借虎威（虎の威を借る）現代語訳 わかりやすく解説｜狐と虎って何を例えたもの？

戦国策より「借虎威（虎の威を借る）」について見ていきます。
実は王にある質問をされた宰相が、それに答えるために引用した文章なのです。

虎・狐・百獣がそれぞれ何かに例えられています。

「虎の威を借る」とは、力のない狐が虎の権威を借りて、自分が強いかのように威張っていることを指します。
言葉の意味をおさえながら、どんな意図があって引用されたのかについても詳しくみていきましょう。

この記事では

以上の内容について順番に説明していきます。

「借虎威（虎の威を借る）」現代語訳・解説

内容（白文・書き下し文・現代語訳・語句解説）

① 虎求百獣而食之。

虎とら百獣ひゃくじゅうを求もとめて之これを食くらふう。

【訳】虎があらゆる獣たちを探しては食べていた。

② 得狐、狐曰、

狐きつねを得うるに、狐きつね曰いはわく、

【訳】狐を捕まえたところ、狐が言うことには、

③ 「子無敢食我也。

「子し敢あへえて我われを食くらふ無なかれ。

【訳】「あなたは決して私を食べてはいけません。

④ 天帝使我長百獣。

天帝てんてい我われをして百獣ひゃくじゅうに長ちょうたらしむ。

【訳】天帝が私に獣たちの王にならせたのです。

⑤ 今、子食我、是逆天帝命也。

今いま、子し我われを食くらはわば、是これ天帝てんていの命めいに逆さからふうなり。

【訳】もし、あなたが私を食べたならば、これは天帝の命令に背くことになります。

この狐の話（天帝の命を受けて獣たちの頭をしているから、食べてはいけない）は、狐のハッタリです。
でも狐は賢く、これがさも事実かのように虎に思わせるのです。

どのようにしてそう思わせたのでしょうか？

それを知るために、続きを読んでいきましょう。

⑥ 子以我為不信、吾為子先行。

子し我われを以もつって信しんならずと為なさば、吾われ子しの為ために先行せんこうせん。

【訳】あなたが私の言うことを本当でないと思うのならば、私があなたのために先に歩いてみましょう。

⑦ 子随我後観。

子し我わが後あとに随したがひいて観みよ。

【訳】あなたは私の後からついてきてよく見てみなさい。

⑧ 百獣之見我而敢不走乎。」

百獣ひゃくじゅうの我われを見みて敢あへえて走はしらざらんや。」と

【訳】獣たちは私を見てどうして逃げないことがあろうか、いや必ず逃げる。

⑨ 虎以為然。

虎とら以もつって然しかりと為なす。

【訳】虎は（狐の言うことは）もっともだと思った。

この時点で虎は、狐の言うことをかなり信じちゃってますね。

そうですね。
虎が天命を気にして欲望のままに狐を食べないところから、
虎もかなり理性があるのでは？と思ったりもします…

⑩ 故遂与之行。

故ゆえに遂ついに之これと行いく。

【訳】そこで（虎は）そのまま狐と一緒に行った。

⑪ 獣見之皆走。

獣けもの之これを見みて、皆みな走はしる。

【訳】獣たちは狐の後ろにいる虎を見て、みな逃げ出した。

⑫ 虎不知獣畏己而走也。

虎とら獣けものの己おのれを畏おそれて走はしるを知しらざるなり。

【訳】虎は獣たちが自分を恐れて逃げたとはわからなかった。

⑬ 以為畏狐也。

以もつって狐きつねを畏おそると為なすなり。

【訳】（虎は）狐を恐れているのだと思った。

虎は、まんまと狐にだまされてしまいましたね…

実は、この狐と虎の話は、ただの昔話ではありません。

もともとは楚の宰相である江乙(こういつ)が
宣王の問いかけに対して答えた発言の中に引用したものです。

宣王と江乙のやりとり

江乙こういつは、どのような意図を持ってこの話を用いたのでしょうか？
それでは江乙の意図を知るために、二人のやり取りを見てみましょう。

宣王

うちの国の北の方を任せている昭奚恤しょうけいじゅつっていう宰相が
あまりにも評判が良くて、北の国々が恐れているって聞いたんだけど…。

江乙

それは宣王様が、昭奚恤に広い領土と多数の軍勢を任せているからです。
北の国々が本当に恐れているのは、宣王様の持つ権力に他なりません。
宣王様は、それにお気づきになっていないだけです。

こうして江乙は、王の信頼を得ていくことになります。

しかし実はこの江乙、魏からの使者だったのです。
宣王に「大丈夫、あなたはすごいから自信を持って！」と言葉をかけながら、昭奚恤の影響力がこれ以上大きくなることを阻止しようとしていたのです。
宣王も江乙の話を聞いて、「昭奚恤にあまり権力を持たせると調子に乗って謀反を起こすかも」と警戒しますよね。
そこが江乙の狙いだったのです。
その後も江乙は宣王に昭奚恤の悪口を吹き込んだりもしていました。 

まとめ

いかがでしたでしょうか？

動物たちが出てくる、日本昔話のようなお話ではありませんでしたね。
「虎の威を借る」とは力のない狐が虎の権威を借りて、自分が強いかのように威張っていることの意味でした。
この話だけでも、「そういうやついるよね」と内容は理解できると思います。

ここでは狐は昭奚恤、虎は楚の宣王、百獣は北の国々を例えていることがわかりました。
江乙が宣王を褒めたたえる話にも感じられますが、実は昭奚恤を陥れ、影響力を抑えて牽制するための画策だったんですね。
宣王に「昭奚恤を調子に乗らせるとまずい」と思うように仕向ける、江乙の巧みな話術も感じられました。