古事記「倭建命②かれ、しかくして、御合して~」現代語訳・解説

古文

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今回も前回に続いて、『古事記』より「倭建命」を解説していきます。
荒ぶる蝦夷や荒ぶる神々を平定し、大和国(現在の奈良県)に戻る道中での出来事についてのお話です。
弟橘比売命を失って、嘆いていた倭建命。しかし、今回のお話では新たな妻を迎え入れます。東国を平定に行く前に、結婚の約束をしていたというのです。

 

古事記「倭建命②かれ、しかくして、御合して~」現代語訳・解説

登場人物(神) 

美夜受比売(みやずひめ)
尾張国の豪族の娘。倭建命が東国を平定に向かう途中で、戻ったら結婚すると約束していた。これは倭建命が尾張国を治めるための、いわば政略結婚であった。

の山の神/しろ
伊吹山の神。白い猪に姿を変えて、倭建命の前に現れる。倭建命の尊大な態度に対して、大氷雨を降らせる。※ちなみに『日本書紀』では、蛇に姿を変えている。

 

あらすじ 

倭建命は尾張に寄り、美夜受比売と結婚した。そこに草薙の剣を置いて、伊吹山の神を討ち取りに向かう。
倭建命は、「この山の神は素手て討ち取ってやる」と言った。その上、伊吹山の神が化身した白い猪を神の使者と勘違いし、「こいつは帰りに殺せばいいや」と言い放つ。
その振る舞いに対して、伊吹山の神は大氷雨を降らせた。それを防ぐことができない倭建命は、命からがら山を下りる。そのときに座って目を覚まさせた玉倉部の清水のことを、居寤の清水と名付けたということだ。

  

本文(書き下し分)・現代語訳・品詞分解 

これまでのお話:「倭建命①そこより入り出でまして~」現代語訳・解説

かれ、しかくして、御合みあいして、そのはかし草薙くさなぎの剣をもちて、そののもとにきて、やまかみりにでましき。
それで、そうして、(倭建命は美夜受比売と)結婚されて、その御刀の草薙の剣を、その美夜受比売のところに置いて、伊吹山の神を討ち取りにお出かけになった。

かれ、 接続詞(それで)
しかくして、 接続詞(そうして)
御合 名詞(結婚すること)
サ行変格活用動詞「す」連用形
て、 接続助詞
代名詞
格助詞
御刀 名詞(お刀。高貴な人が腰に差す刀)
格助詞
草薙の剣
名詞(三種の神器の一つ。倭比売命から授かった剣。相模国での危機を救った剣でもある。)
格助詞
もち タ行四段活用動詞「もつ」(持つ)連用形
て、 接続助詞
代名詞
格助詞
美夜受比売
名詞(人名。倭建命の妻となった人。尾張の豪族の娘)
格助詞
もと 名詞(ところ)
格助詞
置き カ行四段活用動詞「置く」連用形
て、 接続助詞
伊服岐の山 名詞(滋賀県と岐阜県の間にある伊吹山のこと)
格助詞
名詞
格助詞
取り ラ行四段活用動詞「取る」(討ち取る)連用形
格助詞
出でまし
サ行四段活用動詞「出でます」(お出かけになる)連用形【尊敬】作者→倭建命への敬意
き。 過去の助動詞「き」終止形

あれ?この人、弟橘比売命を亡くして泣いてたんじゃなかったでしたっけ…?

その気持ちは、しっかりとあると思いますよ。
美夜受比売との結婚は、弟橘比売命が亡くなる前に約束したものです。倭建命は約束をしっかり守る、律儀な人だとも考えられます。

下記の書籍は、倭建命がどのように人々に受け入れられてきたのかが描かれています。

 

ここにたまく、「このやまかみは、徒手むなでただ」とたまて、
この時に(倭建命が)おっしゃったことには、「この山の神は、素手で直接討ち取ろう。」とおっしゃって、

ここに 副詞(この時に)
詔り
ラ行四段活用動詞「詔る」(言う ※神や天皇が自分の思いなどを表明すること)連用形
給はく、
ハ行四段活用補助動詞「給ふ」未然形+接尾語「く」(~たこと)【尊敬】作者→倭建命への敬意
「こ 代名詞
格助詞
名詞
格助詞
名詞
は、 係助詞
徒手 名詞(手に何も持たないこと、素手)
格助詞
直に 副詞(直接)
取ら ラ行四段活用動詞「取る」(討ち取る)未然形
む。」 意志の助動詞「む」終止形
格助詞
詔り
ラ行四段活用動詞「詔る」(言う ※神や天皇が自分の思いなどを表明すること)連用形
給ひ
ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形【尊敬】作者→倭建命への敬意
て、 接続助詞

過去に自分の危機を救った、お助けアイテムの「草薙の剣」を置いて行っちゃうんだ~と思ったら、ずいぶん調子に乗ってますね。

 

そのやまのぼりしときに、しろやまにあき。そのおおきさ、うしのごとし。
(倭建命が)その山に登った時に、白い猪と山のほとりで出会った。その(猪の)大きさは、牛のようだ。

代名詞
格助詞
名詞
格助詞
登り ラ行四段活用動詞「登る」連用形
過去の助動詞「き」連体形
名詞
に、 格助詞
白き ク活用の形容詞「白し」連体形
猪、 名詞
名詞
格助詞
名詞(ほとり)
格助詞
あひ ハ行四段活用動詞「あふ」(出会う)連用形
き。 過去の助動詞「き」終止形
代名詞
格助詞
大きさ、 名詞
名詞
格助詞
ごとし。 比況の助動詞「ごとし」終止形

 

しかくして、ことげしてたまく、「このしろとなれるは、そのかみ使者つかいそ。
そうして、(倭建命が)はっきりと述べたことには、「この白い猪になっているのは、その神(=伊吹山の神)の使いであろう。

しかくして、 接続詞(そうして)
言挙げ
名詞(言葉に出してはっきりと述べること ※言霊という考えがあったので、神に対して個人的な強い主張をすることはタブーとされていた)
サ行変格活用動詞「し」連用形
接続助詞
詔り
ラ行四段活用動詞「詔る」(言う ※神や天皇が自分の思いなどを表明すること)連用形
給はく、
ハ行四段活用補助動詞「給ふ」未然形+接尾語「く」(~たこと)【尊敬】作者→倭建命への敬意
「こ 代名詞
格助詞
白き ク活用の形容詞「白し」連体形
名詞
格助詞
なれ ラ行四段活用動詞「なる」已然形
完了の助動詞「り」連体形
は、 係助詞
代名詞
格助詞
名詞
格助詞
使者
名詞(神の使者とは、神に代わって人の前に現れる存在)
係助詞【係】
(あらむ)。 ※結びの省略

 

いまころさずとも、かえときころ。」とたまて、のぼりましき。
たとえ今殺さなくても、(伊吹山の神を討ち取って)戻る時に殺そう。」とおっしゃって、(山を)登っておいでになった。

名詞
殺さ サ行四段活用動詞「殺す」未然形
打消の助動詞「ず」終止形
とも、 接続助詞(たとえ~しなくても)
還ら ラ行四段活用動詞「還る」(戻る)未然形
推量の助動詞「む」連体形
名詞
格助詞
殺さ サ行四段活用動詞「殺す」未然形
む。」 意志の助動詞「む」終止形
格助詞
詔り
ラ行四段活用動詞「詔る」(言う ※神や天皇が自分の思いなどを表明すること)連用形
給ひ
ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形【尊敬】作者→倭建命への敬意
て、 接続助詞
登り ラ行四段活用動詞「登る」連用形
まし
サ行四段活用動詞「ます」(おいでになる)【尊敬】作者→倭建命への敬意
き。 過去の助動詞「き」終止形

あらら…本来倒すべき伊吹山の神に気付かずに、スルーしちゃいましたね。

 

ここに、大氷雨おおひさめらして、倭建命やまとたけるのみことまどしき。
そこで、伊吹山の神が大氷雨を降らせて、倭建命をすっかり混乱させた。

ここに、 接続詞(そこで)
大氷雨 名詞(激しく降るひょうやあられのような氷の粒)
格助詞
降らし サ行依田活用動詞「降らす」(降らせる)連用形
て、 接続助詞
倭建命 名詞
格助詞
打ち惑はし
接頭語「打ち」(すっかり)+サ行四段活用動詞「惑はす」(混乱する、正気を失う)連用形
き。 過去の助動詞「き」終止形

突然の大氷雨で進むべき道を見失い、氷の雨を浴びたことで体力も奪われてしまいます。

倭建命の調子に乗った言動が、伊吹山の神を怒らせたのですね。

伊吹山の神は、侮辱されたことに腹を立てたのです。伊吹山の神の怒りによる大氷雨に対して、お助けアイテムを置いてきてしまった、倭建命には成すすべがありませんでした。

 

かれ、かえりまして、玉倉部たまくらべ清水しみずいたりていこまししときに、御心みこころやをやくめき。
それで、山を下りてお帰りになって、玉倉部の清水に到着して休息された時に、意識がだんだんと戻っていった。

かれ、 接続詞(それで)
還り下り ラ行下二段活用動詞「還り下る」(下りて帰る)連用形
まし
サ行四段活用動詞「ます」(おいでになる)【尊敬】作者→倭建命への敬意
て、 接続助詞
玉倉部の清水
名詞(伊吹山のふもとの湧き水。現在の岐阜県不破郡にあるとされている)
格助詞
到り ラ行四段活用動詞「到る」(到着する)連用形
て、 接続助詞
息ひ ハ行四段活用動詞「息ふ」(休息する)連用形
まし
サ行四段活用動詞「ます」(おいでになる)【尊敬】作者→倭建命への敬意
過去の助動詞「き」連体形
名詞
に、 格助詞
御心 名詞(精神、意識/感情)
やをやく 副詞(次第に、だんだんと)
寤め マ行下二段活用動詞「寤む」(目が覚める)連用形
き。 過去の助動詞「き」終止形

 

かれ、その清水しみずづけて、居寤いさめ清水しみずとい
それで、その清水(=玉倉部の清水)を名付けて、居寤の清水と言う。

かれ、 接続詞(それで)
代名詞
格助詞
清水
名詞(岩間などかわ湧き出る澄んだ水。※ここでは玉倉部の清水のことを指す)
格助詞
名づけ カ行下二段活用動詞「名づく」(名付ける)連用形
て、 接続助詞
居寤の清水 名詞(居…座る、寤…目が覚める、意識を取り戻す)
格助詞
いふ。 ハ行四段活用動詞「いふ」終止形

 

さて、このあと倭建命はどうなってしまうのでしょうか?
いよいよ次回は、倭建命のお話の最後となります。

 

 

続き:そこより出でまして、能煩野に到りし時に~

 

 

 

この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

自分の生徒には直接伝えられるけど、
聞きたくても聞けない…などと困っている方にも届けたくて、ブログを始めました。

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