今回は『大鏡』の「花山天皇の出家」について解説をしていきます。
成立:平安時代後期
作者:不詳
ジャンル:歴史物語
内容: 藤原道長を中心とした藤原氏の栄華について書かれている。
二人の翁が語り手となり、若侍に語っている。
・本文(読み仮名付き)
・現代語訳
・品詞分解
について、内容を順番にお話していきます。
大鏡「花山院の出家①次の帝、花山院の天皇と申しき~」現代語訳・解説

内容に入っていく前に、まずは今回解説する前半部分のあらすじをおさえましょう。
あらすじ
円融天皇の次の帝は、花山院天皇と言う人だった。父は冷泉院天皇、母は贈皇后 懐子である。
永観二年八月二十八日に十七歳で即位したが、十九歳の時に誰にも言わずにひっそりと出家してしまった。在位期間は二年であった。
出家をするまでの経緯は、気の毒なものであった。
人目を忍んで出家をしたかった花山院天王は、月の明るさに出家をためらった。
粟田殿がそれをなだめて出発と思ったら、今度は「肌身離さず持っていた、亡き忯子の手紙を忘れてきちゃったから戻りたい」と言う始末。
花山院天皇をさっさと退位させて、一条天皇を即位させて父の兼家の計画を実行したい粟田殿は、ついに「そんなん言ってたらいつまでも出家できませんよ~」と、ウソ泣きを繰り出す。
読み仮名付き本文・現代語訳・品詞分解
次の帝、花山院の天皇と申しき。
次の帝は、花山院天皇と(人々が)申し上げた(お方でした)。
| 次 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 帝、 | 名詞 |
| 花山院 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 天皇 | 名詞 ※花山院の天皇…花山天皇のこと |
| と | 格助詞 |
| 申し | サ行四段活用動詞「申す」連用形 【謙譲】語り手→花山院天皇への敬意 |
| き。 | 過去の助動詞「き」終止形 |
冷泉院 第一の皇子なり。
(花山天皇は)冷泉院の第一皇子である。
| 冷泉院 | 名詞(人名。花山天皇の父。) |
| 第一 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 皇子 | 名詞(天皇の男の子どものこと。第一の皇子は、その中で最初に生まれたことを表す) |
| なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 |
御母、贈皇后宮 懐子と申す。
お母様は、贈皇后宮 懐子と(人々がお呼び)申し上げる方です。
| 御母、 | 名詞 |
| 贈皇后宮 |
名詞(皇太子の妃で、天皇即位前に亡くなった人に対して皇后の位を贈ったことを示す)
|
| 懐子 | 名詞(人名。藤原懐子のこと) |
| と | 格助詞 |
| 申す。 | サ行四段活用動詞「申す」終止形 【謙譲】語り手→贈皇后宮懐子への敬意 |
永観二年八月二十八日、位につかせ給ふ、御年十七。
永観二年八月二十八日、即位なさったのが、十七歳(のときでいらっしゃった)。
| 永観二年 | 名詞(984年のこと) |
| 八月 | 名詞(旧暦の八月。葉月。現在の9月ころにあたる) |
| 二十八日、 | 名詞 |
| 位 | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| つか | カ行四段活用動詞「つく」未然形 ※位につく…即位する |
| せ | 尊敬の助動詞「す」連用形 語り手→花山院天皇への敬意 |
| 給ふ、 | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」終止形 【尊敬】語り手→花山院天皇への敬意 |
| 御年 | 名詞 |
| 十七。 | 名詞 |
寛和二年 丙戌 六月二十二日の夜、 あさましく候ひしことは、人にも知らせさせ給はで、みそかに花山寺におはしまして、御出家 入道せさせ給へりしこそ。
寛和二年、丙戌の年の六月二十二日の夜、驚きあきれることでございますのは、人にも知らせることをなさらないで、こっそりと元慶寺にいらっしゃって、出家されて仏門に入られたのでした。
| 寛和二年 | 名詞(986年のこと) |
| 丙戌 | 名詞(ここでは年を表すのに用いられている干支) |
| 六月 | 名詞(旧暦の六月、水無月のこと。現在の7月ころを指す) |
| 二十二日 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 夜、 | 名詞 |
| あさましく | シク活用の形容詞「あさまし」(驚きあきれる)連用形 |
| 候ひ |
ハ行四段活用補助動詞「候ふ」(~でございます)連用形 【丁寧】語り手→読者への敬意
|
| し | 過去の助動詞「き」連用形 |
| こと | 名詞 |
| は、 | 係助詞 |
| 人 | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| も | 係助詞 |
| 知ら | ラ行四段活用動詞「知る」未然形 |
| せ | 使役の助動詞「す」未然形 |
| させ | 尊敬の助動詞「さす」連用形 語り手→花山院天皇への敬意 |
| 給は | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」未然形 【尊敬】語り手→花山院天皇への敬意 |
| で、 | 接続助詞(~ないで) |
| みそかに | ナリ活用の形容動詞「みそかなり」(こっそり、ひそかに)連用形 |
| 花山寺 |
名詞(現在の京都市にある元慶寺のこと。花山院天皇の出家によって、花山寺とも呼ばれている)
|
| に | 格助詞 |
| おはしまし |
サ行四段活用動詞「おはします」(いらっしゃる)連用形 【尊敬】語り手→花山院天皇への敬意
|
| て、 | 接続助詞 |
| 御出家 | 名詞(俗世間を離れて仏門に入ること) |
| 入道 | 名詞(仏の道に入って修行すること) |
| せ | サ行変格活用動詞「す」未然形 |
| させ | 尊敬の助動詞「さす」連用形 語り手→花山院天皇への敬意 |
| 給へ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」已然形 【尊敬】語り手→花山院天皇への敬意 |
| り | 完了の助動詞「り」已然形 |
| し | 過去の助動詞「き」連用形 |
| こそ。 | 係助詞 【係】→【結】省略 |
御年 十九。 世を保たせ給ふこと二年。 そののち二十二年おはしましき。
(その時の)お年は十九。世の中を治めなさること二年。その(出家された)あと二十二年ご存命でいらっしゃった。
| 御年 | 名詞 |
| 十九。 | 名詞 |
| 世 | 名詞(世の中) |
| を | 格助詞 |
| 保た | タ行四段活用動詞「保つ」(治める)未然形 |
| せ | 尊敬の助動詞「す」連用形 語り手→花山院天皇への敬意 |
| 給ふ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連体形 【尊敬】語り手→花山院天皇への敬意 |
| こと | 名詞 |
| 二年。 | 名詞 |
| そ | 代名詞 |
| の | 格助詞 |
| のち | 名詞(以後)※ここでは出家後のことを指す |
| 二十二年 | 名詞 |
| おはしまし |
サ行四段活用動詞「おはします」(ご存命である)連用形 【尊敬】語り手→花山院天皇への敬意
|
| き。 | 過去の助動詞「き」終止形 |
あはれなることは、おりおはしましける夜は、 藤壺の上の御局の小戸より出でさせ給ひけるに、
気の毒なことは、(花山院天皇が)ご退位なさった夜は、藤壺の上の御局の小戸からお出になると、
| あはれなる | ナリ活用の形容動詞「あはれなり」(気の毒だ)連体形 |
| こと | 名詞 |
| は、 | 係助詞 |
| おり | ラ行上二段活用動詞「おり」(退位する)連用形 |
| おはしまし | サ行四段活用動詞「おはします」(いらっしゃる)連用形 |
| ける | 過去の助動詞「けり」連体形 |
| 夜 | 名詞 |
| は、 | 係助詞 |
| 藤壺 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 上 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 御局 | 名詞(お部屋) 藤壺の上の御局…清涼殿にある一室のこと |
| の | 格助詞 |
| 小戸 | 名詞(小さな戸) |
| より | 格助詞 |
| 出で | ダ行下二段活用動詞「出づ」未然形 |
| させ | 尊敬の助動詞「さす」連用形 語り手→花山院天皇への敬意 |
| 給ひ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形 【尊敬】語り手→花山院天皇への敬意 |
| ける | 過去の助動詞「けり」連体形 |
| に、 | 接続助詞 |
有明の月のいみじく明かかりければ、 「顕証にこそありけれ。いかがすべからむ。」と仰せられけるを、
有明の月がとても明るかったので、「露わで人目についてしまうなあ。どうしたらよいだろうか。」とおっしゃるのを、
| 有明 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 月 | 名詞 ※有明の月…夜が明けても空に残っている月のこと |
| の | 格助詞 |
| いみじく | シク活用の形容詞「いみじ」(とても)連用形 |
| 明かかり | ク活用の形容詞「あかし」(明るい)連用形 |
| けれ | 過去の助動詞「けり」已然形 |
| ば、 | 接続助詞 |
| 「顕証に |
ナリ活用の形容動詞「顕証なり」(露わで人目につく様子である)連用形
|
| こそ | 係助詞【係】 |
| あり | ラ行変格活用動詞「あり」連用形 |
| けれ。 | 詠嘆の助動詞「けり」已然形【結】 |
| いかが | 副詞(どのように~か) |
| す | サ行変格活用動詞「す」終止形 |
| べから | 適当の助動詞「べし」未然形 |
| む。」 |
推量の助動詞「む」連体形 ※「いかが」は「いかにか」が変化したもの。係助詞「か」を受けて係り結びの関係となるため、「む」が連体形となる。
|
| と | 格助詞 |
| 仰せ |
サ行下二段活用動詞「仰す」(おっしゃる)未然形 【尊敬】語り手→花山院天皇への敬意
|
| られ |
尊敬の助動詞「らる」連用形 語り手→花山院天皇への敬意
|
| ける | 過去の助動詞「けり」連体形 |
| を、 | 格助詞 |
「さりとて、とまらせ給ふべきやう侍らず。 神璽・宝剣渡り給ひぬるには。」と、 粟田殿のさわがし申し給ひけるは、
「そうかといって、とりやめなさるのにふさわしい理由もございません。神璽や宝剣が(次期天皇の)手にお渡りになったからには。」と粟田殿が(花山院天皇の出家を)急かして申し上げなさるのは、
| 「さりとて、 | 接続詞(そうかといって) |
| とまら |
ラ行四段活用動詞「とまる」(とりやめる)未然形
|
| せ |
尊敬の助動詞「す」連用形 粟田殿→花山院天皇への敬意
|
| 給ふ |
ハ行四段活用動詞「給ふ」終止形 【尊敬】粟田殿→花山院天皇への敬意
|
| べき | 当然の助動詞「べし」連体形 |
| やう | 名詞(理由) |
| 侍ら |
ラ行変格活用動詞「侍り」未然形 【丁寧】粟田殿→花山院天皇への敬意
|
| ず。 | 位置けしの助動詞「ず」終止形 |
| 神璽・ |
名詞(三種の神器の一つである八尺瓊勾玉のこと)
|
| 宝剣 |
名詞(宝物としての剣。三種の神器の一つである天の叢雲の剣のこと。)
|
| 渡り |
ラ行四段活用動詞「渡る」(移動する、~の手に渡る)連用形
|
| 給ひ |
ハ行四段活用動詞「給ふ」連用形 【尊敬】粟田殿→神璽・宝剣への敬意
|
| ぬる | 完了の助動詞「ぬ」連体形 |
| に | 格助詞 |
| は。」 | 係助詞 |
| と、 | 格助詞 |
| 粟田殿 | 名詞(人名。藤原道兼のこと) |
| の | 格助詞 |
| さわがし |
サ行四段活用動詞「さわがす」(早くするように急かす)連用形
|
| 申し |
サ行四段活用補助動詞「申す」連用形 【謙譲】書き手→花山院天皇への敬意
|
| 給ひ |
ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形 【尊敬】書き手→粟田殿への敬意
|
| ける | 過去の助動詞「けり」連体形 |
| は、 | 係助詞 |
①天叢雲剣(草薙の剣)
②八尺瓊勾玉
③八咫鏡
まだ帝 出でさせおはしまさざりける先に、 手づから取りて、春宮の御方に渡し奉り給ひてければ、
まだ帝(=花山院天皇)がお出にならないうちに、(粟田殿)みづから手に取って、(神璽・宝剣を)お渡し申し上げなさってしまったので、
| まだ | 副詞 |
| 帝 | 名詞(天皇を表す。ここでは花山院天皇のこと) |
| 出で | ダ行下二段活用動詞「出づ」(出る)未然形 |
| させ |
尊敬の助動詞「さす」連用形 書き手→花山院天皇への敬意
|
| おはしまさ |
サ行四段活用補助動詞「おはします」(~でおいでになる、いらっしゃる)未然形 【尊敬】語り手→花山院天皇への敬意
|
| ざり | 打消の助動詞「ず」連用形 |
| ける | 過去の助動詞「けり」連体形 |
| 先 | 名詞(前) |
| に、 | 格助詞 |
| 手づから | 副詞(みずから) |
| 取り | ラ行四段活用動詞「取る」(手に取る)連用形 |
| て、 | 接続助詞 |
| 春宮 |
名詞(皇太子。ここではのちの一条天皇となる懐仁親王のことを指す)
|
| の | 格助詞 |
| 御方 | 名詞 |
| に、 | 格助詞 |
| 渡し | サ行四段活用動詞「渡す」連用形 |
| 奉り |
ラ行四段活用補助動詞「奉る」連用形 【謙譲】書き手→春宮への敬意
|
| 給ひ |
ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形 【尊敬】書き手→粟田殿への敬意
|
| て | 完了の助動詞「つ」連用形 |
| けれ | 過去の助動詞「けり」已然形 |
| ば、 | 接続助詞 |
帰り入らせ給はむことはあるまじく思して、 しか申させ給ひけるとぞ。
(出家をとりやめて)お帰りになるようなことは当然あってはならないと(粟田殿は)お思いになって、そのように(=「さりとて~ぬるには。」)申し上げなさったということだ。
| 帰り入ら |
ラ行四段活用動詞「帰り入る」(帰って家に入る)未然形
|
| せ |
尊敬の助動詞「す」連用形 書き手→花山院天皇への敬意
|
| 給は |
ハ行四段活用補助動詞「給ふ」未然形 【尊敬】書き手→花山院天皇への敬意
|
| む | 婉曲の助動詞「む」連体形 |
| こと | 名詞 |
| は | 係助詞 |
| ある | ラ行変格活用動詞「あり」連体形 |
| まじく |
打消当然の助動詞「まじ」(当然~ならない)連用形
|
| 思し |
サ行四段活用動詞「思す」(お思いになる)連用形 【尊敬】書き手→粟田殿への敬意
|
| て、 | 接続助詞 |
| しか | 副詞(そのように) |
| 申さ |
サ行四段活用動詞「申す」未然形 【謙譲】書き手→花山院天皇への敬意
|
| せ |
尊敬の助動詞「す」連用形 書き手→粟田殿への敬意
|
| 給ひ |
ハ行四段活用補助動詞「給ふ」未然形 【尊敬】書き手→粟田殿への敬意
|
| ける | 過去の助動詞「けり」連体形 |
| と | 格助詞 |
| ぞ。 | 係助詞【係】 |
| (言ふ など) | 【結】の省略 |

花山院天皇が正式に譲位していないうちに、次期天皇になる予定の一条天皇に、三種の神器のうちの二つも渡してしまっているという粟田殿。
ここで出家をやめられてしまったら困る!と焦っていますね。
さやけき影をまばゆく思し召しつるほどに、 月の顔にむら雲のかかりて、 少し暗がりゆきければ、
明るい月の光をきまりが悪いと思っていた間に、月の表面に雲のかたまりがかかって、いくらか暗くなっていったので、
| さやけき | ク活用の形容詞「さやけし」(明るい)連体形 |
| 影 | 名詞(月の光) |
| を | 格助詞 |
| まばゆく |
ク活用の形容詞「まばゆし」(きまりが悪い、体裁が悪い)連用形
|
| 思し召し |
サ行四段活用動詞「思し召す」(お思いになる)連用形 【尊敬】語り手→花山院天皇への敬意
|
| つる | 完了の助動詞「つ」連体形 |
| ほど | 名詞(間) |
| に、 | 格助詞 |
| 月 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 顔 | 名詞(表面) |
| に、 | 格助詞 |
| むら雲 | 名詞(群がって集まっている雲) |
| の | 格助詞 |
| かかり | ラ行四段活用動詞「かかる」連用形 |
| て、 | 接続助詞 |
| 少し | 副詞(いくらか) |
| 暗がりゆき |
カ行四段活用動詞「暗がりゆく」(暗くなっていく)連用形
|
| けれ | 過去の助動詞「けり」已然形 |
| ば、 | 接続助詞 |

花山院天皇は、こっそりと出家しようと思っていました。しかし、「月明りに照らされて誰かに見られたら恥ずかしいなあ…」と、出家を渋っていたんでしたね。
「わが出家は成就するなりけり。」と仰せられて、 歩み出でさせ給ふほどに、
「(これで)私の出家は成し遂げられるなあ。」と(花山院天皇は)おっしゃって、歩き始められると、
| 「わ | 代名詞 |
| が | 格助詞 |
| 出家 | 名詞 |
| は | 係助詞 |
| 成就する |
サ行変格活用動詞「成就す」(成し遂げられる)連体形
|
| なり | 断定の助動詞「なり」連用形 |
| けり。」 | 詠嘆の助動詞「けり」終止形 |
| と | 格助詞 |
| 仰せ |
サ行下二段活用動詞「仰す」未然形 【尊敬】語り手→花山院天皇への敬意
|
| られ |
尊敬の助動詞「らる」連用形 語り手→花山院天皇への敬意
|
| て、 | 接続助詞 |
| 歩み出で |
ダ行下二段活用動詞「歩み出づ」(歩み出す、歩き始める)
|
| させ |
尊敬の助動詞「さす」連用形 語り手→花山院天皇への敬意
|
| 給ふ |
ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連体形 【尊敬】語り手→花山院天皇への敬意
|
| ほど | 名詞(~するうち) |
| に、 | 格助詞 |
弘徽殿の女御の御文の、 日ごろ破り残して御身も放たず御覧じけるを思し召し出でて、
弘徽殿の女御(から)のお手紙で、(花山院天皇が)日ごろから破らずにお身体から離さず御覧になっていた(手紙を)思い出しなさって、
| 弘徽殿の女御 |
名詞(人名。花山院天皇が寵愛していた女御。985年に亡くなっている)
|
| の | 格助詞 |
| 御文 | 名詞(お手紙) |
| の、 | 格助詞 |
| 日ごろ | 名詞(普段) |
| 破り残し |
サ行四段活用動詞「破り残す」=ラ行四段活用動詞「破る」(破る)連用形+サ行四段活用動詞「残す」連用形 ※破るものを残してあった→ここでは破らずに残してあったと解釈
|
| て | 接続助詞 |
| 御身 | 名詞(お身体) |
| も | 係助詞 |
| 放た | タ行四段活用動詞「放つ」(離す)未然形 |
| ず | 打消の助動詞「ず」連用形 |
| 御覧じ |
サ行変格活用動詞「御覧ず」(ご覧になる)連用形 【尊敬】語り手→花山院天皇への敬意
|
| ける | 過去の助動詞「けり」連体形 |
| を | 格助詞 |
| 思し召し出で |
ダ行下二段活用動詞「思し召し出づ」(思い出しなさる)連用形 【尊敬】語り手→花山院天皇への敬意
|
| て、 | 接続助詞 |
「しばし。」とて、取りに入りおはしましけるほどぞかし、
「少しの間(待ってくれ)。」と言って、(弘徽殿の女御の手紙を)取りにお入りになった時のことだ、
| 「しばし。」 | 副詞(少しの間) |
| とて、 | 格助詞 |
| 取り | ラ行四段活用動詞「取る」連用形 |
| に | 格助詞 |
| 入り | ラ行四段活用動詞「入る」連用形 |
| おはしまし | サ行四段活用動詞「おはします」連用形 |
| ける | 過去の助動詞「けり」連体形 |
| ほど | 名詞 |
| ぞ | 係助詞 |
| かし、 | 終助詞 |

やっと出家すると思ったのに、また足止め…
粟田殿も気が気じゃありませんね。

それだけ花山院天皇が弘徽殿の女御を愛していて、俗世への未練があるということがわかる描写です。
まだ、出家することをためらっているのです。
粟田殿の、「いかにかくは思し召しならせおはしましぬるぞ。 ただ今過ぎば、おのづから障りも出でまうで来なん。」 と、そら泣きし給ひけるは。
粟田殿は、「なぜこのようにお思いになられてしまうのでしょうか。今が過ぎれば、自然と差し障りも発生してしまわれるでしょう。」と、嘘泣きしなさったのは。
| 粟田殿 | 名詞 |
| の、 | 格助詞 |
| 「いかに | 副詞(なぜ/どのように) |
| かく | 副詞(このように) |
| は | 係助詞 |
| 思し召し |
サ行四段活用動詞「思し召す」(お思いになる)連用形 【尊敬】粟田殿→花山院天皇への敬意
|
| なら | ラ行四段活用動詞「なる」未然形 |
| せ |
尊敬の助動詞「す」連用形 粟田殿→花山院天皇への敬意
|
| おはしまし |
サ行四段活用動詞「おはします」(いらっしゃる)連用形 【尊敬】粟田殿→花山院天皇への敬意
|
| ぬる | 完了の助動詞「ぬ」連体形 |
| ぞ。 | 係助詞 |
| ただ今 | 名詞(今) |
| 過ぎ |
ガ行上二段活用動詞「過ぐ」(過ぎる/時が経つ)未然形
|
| ば、 | 接続助詞 |
| おのづから | 副詞(自然と) |
| 障り | 名詞(差し障り、支障) |
| も | 係助詞 |
| 出でまうで来 |
カ行変格活用動詞「出でまうで来」(起きる、発生する)連用形 【尊敬】粟田殿→花山院天皇への敬意
|
| な | 強意の助動詞「ぬ」未然形 |
| む。」 | 推量の助動詞「む」終止形 |
| と、 | 格助詞 |
| そら泣き | 名詞(噓泣き) |
| し | サ行変格活用動詞「す」連用形 |
| 給ひ |
ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形 【尊敬】書き手→粟田殿への敬意
|
| ける | 過去の助動詞「けり」連体形 |
| は。 | 係助詞 |

なんとかして出家させたい粟田殿。
敬語を使いまくって、花山院天皇を立てて立てて…としている様子がうかがえますね。
続き:さて、土御門より~


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