日本外史より「諸将服信玄(諸将信玄に服す)」について解説をしていきます。
今回のお話は、武田信玄が優れた人物であり、それによって武将たちが従ったというものです。
信玄のどのような点が、武将を従わせたのか読み取っていきましょう。
この記事では
・書き下し文(読み仮名付き)
・語句の意味/解説
・現代語訳
以上の内容を順番にお話していきます。
「諸将服信玄(諸将信玄に服す)」書き下し文・現代語訳・解説
白文・書き下し文(読み仮名付き)・語句解説・現代語訳
① 八月、謙信復出河中、使村上義清等営旧戦処、
八月、謙信復た河中に出で、村上義清等をして旧の戦処に営せしめ、
語句 | 意味 |
八月 | ここでは1556(弘治2)年8月のこと |
謙信 | 人名。上杉謙信 |
復た | 再び |
河中 | 地名。川中島。長野県長野市にある千曲川と犀川の合流点付近を指す。 |
村上義清 | 人名。戦国時代の武将。謙信の配下にあった。 |
旧の戦処 | 過去の戦場。 |
営す | 陣営を張る |
し(使)む~ | 【使役】~させる |
【訳】(弘治2年)八月、謙信は再び川中島に出て、村上義清たちに過去の戦場に陣営を張らせた。
上杉謙信と武田信玄はこれまでに2度、川中島で戦っていました。
二人の軍勢の戦いは、1553年~1564年の間に5回行われました。
② 而自進過河、背水陣。
而して自ら進みて河を過ぎ、水を背にして陣す。
語句 | 意味 |
而して | 【順接】そして、それから |
自ら | 自分から |
進みて | 進む、前進する |
河を過ぎ | 川を渡る |
水 | ここでは川を指す |
陣す | 陣を構える |
【訳】そして自ら進軍して川を渡り、川を背にして陣を構えた。
「自ら進みて」とありますが、自分で行くのは当たり前ではないのですか?
実は上杉謙信軍vs武田信玄軍の戦いは何度かありますが、謙信本人が出陣した記録がない戦いもあったのです。
謙信軍の兵のみを貸して、自分は行かなかったというときもあったのですね。
そうです。
だから今回は、謙信が出陣したことが明記されているというわけです。
「水を背にして陣す」という言葉からは、史記の「背水の陣」のお話が思い浮かびます。
「背水の陣」とは、「退却ができない状況に追い込み、決死の覚悟をさせる」ということでしたね。
③ 信玄知其志在必死、不敢出戦。
信玄其の志必死に在るを知り、敢へて出でて戦はず。
語句 | 意味 |
信玄 | 人名。武田信玄のこと。 |
其の志 | 謙信軍の志(目的) |
必死に在る | 決死の覚悟である、死に物狂いである、死ぬ覚悟で全力を尽くそうとしている、 |
知る | 分かる、理解する |
敢へて~ず | 【否定】無理には~しようとしない |
出でて | (陣から)出て |
【訳】信玄は謙信軍の志が決死の覚悟であることが分かり、無理には陣から出て戦おうとはしなかった。
武田信玄は無駄な争いはしない武将でした。
「勝ち確」の戦いしかしなかったと言われています。
謙信軍の「背水の陣」の覚悟を見て、信玄は危険だと判断したのですね。
④ 其侯騎報曰、「北軍積薪如山。」
其の侯騎報じて曰はく、「北軍薪を積むこと山のごとし。」と。
語句 | 意味 |
其の | 武田信玄軍を指す |
侯騎 | 偵察の騎兵 |
報じて | 知らせて、告げて |
北軍 | 上杉謙信の軍勢を指す |
薪 | たきぎ |
~のごとし(如) | 【比況】~のようだ |
【訳】信玄軍の偵察の騎兵が知らせて言うことには、「謙信軍は薪を山のように積んでいます。」と。
薪は燃料として使う木のことです。
これを山のように積んでいるのは、長期戦の覚悟を持って準備をしていることを表しています。
⑤ 信玄令諸将曰、「敵中夜有火挙、慎勿進撃。進撃者族。」
信玄諸将に令して曰はく、「敵中夜火の挙がる有るも、慎みて進撃する勿かれ。進撃する者は族せん。」と。
語句 | 意味 |
諸将 | 武将たち |
令して | 命令して、言いつけて |
敵中 | 敵地の中 |
火の挙がる | 火が上がる=攻撃の合図をする |
慎みて | 慎みの心を持って、用心して |
進撃 | 前進して敵を攻撃すること |
~勿かれ | 【禁止】~してはならない |
族す | 一族を処刑する |
ん | 【意志】~しよう、~するぞ |
【訳】信玄が武将たちに命令して言うことには、「敵地の中で夜に火が上がっても、用心して、進撃してはならない。進撃するものは一族を処刑するぞ。」と。
⑥ 及暮、侯騎又報曰、
暮れに及びて、侯騎又報じて曰はく、
語句 | 意味 |
暮れ | 夕暮れ |
及び | なる |
【訳】夕暮れになり、偵察の騎兵がまた知らせて言うことには、
⑦「北軍掃営、荷担将去。」
「北軍営を掃ひ、荷担して将に去らんとす。」と。
語句 | 意味 |
営 | 陣営 |
掃ふ | 引き払う |
荷担 | 荷物を担ぐ |
将に~す | 【再読文字】いまにも~しようとする |
去る | 退却する |
【訳】「謙信軍は陣営を引き払い、荷物を担いで今にも退却しようとしています。」と。
⑧ 諸将争請追撃。
諸将争ひて追撃せんと請ふ。
語句 | 意味 |
争ひて | 争って |
追撃せん | 追撃しよう(逃げる謙信軍を追いかけて攻撃しよう) |
請ふ | 願い求める、願い出る |
【訳】武将たちは争って追撃しようと願い出た。
⑨ 信玄曰、「謙信豈迫暮掃営者。撃之必敗。」
信玄曰はく、「謙信豈に暮れに迫りて営を掃ふ者ならんや。之を撃たば必ず敗れん。」と。
語句 | 意味 |
豈に~や | 【反語】どうして~か、いや~ない |
暮れ | 夕暮れ |
迫り | 迫る、近づく |
営 | 陣営 |
掃う | 引き払う |
之 | 陣営を引き払う謙信軍を指す |
撃たば | 追撃すれば |
敗れん | 敗北するだろう |
【訳】信玄が言うことには、「謙信はどうして夕暮れが近づいてから陣営を引き払う者であろうか、いやそのような者ではない。これを追撃すれば必ず敗北するだろう。」と。
ここで信玄は「謙信という男は、夕暮れに紛れてコソコソ逃げるヤツではないわ。あいつが引き上げるなら、堂々と挑発するかのように引き上げるだろうよ。そうじゃないってことは、なんかの作戦に違いない」と言っています。
さすがライバル、相手のことをよく理解しているのですね。
⑩ 其夜、北軍火起。
其の夜、北軍に火起こる。
語句 | 意味 |
火起こる | のろしがあがる(戦いの合図が上がる) |
【訳】その夜、謙信軍に(戦いの)火が上がった。
⑪ 甲斐軍不動。
甲斐の軍動かず。
語句 | 意味 |
甲斐の軍 | 武田信玄の軍勢を指す |
動かず | 動かない |
【訳】信玄の軍勢は動かなかった。
⑫ 天明、望見北軍、疏行首、厳陣而待。
天明、北軍を望見すれば、行首を疏し陣を厳にして待つ。
語句 | 意味 |
天明 | 夜明け、明け方 |
望見す | 遠くから見る |
行首 | 軍隊の行列 |
疏す | 開く |
陣 | 陣営 |
厳にして | 厳しくする、きつくする→「守りを固める」と訳 |
【訳】明け方、謙信軍の様子を遠くから見ると、自軍が進撃できる道を開け、陣営の守りを固めて待っていた。
⑬ 諸将乃服信玄。
諸将乃ち信玄に服す。
語句 | 意味 |
乃ち | そこで |
服す | 服従する |
【訳】武将たちはそこで信玄に服従した。
信玄軍としてついていた武将たちは、信玄の深い洞察力と判断力に感心して、「ついていきます!」となったのですね。
最初は「去ろうとする謙信軍を追撃しちゃいましょうよ!」と言った武将もいましたからね…
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は「諸将服信玄(諸将信玄に服す)」を解説しました。
武田信玄vs上杉謙信の戦いで、信玄が大将としてすばらしい能力を発揮しました。
その洞察力と判断力を目の当たりにして、武将たちは信玄への服従を誓うのでした。
みなさんは、どのような武将に魅力を感じますか?
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