大鏡「時平と道真②」現代語訳・解説(もののをかしさをぞ~)

古文

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今回は大鏡より「時平と道真②」(もののをかしさをぞ、~)について解説をしていきます。

 

前回までの解説はこちら

 

・本文(読み仮名付き)
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説

以上の内容を順番にお話していきます。

 

大鏡「時平と道真」品詞分解・現代語訳・解説

本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳

 

もののをかしさをぞ、えねんぜさせたまざりける。

 

もの 名詞(物事)
格助詞
をかしさ 形容詞「をかし」の名詞化したもの(滑稽なこと、面白いこと)
格助詞
ぞ、 係助詞※結び:ける
副詞+打消(~することができない)【不可能】
念ぜ サ行変格活用動詞「念ず」(我慢する、こらえる)未然形
させ 尊敬の助動詞「さす」連用形(作者→時平への敬意)
給は 尊敬のハ行四段活用補助動詞「給ふ」未然形(作者→時平への敬意)
ざり 打消の助動詞「ず」連用形
ける。 過去の助動詞「けり」連体形【係り結び】

 

【訳】(左大臣 時平は)何か滑稽なことがあると、我慢することがおできになりませんでした。

 

「もののをかしさをぞ」は直訳すると「物事の滑稽なことを」となりますが、ここでは「何か滑稽なことがあると」と訳しました。

 

わらたたせたまぬれば、すこぶることもみだれけるとか。

 

笑ひ タ行四段活用動詞「笑ふ」(連用形)
たた タ行四段活用の補助動詞「たつ」(盛んに~する)未然形
尊敬の助動詞「す」連用形(作者→時平への敬意)
給ひ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」連用形 尊敬(作者→時平への敬意)
ぬれ 完了の助動詞「ぬ」已然形
ば、 接続助詞
すこぶる 副詞(少しばかり、ちょっと)
こと 名詞
係助詞
乱れ ラ行下二段活用動詞「乱る」(乱れる、しまりがなくなる)連用形
ける 過去の助動詞「けり」連体形
格助詞
か。 係助詞 ※【連語】とか(~とかいうことだ)伝聞

 

【訳】盛んに笑いなさったならば、少しばかりのことも乱れたということだ。

 

一度笑い出すと、ちょっとのことでも面白くなってしまって止まらなくなってしまうということですね。

 

 

北野きたのをまつりごたせたまあいだ

 

北野 名詞(右大臣 菅原道真のこと)
格助詞
名詞
格助詞
まつりごた 四段活用動詞「まつりごつ」(政治を行う)未然形 ※【連語】世をまつりごつ(政治を行う、世を治める)
尊敬の助動詞「す」連用形(作者→時平への敬意)
給ふ、 ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」連体形 尊敬(作者→時平への敬意)
間、 名詞

 

【訳】菅原道真と(時平が)世を治めていらっしゃる間、

 

非道ひどうなることをおおせられければ、さすがにやごとなくて、

 

非道なる ナリ活用の形容動詞「非道なり」(道理や常識に外れている)連体形
こと 名詞
格助詞
仰せ 下二段活用動詞「仰す」(おっしゃる)未然形 尊敬(作者→時平への敬意)
られ 尊敬の助動詞「らる」已然形(作者→時平への敬意)
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ば、 接続助詞
さすがに ナリ活用の形容動詞「さすがなり」の副詞的用法(なんといっても)
やむごとなく ク活用形容詞「やむごとなし」(高貴だ)連用形
て、 接続助詞

 

【訳】(時平が)道理や常識に外れていることをおっしゃったので、(道真は)なんといっても(時平が)高貴な身分なので、

 

「せちにしたまことを、いかが。」とおぼして、

 

せちに ナリ活用の形容動詞「せちなり」(無理やりだ)連用形
サ行変格活用動詞「す」連用形
給ふ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」連体形 尊敬(道真→時平への敬意)
こと 名詞
を、 格助詞
いかが 副詞(どのように)【疑問】
は。」 係助詞 ※【連語】いかがは(いったいどのように)
格助詞
おぼし サ行四段活用動詞「おぼす」(お思いになる)連用形 尊敬(作者→道真への敬意)
て、 接続助詞

 

【訳】「無理やりになさることを、いったいどのように(止めたらいいのだろう)。」とお思いになって、

 

「この大臣おとどのしたもことなれば、不憫ふびんなりとれど、いかがすべから。」となげたまけるを、

 

代名詞
格助詞
大臣 名詞
格助詞
サ行四段活用動詞「す」連用形
給ふ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」連体形 尊敬(道真→時平への敬意)
こと 名詞
なれ 断定の助動詞「なり」已然形
ば、 接続助詞
不便なり ナリ活用の形容動詞「不便なり」(不都合な様子)終止形
格助詞
見れ マ行上一段活用「見る」(思う)已然形
ど、 接続助詞(~けれども)【逆接】
いかが 副詞(どうして~か)【疑問】
サ行変格活用動詞「す」終止形
べから 適当の助動詞「べし」(~するのがよい)未然形
む。」 推量の助動詞「む」連体形 ※【連語】いかがすべからむ(どうしたらよいだろうか)
格助詞
嘆き カ行四段活用動詞「嘆く」(連用形
給ひ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」連用形 尊敬(作者→道真への敬意)
ける 過去の助動詞「けり」連体形
を、 接続助詞(~ところ)【単純接続】

 

【訳】この大臣(時平)のしなさることだから、不都合だと思うけれども、どうしたらいいだろうか。」とお嘆きになっていたところ、

 

 

なにがしのが、「ことにもはべらず。

 

なにがし 名詞(なんとかと言う人)
格助詞
名詞(書記官)
が、 格助詞
「こと 名詞
断定の助動詞「なり」連用形
係助詞
侍ら 丁寧のラ行変格活用動詞「侍り」(ございます)未然形 丁寧(なにがしかの史→道真への敬意)※ことにもあらず(大したことではない)の丁寧な表現
ず。 打消の助動詞「ず」終止形

 

【訳】なんとかと言う書記官が、「大したことではございません。

 

 

おのれ、かまて、かのおんことをとどめはべ。」ともうしければ、

 

おのれ、 代名詞(私)謙譲の意を含む(なにがしかの史→道真への敬意)
かまへ ハ行下二段活用動詞「かまふ」(計画する、対策を立てる)連用形
て、 接続助詞
代名詞
格助詞
御こと 尊敬の接頭語「御」+名詞「こと」
格助詞
とどめ マ行下二段活用動詞「とどむ」(止める、抑える)連用形
侍ら 丁寧のラ行変格活用動詞「侍る」未然形 丁寧(なにがしかの史→道真への敬意)
む。」 意志の助動詞「む」終止形
格助詞
申し サ行四段活用動詞「申す」連用形 謙譲(作者→道真への敬意)
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ば、 接続助詞

 

【訳】わたくしめが対策を立てて、あのこと(時平が無理やりなさること)を止めましょう。」と申したので、

 

「かの御こと」とは時平が「せちにし給ふこと」を指しています。

 

「いとあるまじきこと。いかにして。」などのたませけるを、

 

「いと 副詞(非常に、大変)
ある ラ行変格活用動詞「あり」連体形
まじき 打消当然の助動詞「まじ」(~はずがない)連体形
こと。 名詞
いかに 副詞(どのように)【疑問】
サ行変格活用動詞「す」連用形
て。」 接続助詞 ※【連語】いかにして(どのようにして)
など 副助詞(~など)
のたまはせ サ行下二段活用動詞「のたまはす」(おおせになる)連用形 尊敬(作者→道真への敬意)
ける 過去の助動詞「けり」連体形
を、 格助詞

 

【訳】「全くありえないことだ。どのようにして(お止めするのか)。」などと仰せになったのを、

 

「いとあるまじきこと」は直訳すると「非常にあるはずがないことだ」となりますが、「全くありえないことだ」と意訳しました。

 

「のたまはす」は「のたまふ」よりも敬意が高く、本来であれば天皇などの動作に用いられる最高敬語の一つとなっています。

 

「ただ御覧ごらんぜよ。」とて、につきてこときびしくさだめののしり給ふたもうに、

 

「ただ 副詞(ただもう)
御覧ぜよ。」 サ行変格活用動詞「御覧ず」(ご覧になる)命令形
とて、 格助詞
名詞(席)
格助詞
つき カ行四段活用動詞「つく」(席につく)連用形
接続助詞
こと 名詞(ことば)
きびしく シク活用の形容詞「きびし」(厳しい、厳重だ)連用形
定め マ行下二段活用動詞「定む」(議論する)連用形
ののしり ラ行四段活用動詞「ののしる」(声を荒くする)連用形
給ふ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」連体形 尊敬(作者→左大臣への敬意)
に、 格助詞

 

【訳】(書記官は)「ただもうご覧になっていてください。」と言って、(時平が)席について言葉厳しく議論して声を荒げていらっしゃるときに、

 

この史、文刺ふみさしふみはさみて、いらなくふるまて、

 

代名詞
格助詞
史、 名詞
文刺 名詞(文挟み)
格助詞
名詞(文書)
挟み マ行四段活用動詞「挟む」連用形
て、 接続助詞
いらなく ク活用の形容詞「いらなし」(大げさだ)連用形
ふるまひ ハ行四段活用動詞「ふるまふ」連用形
て、 接続助詞

 

【訳】この書記官は、文挟みに文書を挟んで、大げさに振る舞って、

 

この大臣おとどたてまつるとて、いとたかやかにらしてはべりけるに、

 

代名詞
格助詞
大臣 名詞
格助詞
奉る ラ行四段活用動詞「奉る」(献上する)終止形 謙譲(作者→時平への敬意)
とて、 格助詞
いと 副詞(大変)
高やかに ナリ活用の形容動詞「高やかなり」(音がいかにも大きい)連用形
鳴らし サ行四段活用動詞「鳴らす」(おならをする)連用形
接続助詞
侍り 丁寧のラ行変格活用の補助動詞「侍り」(作者→読者への敬意)連用形
ける 過去の助動詞「けり」連体形
に、 接続助詞

 

【訳】この大臣(左大臣 時平)に献上するといって、大変大きな音でおならをしましたところ、

 

丁寧を意味する「侍り」

地の文…作者から読者に対する敬意
会話文…語り手から聞き手への敬意

 

 

大臣おとどふみもえらず、わななきて、やがてわらて、

 

大臣、 名詞(時平のこと)
名詞
係助詞
副詞+打消(~することができない)【不可能】
取ら ラ行四段活用動詞「取る」(手に取る)未然形
ず、 打消の助動詞「ず」連用形
名詞
わななき カ行四段活用動詞「わななく」(震える)連用形
て、 接続助詞
やがて 副詞(そのまま)
笑ひ ハ行四段活用動詞「笑ふ」連用形
て、 接続助詞

 

【訳】大臣(時平)は、文書を手に取ることもできないで、手を震わせて、そのまま笑って、

 

「手わななきて、やがて笑ひて」とは笑いをこらえようと我慢してプルプルさせていたものの、我慢できずに笑い出してしまったという意味です。

 

「今日はずち/ずつなし。右大臣うだいじんまかもうす。」とだにやりたまざりければ、

 

「今日 名詞
係助詞
術なし。 ク活用の形容詞「術なし」(どうしようもない)終止形
右大臣 名詞
格助詞
任せ サ行下二段活用動詞「任す」(任せる)連用形
申す。」 謙譲のサ行四段活用の補助動詞「申す」終止形(左大臣→右大臣への敬意)
格助詞
だに 副助詞(
言ひやり ラ行四段活用動詞「言ひやる」()連用形
給は 尊敬のハ行四段活用の補助動詞「給ふ」未然形
ざり 打消の助動詞「ず」連用形
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ば、 接続助詞

 

【訳】「今日はどうしようもない。右大臣にお任せ申し上げます。」

 

それにこそ、菅原すがわら大臣おとど御心みこころのままにまつりごちたまけれ。

 

それ 代名詞
格助詞【原因】(~によって)
こそ、 係助詞 結び:けれ
菅原の大臣、 名詞
御心 名詞(お気持ち、お考え)
格助詞
まま 名詞(~のとおり、~のまま)
格助詞
まつりごち 四段活用動詞「まつりごつ」(政治を行う)連用形
給ひ 尊敬の四段活用の補助動詞「給ひ」連用形(作者→左大臣への敬意)
けれ。 過去の助動詞「けり」已然形【係り結び】

 

【訳】それによって、菅原の大臣(道真)が、お考えのままに政治を行いなさった。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか?

今回は大鏡より「時平と道真」の2つ目のエピソード「もののをかしさをぞ、~」について解説しました。

 

このお話は色々な読み方ができます。

・時平は笑い上戸で、どうにもならなくなったらその場を離れて右大臣に任せてしまうという豪快な面があった。

・なにがしの史は自分で好きなタイミングにおならができる特異体質だった。

・道真は良い部下を持った。

 

また、道真のもどかしさも感じられます。

本当は時平のやり方が良くないと感じながらも、時平と自分の格差から直接的な注意ができないのです。

政治家一家の好き放題やってる左大臣お坊ちゃま(時平)と、学識が高く政治に精通しているものの人とのやりとりはあまり得意ではない学者先生(道真)という構図が見えます。

この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

自分の生徒には直接伝えられるけど、
聞きたくても聞けない…などと困っている方にも届けたくて、ブログを始めました。

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