『竹取物語』より「富士の山」について解説していきます。
竹取物語は、日本最古の物語と言われています。
正確な成立時代は不明ですが、10世紀半ばまでには成立していたと考えられています。
竹取の翁が竹の中から見つけた、美しい少女について描かれています。
現在の「かぐや姫」として知られる、有名な物語です。
今回のお話は、かぐや姫が天に帰ってしまったことを帝が知ることになる場面です。
頭中将に、事の顛末を聞かされた帝。
いったいどのような行動をとったのか、読み取っていきましょう。
この記事では
・本文(読み仮名付き)
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説
以上の内容を、順番にお話していきます。
竹取物語「富士の山」品詞分解・現代語訳・解説
本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳
中将、人々引き具して帰り参りて、かぐや姫を、え戦ひとめずなりぬること、こまごまと奏す。
語句 | 意味 |
中将、 | 名詞(頭中将を指す。蔵人頭で近衛中将を兼任している) |
人々 | 名詞 |
引き具し | サ行変格活用動詞「引き具す」(引き連れる)連用形 |
て | 接続助詞 |
帰り参り | ラ行四段活用動詞「帰り参る」(帰って来る)連用形 【謙譲】作者→帝への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
かぐや姫 | 名詞 |
を、 | 格助詞 |
え | 副詞 |
戦ひ | ハ行四段活用動詞「戦ふ」連用形 |
とめ | マ行下二段活用動詞「とむ」(止める、行かせない)未然形 |
ず | 打消の助動詞「ず」連用形 |
なり | ラ行四段活用動詞「なる」連用形 |
ぬる | 完了の助動詞「ぬ」連体形 |
こと、 | 名詞 |
こまごまと | 副詞(詳しく) |
奏す。 | サ行変格活用動詞「奏す」(申し上げる)終止形 【謙譲】作者→帝への敬意 |
【訳】中将は、人々を引き連れて帰って参って、かぐや姫を、戦って引き止めることができなかったことを、詳しく申し上げる。

「戦い止める」とはどういうことでしょうか?

帝はかぐや姫を天に行かせないために、兵士をかぐや姫のもとに送り込んで使いの天人から守らせたのです。
頭中将はその時に帝が派遣した、側近の人物です。

全てを見届けた頭中将が、かぐや姫が使いの天人に連れて行かれてしまったということを報告してるのですね。
薬の壺に、御文添へて参らす。
語句 | 意味 |
薬 | 名詞 |
の | 格助詞 |
壺 | 名詞 |
に、 | 格助詞 |
御文 | 「御」+名詞「文」(手紙) |
添へ | ハ行下二段活用動詞「添ふ」(添える)連用形 |
て | 接続助詞 |
参らす。 | サ行下二段活用動詞「参らす」(差し上げる)終止形 【謙譲】作者→帝への敬意 |
【訳】薬の壺に、手紙を添えて差し上げる。

これはかぐや姫から帝へと、頭中将が託されたもののことです。
使いの天人が持ってきた「不死の薬」を少し舐め、残りを形見とし、そこに帝への思いをつづった手紙を添えたのでした。
広げて御覧じて、いとあはれがらせ給ひて、物も聞こし召さず。
語句 | 意味 |
広げ | ガ行下二段活用動詞「広ぐ」(広げる)連用形 |
て | 接続助詞 |
御覧じ | サ行変格活用動詞「御覧ず」(ご覧になる)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
いと | 副詞(大変、とても) |
あはれがら | ラ行四段活用動詞「あはれがる」(嘆き悲しがる)未然形 |
せ | 尊敬の助動詞「す」連用形 作者→帝への敬意 |
給ひ | ハ行四段活用動詞「給ふ」連用形 【尊敬】作者→帝への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
物 | 名詞(食べ物・調度品・楽器などを明示しないで「もの」と言う。ここでは「聞こし召さず」から食べ物を指す。) |
も | 係助詞 |
聞こし召さ | サ行四段活用動詞「聞こし召す」(召し上がる) 【尊敬】作者→帝への敬意 |
ず。 | 打消の助動詞「ず」連用形 |
【訳】広げてご覧になると、大変嘆き悲しがりなさって、食事も召し上がらない。

かぐや姫も自分を大切に思っていたことも分かったんですよね…

二度と会えなくなってしまったことに対する、帝の嘆きが伝わってくる場面ですね。
御遊びなどもなかりけり。
語句 | 意味 |
御遊び | 名詞(遊び=管弦や詩歌などを指す) |
など | 副助詞 |
も | 係助詞 |
なかり | ク活用形容詞「なし」連用形 |
けり。 | 過去の助動詞「けり」終止形 |
【訳】管弦遊びなどもなさらなくなった。
大臣、上達部を召して、「いづれの山か天に近き。」と問はせ給ふに、
語句 | 意味 |
大臣、 | 名詞(役職名) |
上達部 | 名詞(上位の役職を指す。大臣・大納言・中納言・参議のこと) |
を | 格助詞 |
召し | サ行四段活用動詞「召す」(お呼び寄せになる)連用形 【尊敬】作者→帝への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
「いづれ | 代名詞(どれ、どの) |
の | 格助詞 |
山 | 名詞 |
か | 係助詞【疑問】 ※結び:近き |
天 | 名詞 |
に | 格助詞 |
近き。」 | ク活用形容詞「近し」連体形 【係り結び】 |
と | 格助詞 |
問は | ハ行四段活用動詞「問ふ」(尋ねる)未然形 |
せ | 尊敬の助動詞「す」連用形 【尊敬】作者→帝への敬意 |
給ふ | ハ行四段活用動詞「給ふ」終止形 作者→帝への敬意 |
に、 | 接続助詞 |
【訳】大臣や上達部たちをお呼び寄せになって、「どの山が天に近いか。」とお尋ねになると、
ある人が、「駿河国にあるなる山なむ、この都も近く、天も近く侍る。」と奏す。
語句 | 意味 |
ある | ラ行変格活用動詞「あり」連体形 |
人 | 名詞 |
奏す、 | サ行変格活用動詞「奏す」連体形 【謙譲】作者→帝への敬意 |
「駿河国 | 名詞(現在の静岡県中部を指す) |
に | 格助詞 |
ある | ラ行変格活用動詞「あり」連体形 |
なる | 伝聞の助動詞「なり」連体形 |
山 | 名詞 |
なむ、 | 係助詞【強意】 |
こ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
都 | 名詞 |
も | 係助詞 |
近く、 | ク活用形容詞「近し」連用形 |
天 | 名詞 |
も | 係助詞 |
近く | ク活用形容詞「近し」連用形 |
侍る。」 | ラ行変格活用動詞「侍り」 【丁寧】ある人→帝への敬意 |
と | 格助詞 |
奏す。 | サ行変格活用動詞「奏す」終止形 |
【訳】ある人が申し上げることには、「駿河の国にあるという山が、この都にも近く、天にも近くでございます。」と申し上げる。
これを聞かせ給ひて、
語句 | 意味 |
これ | 代名詞 |
を | 格助詞 |
聞か | カ行四段活用動詞「聞く」未然形 |
せ | 尊敬の助動詞「す」連用形 作者→帝への敬意 |
給ひ | ハ行四段活用動詞「給ふ」連用形 【尊敬】作者→帝への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】これを(帝は)お聞きになって、
あふことも なみだに浮かぶ わが身には 死なぬ薬も 何にかはせむ
語句 | 意味 |
あふ | ハ行四段活用動詞「あふ」(会う)連体形 |
こと | 名詞 |
も | 係助詞 |
なみだ | 名詞 ※掛詞…「無み(ないので)」と「涙」 |
に | 格助詞 |
浮かぶ | バ行四段活用動詞「浮かぶ」連体形 |
わ | 代名詞 |
が | 格助詞 |
身 | 名詞 |
に | 格助詞 |
は | 係助詞 |
死な | ナ行変格活用動詞「死ぬ」未然形 |
ぬ | 打消の助動詞「ず」連体形 |
薬 | 名詞 |
も | 係助詞 |
何 | 代名詞 |
に | 格助詞 |
かは | 係助詞【反語】※結び:む |
せ | サ行変格活用動詞「す」未然形 |
む | 意志の助動詞「む」連体形 【係り結び】 |
【和歌訳】(かぐや姫に)会うこともないので、涙に浮かぶわが身には、不死の薬が一体何のためになろうか、いや何にもならない

悲しみの涙をたくさん流したということを、「なみだに浮かぶわが身」と表現してるのですね。
かの奉る不死の薬壺に文具して、御使ひに賜はす。
語句 | 意味 |
か | 代名詞 |
の | 格助詞 |
奉る | ラ行四段活用動詞「奉る」(差し上げる)連体形 【謙譲】作者→帝への敬意 |
不死 | 名詞 |
の | 格助詞 |
薬壺 | 名詞 |
に | 格助詞 |
文 | 名詞 |
具し | サ行変格活用動詞「具す」(添える)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
御使ひ | 名詞「御」+「使ひ」(使者) |
に | 格助詞 |
賜はす。 | サ行下二段活用動詞「賜はす」(お与えになる)終止形 【尊敬】作者→帝への敬意 |
【訳】あの(中将が帝へ)差し上げた不死の薬の壺に手紙を添えて、使者にお与えになる。
勅使には、調石笠といふ人を召して、駿河国にあなる山の頂に、持てつくべきよし仰せ給ふ。
語句 | 意味 |
勅使 | 名詞(天皇の使いのこと) |
に | 格助詞 |
は、 | 係助詞 |
調石笠 | 名詞(人物名) |
と | 格助詞 |
いふ | ハ行四段活用動詞「いふ」連体形 |
人 | 名詞 |
を | 格助詞 |
召し | サ行四段活用動詞「召す」連用形 【尊敬】作者→帝への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
駿河国 | 名詞 |
に | 格助詞 |
あなる | 「あんなる」の「ん」の無表記。もとの形は「あるなる」(あるようだ、あると言うことだ)=ラ行変格活用動詞「あり」連体形+伝聞の助動詞「なり」連体形 |
山 | 名詞 |
の | 格助詞 |
頂 | 名詞(頂上) |
に、 | 格助詞 |
持てつく | カ行四段活用動詞「持てつく」(身につける、供える→ここでは「供える」と解釈)終止形 |
べき | 命令の助動詞「べし」連体形 |
よし | 名詞(趣旨) |
仰せ | サ行下二段活用動詞「仰す」(命じる)連用形 【尊敬】作者→帝への敬意 |
給ふ。 | ハ行四段活用動詞補助動詞「給ふ」終止形 【尊敬】作者→帝への敬意 |
【訳】勅使には、調石笠という人をお呼び寄せになって、駿河の国にあるという山の頂上に、(壺と手紙を)供えるようにとの趣旨をお命じになる。
峰にてすべきやう教えさせ給ふ。
語句 | 意味 |
峰 | 名詞(山の頂上) |
にて | 格助詞 |
す | サ行変格活用動詞「す」終止形 |
べき | 当然の助動詞「べし」連武井 |
やう | 名詞(方法) |
教え | ハ行下二段活用動詞「教ふ」(教える)未然形 |
させ | 尊敬の助動詞「さす」連用形 【尊敬】作者→帝への敬意 |
給ふ。 | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」終止形 作者→帝への敬意 |
【訳】頂上でしなければならない方法をお教えになる。
御文、不死の薬の壺並べて、火をつけて燃やすべきよし仰せ給ふ。
語句 | 意味 |
御文、 | 名詞 |
不死 | 名詞 |
の | 格助詞 |
薬 | 名詞 |
の | 格助詞 |
壺 | 名詞 |
並べ | バ行下二段活用動詞「並ぶ」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
火 | 名詞 |
を | 格助詞 |
つけ | カ行下二段活用動詞「つく」連用形 |
て | 接続助詞 |
燃やす | サ行四段活用動詞「燃やす」終止形 |
べき | 命令の助動詞「べし」連体形 |
よし | 名詞 |
仰せ | サ行下二段活用動詞「仰す」連用形 |
給ふ。 | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」終止形 【尊敬】作者→帝への敬意 |
【訳】手紙と不死の薬の壺を並べて、火をつけて燃やさなければならないという趣旨をお命じになる。

かぐや姫に会えないのなら、不死の薬などなんの役にも立たないと言っていました。

だからそれを山の頂上で、燃やしてしまえと命令したのですね…
そのよし承りて、士どもあまた具して山へ登りけるよりなむ、その山を富士の山とは名付けける。
語句 | 意味 |
そ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
よし | 名詞 |
承り | ラ行四段活用動詞「承る」(お受けする)連用形 【謙譲】作者→帝への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
士ども | 名詞(兵士たち) |
あまた | 副詞(たくさん) |
具し | サ行変格活用動詞「具す」(引き連れる)連用形 |
て | 接続助詞 |
山 | 名詞 |
へ | 格助詞 |
登り | ラ行四段活用動詞「登る」連用形 |
ける | 過去の助動詞「けり」連体形 |
より | 格助詞 |
なむ、 | 係助詞【強意】 ※結び:ける |
そ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
山 | 名詞 |
を | 格助詞 |
富士の山 | 名詞 |
と | 格助詞 |
は | 係助詞 |
名付け | カ行下二段活用動詞「名付く」(名付ける)連用形 |
ける。 | 過去の助動詞「けり」連体形 【係り結び】 |
【訳】その趣旨をお受けして、兵士たちをたくさん引き連れて山へ登ったことから、その山を富士の山と名付けたのだった。

どういうことでしょうか?

「兵士をたくさん連れて行った山」→「兵士が富む山」→「富士山」ということのようです。
「不死の薬を捨てた山」→「富士山」という説もあるそうです。

このように「実際の山の名前の由来になった」なんて言われると、この話が本当のできごとだったのかな?と錯覚してしまいますね。
その煙、いまだ雲の中へ立ち上るとぞ、言ひ伝へたる。
語句 | 意味 |
そ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
煙、 | 名詞 |
いまだ | 副詞(今もなお) |
雲 | 名詞 |
の | 格助詞 |
中 | 名詞 |
へ | 格助詞 |
立ち上る | ラ行四段活用動詞「立ち上る」終止形 |
と | 格助詞 |
ぞ、 | 係助詞【強意】 ※結び:たる |
言ひ伝へ | ハ行下二段活用動詞「言ひ伝ふ」(語り伝える、言い伝える)連用形 |
たる。 | 存続の助動詞「たり」連体形【係り結び】 |
【訳】その煙は、今もなも雲の中へ立ち昇っている、と言い伝えている。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は竹取物語より「富士の山」を解説しました。
かぐや姫が天に帰ってしまったことを知り、帝の悲しみは大変深いものでしたね。
食事もとらず、楽しむこともせず、自分の身が「なみだに浮かぶ」ほど涙を流したという和歌を詠みました。
かぐや姫が帝のために残した形見の「不死の薬」も、かぐや姫がいないのなら意味がないと燃やすように命じます。
私は、天に近い場所で燃やすように指示したことから、その煙が天(月)にいるかぐや姫に届き、自分の思いを伝えようとしたのではないかと感じました。
みなさんは、帝の行動をどのように捉えましたか?
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