白居易「長恨歌②春寒くして欲を賜ふ華清の池~」現代語訳・解説

今回の内容は…
② 繁栄する楊貴妃の親族
③ ①・②を受けて、世間の人が考えるようになったこと
ポイントを押さえて、本文を読んでいきましょう。
世界三大美人の一人として知られる。唐の皇帝の皇妃。玄宗皇帝に寵愛されたことで有名だが、もとは玄宗皇帝の第18子である李瑁の妃であった。
長恨歌の意訳や、作者である白居易(白楽天)について詳しく知りたい方は、下記の書籍を読むことをオススメします。長恨歌が作られた背景についても、わかりやすく解説されています。
白文・書き下し文(読み仮名付き)・現代語訳・語句解説
⑨ 春寒賜浴華清池
春寒くして 浴を賜ふ華清の池
【訳】春になったが寒さが残る時期に、(漢皇/玄宗が楊貴妃に)華清宮の温泉での湯浴みをお与えになった。
| 春寒くして |
春になっても残る寒さがある時に ※暦の上では春だが、実際の気候とはまだギャップがある時期(2月~3月初め頃)を指す
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| 浴 | 湯浴み、入浴 |
| を | 格助詞 |
| 賜ふ |
(漢皇/玄宗が楊貴妃に)お与えになる
|
| 華清の池 |
現在の陝西省西安市にある驪山のふもとにある温泉
|

この「華清池」というのは、驪山のふもとにある現在でも有名な温泉地として知られる場所です。当時玄宗はその地に「華清宮」という住居を構え、そこで寒い季節を越したのだそうです。

夏の暑い時期に、軽井沢の別荘で過ごすみたいなことですね。
⑩ 温泉水滑洗凝脂
温泉 水滑らかにして 凝脂を洗ふ
【訳】華清池の水は滑らかで、(楊貴妃の)白く滑らかな肌をすすぎ清める
| 温泉 | 華清池を指す |
| 水 | 華清池の水(お湯)を指す |
| 滑らかにして | 滑らかで |
| 凝脂 | (楊貴妃の)白く滑らかな肌 |
| を | 格助詞 |
| 洗ふ | すすぎ清める |
⑪ 侍児扶起嬌無力
侍児 扶け起こすに 嬌として力無し
【訳】侍女が(楊貴妃を)脇から支えて助けて身体を起こすと、なよなよとして艶めかしく(自分で身体を起こす)力が無い(ようである)
| 侍児 |
(楊貴妃の)侍女。「児」から幼い侍女を表す。
|
| 扶けて | 脇から支えて助ける |
| 起こす | 立たせる、身体を起こす |
| に | 格助詞 |
| 嬌として | 艶めかしい、なよなよとして艶やかで |
| 力無し | 力が無い |
⑫ 始是新承恩沢時
始めて是れ 新たに恩沢を承くる時
【訳】これが最初に新しく天子の寵愛をお受けした時(だった)
| 始めて是れ | これ(この時)が最初に |
| 新たに | 新しく |
| 恩沢 | 天子の寵愛 |
| 承くる | 【謙譲】お受けする |
| 時 | とき |

これって…、寵愛を受けたから自分で起き上がれないほどヘナヘナで色っぽくなってるってことじゃ…?

…男女の様子が遠回しで、美しく表現されているのがこの長恨歌の魅力、とだけ私からは言わせていただきますね。
⑬ 雲鬢花顔金歩揺
雲鬢 花顔 金 歩揺
【訳】雲のように豊かで美しい髪、花のように美しい顔、黄金のかんざし
| 雲鬢 | 雲のように豊かで美しい髪 |
| 花顔 | 花のように美しい顔 |
| 金 | 黄金 |
| 歩揺 | 歩くたびに揺れる→かんざし |
⑭ 芙蓉帳暖度春宵
芙蓉の帳 暖かにして 春宵度る
【訳】ハスのカーテンの(中は)暖かく、春の夜は過ぎていく
| 芙蓉 | ハスを褒めていう呼び方 |
| の | 格助詞 |
| 帳 | とばり。部屋に垂れ下げるカーテン。 |
| 暖かにして | 暖かく |
| 春宵 | 春の夕方~夜に入って間もない時間 |
| 度る | 過ぎていく |
⑮ 春宵苦短日高起
春宵短きに苦しみ 日高くして起く
【訳】(天子は)春の夜が短いことを苦しいと思い、日が高くなってから起きる
| 春宵 | 春の夕方~夜に入って間もない時間 |
| 短きに | 短いことに |
| 苦しみ | 苦しいと思う。悩む |
| 日高くして | 日が高くなってから |
| 起く | 起きる |

楊貴妃と過ごせる時間が短いよ~と嘆き、日が高くなる昼頃まで楊貴妃と過ごして起きてくるということですね。ダメオヤジやん。
⑯ 従此君王不早朝
此より 君王 早朝せず
【訳】この時から、天子は朝の政務をしなくなった
| 此より | この時から |
| 君王 | 天子(漢皇/玄宗のこと) |
| 早朝せず | 朝の政務をしない |

あらららら…
⑰ 承歓侍宴無閑暇
歓を承け宴に侍して 閑暇無く
【訳】(天子の)寵愛を受けて宴席で(天子の)そばにひかえて、暇な時間はなく
| 歓を承け | (天子の)寵愛を受けて |
| 宴侍して | 宴席で(天子の)そばにひかえて |
| 閑暇無く | 暇な時間が無く |

漢皇/玄宗は楊貴妃にべったりで、楊貴妃は一人でのんびりする時間はなかったんですね…
⑱ 春従春遊夜専夜
春は春の遊びに従ひ 夜は夜を専らにす
【訳】春になれば春の行楽にお供をし、夜は夜伽を独り占めする
| 春の遊び | 春の行楽などの遊び |
| に | 格助詞 |
| 従ひ | お供をし |
| 夜を | 夜伽を |
| 専らにす | 独り占めする |

もう十分わかりましたよ。一日中べったりってことですよね。
⑲ 後宮佳麗三千人
後宮の佳麗三千人
【訳】後宮には美しい女性がたくさんいたが、
| 後宮 |
天子の住まいの後方にある宮殿。皇后や妃たちが住むところ
|
| の | 格助詞 |
| 佳麗 | 美しい女性 |
| 三千人 |
3000人 ※たくさんの人がいることを表す。漢文において「三千里」など「三千」には非常に多いことを強調する意味を表す用い方が多い。
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⑳ 三千寵愛在一身
三千の寵愛 一身に在り
【訳】三千人分の(天子からの)寵愛を、独占する
| 三千の寵愛 | 三千人分の(天子からの)寵愛 |
| 一身に在り | 独占する |
㉑ 金屋粧成嬌侍夜
金屋粧ひ成りて 嬌として夜に侍し
【訳】立派な御殿で(楊貴妃は)化粧をして外見を整えると、艶めかしく美しい様子で(天子の)夜伽に付き添う
| 金屋 | 金で飾った立派な御殿 |
| 粧ひ | 化粧をして外見を整えること |
| 成りて | なって |
| 嬌として | 艶めかしく美しい様子で |
| 夜に侍し | 夜伽に付き添う |
㉒ 玉楼宴罷酔和春
玉楼 宴罷みて酔ひて春に和す
【訳】美しい御殿でのうたげが終わると、酔って春の雰囲気に溶け込む
| 玉楼 | 宝石で飾った美しい御殿 |
| 宴 | うたげ |
| 罷みて | 終わると |
| 酔ひて | 酔って |
| 春に和す | 春の雰囲気に溶け込む |

お酒に酔ってホワホワ~とした感じと、春のホワホワ~とした感じが同じようで「和す(調和する、溶け込む)」と表現しています。
㉓ 姉妹弟兄皆列土
姉妹弟兄 皆土を列す
【訳】(楊貴妃の)姉妹兄弟は、全員領土を(与えられ)並べた
| 姉妹弟兄 |
姉、妹、弟、兄=きょうだい全員
|
| 皆 | 全員 |
| 土を列す | 領土 |
| を | 格助詞 |
| 列す | 並べる |

「土を列す」ということは、領土を与えられて諸侯となったということを意味します。

楊貴妃が寵愛されたにとどまらず、その兄弟姉妹までもが大出世を果たし、恩恵を受けたということですね。
㉔ 可憐光彩生門戸
憐れむべし光彩 門戸に生ずるを
【訳】なんとすばらしいことよ、美しく輝く光が(楊)一家を照らしている
| 憐れむべし | なんとすばらしいことよ |
| 光彩 | 美しく輝く光 → 繁栄すること |
| 門戸 | 一家 |
| に | 格助詞 |
| 生ずる | 起こる ※ここでは生じた光が「照らしている」と解釈 |
| を | 格助詞 |

楊貴妃が玄宗に寵愛されることによって、一家が繁栄することになったと言っています。
㉕ 遂令天下父母心
遂に天下の父母の心をして
【訳】とうとう世間の子を持つ親たちの心を
| 遂に | とうとう |
| 天下の | 世間の |
| 父母の心 | 子どもを持つ親の心 |
| をして | AをしてB(せ)しむ…AにBさせる |
㉖ 不重生男重生女
男を生むを重んぜず 女を生むを重んぜしむ
【訳】男を生むことを価値のないものとし、女を生むことを価値あるものとするようにさせた
| 男を生むを | 男を生むことを |
| 重んぜず | 価値のないものとする、軽視する |
| 女を生むを | 女を生むことを |
| 重んぜしむ | 価値あるものとする |

はぁ~、男児を産んで出世させて一家を繁栄させるより、女児を産んで天子の寵愛を受けたほうが、一家繁栄のチャンスとなると思うようになったということですね。

この時代、家柄が出世にも影響していました。家柄がそれほど良くない場合、出世が厳しいということです。それならば女児を産んで、天子に見初められることを狙ったほうがいいという考えになったのでしょう。
続き:驪宮高き処 青雲に入り~


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