玉勝間「師の説になづまざること」現代語訳・解説

古文

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本居宣長の『玉勝間』より「師の説になづまざること」について解説をしていきます。

本居宣長とは、江戸時代の国学者です。
古事記や源氏物語についても研究し、『古事記伝』『源氏物語玉の小櫛』などの作品も残しています。
国学とは、日本の古典文献を研究して日本の文化や精神を明らかにした学問です。

『玉勝間』は、江戸時代に本居宣長によって書かれた随筆です。
内容は、古典文献の研究から分かったことや、学問や思想についての自分の考えを述べたりしています。

玉…すばらしいもの 勝間…竹で編んだカゴ

玉がカゴにたくさん入っているような作品であることを表現しています。

「なづむ」とは、「こだわる」という意味があります。
今回の話は「先生の説にこだわらないこと」という題名です。

どのような内容なのか、読み取っていきましょう。

この記事では

・本文(読み仮名付き)
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説

以上の内容を、順番にお話していきます。

 

玉勝間「師の説になづまざること」品詞分解・現代語訳・解説

本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳

おのれ古典こてんくに、せつとたがることおおく、

語句 意味
おのれ 代名詞(私)
古典 名詞
格助詞
説く カ行四段活用動詞「説く」(説明する/説得する/解き明かす、解釈する)連体形
に、 格助詞
名詞(先生、指導者)
格助詞
名詞(学説)
格助詞
たがへ ハ行四段活用動詞「たがふ」(食い違う、違う)已然形
存続の助動詞「り」連体形
こと 名詞
多く、 ク活用形容詞「多し」(多い)連用形

【訳】私が古典を解釈するときに、先生の学説と食い違っていることが多く、

 

せつのわろきことあるをば、わきまこともおおかるを、

語句 意味
名詞
格助詞
名詞
格助詞
わろき ク活用形容詞「わろし」(良くない、感心できない)連体形
こと 名詞
ある ラ行変格活用動詞「あり」連体形
格助詞
ば、 係助詞
わきまへ言ふ ハ行四段活用動詞「わきまへ言ふ」(はっきりと区別して言う)連体形
こと 名詞
係助詞
多かる ク活用形容詞「多し」連体形
を、 格助詞

【訳】先生の学説に良くないことがあるのを、はっきりと区別して言うことも多いのを、

 

いとあるまじきこととおもひとおおかんめれど、

語句 意味
いと 副詞(非常に ※程度がはなはだしいことを指すことから、ここでは「【禁止】まじ」を加味して「決して」と訳)
ある ラ行変格活用動詞「あり」連体形
まじき 禁止の助動詞「まじ」連体形
こと 名詞
格助詞
思ふ ハ行四段活用動詞「思ふ」連体形
名詞
多かん ク活用形容詞「多し」連体形「多かる」の撥音便
めれ 推定の助動詞「めり」(~ようだ)已然形
ど、 接続助詞

【訳】決してあってはいけないことと思う人が多いようであるけれども、

 

これすなちわがこころにて、つねおしえられしは、

語句 意味
これ 代名詞
すなはち 副詞(すぐに、取りも直さず、まさしく)
代名詞
格助詞
名詞
格助詞
名詞(考え)
断定の助動詞「なり」連用形
て、 接続助詞
常に 副詞(いつも)
教へ ハ行下二段活用動詞「教ふ」(教える)未然形
られ 尊敬の助動詞「らる」連用形 筆者→師(先生)への敬意
過去の助動詞「き」連体形
は、 係助詞

【訳】これはまさしく私の先生の考えであって、いつもお教えになったことには、

 

「のちによきかんがたらんには、

語句 意味
「のち 名詞(あと、以後)
格助詞
よき ク活用形容詞「よし」(立派だ、すぐれている)連体形
考へ 名詞(考え)
格助詞
出て来 カ行変格活用動詞「出で来」(現れる、出てくる)連用形
たら 完了の助動詞「たり」未然形
仮定の助動詞「ん」(~としたら)連体形
格助詞
は、 係助詞

【訳】「あとですぐれている考えが出てきたときには、

 

かならずしもせつにたがとて、なはばかりそ。」

語句 意味
必ずしも 副詞「必ず」+副助詞「しも」(確かに、きっと→「【禁止】なはばかりそ」を加味して「決して」と訳)
名詞
格助詞
名詞
格助詞
たがふ ハ行四段活用動詞「たがふ」終止形
とて、 格助詞
副詞
はばかり ラ行四段活用動詞「はばかる」(遠慮する)連用形
そ。」 終助詞
※な~そ 【禁止】~てはいけない

【訳】先生の学説と違うからと言って、決して遠慮してはいけない。」

 

となん、おしえられし。

語句 意味
格助詞
なん、 係助詞
教へ ハ行下二段活用動詞「教ふ」未然形
られ 尊敬の助動詞「らる」連用形 筆者→師(先生)への敬意
し。 過去の助動詞「き」連体形 【係り結び】

【訳】と、お教えになった。

 

こはいととうとおしえにて、わがのよにすぐれたまひとつなり。

語句 意味
代名詞
係助詞
いと 副詞(大変、たいそう)
貴き ク活用形容詞「貴し」(優れている、価値がある)連体形
教え 名詞
断定の助動詞「なり」連用形
て、 接続助詞
代名詞
格助詞
名詞
の、 格助詞
よに 副詞(たいそう)
すぐれ ラ行下二段活用動詞「すぐる」(優れている)連用形
給へ ハ行四段活用補助動詞「給ふ」已然形 【尊敬】筆者→師(先生)への敬意
存続の助動詞「り」連体形
一つ 名詞
なり。 断定の助動詞「なり」終止形

【訳】これは大変優れている教えであって、私の先生が、たいそうすぐれていらっしゃる点の一つである。

 

おほかた、いにしかんがること、さらに一人ひとり二人ふたりちからもて、ことごとくあきらめくすべくもあらず。

語句 意味
おほかた、 接続詞(そもそも)
いにしへ 名詞(昔)
格助詞
考ふる ハ行下二段活用動詞「考ふ」(判断する、考察する)連体形
こと、 名詞
さらに、 副詞(※下に「あらず」と打消を伴うことから「決して~ない」と訳)
一人二人 名詞
格助詞
名詞
もて、 連語(~でもって)
ことごとく 副詞(全て)
明らめ尽くす サ行四段活用動詞「明らめ尽くす」(明らかにし尽くす)終止形
べく 可能の助動詞「べし」連用形
係助詞
あら ラ行変格活用補助動詞「あり」未然形
ず。 打消の助動詞「ず」終止形

【訳】そもそも、昔(のこと)について考察することは、決して一人二人の力でもって、全てを明らかにし尽くすことが決してできない。

 

また、よきひとせつならんからに、おおくのなかには、あやまりもなどかなからん。

語句 意味
また、 接続詞
よき ク活用形容詞「よし」(優れている)連体形
名詞
格助詞
名詞
なら 断定の助動詞「なり」未然形
婉曲の助動詞「ん」連体形
からに、 接続助詞【逆接仮定条件】~だからといって
多く 副詞
格助詞
名詞
格助詞
は、 係助詞
誤り 名詞(間違い、正しくないこと)
係助詞
などか 副詞(※下に「なし」と打消の意味を持つ語があることから「【反語】どうして~か、いや~ない」と訳)
なから ク活用形容詞「なし」(ない)未然形
ん。 推量の助動詞「ん」連体形

【訳】また、たとえすぐれた学者の学説であるようだとしも、多くの学説の中には、どうして間違いがないだろうか、いやあるだろう。

 

かならずわろきこともまじらではえあらず。

語句 意味
必ず 副詞
わろき ク活用形容詞「わろし」(よくない)連体形
こと 名詞
係助詞
まじら ラ行四段活用動詞「まじる」(混ざる)未然形
接続助詞
係助詞
副詞
あら ラ行変格活用動詞「あり」未然形
ず。 打消の助動詞「ず」終止形
※え~ず 【不可能】~できない

【訳】必ず良くないことが混じらないということはできない。→必ず良くないことも混ざる。

 

そのおのがこころには、

語句 意味
代名詞
格助詞
おの 代名詞(その人自身を指す)
格助詞
名詞
格助詞
は、 係助詞

【訳】その(学説を唱える)人自身の心には、

 

いまはいにしこころことごとくあきらかなり。

語句 意味
名詞
格助詞
いにしへ 名詞
格助詞
名詞(精神)
ことごとく 副詞(全て)
明らかなり。 ナリ活用形容動詞「明らかなり」(はっきりしている)終止形

【訳】今は昔の精神は全てはっきりしている。

 

これをおきては、あるべくもあらず。」

語句 意味
これ 代名詞
格助詞
おき カ行四段活用動詞「おく」(差し置く)連用形
接続助詞
は、 係助詞
ある ラ行変格活用動詞「あり」連体形
べく 当然の助動詞「べし」連用形
係助詞
あら ラ行変格活用補助動詞「あり」未然形
ず。」 打消の助動詞「ず」終止形
※べくもあらず ~はずもない

【訳】これを指し置いて、(真実は)あるはずもない。」

 

と、おもさだめたることも、おものほかに、またひとのことなるよきかんがるわざなり。

語句 意味
と、 格助詞
思ひ定め マ行下二段活用動詞「思ひ定む」(考えて決める)連用形
たる 存続の助動詞「たり」連体形
こと 名詞
も、 係助詞
思ひのほかに、 ナリ活用形容動詞「思ひのほかなり」(思いがけない)連用形
また 副詞(それとは別に)
名詞
格助詞
ことなる ナリ活用形容動詞「ことなり」(違っている)連体形
よき ク活用形容詞「よし」(優れている)連体形
考へ 名詞
係助詞
出て来る カ行変格活用動詞「出で来」(出て来る)連体形
わざ 名詞(こと)
なり。 断定の助動詞「なり」終止形

【訳】と、考えて決めていることでも、思いがけずに、それとは別の人の違っている優れた考察も出て来ることである。

 

あまたのるまにまに、先々さきざきかんがうえを、なよくかんがむるからに、

語句 意味
あまた 副詞(たくさん)
格助詞
名詞
格助詞
経る ハ行下二段活用動詞「経」(通って行く)連体形
まにまに、 副詞(~とともに)
先々 名詞(以前)
格助詞
考へ 名詞
格助詞
名詞
を、 格助詞
なほ 副詞(さらに)
よく ク活用形容詞「よし」連用形
考へきはむる ラ行下二段活用動詞「考えきはむ」(考え尽くす)連体形
からに、 接続助詞【原因・理由】~ので

【訳】たくさんの(学者の)手を通って行くとともに、以前の考察の上を、さらによく考え尽くすので、

 

次々つぎつぎくわしくなりもてゆくわざなれば、せつなりとて、かならずなづみまもるべきにもあらず。

語句 意味
次々に 副詞
詳しく シク活用形容詞「詳し」(詳しい)連用形
なりもてゆく カ行四段活用動詞「なりもてゆく」(だんだん~になってゆく)連体形
わざ 名詞
なれ 断定の助動詞「なり」已然形
ば、 接続助詞
名詞
格助詞
名詞
なり 断定の助動詞「なり」終止形
とて、 格助詞
必ず 副詞
なづみ守る ラ行四段活用動詞「なづみ守る」(こだわり守る)終止形
べき 当然の助動詞「べし」連体形
断定の助動詞「なり」連用形
係助詞
あら ラ行変格活用補助動詞「あり」未然形
ず。 打消の助動詞「ず」終止形

【訳】次々と詳しくなっていくものであるので、先生の学説であるからといって、必ずしもこだわっても守らなければならないのではない。

 

よきあしきをず、ひたぶるにふるきをまもるは、学問がくもんみちにはなきわざなり。

語句 意味
よき ク活用形容詞「よし」連体形
あしき シク活用形容詞「あし」連体形
格助詞
言は ハ行四段活用動詞「言ふ」未然形
ず、 打消の助動詞「ず」連用形
ひたぶるに ナリ活用形容動詞「ひたぶるなり」(ひたすらだ)連用形
古き ク活用形容詞「古し」連体形
(説) 省略されている
格助詞
守る ラ行四段活用動詞「守る」連体形
は、 係助詞
学問 名詞
格助詞
名詞
格助詞
係助詞
言ふかひなき ク活用形容詞「言ふかひなし」(どうしようもない)連体形
わざ 名詞
なり。 断定の助動詞「なり」終止形

【訳】(その学説の)良しあしを言わずに、ひたすらに古い学説を守るのは、学問の道ではどうしようもないことである。

 

また、おのがなどのわろきことをあらわすは、いともかしこくはあれど、

語句 意味
また、 接続詞
おの 代名詞(その人自身を指す)
格助詞
名詞
など 副助詞
格助詞
わろき ク活用形容詞「わろし」(良くない、感心できない)連体形
こと 名詞
格助詞
言ひ表す サ行四段活用動詞「言ひ表す」(言葉で表す/白状する→指摘する)連体形
は、 係助詞
いと 副詞(大変、非常に)
係助詞
かしこく ク活用形容詞「かしこし」(恐れ多い)連用形
係助詞
あれ ラ行変格活用補助動詞「あり」已然形
ど、 接続助詞

【訳】また、自分の先生(の学説)などの良くないことを指摘するのは、非常に恐れ多くはあるけれど、

 

それもざれば、学者がくしゃそのせつまどて、ながくよきをなし。

語句 意味
それ 代名詞
係助詞
言は ハ行四段活用動詞「言ふ」未然形
ざれ 打消の助動詞「ず」已然形
ば、 接続助詞
名詞(世の中、世間)
格助詞
学者 名詞
代名詞
格助詞
名詞
格助詞
惑ひ ハ行四段活用動詞「惑ふ」(思い悩む)連用形
て、 接続助詞
長く ク活用形容詞「長し」(長い間)連用形
よき ク活用形容詞「よし」(すばらしい)連体形
(説) 省略されている
格助詞
知る ラ行四段活用動詞「知る」連体形
名詞(おり、機会)
なし。 ク活用形容詞「なし」終止形

【訳】それも言わなければ、世間の学者がその間違った学説に思い悩み、いつまでもすばらしい学説を知る機会がない。

 

せつなりとして、わろきをりながら、ずつつみかくして、よさまにつくろをらんは、

語句 意味
名詞
格助詞
名詞
なり 断定の助動詞「なり」終止形
格助詞
サ行変格活用動詞「す」連用形
て、 接続助詞
わろき ク活用形容詞「わろし」連体形
格助詞
知り ラ行四段活用動詞「知る」連用形
ながら、 接続助詞
言は ハ行四段活用動詞「言ふ」未然形
打消の助動詞「ず」連用形
つつみ隠し サ行四段活用動詞「つつみ隠す」(包み隠す、人に知られないようにする)連用形
て、 接続助詞

【訳】先生の学説である(から)として、良くないのを知っているのに、言わずに包み隠して、

 

よさまにつくろをらんは、ただをのみとうとみて、みちをばおもざるなり。

語句 意味
よさまに ナリ活用形容動詞「よさまなり」(良い様子だ)連用形
つくろひ ハ行四段活用動詞「つくろふ」(誤魔化す、取り繕う)連用形
をら ラ行変格活用動詞「をり」未然形
婉曲の助動詞「ん」連体形
は、 係助詞
ただ 副詞
名詞
格助詞
のみ 副助詞
貴み マ行四段活用動詞「貴む」(尊重する)連用形
て、 接続助詞
名詞(ここでは学問の道を指す)
格助詞
係助詞
思は ハ行四段活用動詞「思ふ」未然形
ざる 打消の助動詞「ず」連体形
なり。 断定の助動詞「なり」終止形

【訳】良い様子だと取り繕っているようなのは、ただ先生だけを尊重して、学問の道を考えていないのである。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は玉勝間より「師の説になづまざること」を解説しました。
このお話は、言っていることが比較的理解しやすかったのではないでしょうか。

宣長の主張をまとめると、以下の通りです。

自分の先生や権威のある人の学説だからと言って、盲目的に信じて固執するのはいけない。
どんなに優れた人の説でも、間違いはあるもの。
おかしいと思ったら、きちんと指摘をする。
それによって、研究は進んで行くのだ。
そもそも自分の先生から「古典について研究する上で、間違いがあったら遠慮せずに訂正しなさい」と教わった。

国文学という学問に、真剣に取り組む宣長の真面目さがよく分かるお話だったのではないでしょうか。

この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

自分の生徒には直接伝えられるけど、
聞きたくても聞けない…などと困っている方にも届けたくて、ブログを始めました。

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