老子より「柔弱」について見ていきます。
「柔弱」とは、気力がなく弱弱しいという意味の言葉です。
マイナスの印象を受ける言葉ですが、老子はそうは捉えていないようです。
道家の思想における「柔弱」とはどのようなものなのか、読み取っていきましょう。
この記事では
・書き下し文(読み仮名付き)
・語句の意味/解説
・現代語訳
以上の内容について順番に説明していきます。
老子「柔弱」現代語訳・解説
内容(白文・書き下し文・現代語訳・語句解説)
① 人之生也柔弱。
人の生まるるや柔弱なり。
語句 | 意味/解説 |
生まるる | 生まれた時 |
柔弱 | 柔らかく弱弱しい |
【訳】人間は生まれた時は柔らかく弱弱しい。
② 其死也堅強。
其の死するや堅強なり。
語句 | 意味/解説 |
其の | 人間を指す |
死する | 死ぬとき |
堅強 | 固くこわばる |
【訳】人間が死ぬときには、固くこわばる。
③ 草木之生也柔脆、其死也枯槁。
草木の生ずるや柔脆、其の死するや枯槁す。
語句 | 意味/解説 |
草木 | 草と木 |
生ずる | 生える |
柔脆 | 柔らかく脆い |
其の | 植物を指す |
枯槁 | 枯れて固くなる |
【訳】草と木が生える時には柔らかくて脆く、それが死ぬときには枯れて固くなる。
④ 故堅強者死之徒、柔弱者生之徒。
故に堅強なる者は死の徒、柔弱なる者は生の徒なり。
語句 | 意味/解説 |
故に | だから、したがって |
堅強 | 固くこわばったもの |
徒 | 仲間 |
【訳】したがって固くこわばったものは死の仲間であり、柔らかく弱弱しいものは生の仲間である。
あかちゃん・新芽=柔らかく弱弱しいもの=生きているもの
柔らかく弱弱しいものでありながら、生き生きとした生命力があると言っています。
固くつよいもの(こわばったもの)の方が死を意味しているというのは、本来のイメージとは逆転していますね。
⑤ 是以兵強則不勝、木強則折。
是を以つて兵強ければ則ち勝たず、木強ければ則ち折らる。
語句 | 意味/解説 |
是を以つて | こういうわけで |
兵 | 軍隊 |
れば則ち | ~すれば |
強け | 強い/固くこわばる |
【訳】こういうわけで軍隊が強ければ(戦いに)勝つことができず、木は固くこわばっていれば折られる。
「強し」…軍隊は「強い」と訳し、木は「固くこわばる」と訳しました。
軍隊は強大であるのに、なぜ勝つことができないと言っているのでしょうか?
軍隊が強大であるほど、自由に動かしにくくなりますよね。
また、一度乱れると収拾がつかなくなってしまいます。
強大であるが故に融通が利かず、予想外の出来事に対応するのが難しくなって敗北してしまうということ。
なるほど…
強大であることへの奢りや油断も、敗北の原因となるのかもしれませんね。
⑥ 強大処下、柔弱処上。
強大なるは下に処り、柔弱なるは上に処る。
語句 | 意味/解説 |
強大 | 強くて大きいこと |
処る | いる |
【訳】強くて大きいものは下にあり、弱くて柔らかいものは上にあるのだ。
強大なものが勝ち、柔弱なものは負けると私たちはふつう思います。
しかし老子は、柔軟な姿勢をもつことが、強大なものに勝つことになると言っているのです。
私たちの常識をぶっ壊すような考えですね。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
老子から「柔弱」の解説をしました。
今回のお話は、強くあろうとするよりも、ありのままの「弱さ」で環境に順応してしなやかに生きるのがよいというものでした。
これは儒家の「勉強して知恵をつけて徳のある人間になりましょう」という思想に疲れてしまった人たちには、とても刺さったのかもしれません。
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