孟浩然・幸田露伴「春暁」現代語訳・解説|二人の作品を読み比べよう

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今回は「春暁しゅんぎょう」について解説をしていきます。
春暁とは、春の明け方と言う意味です。

布団に入った状態で、感じた春の朝について詠んでいます。

『唐詩選』から孟浩然の作品と、『露伴全集』から幸田露伴の作品を合わせて読んでいきましょう。

孟浩然もうこうねん(689-740)
唐の時代の詩人幸田露伴こうだろはん(1867-1947)
江戸の終わりに生まれ、明治時代を生きた日本の小説家。

日本では江戸時代以降、唐の詩が親しまれました。
二人の詠む「春暁」について、読み比べてみてください。

この記事では

・白文
・書き下し文(読み仮名付き)
・語句の意味/解説
・現代語訳
・漢詩の形式や技法

以上の内容を、順番にお話していきます。

「春暁」白文・書き下し文・現代語訳・解説

孟浩然「春暁」白文・書き下し文(読み仮名付き)・語句解説・現代語訳

① 春眠不覚暁

春眠しゅんみんあかつきおぼえず

語句 意味/解説
春眠 春の眠り
夜明け
覚えず 気が付かない

【訳】春の眠り(の心地よさ)に夜明けにも気が付かない

 

 春ってポカポカあたたかくて、気持ちがいいですよね~

② 処処聞啼鳥

処処しょしょ啼鳥ていちょう

語句 意味/解説
処処 あちらこちら
啼鳥 鳥の鳴き声

【訳】あちらこちらから鳥の鳴き声が聞こえる

 

朝が来て、鳥の鳴き声を寝ぼけながら聞いている様子です。

 

③ 夜来風雨声

夜来やらい風雨ふううこえ

語句 意味/解説
夜来 ゆうべ
風雨 風や雨

【訳】ゆうべは風や雨の音(がしていた)

 

ここでは昨日の夜、寝る前のことをぼんやりと思い出しています。

 

④ 花落知多少

はなつること多少たしょう

語句 意味/解説
落つる 落ちる
知る ※下に疑問を伴うと「わからない」と訳す
多少ぞ 【疑問】どれほど、どのくらい

【訳】花はどれくらい落ちたのだろうか

 

昨夜の風雨を思い出して、「そういえば庭に咲いていた花はどうなったかな?」と気にしています。

 

続いて、幸田露伴の「春暁」を読み取っていきましょう。

幸田露伴「春暁」白文・書き下し文(読み仮名付き)・語句解説・現代語訳

① 残寒不去奈春何

残寒ざんかんらずはる奈何いかんせん

語句 意味/解説
残寒 冬が過ぎても残る寒さ
去らず 去らない、弱まらない
~を奈何せん 【疑問】~をどうしようか

【訳】残寒は去らないので春をどう感じたらよいのか

 

② 僅頼鶯声自是和

わずかにたよ鶯声おうせいおのづからするに

語句 意味/解説
僅かに かろうじて
頼る よりどころとする
鶯声 鶯の鳴き声
自づから 自然と
是れ 【強調】
和する 調子を合わせる

【訳】かろうじて(春を感じる)よりどころとするのは鶯が自然と調子を合わせて鳴く声だ

 

③ 尤悦衾辺梅蕾子

もっとよろこ衾辺きんべん梅蕾子ばいらいし

語句 意味/解説
尤も 何よりも一番
悦ぶ 嬉しい(こと)
衾辺 寝床の辺り
梅蕾子 梅のつぼみ

【訳】何よりも一番嬉しいことは寝床の辺りから(見える)梅のつぼみ

 

④ 花開比昨両三多

はなひらくことさくして両三りょうさんおおきを

語句 意味/解説
梅の花を指す
開くこと 開いていること
昨日
比して 比べて
両三 二つか三つ、いくつか
多きを 多いこと

【訳】花が昨日と比べて二つか三つ多く開いていることだなあ

 

それぞれの詩の形式・表現技法

孟浩然 幸田露伴
詩の形式 五言絶句 七言絶句
押韻 二句目「鳥 cyou
四句目「少 syou
※この詩では一句目の「暁 gyou」も韻を踏んでいます
一句目「何 ka
二句目「和 wa
四句目「多 ta

孟浩然と幸田露伴の「春暁」の違い

孟浩然は、春が訪れてポカポカ温かい感じがしますね。

それに対して幸田露伴の方は、暦の上では春ですがまだ寒さが残っています。
寒さで布団から出られずに「春はまだ来ないかな~、でも鶯の鳴く声も聞こえるし、梅の蕾も増えてきたし、もうそろそろかな~」という感じです。

また孟浩然の詩は、別の見方もあります。
「はぁ~春の夜明けって気持ちいいよね」と美しい情景を詠んでいますが、実はあくせく働く役人への皮肉なのではないかという捉え方もあるのです。

というのも、孟浩然は役人の試験に落ちてしまいます。
役人は夜明け前から出勤して仕事をするものであり、この詩のように夜が明けたのにも気づかずに布団でぼんやりしているなんて、ありえないのです。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は漢詩「春暁」を取り上げました。
唐の時代に作られた孟浩然の作品と、それを受けて幸田露伴が詠んだ作品を解説しました。
いずれも春の朝の寝床での様子が詠まれていました。
違いは感じ取れたでしょうか?
短い文字数で表現される漢詩は、作者が練りに練った言葉で紡ぎ出されていると私は感じます。
ぜひ味わってみてください。

この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

自分の生徒には直接伝えられるけど、
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