教科書で、やたらと長い漢詩を見たことはありませんか?
今回は、その「長恨歌」を取り上げます。日本人に古くから愛された、白居易の作品です。
この「長恨歌」は、唐の玄宗皇帝と楊貴妃のお話です。さすがに実名ではマズいと思った白居易は、「漢の武帝」の話としてこの詩を作っています。
この二人のエピソードは、『源氏物語』の「桐壺」にも登場します。桐壺更衣を溺愛する帝を見て、貴族たちが「楊貴妃の例までも」と、危機感を持ったのでした。「女に溺れてきちんと政治をしなかった帝が、国をめちゃめちゃにした」というのが、二人に対する印象ではないでしょうか?
しかし、この「長恨歌」は、決して女性に溺れた帝を非難するものではありません。「長恨」は、「長く忘れることのできない恨み」という意味です。誰のどういう思いが込められているのか、しっかりと読み取っていきましょう。
この作品は漢詩ではありますが、リズミカルな文章として読める作品だと思いますので、警戒しないでチャレンジしていただきたいです。
白居易「長恨歌①漢皇色を重んじて~」現代語訳・解説

今回は、楊貴妃の出身についてと、その美しさについて語られている部分を解説します。
唐代の詩人。古くから、日本人に愛されてきた。紫式部や清少納言、松尾芭蕉や与謝蕪村にも影響を与えた。
白文・書き下し文(読み仮名付き)・現代語訳・語句解説
① 漢皇重色思傾国
漢皇 色を重んじて 傾国を思ふ
【訳】漢の天子は容姿が美しい女性を好み、絶世の美人を(得たい/妻にしたいと)思っていた
| 漢皇 |
漢の天子のこと。実際は唐の玄宗の話だが、遠慮して漢の武帝の話というていにした
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| 色 | 容姿が美しい女性 |
| 重んじて |
重要視する。ここでは好むことを表している
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| 傾国 |
国を危うくするほどの絶世の美人のこと
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| を | 格助詞 |
| 思ふ | ハ行四段活用動詞「思ふ」終止形 |
② 御宇多年求不得
御宇 多年 求むれども得ず
【訳】天下を治めている間、長い年月(をかけて)探し求めたけれども、手に入れられずにいた。
| 御宇 | 天下を治めている間 |
| 多年 | 長い年月 |
| 求むれ |
マ行下二段活用動詞「求む」(探し求める)已然形
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| ども | 逆接の接続助詞(~けれども) |
| 得 |
ア行下二段活用動詞「得」(手に入れる)未然形
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| ず | 打消の助動詞 |
③ 楊家有女初長成
楊家に女有り 初めて長成す
【訳】(そんな時に)楊氏の家に娘がいて、(その娘は)年ごろになったばかりであった
| 楊家 | 楊氏の家 |
| に | 格助詞 |
| 女 | 娘 |
| 有り |
ラ行変格活用動詞「あり」(いる)連用形
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| 初めて | ~したばかり |
| 長成す |
大人になる、ここでは年ごろになることを表す
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④ 養在深閨人未識
養はれて深閨に在り 人未だ識らず
【訳】養育されて家の奥にある部屋にいたので、ほかの人はまだ(その娘の存在を)知らなかった
| 養は |
ハ行四段活用動詞「養ふ」(養育する)未然形
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| れ | 受身の助動詞「る」連用形 |
| て | 接続助詞 |
| 深閨 | 家の奥にある女性の寝室 |
| に | 格助詞 |
| 在り |
ラ行変格活用動詞「在り」(いる)連用形
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| 人 | 他の人 |
| 未だ~ず | まだ~ない |
| 識ら |
ラ行四段活用動詞「識る」(知る)未然形
|
⑤ 天生麗質難自棄
天生の麗質 自づから棄て難し
【訳】生まれつきの美しさは、自分から捨てるのは難しい
| 天生 | 生まれつき |
| の | 格助詞 |
| 麗質 | 顔立ちの美しさ |
| 自づから | 自分から |
| 棄て難し | 捨てるのが難しい |

これは、本人が美しさを隠そうとしても周りの人々が放っておかない、ということを表しています。
⑥ 一朝選在君王側
一朝選ばれて 君王の側に在り
【訳】ある日選ばれて、天子のそばにいることになった(=お仕えすることになった)
| 一朝 | ある日 |
| 選ば | バ行四段活用動詞「選ぶ」未然形 |
| れ | 受身の助動詞「る」連用形 |
| て | 接続助詞 |
| 君王 |
天子。ここでは漢の天子(実際は唐の玄宗のこと)を指す。
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| の | 格助詞 |
| 側 | そば |
| に | 格助詞 |
| 在り | ラ行変格活用動詞「在り」終止形 |
⑦ 迴眸一笑百媚生
眸を迴らして一笑すれば 百媚生ず
【訳】瞳をくるりと回してひとたび笑えば、数多くの色っぽさが生まれる
| 眸 | ひとみ |
| を | 格助詞 |
| 迴らして | くるりと回す |
| 一笑すれば | ひとたび笑えば |
| 百媚 | 百の(数多く、様々の)色っぽさ |
| 生ず | 生まれる |

楊貴妃に視線を送られ「ニコッ」とされたら、みんなその色気にメロメロになっちゃうということですね。すごい…
⑧ 六宮粉黛無顔色
六宮の粉黛 顔色無し
【訳】後宮にいる美しく化粧をした女性たちは(楊貴妃の美しさに)圧倒されて手も足も出ない
| 六宮 |
後宮のこと。天子の皇后や后たちがいる宮殿を指す。
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| の | 格助詞 |
| 粉黛 |
おしろいと眉墨のこと。そこから美しく化粧することを表す。
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| 顔色無し |
顔色がない → 圧倒されて手も足も出ないことを表す
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後宮にいる美しく化粧をした人たちでさえも、楊貴妃の前では見劣りすると言っています。
続き:春寒くして欲を賜ふ華清の池~


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