荘子より「胡蝶之夢(胡蝶の夢)」について見ていきます。
人物としての「荘子」と書物としての『荘子』と読み分けることもある。
荘子という人物
老子の考え方を引き継いだ道家の思想家
『荘子』の内容
・老子の「無為自然」の思想
・「生きることと死ぬこと」→人間存在の在り方
哲学的な内容となっている
この記事では
・書き下し文(読み仮名付き)
・語句の意味/解説
・現代語訳
以上の内容について順番に説明していきます。
荘子「胡蝶之夢(胡蝶の夢)」現代語訳・解説
内容(白文・書き下し文・現代語訳・語句解説)
① 昔者、荘周夢為胡蝶。
昔者、荘周夢に胡蝶と為る。
語句 | 意味/解説 |
昔者 | 以前、かつて |
荘周 | 荘子の本名 |
胡蝶 | 蝶 |
【訳】かつて、荘周は夢で蝶になった。
② 栩栩然胡蝶也。
栩栩然として胡蝶なり。
語句 | 意味/解説 |
栩栩然 | ひらひらと飛ぶ様子 |
【訳】ひらひらと飛んでいる蝶である。
③ 自喩適志与。
自ら喩しみ志に適へるかな。
語句 | 意味/解説 |
自ら喩しみ | 思うままに楽しむ(喩→愉) |
志に適へる | 気持ちがのびのびする |
かな(与) | 【詠嘆】~だなあ |
【訳】思うままに楽しんで気持ちがのびのびとしてすることだなあ。
④ 不知周也。
周なるを知らざるなり。
語句 | 意味/解説 |
周 | 荘周 |
知らざる | 分からない |
【訳】(自分が)荘周であることが分からなかった。
とてもリアルで自分が人間ではなく、蝶になったと思い込むくらいの夢だったんですね。
⑤ 俄然覚、則蘧蘧然周也。
俄然として覚むれば、則ち蘧蘧然として周なり。
語句 | 意味/解説 |
俄然 | 突然、にわかに、ふと |
覚む | 目覚める |
れば則ち | ~ならば |
蘧蘧然 | はっと驚く様子(然…様子や状態を表す) |
【訳】ふと目覚めると、はっと驚き(自分は)荘周であった。
⑥ 不知、周之夢為胡蝶与、胡蝶之夢為周与。
知らず、周の夢に胡蝶と為れるか、胡蝶の夢に周と為れるか。
語句 | 意味/解説 |
か(与) | 【疑問】~か |
【訳】わからなくなった、荘周が夢の中で蝶になっているのか、蝶が夢の中で荘周という人間になっているのか。
どんなにリアルな夢であろうとも、夢から覚めて「本当は自分は蝶で、荘周っていう人間の姿の方が夢なのかも…」なんて普通は思わないですよね。
「はぁ~リアルな夢だったな」で終わるのではなく、そこまで深く考えるのが哲学的な荘子の特徴とも言えるのではないでしょうか。
⑦ 周与胡蝶、則必有分矣。
周と胡蝶とは、則ち必ず分有らん。
語句 | 意味/解説 |
分 | 区別 |
有らん | あるだろう |
【訳】荘周と蝶では、必ず区別があるだろう。
現実と夢、荘周と蝶は別のものであるというのは当たり前のことですよね…
それを敢えて言っているのはどういうことなのでしょうか?
普通、現実を価値あるものとし、夢は嘘で価値のないものと見てしまいます。
荘子はそんなもの区別しなくたって、自分が体験したことには変わりないではないかと言っています。
どちらも価値あるものと捉えているのですね。
荘子は、そうすることによって人生は楽しくなると言っています。
⑧ 此之謂物化。
此れを之れ物化と謂ふ。
語句 | 意味/解説 |
物化 | 万物の極まりない変化 |
【訳】これをこそ万物の極まりない変化というのである。
荘周と蝶は形の上では「分(区別)」があるものの、その体験をした主体としての自分は「物化(変化しただけで、もとは同じものである)」であると言っています。
「万物斉同(全ての物は等しく同じ価値を持つ)」というのが荘子の考えです。
荘子の思想
荘子は自分の妻を亡くした際、悲しむ様子が全くなかったといいます。
そこには、荘子の「生きることと死ぬこと」に関する思想があるからです。
荘子は、人は「気」と言うものでできていて、その気が集まって人間の形となったのが「生きる」という状態であり、それが人間の形を成さなくなったのが「死ぬ」という状態であると言っています。
生きていることも死んでいることも「気」の変化に過ぎず、妻の「気」は休んでいる状態だから悲しむことはないとしているのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
荘子から「胡蝶の夢」の解説をしました。
今回のお話は、蝶になるというリアルな夢を見た荘周が感じたことを語っています。
そこにはどのような生き方をすればよいのか、という荘子の思想が読み取れました。
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