大鏡より「道長、伊周の競射/弓争ひ/競べ弓/南の院の競射」について解説をしていきます。
まずはじめに『大鏡』について簡単に説明しましょう。
大鏡とは
大鏡
成立:平安時代後期
作者:不詳
ジャンル:歴史物語
内容: 藤原道長を中心とした藤原氏の栄華について書かれている。
二人の翁が語り手となり、若侍に語っている。
続いて、今回のお話に登場する人達は次の通りです。
登場人物
- 帥殿…藤原伊周
- 中関白殿/関白殿/父大臣…藤原道隆
- この殿/道長(自称)/入道殿…藤原道長
※「入道殿」は道長が54歳で出家してからの呼び方 - 御前に候ふ人々…道隆に仕える人たち
あらすじ
ある時、道隆の家の一角で競射の会が開かれた。
すると道長が現れて、道隆「何しに来たん?」と言わんばかりにビックリ。
でも機嫌を損ねるわけにもいかないから、おもてなしってことで本当は身分の高いものから射るところを、道長に「先に射っていいよ」と譲る。
そしたら道長は矢をビシっと的に命中させて、伊周に勝ってしまった。
どうしても伊周を勝たせたい道隆と周りの人々は「あと2ゲーム延長してください!」と道長に頼む。
それをしぶしぶ受け入れた道長は「私の家から天皇や皇后が出るなら、当たれ!」「俺が摂政・関白をするにふさわしい人間なら、当たれ!」と言って、的の真ん中を射貫きます。
負け確の中、弓を射ろうとする伊周に「もう射るな、射るな」と言う道隆の過保護っぷりに、みんなどっちらけだったとさ。
それでは、簡単に内容を押さえたところで本文を細かくみていきましょう。
大鏡「道長、伊周の競射」品詞分解・現代語訳・解説
本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳
帥殿の、南院にて人々集めて弓あそばししに、この殿渡らせ給へれば、
帥殿が、南院で人々を集めて弓の競射をなさったときに、この殿(道長)がいらっしゃったので、
語句 | 意味 |
帥殿 | 名詞(藤原の伊周を指す。道長の兄である道隆の子。) |
の、 | 格助詞 |
南院 | 名詞(道隆が住んでいた建物を指す) |
にて | 格助詞 |
人々 | 名詞 |
集め | マ行下二段活用動詞「集む」連用形 |
て | 接続助詞 |
弓 | 名詞(弓の競射) |
あそばし | サ行四段活用動詞「あそばす」(~なさる)連用形 【尊敬】作者/語り手→帥殿(伊周)への敬意 |
し | 過去の助動詞「き」連体形 |
に、 | 格助詞 |
こ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
殿 | 名詞(この殿=藤原道長を指す) |
渡ら | ラ行四段活用動詞「渡る」(いらっしゃる)未然形 |
せ | 尊敬の助動詞「す」連用形 作者/語り手→この殿(道長)への敬意 |
給へ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」已然形 【尊敬】作者/語り手→この殿(道長)への敬意 |
れ | 完了の助動詞「り」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
思ひかけずあやしと、中関白殿思しおどろきて、いみじう饗応し申させ給うて、
思いがけない不思議なことだと、中関白殿(道隆)はビックリなさって、たいそうもてなしをし申し上げなさって、
語句 | 意味 |
思ひかけ | カ行下二段活用動詞「思ひかく」(予想する)未然形 |
ず | 打消の助動詞「ず」連用形 |
あやし | シク活用形容詞「あやし」(不思議だ)終止形 |
と | 格助詞 |
中関白殿 | 名詞(藤原道隆を指す。藤原兼家の子。) |
思しおどろき | カ行四段活用動詞「思しおどろく」(びっくりなさる)連用形 【尊敬】作者/語り手→中関白殿(道隆)への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
いみじう | シク活用形容詞「いみじ」(連用形「いみじく」のウ音便 |
饗応し | サ行変格活用動詞「饗応す」(機嫌をとる、もてなす)連用形 |
申さ | サ行四段活用補助動詞「申す」未然形 【謙譲】作者/語り手→この殿(道長)への敬意 |
せ | 尊敬の助動詞「す」連用形 作者/語り手→中関白殿(道隆)への敬意 |
給う | ハ行四段活用動詞「給ふ」連用形「給ひ」のウ音便 【尊敬】作者/語り手→中関白殿(道隆)への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
いみじう | シク活用形容詞「いみじ」(とても)連用形「いみじく」のウ音便 |
饗応し | サ行変格活用動詞「饗応す」(機嫌をとる)連用形 |
申さ | サ行四段活用補助動詞「申す」未然形 【謙譲】作者/語り手→中この殿(道長)への敬意 |
せ | 尊敬の助動詞「す」連用形 作者/語り手→中関白殿(道隆)への敬意 |
給う | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形「給ひ」のウ音便 【尊敬】作者/語り手→中関白殿(道隆)への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
下﨟におはしませど、前に立て奉りて、まづ射させ奉らせ給ひけるに、
(道長は伊周より)身分が低くいらっしゃるけれども、(道長を伊周より)前に立て申し上げて、最初に射させ申し上げなさったところ、
語句 | 意味 |
下﨟 | 名詞(身分が低い) |
に | 断定の助動詞「なり」連用形 |
おはしませ | サ行四段活用動詞「おはします」(いらしゃる)已然形 【尊敬】作者/語り手→この殿(道長)への敬意 |
ど、 | 接続助詞 |
前 | 名詞 |
に | 格助詞 |
立て | タ行下二段活用動詞「立つ」連用形 |
奉り | ラ行四段活用補助動詞「奉る」(申し上げる)連用形 【謙譲】作者/語り手→この殿(道長)への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
まづ | 副詞(最初に) |
射 | ヤ行上一段活用動詞「射る」未然形 |
させ | 使役の助動詞「さす」連用形 |
奉ら | ラ行四段活補助動詞「奉る」(~申し上げる)未然形 【謙譲】作者/語り手→この殿(道長)への敬意 |
せ | 尊敬の助動詞「す」連用形 作者/語り手→中関白殿(道隆)への敬意 |
給ひ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形 【尊敬】作者/語り手→中関白殿(道隆)への敬意 |
ける | 過去の助動詞「けり」連体形 |
に、 | 接続助詞 |
帥殿の矢数いま二つ劣り給ひぬ。
帥殿の的に当たった矢の数がもう二本少なくいらっしゃった。
語句 | 意味 |
帥殿 | 名詞 |
の | 格助詞 |
矢数 | 名詞(射って的に当たった矢の数) |
いま | 副詞(さらに、もう) |
二つ | 名詞 |
劣り | ラ行四段活用動詞「劣る」(及ばない、少ない)連用形 |
給ひ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形 【尊敬】作者/語り手→帥殿(伊周)への敬意 |
ぬ。 | 完了の助動詞「ぬ」終止形 |

回りくどい表現ですね…

道隆が、道長に気を遣って「先に射っていいよ~」と言ったことが始まりです。
自分の家が主催する会なわけですから、来てほしくなかったとしても道長は「お客様」です。
しっかりと、もてなしているということですね。

そこで空気を読まずに、伊周に勝ってしまうのが道長らしいです。

このことを受けて、道隆は次のように言います。
中関白殿、また御前に候ふ人々も、「いま二度延べさせ給へ。」と申して、延べさせ給ひけるを、
中関白殿や、同じく御前にお仕えする人々も、「もう二回延長なさいませ。」と申し上げて、延長なさったのを、
語句 | 意味 |
中関白殿、 | 名詞 |
また | 副詞(同じく) |
御前 | 名詞(身分の高い人の前…ここでは中関白殿を指す) |
に | 格助詞 |
候ふ | ハ行四段活用動詞「候ふ」(お仕え申し上げる)連体形 【謙譲】作者/語り手→中関白殿(道隆)への敬意 |
人々 | 名詞 |
も、 | 係助詞 |
「いま | 副詞(さらに、もう) |
二度 | 名詞 |
延べ | バ行下二段活用動詞「延ぶ」(延ばす、延長する)未然形 |
させ | 尊敬の助動詞「さす」連用形 中関白殿(道隆)・御前に候ふ人々→この殿(道長)への敬意 |
給へ。」 | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」命令形 【尊敬】中関白殿(道隆)・御前に候ふ人々→この殿(道長)への敬意 |
と | 格助詞 |
申し | サ行四段活用動詞「申す」連用形 【謙譲】作者/語り手→この殿(道長)への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
延べ | バ行下二段活用動詞「延ぶ」未然形 |
させ | 尊敬の助動詞「さす」連用形 作者/語り手→中関白殿(道隆)への敬意 |
給ひ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形 【尊敬】作者/語り手→中関白殿(道隆)への敬意 |
ける | 過去の助動詞「けり」連体形 |
を、 | 格助詞 |

道隆は、あと二回の延長を申し出ます。
さすがに、負けたままでは終われないと思ったのでしょう。
やすからず思しなりて、「さらば、延べさせ給へ。」と仰せられて、
心穏やかでなくお思いになって、「それならば、延長なさいませ。」とおっしゃって、
語句 | 意味 |
やすから | ク活用形容詞「やすし」(心穏やかである)未然形 |
ず | 打消の助動詞「ず」連用形 |
思しなり | ラ行四段活用動詞「思しなる」(思うようになられる) 【「思ひなる」の尊敬】作者/語り手→この殿(道長)への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
「さらば、 | 接続詞(それならば) |
延べ | バ行下二段活用動詞「延ぶ」未然形 |
させ | 尊敬の助動詞「さす」連用形 この殿(道長)→中関白殿(道隆)への敬意 |
給へ。」 | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」命令形 【尊敬】この殿(道長)→中関白殿(道隆)への敬意 |
と | 格助詞 |
仰せ | サ行下二段活用動詞「仰す」(おっしゃる)未然形 【尊敬】作者/語り手→この殿(道長)への敬意 |
られ | 尊敬の助動詞「らる」連用形 作者/語り手→この殿(道長)への敬意 |
て、 | 接続助詞 |

なぜ「やすからず」思ったのでしょうか?

「俺が勝ったのに、なんで延長させられるんだ」と不愉快に思ったのです。
また射させ給ふとて仰せらるるやう、
再び射なさるということでおっしゃることには、
語句 | 意味 |
また | 副詞 |
射 | ヤ行下二段活用動詞「射る」未然形 |
させ | 尊敬の助動詞「さす」連用形 作者/語り手→この殿(道長)への敬意 |
給ふ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」終止形 【尊敬】作者/語り手→この殿(道長)への敬意 |
とて | 格助詞 |
仰せ | サ行下二段活用動詞「仰す」未然形 【尊敬】作者/語り手→この殿(道長)への敬意 |
らるる | 尊敬の助動詞「らる」連体形 作者/語り手→この殿(道長)への敬意 |
やう、 | 名詞(~ことには) |
「道長が家より帝、后立ち給ふべきものならば、この矢当たれ。」と仰せられるるに、
「道長の家から天皇・皇后の地位におつきになるはずならば、この矢当たれ。」とおっしゃると、
語句 | 意味 |
「道長 | 名詞 |
が | 格助詞 |
家 | 名詞 |
より | 格助詞 |
帝、 | 名詞(天皇) |
后 | 名詞(皇后) |
立ち | タ行四段活用動詞「立つ」(地位につく)連用形 |
給ふ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」終止形 【尊敬】この殿(道長)→帝、后への敬意 |
べき | 当然の助動詞「べし」連体形 |
もの | 名詞 |
なら | 断定の助動詞「なり」未然形 |
ば、 | 接続助詞 |
こ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
矢 | 名詞 |
当たれ。」 | ラ行四段活用動詞「当たる」命令形 |
と | 格助詞 |
仰せ | サ行下二段活用動詞「仰す」未然形 【尊敬】作者/語り手→この殿(道長)への敬意 |
らるる | 尊敬の助動詞「らる」連体形 作者/語り手→この殿(道長)への敬意 |
に、 | 接続助詞 |
同じものを中心には当たるものかは。
同じ当たると言っても、なんと真ん中に当たるではないか。
語句 | 意味 |
同じ | シク活用形容詞「同じ」連体形 |
もの | 名詞 |
を | 格助詞 |
中心 | 名詞(真ん中、中心) |
に | 格助詞 |
は | 係助詞 |
当たる | ラ行四段活用動詞「当たる」連体形 |
ものかは。 | 終助詞(なんと~ではないか) |

語り手の盛り上げ方が、上手ですね~
次に帥殿射給ふに、いみじう臆し給ひて、御手もわななくけにや、
次に帥殿が射なさると、ひどく気後れなさって、御手もブルブルと震えたせいであろうか、
語句 | 意味 |
次 | 名詞 |
に | 格助詞 |
帥殿 | 名詞 |
射 | ヤ行上一段活用動詞「射る」連用形 |
給ふ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連体形 【尊敬】作者/語り手→帥殿(伊周)への敬意 |
に、 | 格助詞 |
いみじう | シク活用形容詞「いみじ」(とても、ひどい)連用形「いみじく」のウ音便 |
臆し | サ行変格活用動詞「臆す」(気後れする)連用形 |
給ひ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形 【尊敬】作者/語り手→帥殿(伊周)への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
御手 | 名詞 |
も | 係助詞 |
わななく | カ行四段活用動詞「わななく」(ブルブルとふるえる)連体形 |
け | 名詞(「故」…【原因・理由】ため、せい) |
に | 断定の助動詞「なり」連用形 |
や、 | 【疑問】係助詞 |

あちゃ~、道長の気迫にビビり倒してますね…
かわいそうで、見てられないです。
的のあたりにだに近く寄らず、無辺世界を射給へるに、関白殿、色青くなりぬ。
的のそばにさえ近寄らず、全く見当違いの方向を射なさったので、関白殿は、顔色が青くなった。
語句 | 意味 |
的 | 名詞 |
の | 格助詞 |
あたり | 名詞(近く、そば) |
に | 格助詞 |
だに | 副助詞(~さえ) |
近く | ク活用形容詞「近し」連用形 |
寄ら | ラ行四段活用動詞「寄る」未然形 |
ず、 | 打消の助動詞「ず」連用形 |
無辺世界 | 名詞(見当違いの方向) |
を | 格助詞 |
射 | ヤ行上一段活用動詞「射る」連用形 |
給へ | ハ行四段活用動詞「給ふ」已然形 【尊敬】作者/語り手→帥殿(伊周)への敬意 |
る | 完了の助動詞「り」連体形 |
に、 | 接続助詞 |
関白殿、 | 名詞(道隆を指す) |
色 | 名詞(顔色) |
青く | ク活用形容詞「青し」連用形 |
なり | ラ行四段活用動詞「なる」連用形 |
ぬ。 | 完了の助動詞「ぬ」終止形 |

伊周はプレッシャーに弱いんですね…
パパ真っ青だし…

道長が「自分の血筋から天皇・皇后が出るなら当たれ!」と祈った矢が命中したのに対し、ビビり倒して射った伊周の矢は見当違いの方向に飛んでいきました。
それを見て、自分の直系親族が栄えているのは自分の代で終わるのではないか…という不安に駆られたのです。
実際、道隆が亡くなった後に伊周は失脚してしまいます。

この後本当に、道長の天下となるんですね。
また、入道殿射給ふとて、「摂政、関白すべきものならば、この矢当たれ。」と仰せらるるに、
また、入道殿が射なさるということで、「摂政や関白をするのにふさわしい者ならば、この矢、当たれ。」とおっしゃると、
語句 | 意味 |
また、 | 接続詞 |
入道殿 | 名詞(道長を指す) |
射 | ヤ行上一段活用動詞「射る」連用形 |
給ふ | ハ行四段活用動詞「給ふ」已然形 【尊敬】作者/語り手→入道殿(道長)への敬意 |
とて、 | 格助詞 |
摂政、 | 名詞(天皇が幼い場合に代わって政治を行う役職のこと) |
関白 | 名詞(天皇を補佐して政治を行う役職のこと。天皇が幼少期は摂政→成人後に関白という役職が置かれた) |
す | サ行変格活用動詞「す」終止形 |
べき | 当然の助動詞「べし」連体形 |
もの | 名詞 |
なら | 断定の助動詞「なり」未然形 |
ば、 | 接続助詞 |
こ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
矢 | 名詞 |
当たれ。」 | ラ行四段活用動詞「当たる」命令形 |
と | 格助詞 |
仰せ | サ行下二段活用動詞「仰す」未然形 【尊敬】作者/語り手→この殿(道長)への敬意 |
らるる | ラ行四段活用動詞「当たる」命令形 |
に、 | 格助詞 |

「摂政・関白」とは、政治の実権を握る役職です。
当時、政治を行うのは天皇でしたが、幼いうちに即位すると摂政が政治をするのです。
娘を天皇に嫁がせることで、政治の実権を握っていったのです。

ちなみに…ここで突然「入道殿」と呼び方が変わったのって、意味があるんですか?

ん~、どうでしょうか。
「入道殿」とは、道長が54歳で出家したあとの呼び方です。
このお話の内容から考えると、栄華をきわめる前であり、出家前のようです。
語り手の気まぐれかもしれませんし、栄華をきわめたあとの道長を強調したくて「入道殿」と言ったかもしれませんね。

伊周の情けない姿とそれに青ざめる道隆の描写の後ですから、その説を私は推します!
でも語り手は、百歳越えの方たちですから、間違えただけっていう可能性もありますかね。
初めの同じやうに、的の破るばかり、同じ所に射させ給ひつ。
最初の(矢)と同じように、的が壊れるぐらい、同じ所に射なさった。
語句 | 意味 |
初め | 名詞(最初) |
の | 格助詞 |
同じ | シク活用形容詞「同じ」連体形 |
やうに、 | 比況の助動詞「やうなり」(~のようだ)連用形 |
的 | 名詞 |
の | 格助詞 |
破る | ラ行四段活用動詞「破る」(破れる、壊れる)連体形 |
ばかり、 | 副助詞(~ほど、~ぐらい) |
同じ | シク活用形容詞「同じ」連体形 |
所 | 名詞 |
に | 格助詞 |
射 | ヤ行上一段活用動詞「射る」未然形 |
させ | 尊敬の助動詞「さす」連用形 作者/語り手→この殿(道長)への敬意 |
給ひ | ハ行四段活用動詞「給ふ」連用形 【尊敬】作者/語り手→入道殿(道長)への敬意 |
つ。 | 完了の助動詞「つ」終止形 |

ここで言う「初め」とは、延長前の最初の矢ではありません。
この矢の前に射った矢を指します。

ブチギレてる感じが「的の破るばかり」にも表れていますね。

延長を指示されて、頭にきていたのでしょう。
饗応し、もてはやし聞こえさせ給ひつる興もさめて、こと苦うなりぬ。
機嫌をとり、手厚くもてなし申し上げなさった興も冷めて、気まずくなった。
語句 | 意味 |
饗応し、 | サ行変格活用動詞「饗応す」(機嫌をとる)連用形 |
もてはやし | サ行四段活用動詞「もてはやす」(手厚くもてなす)連用形 |
聞こえ | ヤ行下二段活用動詞「聞こゆ」(申し上げる)未然形 【謙譲】作者/語り手→入道殿(道長)への敬意 |
さえ | 尊敬の助動詞「さす」連用形 作者/語り手→関白殿(道隆)への敬意 |
給ひ | ハ行四段活用動詞「給ふ」連用形 【尊敬】作者/語り手→関白殿(道隆)への敬意 |
つる | 完了の助動詞「つ」連体形 |
興 | 名詞(面白み) |
も | 係助詞 |
さめ | マ行下二段活用動詞「さむ」(興ざめする)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
こと苦う | シク活用形容詞「こと苦し」(きまずい)連用形「こと苦く」のウ音便 |
なり | ラ行四段活用動詞「なる」連用形 |
ぬ。 | 完了の助動詞「ぬ」終止形 |

「興が(も)さめる」とは、楽しく盛り上がっていた気持ちがある出来事をきっかけに、一気に冷めることを言います。
ここでは道隆が道長のご機嫌とりのために、盛り上げていたのでしょう。

でも道長の「No忖度」の態度に、盛り上げる気持ちもすっかり冷めてしまったんですね。
父大臣、帥殿に、「何か射る。な射そ、な射そ。」と制し給ひて、ことさめにけり。
父大臣は、帥殿に、「どうして射るのか、いや射ることはない。射るな、射るな。」と制止なさって、しらけてしまった。
語句 | 意味 |
父大臣、 | 名詞(道隆を指す) |
帥殿 | 名詞 |
に、 | 格助詞 |
「何 | 副詞 |
か | 【反語】係助詞 ※結び:射る |
射る。 | ヤ行上一段活用動詞「射る」連体形 【係り結び】 |
な | 副詞 |
射 | ヤ行上一段活用動詞「射る」連用形 |
そ、 | 【禁止】終助詞 |
な | 副詞 |
射 | ヤ行上一段活用動詞「射る」連用形 |
そ。」 | 【禁止】終助詞 |
と | 格助詞 |
制し | サ行変格活用動詞「制す」(制止する)連用形 |
給ひ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形 【尊敬】作者/語り手→父大臣(道隆)への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
ことさめ | マ行下二段活用動詞「ことさむ」(しらける)連用形 |
に | 完了の助動詞「ぬ」連用形 |
けり。 | 過去の助動詞「けり」終止形 |

なぜ道隆は、伊周が射るのを止めたのでしょうか?

道隆の気持ちを思えば、当然のこととも言えます。
①伊周を勝たせるための延長戦でしたが、道長の勝ちが確定したので競射を続ける必要がなくなった。
②伊周がかっこよく射ることは見込めないため、恥の上塗りを避けたかった。
という理由が考えられます。

そして、最後は道隆の呼び方が「父大臣」に変わりましたね。
やっぱり、語り手の意図があるような気がします。
私は「過保護なパパ」としての道隆を、強調しているように感じました。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は大鏡より「道長、伊周の競射/弓争ひ/競べ弓/南の院の競射」を解説しました。
A.みんな伊周を勝たせたかった。Q.道隆が「色青くなりぬ。」の理由は?
A.道長が自分の子孫繁栄を祈った矢が命中したのに対し、ビビり倒して射った伊周の矢は見当違いの方向に飛んでいってしまった。
それを見て、自分の直系親族が栄えているのは自分の代で終わるのではないか…という不安に駆られたから。
Q.道隆はなぜ「な射そ、な射そ。」と言ったのか?
A1. 伊周を勝たせるための延長戦だったが、道長の勝ちが確定したので競射を続ける必要がなくなった。
A2. 伊周がこれ以上恥ずかしい思いをすることは避けたかった。
Q.このお話で描かれる道長と伊周の性格は?
A.道長…負けず嫌い、豪胆(動じない)、野心家
伊周…お坊ちゃん気質、小心者(ヘタレ)
NHK大河ドラマ「光る君へ」で彼らを演じた俳優さんの顔が思い浮かべながら読んだのは、私だけでしょうか?
大鏡は人物像や、その関係性を理解して読むとよりわかりやすくなります。
敬語表現を読み解く上でも、助けになりますよ!
コメント