五雑組より「畏饅頭(饅頭を畏る)」について解説をしていきます。
五雑組とは、明の国の謝肇淛によって書かれました。
天部・地部・人部・物部・事部からなり、その時代の経済や社会、文化などについて取り上げ、批評しています。
今回は古典落語「饅頭こわい」のもととなったお話です。
この記事では
・書き下し文(読み仮名付き)
・語句の意味/解説
・現代語訳
以上の内容を順番にお話していきます。
「畏饅頭(饅頭を畏る)」書き下し文・現代語訳・解説
白文
①有窮書生。
②欲食饅頭。
③計無従得。
④一日見市肆有列而鬻者。
⑤輒大叫仆地。
⑥主人驚問。
⑦曰、「吾畏饅頭。」
⑧主人曰、「安有是。」
⑨乃設饅頭百枚置空室中、
⑩閉之伺於外寂不聞声。
⑪穴壁窺之、則食過半矣。
⑫亟開門詰其故。
⑬曰、「吾今日見此、忽自不畏。」
⑭主人知其詐、怒叱曰、「若尚有畏乎。」
⑮曰、「更畏蠟茶両椀爾。」
書き下し文(読み仮名付き)・語句解説・現代語訳
①窮書生有り。
語句 | 意味 |
窮書生 | 貧しい学生 |
【訳】貧しい学生がいた。
②饅頭を食らはんと欲す。
語句 | 意味 |
饅頭 | マントウ |
んと欲す | ~したいと思う |
【訳】(学生は)饅頭を食べたいと思った。
③計るに従りて得る無し。
語句 | 意味 |
計る | 想像する、推量する |
従りて | したがって、よって |
得る | (饅頭を)手に入れる |
【訳】考えてみても、(饅頭を)手に入れる(手段が)ない。
「計るに従りて」の部分は直訳すると「想像するとしたがって」となります。
ここではわかりやすく「考えてみても」と訳しました。
④一日市肆に列べて鬻ぐ者有るを見る。
語句 | 意味 |
一日 | ある日 |
市肆 | 市場の商店 |
列べて | 並べて |
鬻ぐ | 売る |
【訳】ある日市場の商店に(饅頭を)並べて売る者がいるのを見た。
⑤輒ち大いに叫びて地に仆る。
語句 | 意味 |
輒ち | すぐさま |
大いに | 非常に |
叫びて | 叫んで |
仆る | 倒れる |
【訳】すぐさま大きな声で叫んで地面に倒れた。
⑥主人驚きて問ふ。
語句 | 意味 |
主人 | 商店の主人 |
問ふ | 尋ねた |
【訳】商店の主人は驚いて(書生に)尋ねた。
⑦曰はく、「吾饅頭を畏る。」と。
語句 | 意味 |
吾 | 私 |
畏る | 恐れる。怖がる。 |
【訳】(書生が)言うことには、「私は饅頭が怖いのです。」と。
⑧主人曰はく、「安くんぞ是れ有らんや。」と。
語句 | 意味 |
安くんぞ~や | 【反語】どうして~か。いや~ない。 |
是 | このようなこと(饅頭が怖いということ) |
【訳】主人が言うことには、「どうしてこのようなことがあるだろうか。いやない。」と。
「饅頭が怖いなんてそんな馬鹿な話、あるわけないだろ!」と言っているようですね。
⑨乃ち饅頭百枚を設けて空室の中に置き、
語句 | 意味 |
乃ち | 【順接】そこで |
枚 | 個 |
設けて | 準備する |
空室 | 空き部屋 |
【訳】そこで饅頭100個を準備して空き部屋に置き、
⑩之を閉じて外より伺へば寂として声を聞かず。
語句 | 意味 |
之 | 書生を指す |
閉じて | 閉じ込めて |
伺へば | 状態を探る |
寂として | ひっそりとして静かで |
声 | 音 |
【訳】書生を閉じ込めて外から様子を探るとひっそりとして静かで音も聞こえない。
⑪壁を穴ちて之を窺ば、則ち食らふこと半ばを過ぎたり。
語句 | 意味 |
穴ちて | 穴をあけて |
之 | 中の様子、書生の様子を指す |
窺へば | のぞいて見ると |
則ち | すると、その結果 |
食らふこと | 食べること |
半ばを | 半分ほどを |
過ぎたり | 過ぎてしまっていた |
矣 | 置き字【完了】 |
【訳】壁に穴をあけて中の様子をのぞいてみると、その結果(饅頭を)半分ほど食べてしまっていた。
「食べることは半分ほどを過ぎてしまっていた」となりますが、ここでは「半分ほど食べてしまっていた」としました。
あっという間に饅頭を50個以上を、食べてしまっていたんですね!?
⑫亟やかに門を開きて其の故を詰る。
語句 | 意味 |
亟やかに | 急いで、すぐさま |
故 | 理由、わけ |
詰る | 問い詰める |
【訳】急いで門を開けてその理由を問い詰めた。
つまり商店の主人は「なんで饅頭が怖いって言ってたのに、こんなに食べとるんじゃい!?」と問い詰めたということです。
⑬曰はく、「吾今日此を見るに、忽ち自づから畏れず。」と。
語句 | 意味 |
此 | 饅頭を指す |
忽ち | すぐさま、たちどころに |
自づから | 自然に、自然と |
畏れず | 怖くない |
【訳】(書生が)言うことには、「私は今日これを見ても、すぐさま自然と怖くなかった。」と。
「饅頭が怖いって言ったくせになんでこんなに食べたんだ!?」と商店の主人に問い詰められて、書生は「なんだかわからないけど、今日は饅頭がこわくなかったんです」と言ってのけたということです。
嘘くさ…って感じですね。
⑭主人其の詐なるを知りて、怒り叱して曰はく、「若尚ほ畏るるもの有りや。」と。
語句 | 意味 |
其の | 「饅頭が怖い」と言ったことを指す |
詐なる | 嘘をつく、偽る |
叱して | 叱る |
若 | おまえ |
尚 | まだ |
~や(乎) | 【疑問】~か |
【訳】商店の主人はそれが嘘だと知って、怒って叱って言うことには、「お前にはまだ怖いものがあるのか。」と。
⑮曰はく、「更に蠟茶両椀を畏るるのみ。」と。
語句 | 意味 |
更に | 改めて、次は |
蠟茶 | お茶の一種 |
両椀 | 二杯 |
~のみ(爾) | 【限定】~だけ |
【訳】(書生が)言うことには、「次は蠟茶二杯が怖いだけだ。」と。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は五雑組より「畏饅頭(饅頭を畏る)」を解説しました。
これは冒頭でもお話したとおり、古典落語の「まんじゅうこわい」という演目のもとになったお話です。
まんじゅうこわいのお話
ある日若者が数名集まり、嫌いなものや怖いものを言い合っていた。
「幽霊」「クモ」などと言う中、ある男が「怖いものがあるなんて情けない」と言い放つ。
その男に「本当に怖いものはないのか?」と詰め寄ると、「本当はまんじゅうが怖い」と言った。
その男は、まんじゅうの話をしているだけで気分が悪くなったと寝てしまう。
残った男たちはその男が気に食わなかったので、男の部屋にまんじゅうを山盛りにして置くことにした。
すると目を覚ました男はまんじゅうを見て、「ああ怖い!」「食べてなくしてしまおう」「うますぎて怖い」と言いながら、まんじゅうを食べ尽くす。
それを見ていた男たちは、「まんじゅうが怖い」というのが嘘だったと気付く。
「お前が本当に怖いのはなんだ!?」と詰め寄ると、今度は「濃いお茶1杯が怖い」と言った。
面白いお話でしたが、「安くんぞ~や」の反語の用法や、「輒ち」「乃ち」「則ち」の使い分けなど文法的にもポイントが散りばめられていました。
しっかり押さえていきましょう。
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