「軟禁」であったため、外の様子を見ながら詩を書くことができました。
この記事では
・書き下し文(読み仮名付き)
・語句の意味/解説
・現代語訳
・漢詩の形式や技法
以上の内容を順番にお話していきます。
「春望」白文・書き下し文・現代語訳・解説
杜甫「春望」白文・書き下し文(読み仮名付き)・語句解説・現代語訳
① 国破山河在
国破れて山河在り
語句 | 意味/解説 |
国 | 国の都である長安を指す |
破れて | 破壊されて |
山河 | 山と川 |
在り | 存在している |
【訳】国都である長安は破壊されてしまったが、山と川は(変わらずに)存在している
② 城春草木深
城春にして草木深し
語句 | 意味/解説 |
城 | 城壁で囲まれた都市のこと。長安のまちを指す。 |
草木 | 草や木 |
深し | 草木が生い茂っている |
【訳】長安のまちは春になったが、草や木が(昨年と同じように)深々と生い茂っている
第一句、二句目では、戦争をしているまちの様子と、自然は変わらずにいることの対比が表現されています。
② 感時花濺涙
時に感じては花にも涙を濺ぎ
語句 | 意味/解説 |
時に感じて | 時世に心を動かす |
涙を濺ぐ | はらはらと涙をこぼす |
【訳】戦乱の世に心を痛め、花を見てはらはらと涙をこぼす
「時世に心を動かす」って、どいういう意味ですか?
これは戦乱の世について、心を痛めているということを言っています。
なるほど…、涙の意味が理解できました。
④ 恨別鳥驚心
別れを恨みては鳥にも心を驚かす
語句 | 意味/解説 |
別れ | 家族との別れ |
恨む | いたみ悲しむ |
心を動かす | ビクッとする、はっとする |
【訳】家族との別れを悲しんでは、鳥の鳴き声にもビクッとする
反乱軍に軟禁されている杜甫は、家族と離れ離れの状況でした。
ここでは、戦乱の中の悲しみや寂しさを詠んでいます。
⑤ 峰火連三月
峰火三月に連なり
語句 | 意味/解説 |
峰火 | のろし。戦いの場で状況を知らせる合図として使うもの。 |
三月 | 数か月 |
連なる | 止まずに続く |
【訳】のろしは、数か月止まずに続いている
のろしが上がり続けているということは、ずっと戦いが続いているということですね。
⑥ 家書抵万金
家書万金に抵たる
語句 | 意味/解説 |
家書 | 家族からの手紙 |
万金 | 大金 |
抵たる | 値する |
【訳】家族からの手紙は、大金に値する
杜甫の家族は、疎開先にいました。
戦乱の世では、家族からの手紙なんて届くことも珍しいことです。
杜甫は家族を大切にした人だでした。
そんな大切な家族からの安否を知らせる手紙は、大金に値するというのは理解できます。
戦乱が続く中で、大切な家族を心配する作者の気持ちが詠まれていますね。
⑦ 白頭搔更短
白頭搔けば更に短く
語句 | 意味/解説 |
白頭 | 白髪頭 |
搔く | かく、かきむしる |
更に | ますます |
短い | 短くなる |
【訳】白髪頭をかきむしれば、ますます短くなり
頭を搔くというのは、焦りや苛立ちの気持ちを表しています。
心身共に、疲れ切っているのが感じられますね…
⑧ 渾欲不勝簪
渾て簪に勝へざらんと欲す
語句 | 意味/解説 |
渾べて | 全く |
簪 | かんざし(冠を固定するヘアピンのようなもの) |
勝へざらん | 支えきれない |
欲す | ~になりそうだ |
【訳】全く冠を固定するピンも、支えられなくなりそうだ
「冠をつけられない=役人として働くことができない」という思いが込められていると解釈することもあります。
詩の形式・表現技法
詩の形式…五言律詩(一句が五文字、八句からなる)
押韻…偶数句末
「深 sin」「心 sin」「金 kin」「簪 sin」
対句…第三句と第四句、第五句と第六句
レ点や一・二点が同じ場所についている(文法的な構造が同じ)
この詩では第一句と第二句も対句になっています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は杜甫の「春望」を取り上げました。
杜甫がどのような状況で詠んだ詩なのか、理解できたでしょうか。
戦乱の世の中で、家族を思う個人的な感情と、役人として捉えている思いが交互に描かれているのも特徴的でした。
詩を読む際には、作者の生き方や考え方、時代背景などを理解すると、さらに深く感じ取ることができます。
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