大鏡「時平と道真①」現代語訳・解説(あさましき悪事を~)

古文

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今回は大鏡より「時平と道真」①あさましき悪事を~の部分について解説をしていきます。

 

・本文(読み仮名付き)
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説

 

以上の内容を順番にお話していきます。

大鏡「時平と道真」品詞分解・現代語訳・解説

本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳

 あさましき悪事あくじもうおこなたまりしつみにより、この大臣おおど御末おんすえはおせぬなり。

あさましき シク活用の形容詞「あさまし」連体形(あきれるほどひどい)
悪事 名詞
格助詞
申し サ行四段活用動詞「申す」連用形 謙譲(作者→帝への敬意)
行ひ ハ行四段活用動詞「行ふ」(とりおこなう)連用形 ※「申し行ふ」…進言する
給へ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」已然形 尊敬(作者→左大臣 時平への敬意)
完了の助動詞「り」連用形
過去の助動詞「き」連体形
名詞
格助詞
より、 四段活用動詞「よる」連用形(原因となる)
代名詞
格助詞
大臣 名詞
格助詞
御末 尊敬の接頭語「御」+名詞「末」(子孫)
係助詞
おはせ サ行変格活用動詞「おはす」未然形 尊敬(作者→左大臣 時平への敬意)
打消の助動詞「ぬ」連体形
なり。 断定の助動詞「なり」終止形

 

【訳】あきれるほどひどい悪事を(帝へ)進言なさった罪によって、この大臣(=左大臣 時平)のご子孫は(絶えて)いらっしゃらないのです。

 

「あさましき悪事」とは、左大臣 藤原時平が右大臣 菅原道真を嘘情報で左遷させたことを指します。

 

 

さるは、大和魂やまとだましいなどは、いみじくおしましたるものを。

 

さるは、 接続詞(そうではあるが)逆接
大和魂 名詞(物事を処理する能力、政治的手腕)
など 副助詞(~など)
は、 係助詞
いみじく シク活用の形容詞「いみじ」連用形(すばらしい)
おはしまし サ行四段活用の補助動詞「おはします」連用形 尊敬(作者→左大臣 時平への敬意)
たる 完了の助動詞「たり」連体形
ものを。 終助詞(~のになあ)

 

【訳】そうではあるが、政治的手腕などは、すばらしくていらっしゃるのに。

 

 

延喜えんぎの、世間せけん作法さほうしたためさせたましかど、

 

延喜 名詞(延喜の帝、醍醐天皇)
の、 格助詞
世間 名詞(この世、世の中)
格助詞
作法 名詞(習慣、慣例)
したため 行下二段活用動詞「したたむ」(指図する)※取り締まると解釈未然形
させ 尊敬の助動詞「さす」連用形 (作者→帝)
給ひ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」連用形 尊敬(作者→帝)※させ給ひ…【二重敬語】
しか 過去の助動詞「き」已然形
ど、 接続助詞【逆接確定条件】~けれども、~が

 

【訳】延喜の帝(醍醐天皇)が、世の中の習慣を取り締まりなさったのですが、

 

過差かさをばえしづめさせたまざりしに、

 

過差 名詞(ぜいたく)
格助詞
係助詞
副詞「え~ず」(~できない)
しづめ マ行下二段活用動詞「しづむ」未然形(おさめる、おさえる)
させ 尊敬の助動詞「さす」連用形 (作者→帝への敬意)
給は ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」未然形 尊敬(作者→帝への敬意)【二重敬語】
ざり 打消の助動詞「ず」連用形
過去の助動詞「き」連体形
に、 格助詞

 

【訳】ぜいたくを抑えなさることができずにいたときに、

 

この殿とのせいやぶりたる御装束おんしょうぞくの、ことのほかにめでたきをして、

 

この 代名詞
殿、 名詞(貴人の尊称。ここでは左大臣 時平のことを指す)
名詞(おきて、禁制)
格助詞
破り ラ行四段活用動詞「破る」連用形(破る、犯す)
たる 完了の助動詞「たり」連体形
御装束 尊敬の接頭語「御」+名詞「装束」(服装)
の、 格助詞【同格】~であって(しかも)
ことのほかに ナリ活用の形容動詞「ことのほかなり」連用形(特別だ)
めでたき ク活用の形容詞「めでたし」連体形(見事だ、立派だ)
格助詞
サ行変格活用動詞「す」連用形
て、 接続助詞

 

【訳】この殿(=左大臣 時平)はおきてを破ったお召し物で、特別立派な(服装)をして、

 

内裏だいりまいたまて、殿上てんじょうさぶらたまを、

 

内裏 名詞(天皇の住まい)
格助詞
参り ラ行四段活用動詞「参る」連用形(参上する、伺う) 謙譲(作者→帝への敬意)
給ひ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」連用形(作者→左大臣 時平への敬意)
て、 接続助詞
殿上 名詞(殿上の間)
格助詞
候は ハ行四段活用動詞「候ふ」(お仕えする、伺候する)未然形 謙譲(作者→帝への敬意)
尊敬の助動詞「す」連用形(作者→左大臣 時平への敬意)
給ふ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」連体形(作者→左大臣 時平への敬意)
を、 格助詞

 

【訳】内裏に参上なさって、天上の間に伺候なさるのを、

 

 「候ふ」の読み方は「そうろう」なのですか?「さぶろう」なのですか?

 

大鏡の成立は平安時代なので、ここでの読み方は「さぶらう/さぶろう」です。
中世以降「(さうらう)そうろう」と読み方が変化し、女性語として「(さぶらふ)さぶらう/さぶろう」が使われていました。

 

「さぶらう」「さぶろう」についてはどうなんでしょうか?

 

辞書などには「さぶら(ろ)う」と書かれているようです。

「どちらでもよい」というよりほかありません…

 

 

みかど小蔀こじとみよりごらんじて、けしきいとあしくならせたまて、

 

帝、 名詞
小蔀 名詞(天皇が殿上の間を見ることができる蔀のある小窓)
より 格助詞
御覧じ サ行変格活用動詞「御覧ず」(ご覧になる)連用形 尊敬(作者→帝への敬意)
て、 接続助詞
御けしき 名詞(ご機嫌)
いと 副詞(大変)
あしく シク活用の形容詞「あし」(悪い)連用形
なら ラ行四段活用動詞「なる」(なる、変わる)未然形
尊敬の助動詞「す」連用形 (作者→帝への敬意)
給ひ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」連用形(作者→帝への敬意)
て、 接続助詞

 

【訳】帝は、小蔀からご覧になると、ご機嫌が大変悪くなられて、

 

職事しきじして、「世間せけん過差かさせいきびしきころ、

 

職事 名詞(蔵人の頭、蔵人)
格助詞
召し サ行四段活用「召す」(お呼びになる)連用形 尊敬(作者→帝への敬意)
て、 接続助詞
「世間 名詞(この世、世の中)
格助詞
過差 名詞(ぜいたく)
格助詞
名詞(おきて、禁制)
きびしき シク活用の形容詞「きびし」(厳しい)連体形
ころ、 名詞(折)

 

【訳】蔵人をお呼びになって、「世の中のぜいたくの禁制が厳しい折、

 

左大臣さだいじんの、いちひとといながら、美麗びれいことのほかにてまいれる、便びんなきことなり。

 

左大臣 名詞
の、 格助詞
一の人 名詞(摂政・関白の別名)※時平はそのどちらでもないことから、ここでは「天皇を補佐する役職」と訳する
格助詞
いひ ハ行四段活用動詞「いふ」(言う)連用形
ながら、 接続助詞【逆接】(~のに)
美麗 名詞(美しくあでやか)
ことのほかに ナリ活用の形容動詞「ことのほかなり」連用形(格別だ)
接続助詞
参れ ラ行四段活用動詞「参る」已然形 謙譲(帝→帝への敬意)
る、 存続の助動詞「連体形」
便なき ク活用の形容詞「便なし」(都合が悪い)連体形
こと 名詞
なり。 断定の助動詞「なり」終止形

 

【訳】左大臣で、天皇を補佐する役職と言うのに、美しくあでやかなことが格別で参上する(ことは)、不都合なことだ。

 

帝→帝への敬意とは、どういうことでしょうか?

自分から自分への敬語を「自敬表現」と言います。
ここでは帝自身というよりは、朝廷を指していると捉えた方が良さそうです。

 

はやくまかりづべきよしおおせよ。」とおおせられければ、

 

はやく ク活用の形容詞「はやし」(はやい)連用形
まかり出づ ダ行下二段活用動詞「まかり出づ」(退出する)終止形 謙譲(帝→朝廷への敬意)
べき 命令の助動詞「べし」連体形
よし 名詞(趣旨)
仰せよ。」 サ行下二段活用動詞「仰す」(おっしゃる)未然形 尊敬(帝→帝への敬意)
格助詞
仰せ サ行下二段活用動詞「仰す」(命じる)未然形 尊敬(作者→帝への敬意)
られ 尊敬の助動詞「らる」連用形(作者→帝への敬意)
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ば、 接続助詞【原因・理由】(~ので)

 

【訳】はやく退出せよという旨を伝えよ。」と命じらせたので、

 

「はやくまかり出づべきよし仰せよ。」の「仰せよ」蔵人(職事)への敬意ではないのですか?

 

この尊敬語は「命令している人物=帝」に対するものです。
蔵人はそれを伝えるだけの存在で、敬意の対象とはなりません。

 

うけたまわ職事しきじは、いかなることにかとおそおもけれど、

 

承る ラ行四段活用動詞「承る」(お受けする)連体形 謙譲(作者→帝への敬意)
職事 名詞
は、 係助詞
いかなる ナリ活用の形容動詞「いかなり」連体形(どのようだ)
こと 名詞
断定の助動詞「なり」連用形
係助詞
格助詞
恐れ思ひ ハ行四段活用動詞「恐れ思ふ」(心配する、不安に思う)連用形
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ど、 接続助詞【逆接の確定条件】~けれども

 

【訳】(帝の言葉を)お受けした蔵人は、どうのようなことであるかと不安に思ったけれども、

 

 

まいりて、わななくわななく、しかしかともうしければ、

 

参り ラ行四段活用動詞「参る」(参上する)連用形
て、 接続助詞
わななくわななく カ行四段動詞「わななく」(手足が震える)の終止形を繰り返して副詞化したもの(ぶるぶる震えながら、恐る恐る)
しかしか 副詞(これこれ)
格助詞
申し サ行四段活用動詞「申す」連用形(作者→左大臣 時平への敬意)
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ば、 接続助詞【順接確定条件】(~たところ)

 

【訳】(左大臣 時平のもとへ)参上して、恐る恐るこれこれと(帝からの伝言を)申し上げたところ、

 

直接、帝が左大臣に注意をせず、職事を介して「退出せよ」と言っているところがポイントです。

 

 

通常なら直接会話をする帝と左大臣が、わざわざ職事に伝言させることで「帝はあんたと口もききたくないくらい怒ってるみたいだよ…」と分かります。

先にネタバレになってしまいますが、この職事を間に入れることで帝と時平の作戦は成功したのです。

二人がお芝居をしても、それを見ている人がいなければ成り立ちません。

職事は、
・帝が時平にめちゃくちゃ怒っていたという様子を目撃する
・それを人に言って回る(広める)
という役割があったのです。

 

 

 

いみじくおどろき、かしこまりうけたまわりて、御随身みずいじん御先みさきまいるもせいたまて、

 

いみじく シク活用の形容詞「いみじ」(ひどい、恐ろしい)連用形
驚き、 カ行四段活用動詞「驚く」(びっくりする、おどろく)連用形
かしこまり、 ラ行四段活用動詞「かしこまる」(①謹んで命令を受ける②恐縮する)連用形
承り ラ行四段活用動詞「承る」(お受けする)連用形 謙譲(作者→帝への敬意)
て、 接続助詞
御随身 名詞(従者、護衛の者)
格助詞
御先 名詞(先払い)
参る ラ行四段活用動詞「参る」連体形 謙譲(作者→左大臣 時平への敬意)
係助詞
制し サ行変格活用動詞「制す」(制止する)連用形
給ひ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」連用形 尊敬(作者→左大臣 時平への敬意)
て、 接続助詞

 

【訳】ひどく驚き、謹んで命令をお受けして、従者が先払いに参上するのも制止なさって、

 

「先払い」とは貴人が外出する際に、先行して貴人の通り道の人々を遠ざけて追い払うことを言います。

 

いそぎまかりたまば、御前ごぜんどもあやしとおもけり。

 

急ぎ ガ行四段活用動詞「急ぐ」(急いでする、急ぐ)連用形
まかり出で ダ行下二段活用動詞「まかり出づ」(退出する)連用形
給へ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」已然形 尊敬(作者→左大臣 時平への敬意)
ば、 接続助詞【原因・理由】(~ので)
御前ども 名詞(お先払いの者たち)
あやし シク活用の形容詞「あやし」終止形(おかしい、変だ)
格助詞
思ひ ハ行四段活用動詞「思ひ」連用形
けり。 過去の助動詞「けり」終止形

 

【訳】急いで退出されたので、お先払いの者たちはおかしいと思った。

 

さて、本院ほんいん御門みかど一月ひとつきばかりさせて、御簾みすそとにもたまず、

 

さて、 接続詞(そうして)
本院 名詞
格助詞
御門 名詞(ご門)
一月 名詞(一か月)
ばかり 副助詞(ほど)
鎖さ サ行四段活用動詞「鎖す」(門を閉ざす)未然形
使役の助動詞「す」連用形
て、 接続助詞
御簾 名詞
格助詞
名詞
格助詞
係助詞
出で ダ行下二段活用動詞「出づ」(出る)連用形
給は ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」未然形
ず、 打消の助動詞「ず」連用形

 

【訳】そうして本院のご門を一か月ほど閉ざさせて、御簾の外にもお出にならないで、

 

ひとなどのまいるにも、「勘当かんどうおもければ。」とて、たまざりしにこそ、

 

名詞
など 副助詞(~など)
格助詞
参る ラ行四段活用動詞「参る」(参上する、うかがう)連体形 謙譲(作者→左大臣 時平への敬意)
格助詞
も、 係助詞
「勘当 名詞(とがめ、おしかりを受けること)
格助詞
重けれ ク活用の形容詞「重し」(重い)已然形
ば。」 接続助詞
とて、 格助詞
会は ハ行四段活用動詞「会ふ」未然形
尊敬の助動詞「す」連用形(作者→左大臣 時平への敬意)
給は ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」尊敬(作者→左大臣 時平への敬意)
ざり 打消の助動詞「ず」連用形
過去の助動詞「き」連体形
接続助詞
こそ、 係助詞 ※結び:しか

 

【訳】人などが参上してきても、「(帝の)おとがめが重いので。」と言って、お会いにならなかったので、

 

 

過差かさたいらぎたりしか。

 

名詞(世間)
格助詞
過差 名詞(ぜいたく)
係助詞
平らぎ ガ行四段活用動詞「平ぐ」連用形(平静になる)
たり 完了の助動詞「たり」連用形
しか。 過去の助動詞「き」已然形【係り結び】

 

【訳】世間のぜいたくな様子は平静になったのでした。

 

うちうちによくうけたまわりしかば、さてばかりぞしづまらむとて、

 

うちうちに 副詞(ひそかに)
よく ク活用の形容詞「よし」連用形
承り ラ行四段活用動詞「承る」連用形
しか 過去の助動詞「き」已然形
ば、 接続助詞
さて 副詞(そういう状態で)
ばかり 副助詞(~ほど、~ぐらい)
係助詞※結び:む
しづまら ラ行四段活用動詞「しづまる」(おさまる)未然形
推量の助動詞「む」連体形【係り結び】
とて、 格助詞

 

【訳】ひそかに詳しくお聞きしたところ、そのようなぐらいにして(世間の人々のぜいたく

も)おさまるだろうということで、

 

みかど御心みこころ合はせさせ給へりけるとぞ。

 

名詞
格助詞
御心 尊敬の接頭語「御」(作者→左大臣 時平への敬意)+心
合はせ サ行下二段活用動詞「合はす」(合わせる)未然形
させ 尊敬の助動詞「さす」連用形(作者→左大臣 時平への敬意)
給へ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」已然形 尊敬(作者→左大臣 時平への敬意)
完了の助動詞「り」連用形
ける 過去の助動詞「けり」連体形
格助詞
ぞ。 係助詞※結び「言へる」省略

 

【訳】帝と(左大臣 時平が)お心を合わせになったということです。

 

「とぞ」と文末に用いることで、伝聞であることを意味することができます。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

今回は大鏡「時平と道真」から①あさましき悪事を申し行ひ給へりし罪により~の部分の解説をしてきました。

道真を無実の罪で左遷させたことから、子孫が栄えなかった時平。

しかし政治の手腕は大したもので、帝が苦戦していた問題(世間の人々のぜいたく)も解決してみせたというエピソードが語られていました。

このように時平は、権力を求め時には強引で大胆なやり方をするものの、その手腕は評価されていたことがわかります。

時平のエピソードはまだ続きますので、続きをお待ちください。

この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

自分の生徒には直接伝えられるけど、
聞きたくても聞けない…などと困っている方にも届けたくて、ブログを始めました。

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