古事記「倭建命①そこより入り出でまして~」現代語訳・解説

古文

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今回は『古事記』より「倭建命」を解説していきます。
このお話の原文は漢文ですので、参考文献にあたりながら作成しました。

古事記とは
天武天皇の命で編纂された歴史書。
※歴史書…単なる史実の羅列ではなく、作者の価値観や目的が反映されている。
成立:奈良時代
内容:
①天地の始まり
②日本の起こり
③神武天皇から始まる、各天皇に関する逸話
「歴史書」と聞くと、堅苦しくて難しいと感じるかもしれませんが、ストーリーも楽しめる作品です。
今回取り上げるのは、その中の「倭建命」です。倭建命が移動していくなかでの発言や行動が、現在の地名になっているというお話もでてきます。

これまで解説してきた作品は、平安時代以降でした。今回は奈良時代の作品です。これまで出てきた古語とは、少し違うものや聞き慣れない語も多いです。
まずは内容をあらすじでおさえ、それから細かく見ていくことにしましょう。

古事記「倭建命」現代語訳・解説

登場人物(神)

景光天皇
このお話には登場していない。
倭建命に、西国の反抗勢力の討伐を命じる。あっという間に討伐を終えて戻った彼に今度は、「東国の方も平定せよ」と命じたのだった。

倭建命(やまとたけるのみこと)
『日本書紀』においては、日本武尊という表記となっている。景光天皇の皇子。
実はこの少年、純粋ながらもなんだかバイオレンスな皇子。それが怖くなった景光天皇は、倭建命を遠ざけようとしたのだ。天皇の命を受けて、西国の反抗勢力を討伐した。しかしすぐさま東国の討伐も命じられ、「私に死ねというのか」と不満タラタラ。倭比売命やまとひめのみことに愚痴ると、お助け道具を授けてもらう。それによって、危機を脱しながら東国の反抗勢力の討伐を進めていた。

その渡り(走水の海)の神
倭建命が海峡を渡ろうとしたときに、海を荒れさせた。

弟橘比売命(おとたちばなのひめのみこと)
倭建命の后。走水の海の神による荒れた海を鎮めるために、海に身を投げる。

荒ぶる蝦夷(えみし)
東国に大和朝廷に従わなかった人たち

荒ぶる神たち
人々に災いをもたらす、邪悪な神のこと。
倭建命が討伐するのは、反抗勢力だけでなく神々も対象となっていた。『古事記』には神話も含まれることから、神の登場は不自然なことではない。

その坂の神(足柄峠の神)
白い鹿となり、倭建命の前に姿を現す。
白い鹿とは古くから中国や日本で神聖な存在、神の使いであると考えられてきた。

御火焼の翁
酒折の御殿で、火焚きをしていた老人。倭建命の問いに、即興で素晴らしい返答をし、東の国造に任命されることとなる。

 

あらすじ

倭建命が相模国から東に進む途中で走水の海を渡ろうとした。しかし海峡の神に阻まれ、進むことができない。そんな時に倭建命の妻である弟橘比売命が荒れた海を鎮めるために、自ら入水した。それによって、進むことができた。
その七日後に、弟橘比売命の櫛が見つかった。そこで倭建命は、墓を作って納めた。
さらに東国へ進み、蝦夷や山や川の神までも服従させていく。任務を完了し、都へ戻る途中に足利峠に着いた。そこでご飯を食べていると、峠の神が白い鹿に姿を変えて、倭建命の前に立つ。するとすぐに倭建命は、白い鹿に向かって蒜の一片を投げつけた。それが目に命中し、打ち殺した。
足利峠に登り立ち、走水の方を眺めて幾度となく「我が妻よ、ああ」とため息をついた。そのことから、その国を「あずま」と名付けたという。
その後、相模国から甲斐国に出て酒折の御殿にいたときに、倭建命が「新治・筑波を過ぎてから幾晩すぎただろうか?」と問うと、火焚きをしていた老人が「日々を重ねて数えてみると、夜は九つ、昼は十です」と答えた。その歌を聞いた倭建命は、老人を褒め、すぐに東の国造に任命した。

 

本文(書き下し分)・現代語訳・品詞分解

そこより入いり出でまして、走水はしりみずの海うみを渡わたりし時ときに、その渡わたりの神かみ、浪なみを起おこし、船ふねを廻めぐらせば、進すすみ渡わたること得えず。
そこ(焼遺やきつ…現在の神奈川県厚木市小野にある地名)から入っていらっしゃって、走水の海を渡った時に、その海峡の神が、波を立て、(倭建命が乗った)船をぐるぐる回転させるので、(その船は)進むことができない。

そこ 代名詞
より 格助詞
入り ラ行四段活用動詞「入る」連用形
出でまし
サ行四段活用動詞「出でます」( いらっしゃる)【「行く」の尊敬語】作者→倭建命への敬意
て、 接続助詞
走水 名詞(地名。現在の神奈川県にある)
の 格助詞
海
名詞 ※走水の海…現在の東京湾にある浦賀水道を指す。
を 格助詞
渡り ラ行四段活用動詞「渡る」連用形
し 過去の助動詞「き」連体形
時 名詞
に、 格助詞
そ 代名詞
の 格助詞
渡り 名詞(海峡)
の 格助詞
神、 名詞
浪 名詞
を 格助詞
起こし、 サ行四段活用動詞「起こす」(立てる)連用形
船 名詞
を 格助詞
廻らせ
サ行四段活用動詞「廻らす」(ぐるぐる回転させる)已然形
ば、 接続助詞
進み渡る ラ行四段活用動詞「進み渡る」(進んで渡る)連体形
こと 名詞
得 ア行下二段活用動詞「得る」(可能にする、できる)
ず。 打消の助動詞「ず」終止形

 

しかくして、その后きさき 名なは弟橘比売命おとたちばなひめのみこと 白まおししく、「吾あれ、御子みこに代かはわりて海うみに入いらむ。
そうして、その(倭建命の)后で、名前が弟橘比売命(という人)が(倭建命に)申し上げたことには、「私が皇子に代わって海に入りましょう。

しかくして、 接続詞(そうして)
そ 代名詞
の 格助詞
后
名詞(天皇の妻。ここでは倭建命はまだ皇子だが、その妻の弟橘比賣命を后と記述しているようだ)
名 名詞(名前)
は 係助詞
弟橘比売命
名詞(人名。倭建命の妻。倭建命には複数の妻がいたが、そのうちの一人。『日本書紀』においては、)
白し
サ行四段活用動詞「白す」連用形【「言ふ」謙譲語】作者→倭建命への敬意
しく、 過去の助動詞「き」+接尾語「く」(~たこと)
「吾 代名詞(私)
御子 名詞(天皇の子。皇子。ここでは倭建命を指す)
に 格助詞
代はり ラ行四段活用動詞「代はる」(代わる、代理となる)
て 接続助詞
海 名詞
に 格助詞
入ら ラ行四段活用動詞「入る」未然形
む。 意志の助動詞「む」終止形

えっ?なんでですか?

古代信仰において、自然災害などは「神の怒り」とされていました。その怒りを鎮めるために、最も価値のある「命」をささげることによって、当時の人々は神の怒りを鎮め、穏やかであることを願ったのでした。

じゃあ弟橘比売命は、倭建命が先に進めるようにと自分の命を犠牲にしたんですか!?

現代では信じがたい話ですが、そうなんです。
この「走水の海」は潮流が激しい場所とされていて、そういった場所には荒ぶる神がいると考えられていたのでした。

 

御子みこは遣つかはわさえし政まつりごとを遂とげ、覆かへりごと 奏まおすべし。」とまをしき。
皇子は(天皇から)遣わされた政務を成し遂げ、戻って報告を(天皇へ)申し上げなければなりません。」と(倭建命に)申し上げた。

御子 名詞(天皇の子。皇子。ここでは倭建命を指す)
は、 係助詞
遣はさ
サ行四段活用動詞「遣はす」(派遣なさる)【「遣る」の尊敬語】弟橘比売命→天皇への敬意
え 受身の助動詞「ゆ」連用形
し 過去の助動詞「き」連体形
政 名詞(政務)
を 格助詞
遂げ、 ガ行下二段活用動詞「遂ぐ」(成し遂げる)連用形
覆 名詞(戻っておこなう報告)
奏す
サ行変格活用動詞「奏す」(申し上げる)終止形【「言ふ」の謙譲語】弟橘比売命→天皇への敬意
べし。」
当然(義務)の助動詞「べし」(~しなければならない)終止形
と 格助詞
まをし
サ行四段活用動詞「白す」終止形【「言ふ」謙譲語】作者→倭建命への敬意
き。 過去の助動詞「き」終止形

 

海うみに入いらむんとする時ときに、菅畳すがたたみ八重やえ、皮畳かわたたみ八重やえ、絁畳きぬたたみ八重やえをもちて、波なみの上うえに敷きて、その上うえに下おりましき。
(弟橘比売命は)海に入ろうとする時に、菅の敷物、皮の敷物、絹の敷物を何枚も重ねて持って、波の上に敷いて、その上におりていらっしゃった。

海 名詞
に 格助詞
入ら ラ行四段活用動詞「入る」未然形
む 意志の助動詞「む」終止形
と 格助詞
する サ行変格活用動詞「す」連体形
時 名詞
に、 格助詞
菅畳 名詞(菅すげという植物を編んで作った敷物)
八重、 名詞(何枚も重ねること)
皮畳 名詞(獣の皮で作られた敷物)
八重、 名詞
絁畳 名詞(絹の糸で織った敷物)
八重 名詞
を 格助詞
もち タ行四段活用動詞「もつ」連用形
て、 接続助詞
波 名詞
の 格助詞
上 名詞
に 格助詞
敷き カ行四段活用動詞「敷く」連用形
て、 接続助詞
そ 代名詞
の 格助詞
上 名詞
に 格助詞
下り ラ行四段活用動詞「下る」(下りる)
まし
サ行四段活用補助動詞「ます」(~ていらっしゃる)連用形【尊敬】作者→弟橘比売命への敬意
き。 過去の助動詞「き」終止形

なぜ、入水の際にこんなにたくさんの敷物をしいたのでしょうか?

「神への捧げもの」であるからです。
神の妃として嫁ぐ、という意味も込められたいたと考えることもできます。
立派な織物に乗せて、価値ある命をささげるということです。

 

ここに、その荒波あらなみおのづからなぎて、御船みふね進すすむこと得えたり。
そこで、その荒波は自然に穏やかになり、(倭建命が乗った)御船は進むことができた。

ここに、 接続詞(そこで)
そ 代名詞
の 格助詞
荒波 名詞
おのづから 副詞(自然に)
なぎ
ガ行上二段活用動詞「なぐ」(波が穏やかになる)連用形
て、 接続助詞
御船 名詞
進む マ行四段活用動詞「進む」連体形
こと 名詞
得 ア行上二段活用動詞「得」連用形
たり。 完了の助動詞「たり」終止形

 

しかくして、その后きさきの歌うたひいて言いはわく、
そうして、その后(=弟橘比売命)が和歌を吟じていうことには、

しかくして、 接続詞(そうして)
そ 代名詞
の 格助詞
后 名詞
の 格助詞
歌ひ ハ行四段活用動詞「歌ふ」(和歌を吟じる)連用形
て 接続助詞
言はく、
ハ行四段活用動詞「言ふ」未然形+接尾語「く」(言うことには)

 

さねさし 相摸さがむの小野おのに 燃もゆる火ひの 火ほ中なかに立たちて 問とひいし君きみはも
相模の野原で燃える火の炎の中に立って、(私の無事を)尋ねたあなた様よ

さねさし 枕詞(「相模」を導く)
相模 名詞(地名。現在の神奈川県東部にあたる)
の 格助詞
小野 名詞(野原)
に 格助詞
燃ゆる ヤ行下二段活用動詞「燃ゆ」(燃える)連体形
火 名詞
の 格助詞
火中 名詞(燃える炎の中)
に 格助詞
立ち タ行四段活用動詞「立つ」連用形
て 接続助詞
問ひ ハ行四段活用動詞「問ふ」(尋ねる)連用形
し 過去の助動詞「き」連体形
君 名詞(あなた)
はも 【詠嘆】係助詞「は」+終助詞「も」(~よ)

弟橘比売命は、いったい何について詠んでいるのでしょうか?

最初に、倭建命は天皇の命を受けて反抗勢力の討伐に言ったという話をしましたね。
ここに来る前に相模の地で、倭建命はだまされて炎に包まれるというピンチに見舞われたのです。
倭比売命から授けられたお助け道具のおかげで、危機を脱し、だました相手はしっかりとやっつけました。

なるほど…弟橘比売命は、そのこともあって、倭建命のために自分の命を差し出すことにしたのですね。

 

かれ、七日なぬかの後のちに、その后の御櫛みぐし 海辺うみべによりき。
それから、七日後、その后(=弟橘比売命)の御櫛が海岸に流れ着いた。

かれ、 接続詞(それから)
七日 名詞
の 格助詞
後 名詞
に、 格助詞
そ 代名詞
の 格助詞
后 名詞
の 格助詞
御櫛 名詞
海辺 名詞(海岸)
に 格助詞
より
ラ行四段活用動詞「よる」(立ち寄る→ここでは櫛が「流れ着く」と解釈)連用形
き。 過去の助動詞「き」終止形

 

すなはち、その櫛くしを取とり、御陵みはかを作つくりて、治おさめ置おきき。
そこで、(倭建命は)その櫛を取り、(弟橘比売命の)墓を作って、(その墓に櫛を)納めて置いた。

すなはち、 接続詞(そこで)
そ 代名詞
の 格助詞
櫛 名詞
を 格助詞
取り、 ラ行四段活用動詞「取る」(手に取る)連用形
御陵 名詞(天皇や皇后の墓のこと)
を 格助詞
作り ラ行四段活用動詞「作る」連用形
て、 接続助詞
治め置き カ行四段活用動詞「治め置く」(納めて置く)連用形
き。 過去の助動詞「き」終止形

 

 

そこより入り出でまし、悉ことごとく荒ぶる蝦夷えみしどもを言こと向むけ、また、山河やまかわの荒ぶる神たちを平たいらげ和やわして、還かえり上のぼり出いでましし時ときに、
そこから(さらに東国へと)入っていらっしゃり、残らず全て暴れる蝦夷たちを説得して従わせ、そのうえ、山や川の暴れる神たちを討ち鎮めて従わせて、都へ戻っていらっしゃった時に、

そこ 代名詞
より 格助詞
入り ラ行四段活用動詞「入る」連用形
出でまし、
サ行四段活用動詞「出でます」( いらっしゃる)【「行く」の尊敬語】作者→倭建命への敬意
悉く 副詞(残らずすべて)
荒ぶる バ行上二段活用動詞「荒ぶ」(暴れる)連体形
蝦夷ども
名詞(東国に住み、大和朝廷に従わなかった人々のこと)
を 格助詞
言向け、
カ行下二段活用動詞「言向く」(説得して従わせる)連用形
また、 接続詞(そのうえ)
山河 名詞(山や川)
の 格助詞
荒ぶる バ行上二段活用動詞「荒ぶ」(暴れる)連体形
神たち 名詞
を 格助詞
平らげ ガ行下二段動詞「平らぐ」(討ち鎮める)
和し サ行四段活用動詞「和す」(従わせる)連用形
て、 接続助詞
還り上り
ラ行四段活用動詞「還る」(元の場所に戻る)連用形+ラ行四段活用動詞「上る」(都へ行く)連用形→都へ戻る
出でまし
サ行四段活用動詞「出でます」( いらっしゃる)【「行く」の尊敬語】作者→倭建命への敬意
し 過去の助動詞「き」連体形
時 名詞
に、 格助詞

 

足柄あしがらの坂本さかもとに到いたりて、御粮みかりてを食はむところに、その坂さかの神かみ、白しろき鹿かとなりて来き立たちき。
足柄峠のふもとに到着して、御乾飯を食べてるところに、その峠の神が、白い鹿となってやってきて、立った。

足柄
名詞(足柄峠のこと。現在の神奈川県と静岡県の県境にある)
の 格助詞
坂本 名詞(ふもと)
に 格助詞
到り ラ行四段活用動詞「到る」(到着する)連用形
て、 接続助詞
御粮 名詞(乾飯。携帯用の飯。水などで戻して食べる)
を 格助詞
食む マ行四段活用動詞「食む」(食べる)連体形
ところ 名詞
に、 格助詞
そ 代名詞
の 格助詞
坂下 名詞
の 格助詞
神、 名詞
白き ク活用の形容詞「白し」(白い)連体形
鹿 名詞(シカ)
と 格助詞
なり ラ行四段活用動詞「なる」連用形
て、 接続助詞
来立ち タ行四段活用動詞「来立つ」(やって来て立つ)
き。 過去の助動詞「き」終止形

 

しかくして、すなはわち、その食くひい遺のこせる蒜ひるの片端かたはしもちて、待まち打うちしかば、その目めに当めたりて、打うち殺ころしき。
そうして、すぐに、(倭建命は)その食べ残された蒜の一片を持って、(白き鹿となって立っている神を)待ちかまえて(蒜を)投げつけたところ、その目に命中して、(倭建命は白き鹿となって立っている神を)打ち殺した。

しかくして、 接続詞(そうして)
すなはち、 接続詞(すぐに)
そ 代名詞
の 格助詞
食ひ遺せ サ行下二段活用動詞「食ひ遺す」(食べ残す)未然形
る 尊敬の助動詞「る」連体形 作者→倭建命への敬意
蒜 名詞(野蒜のびるやにんにくなどのこと。)
の 格助詞
片端 名詞(一片)
もち タ行四段活用動詞「もつ」連用形
て、 接続助詞
待ち打ち
タ行四段活用動詞「待つ」連用形+タ行四段活用動詞「打つ」(投げつける)連用形
しか 過去の助動詞「き」已然形
ば、 接続助詞
そ 代名詞
の 格助詞
目 名詞
に 格助詞
当て ラ行四段活用動詞「当たる」(命中する)連用形
て、 接続助詞
打ち殺し サ行四段活用動詞「打ち殺す」連用形
き。 過去の助動詞「き」終止形

にんにくが悪いものを祓う力があるというのは、ドラキュラのイメージがありますが、日本でもあったんですね。

ここでは、倭建命が神を討ったと書かれています。しかし、これは倭建命がこの地域の豪族たちを従わせたということを表現していると言われています。

 

かれ、その坂さかに登のぼり立たちて、三みたび嘆なげきて、詔のりたまひいて言いひいしく、「吾妻あずまはや。」と言いひいき。
それから、その峠に登って行って立ち、幾度もため息をついて、おっしゃったことには、「我が妻よ、ああ。」と言った。

かれ、 接続詞(それから)
そ 代名詞
の 格助詞
坂 名詞
に 格助詞
登り立ち タ行四段活用動詞「登り立つ」(登って行って立つ)
て、 接続助詞
三たび 名詞(幾度も)
嘆き カ行四段活用動詞「嘆く」(ため息をつく)
て、 接続助詞
詔り
ラ行四段活用動詞「詔る」(言う ※神や天皇が自分の思いなどを表明するという意味が転じて、むやみに口にしないほうがいいことを明かして言うという意味を持つようになった)連用形
給ひ ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形
て、 接続助詞
言ひ ハ行四段活用動詞「言ふ」連用形
しく、 過去の助動詞「き」+接尾語「く」(~たこと)
「吾妻 名詞(我が妻、私の妻)
はや。」 【詠嘆】係助詞「は」と間投助詞「や」
と 格助詞
言ひ ハ行四段活用動詞「言ふ」連用形
き。 過去の助動詞「き」終止形

足柄峠からまっすぐ東方向に、走水が見えるのでした。

 

かれ、その国くにを名なづけて、吾妻あづまといふう。
それから、その地域を名付けて、あづまと言う。

かれ、 接続詞(それから)
そ 代名詞
の 格助詞
国 名詞(地域)
を 格助詞
名づけ カ行下二段活用動詞「名づく」(名付ける)連用形
て、 接続助詞
吾妻 名詞
と 格助詞
いふ。 ハ行四段活用動詞「いふ」終止形

足利峠を境に東側を、「あづま」と呼ぶようになったということです。
また、この「吾妻はや。」と言った峠は、『日本書紀』では碓氷峠とされています。

 

すなはわち、その国くにより甲斐かいに越こえ出いでて、酒折さかおりの宮みやに坐いましし時ときに、歌うたひいて言いはわく、
そこで、その国(=相模国)から甲斐の国に(山を)越えて出て、酒折の宮においでになった時に、歌ったことには、

すなはち、 接続詞(そこで)
そ 代名詞
の 格助詞
国 名詞
より 格助詞
甲斐 名詞(旧国名。現在の山梨県を指す)
に 格助詞
越え ヤ行下二段活用動詞「越ゆ」(越える)
出で ダ行下二段活用動詞「出づ」(出発する)
て、 接続助詞
酒折 名詞(地名。現在の山梨県甲府市にある)
の 格助詞
宮 名詞(行宮あんぐう…出かけた際の仮の御殿)
に 格助詞
坐し
サ行変格活用動詞「坐す」(おいでになる)連用形【尊敬】作者→倭建命への敬意
し 過去の助動詞「き」連体形
時 名詞
に、 格助詞
歌ひ ハ行四段活用動詞「歌ふ」(歌う)連用形
て 接続助詞
言はく、
ハ行四段活用動詞「言ふ」未然形+接尾語「く」(言うことには)

倭建命は足利峠(相模国=現在の神奈川県)から、大和国(=奈良県)に、向かっているんですよね。

 

新治にいばり 筑波つくはを過すぎて 幾いく夜よか寝ねつる
新治や筑波を過ぎてから、どれだけの数の夜を眠っただろうか。

新治 名詞(地名。現在の茨城県にある)
筑波 名詞(地名。現在の茨城県にある)
を 格助詞
過ぎ ガ行上二段活用動詞「過ぐ」(通り過ぎる)連用形
て 接続助詞
幾夜 名詞(幾晩、どれだけの数の夜)
か 疑問の係助詞【係】
寝 ナ行下二段活用動詞「寝ぬ」(眠る)連用形
つる 完了の助動詞「つ」連体形【結】

 

しかくして、その御み火ひ焼たきの翁おきな、御み歌うたに続つぎて、歌うたひいて言いはわく、
そうして、その(御殿の)御火焼の老人が、(倭建命の)御歌に続けて、歌ったことには、

しかくして、 接続詞(そうして)
そ 代名詞
の 格助詞
御火焼 名詞(夜間の敬語のために火を焚くこと)
の 格助詞
翁、 名詞(老人)
御歌
名詞(和歌。ここでは倭建命が詠んだ「新治~」を指す)
に 格助詞
続ぎ ガ行四段活用動詞「続ぐ」(続ける)連用形
て、 接続助詞
歌ひ ハ行四段活用動詞「歌ふ」(歌う)連用形
て 接続助詞
言はく、
ハ行四段活用動詞「言ふ」未然形+接尾語「く」(言うことには)

  

日々かがなべて 夜よには九夜ここのよ 日には十日を
日々を重ねて、夜では九夜、昼では十日になりますよ。

日々 名詞
なべ
バ行下二段活用動詞「並ぶ」(並べる)連用形 ※日々なべて…日数を重ねて
て 接続助詞
夜 名詞
に 格助詞
は 係助詞
九夜 名詞
日 名詞(日数)
に 格助詞
は 係助詞
十日 名詞
を 詠嘆の間投助詞(~よ)

 

上の句を受けて下の句を別の人が詠むことを、「連歌」と言います。
この出来事が「連歌」の始まりと言われています。

わざわざ「夜は九夜で、日は十日です」と答えているのは、なぜですか?

倭建命は「幾夜か」と尋ねました。それに対して「九夜」と答えたのは理解できるでしょう。また、当時は一日の始まりが、日没からでした。
新治・筑波を通過した昼…昼1
日没になって新しい日が始まる…夜1
夜が明けて昼になる…昼2
と繰り返されます。
そこで「日には十日を」が加わることで、実際に日々を過ごした様子が思い浮かぶという効果もあります。

 

ここを以もちて、その翁おきなを誉ほめて、すなはち東あづまの国造くにのみやっこを賜たまひいき。
こういうわけ(=倭建命の問いに即座に歌って返答したこと)で、(倭建命は)その老人を称賛して、すぐに東の国の造の姓をお授けになった。

ここ 代名詞
を 格助詞
以ち タ行四段活用動詞「以つ」連用形
て、 接続助詞 ※以て…~という理由で
そ 代名詞
の 格助詞
翁 名詞
を 格助詞
誉め マ行下二段活用動詞「誉む」(称賛する)連用形
て、 接続助詞
すなはち 副詞(すぐに)
東 名詞
の 格助詞
国造 名詞(地方を治める役職)
を 格助詞
賜ひ
ハ行四段活用動詞「賜ふ」(お与えになる)【尊敬】作者→倭建命への敬意
き。 過去の助動詞「き」終止形

倭建命の問いに対して、翁が即興で和歌を詠んで返したことを素晴らしいと褒めたんですね。

倭建命の「私は新治・筑波を過ぎてからどれくらいたったのかな?」という問いに、周りのお供のものはこたえられなかったのです。そこでふと火焚きをしていた老人が、さらりと答えたので、倭建命は「すばらしい!聡明な老人だ。お前を国造に任命するぞ!」となったわけです。

 

続き:かれ、しかくして、御合して~

 

参考文献
青空文庫 稗田の阿礼、太の安万侶 武田祐吉注釈校訂 古事記 校註 古事記(2025年12月11日閲覧)
青空文庫 現代語訳 古事記 稗田の阿禮、太の安萬侶 武田祐吉訳(2025年12月11日閲覧)
『新編古典探求』東京書籍
『新全訳古語辞典』大修館書店

この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

自分の生徒には直接伝えられるけど、
聞きたくても聞けない…などと困っている方にも届けたくて、ブログを始めました。

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