源氏物語「若紫②尼君、いで、あな幼や~」現代語訳・解説

古文

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今回は源氏物語より若紫「尼君、いで、あな幼や~」の部分について解説をしていきます。

源氏物語最大のヒロインとも言われる「紫の上」の物語は、この「若紫」から始まります。

かわいらしい女の子に光源氏が惹かれる理由とは?

・本文(読み仮名付き)
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説

以上の内容を順番にお話していきます。

 

光源氏の誕生(光る君誕生)

若紫①「日もいと長きに~」

 

源氏物語「若紫」品詞分解・現代語訳・解説

本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳

尼君あまぎみ、「いで、あな幼おさなや。いふかひいなのうものし給ふたもうかな。

尼君、 名詞
「いで、 感動詞(まったく。いやはや。※感動や驚きを表す)
あな 感動詞(ああ。まあ。)
幼 ク活用の形容詞「幼し」(幼稚だ。子どもっぽい。)の語幹用法【感動】
や。 間投助詞【詠嘆】
いふかひなう ク活用の形容詞「いふかひなし」(どうしようもない)連用形「いふかひなく」のウ音便化
ものし サ行変格活用補助動詞「ものす」(~ていらっしゃる)連用形 【尊敬】尼君→若紫への敬意
給ふ 尊敬の補助動詞「給ふ」連体形 尼君→若紫への敬意
かな。 終助詞【詠嘆】

【訳】尼君が、「まったく、ああ子供っぽいことよ。どうしようもなくていらっしゃるよ。

 

形容詞の語幹用法

ク活用の形容詞の場合

1. 感動「あな+形容詞語幹(+や)」
意味:ああ「形容詞」だなあ(なことよ)

2. 原因+理由「名詞(+を)+形容詞語幹+み」
意味:「名詞」が~なので

3. 連体修飾語「形容詞語幹+の+名詞」
意味:~な「名詞」

今回は 1.感動になります。

 

おのがかく今日きょう明日あすにおぼゆる命いのちをば、何なにとも思おぼしたらで、雀すずめ慕したひい給ふたもうほどよ。

おの 代名詞(自分自身。私。)
が 格助詞
かく 副詞(このように。)
今日明日 名詞
に 格助詞
おぼゆる ヤ行下二段活用動詞「おぼゆ」(思われる。感じられる。)
命 名詞
を 格助詞
ば、 係助詞【強調】
何 代名詞
と 格助詞
も 係助詞
思し サ行四段活用動詞「思す」(お思いになる)連用形【尊敬】尼君→若紫への敬意
たら 完了の助動詞「たり」未然形
で、 接続助詞【打消】
雀 名詞
慕ひ ハ行四段活用動詞「慕ふ」(あとを追う)連用形
給ふ 尊敬の補助動詞「給ふ」連体形
ほど 名詞(様子、ありさま、こと)
よ。 接続助詞【詠嘆】

【訳】私の、このように今日明日に(迫ったと)思われる命なんか、何ともお思いにならないで、雀のあとを追っていらっしゃることよ。

 

罪つみ得うることぞと常つねに聞きこゆるを、心憂こころうく。」とて、「こちや。」と言へいえば、ついゐいたり。

罪 名詞
得る ア行下二段活用動詞「得う」(受ける)連体形
こと 名詞
ぞ 終助詞【念押し】
と 格助詞
常に 副詞(いつも)
聞こゆる ヤ行下二段活用動詞「聞こゆ」(申し上げる)連体形【謙譲】尼君→若紫への敬意
を、 接続助詞【逆接確定条件(~のに。~けれども。)】
心憂く。」 ク活用の形容詞「心憂し」(情けない。)連用形
とて、 格助詞
「こち 代名詞(こちら。)
や。」 間投助詞【呼びかけ】
※こちや 【連語】こちらへ来なさい
と 格助詞
言へ ハ行四段活用動詞「言ふ」已然形
ば、 接続助詞【順接確定条件】
ついゐ ワ行上一段活用動詞「ついゐる」(ちょこんと座る)連用形
たり。 完了の助動詞「たり」終止形

【訳】(生き物をいじめるのは)仏罰を受けることですよ、いつも申し上げているのに、情けなく(思われる)。」と言って、「こちらに来なさい」と言うと、(若紫は)かしこまって座った。

「罪得る」の意味がよく分かりません。

ここで言う「罪」は仏罰を指します。

仏教界における「不殺生戒(生き物の命を絶つこと)」は最も重く、出家をしていない一般の人も犯さないと誓いを立てるほどのことだった。
雀を捕まえるということは命を絶ってしまうことにつながるということです。

また、「得る」には「好ましくないものを身に受ける」という意味があります。

あと…「心憂く」と連用形で終わっているのはなぜですか?

「連用形中止法」と言います。

連用形中止法とは?
あとに続くであろう語句を省略した形ここでは「おぼゆ(思われる。感じられる。)」が省略されていると解釈

 

つらつきいとらろうたげにて、眉まゆのわたりうちけぶり、いはわけなくかいやりたる額ひたいつき、髪かんざし、いみじううつくし。

つらつき 名詞(頬の様子)
いと 副詞(たいそう。非常に。)
らうたげに ナリ活用の形容動詞「らうたげなり」(かわいらしい)連用形
て、 接続助詞
眉 名詞
の 格助詞
わたり 名詞(辺り)
うち 接頭語(少し。ちょっと。)※語調を整えたり、続く動詞の意味を強めたりする。
けぶり、 ラ行四段活用動詞「けぶる」(ほんのりと美しく見える)連用形
いはけなく ク活用の形容詞「いはけなし」(子どもっぽい。あどけない。)連用形
かいやり ラ行四段活用動詞「かいやる」(払いのける)連用形
たる 完了の助動詞「たり」連体形
額つき、 名詞(額の様子)
髪ざし、 名詞(髪の生え具合)
いみじう シク活用の形容詞「いみじ」(たいそう)連用形「いみじく」ウ音便化
うつくし。 ク活用の形容詞「うつくし」(かわいいらしい。)終止形

【訳】(少女の)頬の様子は大変かわいらしく、(まだ剃り落としていない)眉のあたりはほんのりと美しく見えて、子どもっぽく払いのけた額の様子や、髪の生え具合は、たいそうかわいらしい。

当時は女性は成人すると眉を剃ったり抜いたりして、その上から眉を描いていました。
若紫はまだそのようなお化粧をせずに、自然の状態でいるのがかわいらしいということですね。

 

ねびゆかむんさまゆかしき人ひとかな、と目めとまり給ふたもう。

ねびゆか カ行四段活用動詞「ねびゆく」(成長していく)未然形
む 婉曲の助動詞「む」連体形
さま 名詞(様子)
ゆかしき シク活用の形容詞「ゆかし」(見たい。聞きたい。)連体形
人 名詞
かな 終助詞【詠嘆】
と、 格助詞
目 名詞
とまり ラ行四段活用動詞「とまる」連用形
給ふ。 ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」終止形【尊敬】作者→光源氏への敬意

【訳】これから成長してゆく様子を見たい人だなあと、(源氏は)目がとまりなさる。

 

さるは、限かぎりなう心こころを尽つくし聞きこゆる人に、いとよう似に奉たてまつれるが、まもらるるなりけり、と思ふおもうにも涙なみだぞ落おつる。

さるは、 接続詞(それと言うのも実は)
限りなう ク活用の形容詞「限りなし」(この上ない)連用形「限りなく」ウ音便化
心 名詞
を 格助詞
尽くし サ行四段活用動詞「尽くす」連用形
聞こゆる ヤ行下二段活用動詞「聞こゆ」(申し上げる)連体形【謙譲】光源氏→藤壺への敬意
人 名詞
に、 格助詞
いと 副詞(たいそう、非常に)
よう ク活用の形容詞「よし」連用形「よく」ウ音便化
似 ナ行上一段活用動詞「似る」連用形
奉れ ラ行四段活用の補助動詞「奉る」(~申し上げる)已然形【謙譲】光源氏→若紫への敬意
る 存続の助動詞「る」連体形
が、 格助詞
まもら ラ行四段活用動詞「まもる」(見つめる。見守る。目が離せない)未然形
るる 自発の助動詞「る」連体形
なり 断定の助動詞「なり」連用形
けり、 詠嘆の助動詞「けり」終止形
と 格助詞
思ふ ハ行四段活用動詞「思ふ」(感じる)連体形
に 格助詞
も 係助詞【強意】
涙 名詞
ぞ 係助詞※結び:落つる
落つる。 タ行上二段活用動詞「落つ」(落ちる)連体形【係り結び】

【訳】それと言うのも実は、この上なく心を尽くし(お慕い)申し上げている人に、たいそうよく似申し上げているので、思わず見つめられるのだなあと、思うにつけても涙が落ちるのだった。

「限りなう心を尽くし聞こゆる人」とは誰のことですか?

これは藤壺の宮ことを指します。
藤壺は光源氏の実母である桐壺が亡くなった後に、桐壺帝が迎えた奥さんです。

《人物相関図》

 


尼君あまぎみ
、髪かみをかき撫なでつつ、「梳けずることをうるさがり給たまへえど、をおかしの御髪みぐしや。

尼君、 名詞
髪 名詞
を 格助詞
かき撫で ダ行下二段活用動詞「かきなづ」(頭をなでる)連用形
つつ、 接続助詞【反復】
「梳る ラ行四段活用動詞「梳る」(櫛で髪をとかす)連体形
こと 名詞
を 格助詞
うるさがり ラ行四段活用動詞「うるさがる」(面倒がる)連用形※形容詞「うるさし」が動詞化したもの
給へ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」已然形【尊敬】尼君→若紫への敬意
ど、 接続助詞【逆接確定条件】
をかし シク活用の形容詞「をかし」(美しい)終止形
の 格助詞
御髪 名詞
や。 間投助詞【詠嘆】

【訳】尼君は、(少女の)髪をしきりになでては、「櫛で髪をとかすことを面倒がりなさるけれども、美しい御髪ですこと。

 

いとはかなのうものし給ふたもうこそ、あはわれに後うしろめたけれ。

いと 副詞(たいそう、非常に)
はかなう ク活用の形容詞「はかなし」(幼い)連用形「はかなく」ウ音便化
ものし サ行変格活用動詞「ものす」(いる)連用形
給ふ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」連体形【尊敬】尼君→若紫への敬意
※ものし給ふ ~でいらっしゃる
こそ、 係助詞 ※結び:うしろめたけれ(已然形)
あはれに ナリ活用の形容動詞「あはれなり」(どうしようもなく悲しい)連用形
うしろめたけれ。 ク活用の形容詞「うしろめたし」(どうなるか不安だ)已然形

【訳】(あなたが)たいそう幼くていらっしゃるのが、どうしようもなく悲しくどうなるか不安だ。

 

かばかりになれば、いとかからぬ人ひともあるものを。

かばかり 副詞(このくらい)
に 格助詞
なれ ラ行四段活用動詞「なる」已然形
ば、 接続助詞
いと 副詞(たいそう、非常に)
かから ラ行変格活用動詞「かかり」(こんなだ)未然形
ぬ 打消の助動詞「ぬ」連体形
人 名詞
も 係助詞
ある ラ行変格活用動詞「あり」連体形
ものを。 終助詞【詠嘆】

 【訳】これくらいの年ごろになると、もうこんなに幼稚でない人もあるものなのに。

「かからぬ人」は直訳すると「こんなでない人」となります。
ここでは「このように幼稚でない人」と訳しました。

 

故こ姫君ひめぎみは、十とおばかりにて殿とのにおくれ給たまひいしほど、いみじうものは思おもひい知しり給たまへえりしぞかし。

故姫君 名詞(ここでは若紫の母親を指す)
は、 係助詞
十 名詞(10歳)
ばかり 副助詞(ぐらい)
にて 格助詞
殿 名詞
に 格助詞
おくれ ラ行下二段活用動詞「おくる」(先立たれる)連用形
給ひ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」連用形【尊敬】尼君→故姫君への敬意
し 過去の助動詞「き」連体形
ほど、 名詞(頃、とき)
いみじう シク活用の形容詞「いみじ」(たいそう)連用形「いみじく」のウ音便化
もの 名詞(物事)
は 係助詞
思ひ知り ラ行四段活用動詞「思ひ知る」(十分理解する)連用形
給へ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」已然形【尊敬】尼君→故姫君への敬意
り 完了の助動詞「り」連用形
し 過去の助動詞「き」連体形
ぞ 終助詞【念押し】
かし。 終助詞【念押し】

【訳】あなたの亡くなった母上は、十歳ぐらいでお父上に先立たれなさったときは、たいそう物事を理解していらっしゃったのよ。

 

ただ今いまおのれ見捨みすて奉たてまつらば、いかで世よにおはせむんとすらむん。」とて、いみじく泣なくを見み給ふたもうも、すずろに悲かなし。

ただ今 副詞(ちょうど今)
おのれ 代名詞(私)
見捨て タ行下二段活用動詞「見捨つ」(あとに残して死ぬ)連用形
奉ら ラ行四段活用の補助動詞「奉る」未然形【謙譲】尼君→若紫への敬意
ば、 接続助詞
いかで 副詞(どのようにして)
世 名詞(世の中)
に 格助詞
おはせ サ行変格活用動詞「おはす」(いらっしゃる)未然形 【尊敬】尼君→若紫への敬意
む 意志の助動詞「む」終止形
と 格助詞
す サ行変格活用動詞「す」終止形
らむ。」 原因推量の助動詞「らむ」連体形
とて、 格助詞
いみじく シク活用の形容詞「いみじ」(たいそう)連用形
泣く カ行四段活用動詞「泣く」連体形
を 格助詞
見 マ行上一段活用動詞「見る」連用形
給ふ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」連体形【尊敬】作者→光源氏への敬意
も、 係助詞
すずろに、 ナリ活用の形容動詞「すずろなり」(わけもない)連用形
悲し。 シク活用の形容詞「悲し」(切なく悲しい)終止形

 【訳】たった今、私が(あなたを)残して死に申し上げたなら、どのようにして生きていこうとなさるのだろう。」と言って、ひどく泣くのを(源氏は)御覧になるにつけても、わけもなく切なく悲しい。

「世におはす」は直訳すると「この世にいらっしゃる」となります。
ここでは「この世で生きていく」としました。

 

幼心地おさなごごちにも、さすがにうちまもりて、伏ふし目めになりてうつぶしたるに、こぼれかかりたる髪かみ、つやつやとめでたとう見みゆ。

幼心地 名詞(子ども心)
に 格助詞
も、 係助詞
さすがに 副詞(やはり)
うちまもり ラ行四段活用動詞「うちまもる」(じっと見つめる)連用形
て、 接続助詞
伏し目 名詞
に 格助詞
なり ラ行四段活用動詞「なる」連用形
て 接続助詞
うつぶし サ行四段活用動詞「うつぶす」(うつむく)連用形
たる 完了の助動詞「たり」連体形
に、 格助詞
こぼれかかり ラ行四段活用動詞「こぼれかかる」(垂れ下がって顔にかかる)連用形
たる 存続の助動詞「たり」連体形
髪、 名詞
つやつやと 副詞
めでたう ク活用の形容詞「めでたし」(すばらしい)連用形「めでたく」のウ音便化
見ゆ。 ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」(見える)終止形

 【訳】(少女は)子ども心にも、やはり(尼君の顔を)じっと見つめて、伏し目になってうつむいたところに、垂れ下がって顔にかかる髪は、つやつやとしてすばらしく見える。

 

【和歌】生おひい立たたむん ありかも知しらぬ若草わかくさを おくらす露つゆぞ 消きえむんそらなき

生ひ立た タ行四段活用動詞「生ひ立つ」(成長していく)未然形
む 婉曲の助動詞「む」連体形
ありか 名詞(落ち着くところ、行く末)
も 係助詞
知ら ラ行四段活用動詞「知る」(わかる)未然形
ぬ 打消の助動詞「ぬ」連体形
若草 名詞(若紫を指す)
を 格助詞
おくらす サ行四段活用動詞「おくらす」(あとに残す)連体形
露 名詞(尼君のことを指す)
ぞ 係助詞
消え ヤ行下二段活用動詞「消ゆ」(消える、死ぬ)未然形
む 婉曲の助動詞「む」連体形
そら 名詞
なき ク活用の形容詞「なし」連体形

 【和歌訳】成長していくその行く先もわからない若草をあとに残す露は、消える空がありません。
⇒成長していくその行く先もわからない姫君を残す私は、死ぬにも死にきれない気持ちです。

「露」は「消えかかる命」を表しており、尼君のことを表しています。

 

またゐいたる大人おとな、「げに。」とうち泣なきて、

また 副詞(やはり、同じく)
ゐ ワ行上一段活用動詞「ゐる」(座っている)連用形
たる 存続の助動詞「たり」連体形
大人、 名詞(年配の女房)
「げに。」 副詞(本当に、まあ)
と 格助詞
うち泣き カ行四段活用動詞「うち泣く」(ふっと涙をこぼす)連用形
て、 接続助詞

【訳】(と尼君が歌をよむと、)同じく座っている年配の女房は、「本当に、まぁ」とふっと涙をこぼして、

 

【和歌】初草はつくさの 生おひいゆく末すえも 知しらぬまに いかでか露つゆの 消きえむんとすらむん

初草 名詞(若草。ここでは若紫のことを指す)
の 格助詞
生ひゆく カ行四段活用動詞「生ひゆく」(成長していく)連体形
末 名詞(先、将来)
も 係助詞
知ら ラ行四段活用動詞「知る」未然形
ぬ 打消の助動詞「ぬ」連体形
ま 名詞(うち、あいだ)
に 格助詞
いかで 副詞(どうして~か、いや~でない※反語)
か 係助詞
露 名詞(尼君のことを指す)
の 格助詞
消え ヤ行下二段活用動詞「消ゆ」(消える、亡くなる)未然形
む 意志の助動詞「む」終止形
と 格助詞
す サ行変格活用動詞「す」終止形
らむ 原因推量の助動詞「らむ」連体形

 【和歌訳】この若草が成長していく先も知らないうちに、どうして露が消えようとするのでしょうか、いや消えようとはしない。
⇒この姫君が成長していく将来もわからないうちに、どうして尼君は露のようにお亡くなりになることがあるだろうか、いや元気で生きていてください。

これは尼君の和歌を受けて、「そんな弱気なことを言わないで、元気に長生きしてください」と年配の女房は言っているのです。

 

と聞きこゆるほどに、僧都そうづあなたより来きて、

と 格助詞
聞こゆる ヤ行下二段活用動詞「聞こゆ」(申し上げる)連体形【謙譲】作者→尼君への敬意
ほど 名詞(間、うち)
に、 格助詞
僧都 名詞(僧侶の役人の位の一つ。ここでは尼君の兄のことを指す)
あなた 代名詞(向こうの方、あちら)
より 格助詞
来 カ行変格活用動詞「来」(来る)連用形
て、 接続助詞

【訳】と申し上げるうちに、僧都があちらから来て、

 

「こなたはあらはにや侍はべらむん。

「こなた 代名詞(こちら)
は 係助詞
あらはに ナリ活用の形容動詞「あらはなり」(丸見えだ)
や 係助詞
侍ら ラ行変格活用動詞「侍り」未然形【丁寧】僧都→尼君への敬意
む。 推量の助動詞「む」連体形

【訳】「こちらはまる見えではございましょうか。

 

今日きょうしも端はしにおはわしましけるかな。

今日 名詞(今日)
しも 【強意】副助詞(~にかぎって)
端 名詞(縁側。外に近いところ)
に 格助詞
おはしまし サ行四段活用動詞「おはします」(いらっしゃる)【尊敬】僧都→尼君への敬意
ける 詠嘆の助動詞「けり」連体形
かな。 終助詞【詠嘆】

 【訳】今日にかぎって、外に近いところにいらっしゃったのですね。

 

この上かみの聖ひじりの方かたに、源氏げんじの中将ちゅうじょうの、瘧病わらわやみまじなひいにものし給ひたまいけるを、ただ今いまなむん聞ききつけ侍はべる。

こ 代名詞
の 格助詞
上 名詞
の 格助詞
聖 名詞(高徳の僧。ここでは北山の聖を指す)
の 格助詞
方 名詞(ところ)
に、 格助詞
源氏の中将 名詞(光源氏のこと)
の、 格助詞
瘧病 名詞(わらわやみ)
まじなひ ハ行四段活用動詞「まじなふ」(祈祷する)連用形
に 格助詞
ものし サ行変格活用動詞「ものす」(~いらっしゃる)連用形
給ひ ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形【尊敬】僧都→光源氏への敬意
ける 過去の助動詞「けり」連体形
を、 格助詞
ただ今 副詞(ちょうど今)
なむ 係助詞 ※結び:侍る(連体形)
聞きつけ カ行下二段活用動詞「聞きつく」(聞きつける)連用形
侍る。 ラ行変格活用動詞「侍り」連体形 ※係り結び【丁寧】僧都→尼君への敬意

【訳】この上の北山の聖のところに、源氏の中将が、わらわやみを祈祷にいらっしゃったのを、ちょうど今聞きつけました。

 

いみじう忍しのび給ひたまいければ、知しり侍はべらで、ここに侍はべりながら、御訪おんとぶらひいにもまもうでざりける。」とのたまへえば、

いみじう シク活用の形容詞「いみじ」(はなはだしい)連用形「いみじく」のウ音便化
忍び バ行四段活用動詞「忍ぶ」(人目を避ける)連用形
給ひ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」連用形【尊敬】僧都→光源氏への敬意
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ば、 接続助詞【順接確定条件】
知り ラ行四段活用動詞「知る」連用形
侍ら ラ行変格活用補助動詞「侍り」未然形 【丁寧】僧都→尼君への敬意
で、 接続助詞【打消】
ここ 代名詞
に 格助詞
侍り ラ行変格活用動詞「侍り」(おります)連用形 【丁寧】僧都→尼君への敬意
ながら、 接続助詞【逆接】
御訪ひ 名詞(お見舞い)
に 格助詞
も 係助詞
もうで ダ行下二段活用動詞「もうづ」(参上する)未然形【謙譲】僧都→光源氏への敬意
ざり 打消の助動詞「ず」連用形
ける。」 詠嘆の助動詞「けり」連体形
と 格助詞
のたまへ ハ行四段活用動詞「のたまふ」(おっしゃる)已然形【尊敬】作者→僧都への敬意
ば、 接続助詞

【訳】ひどく人目を避けていらっしゃったので、知りませんで、ここにおりますのに、お見舞いにも参上しませんでしたよ。」とおっしゃると、

 

「あないみじや。いとあやしきさまを人ひとや見みつらむん。」とて、簾すだれ下おろしつ。

「あな 感動詞(ああ)
いみじ シク活用の形容詞「いみじ」(ひどい)終止形
や。 間投助詞【詠嘆】
いと 副詞(たいそう、非常に)
あやしき シク活用の形容詞「あやし」(見苦しい、みっともない)連体形
さま 名詞(様子)
を 格助詞
人 名詞(ほかの人)
や 係助詞【疑問】
見 マ行上一段活用動詞「見る」連用形
つ 完了の助動詞「つ」終止形
らむ。」 推量の助動詞「らむ」連体形
とて、 格助詞
簾 名詞
下ろし サ行四段活用動詞「下ろす」連用形
つ。 完了の助動詞「つ」終止形

【訳】「ああひどい。たいそう見苦しい様子を、誰かが見てしまっただろうか。」と言って、簾を下ろしてしまった。

 

「この世よにののしり給ふたもう光源氏ひかるげんじ、かかるついでに見み奉たてまつり給たまはわむんや。

「この世 名詞(世間)
に 格助詞
ののしり ラ行四段活用動詞「ののしる」(評判になる)連用形
給ふ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」連体形【尊敬】僧都→光源氏への敬意
光源氏、 名詞
かかる ラ行変格活用動詞「かかり」(このような、こういう)連体形
ついで 名詞(機会)
に 格助詞
見 マ行上一段活用動詞「見る」連用形
奉り ラ行四段活用補助動詞「奉る」連用形【謙譲】僧都→光源氏への敬意
給は ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」未然形【尊敬】僧都→尼君への敬意
む 勧誘の助動詞「む」終止形
や。 係助詞【疑問】

 【訳】「世間で評判になっていらっしゃる光源氏を、この機会に拝見なさってはいかがだろうか。

 

世よを捨すてたる法師ほうしの心地ここちにも、いみじう世よの憂へうれえ忘わすれ、齢よわい延のぶる人ひとの御おんありさまなり。

世 名詞
を 格助詞
捨て タ行下二段活用動詞「捨つ」(出家する、俗世間から逃れる)連用形
たる 完了の助動詞「たり」連体形
法師 名詞
の 格助詞
心地 名詞(気持ち)
に 格助詞
も、 係助詞
いみじう シク活用の形容詞「いみじ」(たいそう)連用形「いみじく」ウ音便化
世 名詞(世間)
の 格助詞
憂へ 名詞(心配事)
忘れ、 ラ行下二段活用動詞「忘る」(忘れる)連用形
齢 名詞(寿命)
延ぶる バ行上二段活用動詞「延ぶ」(延びる)連体形
人 名詞(あの人※特定の人⇒ここでは光源氏を指して使っている)
の 格助詞
御ありさま 名詞(ご様子)
なり。 断定の助動詞「なり」終止形

 【訳】俗世間から逃れた法師の(身である私の)心にも、(見れば)すっかり世間の心配事を忘れ、寿命が延びるようなあの方のご様子です。

イケメンを見たら若返るっていう感じですかね

 

いで、御おん消息しょうそこ聞きこえむ。」とて立たつ音おとすれば、帰かえり給たまひいぬ。

いで、 感動詞(さあ)
御消息 名詞(ご挨拶)
聞こえ ヤ行下二段活用動詞「聞こゆ」(申し上げる)連用形【謙譲】僧都→光源氏への敬意
む。」 意志の助動詞「む」終止形
とて 格助詞
立つ タ行四段活用動詞「立つ」連体形
音 名詞
すれ サ行変格活用動詞「す」已然形
ば、 接続助詞
帰り ラ行四段活用動詞「帰る」連用形
給ひ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」連用形【尊敬】作者→光源氏への敬意

 【訳】さあ、ご挨拶を申し上げよう。」と言って立つ音がするので、(源氏は寺に)お帰りになられた。

自分に挨拶に来ようとしている人の家を覗いてた…なんてかっこ悪いですもんね。

「やばい、やばい」と、そそくさと帰る光源氏の様子が想像できます。

 

あはわれなる人ひとを見みつるかな、かかれば、このすき者ものどもはかかる歩ありきのみして、よくさるまじき人ひとをも見みつくるなりけり、

あはれなる ナリ活用の形容動詞「あはれなり」(しみじみと心ひかれる)連体形
人 名詞
を 格助詞
見 マ行上一段活用動詞「見る」連用形
つる 完了の助動詞「つ」連用形
かな、 終助詞
かかれ ラ行変格活用動詞「かかり」(こんなだ)已然形
ば、 接続助詞
こ 代名詞
の 格助詞
すき者ども 名詞(色好みの人たち)
は 係助詞
かかる 連体詞(このような)
歩き 名詞(忍び歩き)
のみ 副助詞(~ばかり)
し サ行変格活用動詞「す」連用形
て、 接続助詞
よく ク活用の形容詞「よし」連用形
さる ラ行変格活用動詞「さり」(まさに~である)連体形
まじき 打消推量の助動詞「まじ」連体形
人 名詞
を 格助詞
も 係助詞
見つくる ラ行下二段活用動詞「見つく」(見つける)連体形
なり 断定の助動詞「なり」連用形
けり、 詠嘆の助動詞「けり」終止形

 【訳】しみじみと心ひかれる人を見たものだなぁ。このよう(かわいい人が目に留まるの)だから、この色好の人たちは、このような外出ばかりして、よく思いがけない人を見つけになるものだなぁ。

「さるまじき」は直訳すると「そうであるはずがない」となります。
ここでは「そこにいるはずがない人⇒思いがけない人」と訳しました。

源氏は帝の息子だし、そう簡単に垣間見できないんですよね。今回もお忍びって感じでしたし。
世の好き者男性たちが、こうやってかわいい子探しに垣間見して歩くのがわかるなあ~って言ってる気がします。

 

たまさかに立たち出いづるだに、かく思おもひいのほかなることを見みるよ、とをおかしう思おぼす。

たまさかに ナリ活用の形容動詞「たまさかなり」(偶然だ)連用形
立ち出づる ダ行下二段活用動詞「立ち出づ」(出ていく)連体形
だに、 副助詞(さえ)
かく 副詞(このように)
思ひのほかなる ナリ活用の形容動詞「思ひのほかなり」(思いがけない。意外だ)連体形
こと 名詞
を 格助詞
見る マ行上一段活用動詞「見る」(経験する。出会う)連体形
よ、 間投助詞(~なあ)
と 格助詞
をかしう シク活用の形容詞「をかし」(興味深い)連用形「をかしく」ウ音便化
思す。 サ行四段活用動詞「思す」(お思いになる)【尊敬】作者→光源氏への敬意

【訳】偶然に出てきてさえ、このように思いがけないことを経験するものだなあと、興味深くお思いになる。

 

さても、いとうつくしかりつる児ちごかな、何人なにびとならむん、かの人ひとの御おん代かはわりに、明あけ暮くれの慰なぐさめにも見みばや、と思おもふう心こころ深ふこうつきぬ。 

さても、 感動詞(なんとまあ)
いと 副詞(たいそう、非常に)
うつくしかり シク活用の形容詞「うつくし」(かわいらしい)連用形
つる 完了の助動詞「つ」連体形
児 名詞(幼児)
かな、 終助詞
何人 名詞(どのような人)
なら 断定の助動詞「なり」未然形
む、 推量の助動詞「む」終止形
かの人 名詞(あの人※ここでは藤壺の宮のことを指す)
の 格助詞
御代はり 名詞
に、 格助詞
明け暮れ 名詞(毎日)
の 格助詞
慰め 名詞
に 格助詞
も 係助詞
見 マ行上一段活用動詞「見る」未然形
ばや、 終助詞【願望】~たいものだ
と 格助詞
思ふ ハ行四段活用動詞「思ふ」連体形
心 名詞
深う ク活用の形容詞「深し」(気持ちが強い)連用形「深く」のウ音便化
つき カ行四段活用動詞「つく」(起こる。生じる)連用形
ぬ。 完了の助動詞「ぬ」終止形

【訳】ほんとにまあ、非常にかわいらしい子であった、どのような人なのだろう、あの人(藤壺の宮)の御代わりに、毎日の慰めに(あの子を)見たいものだ、と思う心が強く起こった。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか?
今回は源氏物語より「若紫」の「尼君、いで、あな幼や~」について解説しました。

かわいらしい若紫に光源氏がなぜか心惹かれる…という理由は、実は大好きな藤壺の宮に似ていたからでした。

それもそのはず、藤壺の宮の兄が若紫の父親だったのですから。

《復習:人物相関図》

たくさんの女性が登場する源氏物語ですが、実は光源氏が思いを寄せる女性たちには共通点があるとも言われています。

それらのことに注目しながら、作品を楽しんでみてください。

この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

自分の生徒には直接伝えられるけど、
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