今回は枕草子より「宮に初めて参りたるころ②」(暁にはとく下りなむと~)について解説をしていきます。
枕草子とは、平安時代中期の作品です。
作者である清少納言は、中宮定子に仕えた女房でした。
そこで見聞きしたことや、日々感じることなどをつづっています。
前回に続いて、清少納言が宮仕えを始めたばかりの頃の様子が語られています。
前回のお話はコチラ
この記事では
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説
以上の内容を順番にお話していきます。
枕草子「宮に初めて参りたるころ②」(暁にはとく下りなむと~)品詞分解・現代語訳・解説
本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳
暁にはとく下りなむといそがるる。
語句 | 意味 |
暁 | 名詞(夜明け前) |
に | 格助詞 |
は | 係助詞 |
とく | ク活用の形容詞「とし」(早い)連用形 |
下り | ラ行上二段活用動詞「下る」(退出する、下がる)連用形 |
な | 強意の助動詞「ぬ」未然形 |
む | 意志の助動詞「む」終止形 |
と | 格助詞 |
いそが | ガ行四段活用動詞「いそぐ」(急ぐ、気がせく)未然形 |
るる。 | 自発(自然と~れる)の助動詞「る」連体形 |
【訳】夜明け前には早く退出しようと自然と気がせいてしまう。
「葛城の神もしばし。」など仰せらるるを、
語句 | 意味 |
「葛城の神 | 名詞(奈良県の葛城山に住むという神) |
も | 係助詞 |
しばし。」 | 副詞(しばらく) |
など | 副助詞 |
仰せ | サ行下二段活用動詞「仰す」(おっしゃる)未然形【尊敬】作者→中宮への敬意 |
らるる | 尊敬の助動詞「らる」連体形 作者→中宮への敬意 |
を、 | 接続助詞【逆接】 |
【訳】「葛城の神ももうしばらく(いてもいいでしょう)。」などと(中宮様が)おっしゃるけれども、
ここでは自分の見た目を気にして隠れて、夜明け前に帰ろうとする作者を葛城の神に例えているのです。
いかでかは筋かひ御覧ぜられむとて、
語句 | 意味 |
いかで | 副詞(どうして~か、いや~ない。)【反語】 |
かは | 【反語】係助詞「か」+「は」 ※結び:む |
筋かひ | ハ行四段活用動詞「筋かふ」(斜めになる)連用形 |
御覧ぜ | サ行変格活用動詞「御覧ず」(ご覧になる)未然形 |
られ | 受身の助動詞「らる」未然形 |
む | 意志の助動詞「む」連体形【係り結び】 |
とて、 | 格助詞 |
【訳】どうして(中宮様に顔を)斜めからご覧になられようか、いやご覧になられずに済ませたいと思って、
「御覧ず」は「見給ふ」よりも敬意が高い表現になります。
天皇や皇后に対して用います。
ここでは、中宮である定子に対して使われています。
意味がよく分かりません。
「たとえ正面でなく斜めからであったとしても、絶対に中宮様に顔を見られたくない!」という感じです。
なほ伏したれば、御格子も参らず。
語句 | 意味 |
なほ | 副詞(ますます、いっそう) |
伏し | ハ行四段活用動詞「伏す」(うつむく)連用形 |
たれ | 存続の助動詞「たり」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
御格子 | 名詞(上から吊り下げた格子戸、蔀とも言う) |
も | 係助詞 |
参ら | ラ行四段活用動詞「参る」連用形 |
ず。 | 打消の助動詞「ず」終止形 |
【訳】いっそううつむいているので、御格子もお上げしない。
「参る」は、目上の人に奉仕することを指します。
格子を上げたり下げたり時にも使います。
ここでは「御格子もお上げしない」と訳しました。
格子の上げ下げは、女房の仕事の一つでもありました。
女官ども参りて、「これ、放たせ給へ。」など言ふを聞きて、
語句 | 意味 |
女官ども | 名詞(宮中で働く女性たちを指す) |
参り | ラ行四段活用動詞「参る」(参上する)連用形【謙譲】作者→中宮への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
「これ、 | 代名詞 |
放た | タ行四段活用動詞「放つ」(開ける)未然形 |
せ | 尊敬の助動詞「す」連用形 作者→中宮への敬意 |
給へ。」 | 尊敬の四段活用補助動詞「給ふ」命令形作者→中宮への敬意 |
など | 副助詞 |
言ふ | ハ行四段活用動詞「言ふ」連体形 |
を | 格助詞 |
聞き | カ行四段活用動詞「聞く」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】女官たちが参上して、「これ(この格子)を、お開けください。」などと言うのを聞いて、
どういう状況なのでしょうか?
女官が廂(ひさし)の間から「お開けください」と、部屋の中にいる女房にお願いしている場面です。
女房の放つを、「まな。」と仰せらるれば、笑ひて帰りぬ。
語句 | 意味 |
女房 | 名詞 |
の | 格助詞 |
放つ | タ行四段活用動詞「放つ」(開ける)連体形 |
を、 | 格助詞 |
「まな。」 | 副詞(だめ) |
と | 格助詞 |
仰せ | サ行下二段活用動詞「仰す」(おっしゃる)未然形【尊敬】作者→中宮への敬意 |
らるれ | 尊敬の助動詞「らる」已然形 作者→中宮への敬意 |
ば、 | 接続助詞 |
笑ひ | ハ行四段活用動詞「笑ふ」連用形 |
て | 接続助詞 |
帰り | ラ行四段活用動詞「帰る」連用形 |
ぬ。 | 完了の助動詞「ぬ」終止形 |
【訳】女房が開けるのを、「いけません。」とおっしゃるので、(女官たちは)笑って帰ってしまった。
格子を上げれば明るくなり、顔が見えるのを作者は避けたかったのですね。
それを嫌がる作者のことを思って、中宮は「いけません。」と制したのです。
ものなど問はせ給ひ、のたまはするに、久しうなりぬれば、
語句 | 意味 |
もの | 名詞 |
など | 副助詞 |
問は | ハ行四段活用動詞「問ふ」(尋ねる)未然形 |
せ | 尊敬の助動詞「す」連用形 作者→中宮への敬意 |
給ひ、 | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形【尊敬】作者→中宮への敬意 |
のたまはする | サ行下二段段活用動詞「のたまはす」(お話しなさる、おっしゃる)連体形【尊敬】作者→中宮への敬意 |
に、 | 接続助詞 |
久しう | シク活用の形容詞「久し」(時間が長い)連用形「久しく」のウ音便 |
なり | ラ行四段活用動詞「なる」連用形 |
ぬれ | 完了の助動詞「ぬ」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
【訳】あれこれとお尋ねになり、お話なさるうちに、長い時間も経ったので、
「下りまほしうなりにたらむ。
語句 | 意味 |
下り | ラ行上二段活用動詞「下る」(退出する)未然形 |
まほしう | 願望の助動詞「まほし」(~したい)連用形「まほしく」のウ音便 |
なり | ラ行活用動詞「なる」連用形 |
に | 完了の助動詞「ぬ」連用形 |
たら | 存続の助動詞「たり」未然形 |
む。 | 推量の助動詞「む」終止形 |
【訳】(中宮様が)「退出したくなってしまっているのでしょう。
さらば、はや。夜さりは、とく。」と仰せらる。
語句 | 意味 |
さらば、 | 接続詞(それならば) |
はや。 | 副詞(一刻も早く) |
夜さり | 名詞(夜) |
は、 | 係助詞 |
とく | ク活用の形容詞「とし」(すぐ)連用形 |
(参れ。)」 | 省略されている |
と | 格助詞 |
仰せ | サ行下二段活用動詞「仰す」(おっしゃる)未然形【尊敬】作者→中宮への敬意 |
らる。 | 尊敬の助動詞「らる」終止形 作者→中宮への敬意尊敬 |
【訳】それならば、一刻も早く(退出しなさい)。夜は、すぐ(参上しなさい)。」とおっしゃる。
ここでは強い口調で言っているのではなく、中宮様の心遣いです。
慣れない宮仕えにすっかり緊張している作者を和ませようと、いろいろ話しかけたりしてあげたということですね。
「もう帰ってもいいですよ。でも夜になったらすぐに来てね。(あなたに会いたいわ)」と優しく声をかけたのです。
ゐざり隠るるや遅きと、上げちらしたるに、雪降りにけり。
語句 | 意味 |
ゐざり隠るる | ラ行下二段活用動詞「ゐざり隠る」(座ったまま膝で移動する)連体形 |
や | 係助詞 ※結び:遅き |
遅き | ク活用形容詞「遅し」連体形【係り結び】 |
と、 | 格助詞 |
上げちらし | サ行四段活用動詞「上げちらす」(乱暴に上げる)連用形 |
たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
に、 | 接続助詞 |
雪 | 名詞 |
降り | ラ行四段活用動詞「降る」連用形 |
に | 完了の助動詞「ぬ」連用形 |
けり。 | 詠嘆の助動詞「けり」終止形 |
【訳】座ったまま膝で移動して隠れるとすぐに、(女房たちが格子を)乱暴に上げてしまうと、雪が降っていた。
登花殿の御前は、立蔀近くてせばし。
語句 | 意味 |
登花殿 | 平安御所の七殿五舎の一つ。中宮が住んでいた場所。 |
の | 格助詞 |
御前 | 名詞 |
は、 | 係助詞 |
立蔀 | 名詞(格子造の蔀に土台を付けて立てたもの) |
近く | ク活用形容詞「近し」連用形 |
て | 接続助詞 |
せばし。 | ク活用形容詞「せばし」(狭い)終止形 |
【訳】登花殿の前は、立蔀が近くて狭い。
雪いとをかし。
語句 | 意味 |
雪 | 名詞 |
いと | 副詞 |
をかし。 | シク活用形容詞「をかし」(趣深い)終止形 |
【訳】雪が趣深い。
自分の部屋へ帰るために外へ出ると、雪が積もって素敵だったと言っています。
京都では雪があまり降らないので、雪景色というのは趣深いものだったようです。
昼つ方、「今日は、なほ参れ。
語句 | 意味 |
昼つ方、 | 昼頃 |
「今日 | 名詞 |
は、 | 係助詞 |
なほ | 副詞(やはり) |
参れ。 | ラ行四段活用動詞「参る」(参上する)命令形【謙譲】中宮→中宮への敬意 |
【訳】昼頃、「今日は、やはり参上しなさい。
「参れ」…中宮のセリフなので、中宮からの敬意。
敬意の対象は、作者が参上する先である中宮自身となります。
これは特別なパターンで「自敬表現」と言います。
雪に曇りてあらはにもあるまじ。」など、
語句 | 意味 |
雪 | 名詞 |
に | 格助詞 |
曇り | ラ行四段活用動詞「曇る」連用形 |
て | 接続助詞 |
あらはに | ナリ活用の形容動詞「あらはなり」(はっきり見える)連用形 |
も | 係助詞 |
ある | ラ行変格活用動詞「あり」連体形 |
まじ。」 | 打消推量の助動詞「まじ」終止形 |
など、 | 副助詞 |
【訳】雪で曇って(あなたの姿も)はっきりと見えることもないでしょう。」などと、
たびたび召せば、
語句 | 意味 |
たびたび | 副詞(何度も) |
召せ | サ行四段活用動詞「召す」(お呼びになる)已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
【訳】何度もお呼びになるので、
誰のどういうセリフなのでしょうか?
中宮様が「夜になったらすぐ来てね」と清少納言を帰したのですが、「今日は雪で曇ってるから、早くおいでよ」と呼んでいるということです。
この局のあるじも、
語句 | 意味 |
こ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
局 | 名詞(部屋) |
の | 格助詞 |
あるじ | 名詞(主人) |
も、 | 係助詞 |
【訳】この部屋の主人も、
「見苦し。さのみやは籠りたらむとする。
語句 | 意味 |
「見苦し。 | シク活用の形容詞「見苦し」(みっともない)終止形 |
さ | 副詞(そのように) |
のみ | 副助詞(ばかり) |
やは | 係助詞【反語】 ※結び:する |
籠り | ラ行四段活用動詞「籠る」(閉じこもる)連用形 |
たら | 存続の助動詞「たり」未然形 |
む | 意志の助動詞「む」終止形 |
と | 格助詞 |
する。 | サ行変格活用動詞「す」連体形【係り結び】 |
【訳】「みっともない。そのようにばかり閉じこもっていようとするだろうか、いやしない。
あへなきまで御前許されたるは、
語句 | 意味 |
あへなき | ク活用の形容詞「あへなし」(あっけない)連体形 |
まで | 副助詞(ほどに) |
御前 | 名詞 |
許さ | サ行四段活用動詞「許す」未然形 |
れ | 受身の助動詞「る」連用形 |
たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
は、 | 係助詞 |
【訳】あっけないくらいに簡単に(中宮様の)御前(へ仕えることを)許されたのは、
さおぼしめすやうこそあらめ。
語句 | 意味 |
さ | 副詞(そのように) |
おぼしめす | サ行四段活用動詞「おぼしめす」(お思いになる)連体形【尊敬】作者→中宮への敬意 |
やう | 名詞(理由) |
こそ | 係助詞【強調】 ※結び:め |
あら | ラ行変格活用動詞「あり」未然形 |
め。 | 推量の助動詞「む」已然形【係り結び】 |
【訳】そのようにお思いになる理由がきっとあるのでしょう。
思ふにたがふはにくきものぞ。」と、
語句 | 意味 |
思ふ | ハ行四段活用動詞「思ふ」連体形 |
に | 格助詞 |
たがふ | ハ行四段活用動詞「たがふ」(そむく)連体形 |
は | 係助詞 |
にくき | ク活用の形容詞「にくし」(憎らしい)連体形 |
もの | 名詞 |
ぞ。」 | 終助詞 |
と、 | 格助詞 |
【訳】(その)思いにそむくのは憎らしいものですよ。」と、
ただいそがしに出だし立つれば、
語句 | 意味 |
ただ | 副詞(ひたすらに) |
いそがし | サ行四段活用動詞「いそがす」(急がせる)連用形 |
に | 格助詞 |
出だし立つれ | タ行下二段活用動詞「出だし立つ」(宮仕えに出す)已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
【訳】ひたすらに急がせて宮仕えに出すので、
あれにもあらぬ心地すれど参るぞ、いと苦しき。
語句 | 意味 |
あれ | 代名詞(自分のことを指す) |
に | 断定の助動詞「なり」連用形 |
も | 係助詞 |
あら | ラ行変格活用動詞「あり」未然形 |
ぬ | 打消の助動詞「ず」連体形 |
心地 | 名詞(気持ち、気分) |
すれ | サ行変格活用動詞「す」已然形 |
ど | 接続助詞 |
参る | ラ行四段活用動詞「参る」(参上する)連体形 |
ぞ、 | 係助詞 ※結び:苦しき |
いと | 副詞(たいへん) |
苦しき。 | シク活用の形容詞「苦し」(つらい、苦しい)連体形【係り結び】 |
【訳】我を忘れたような気持ちがするけれど、参上するのは、たいへんつらい。
火焼屋の上に降り積みたるも、めづらしう、をかし。
語句 | 意味 |
火焼屋 | 名詞(宮中でかがり火をたいて夜を守る衛士エジが詰めていた小屋のこと) |
の | 格助詞 |
上 | 名詞 |
に | 格助詞 |
降り積み | マ行四段活用動詞「降り積む」(降り積もる)連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
も、 | 係助詞 |
めづらしう、 | シク活用の形容詞「めづらし」(珍しい、見慣れない)連用形「めづらしく」のウ音便 |
をかし。 | シク活用の形容詞「をかし」(趣がある)終止形 |
【訳】火焼屋の上に(雪が)降り積もっているのも、珍しくて、趣がある。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回も枕草子より「宮に初めて参りたるころ②」を解説しました。
慣れない宮仕えに委縮しっぱなしの清少納言。
中宮定子は優しく声をかけ、「会いたいから夜になったらすぐに来てね」と言って、帰らせるのでした。
それでも結局、「今日は雪で曇ってるから、早くおいで」と声がかかるのでした。
「当時の私はこんな感じだったのです…」と黒歴史を暴露しているようですが、「中宮様が私を気遣って、こんなに優しくしてくれたの」と言っているようにも感じられませんか?
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