奥の細道より「平泉」について解説をしていきます。
平泉とは現在の岩手県にある町です。
古くは奥州藤原氏の拠点、東北地方の中心でもありました。
今回は芭蕉が平泉を訪れ、かつて栄華を極めた人たちへ思いをはせる場面です。
この記事では
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説
以上の内容を順番にお話していきます。
奥の細道「平泉」品詞分解・現代語訳・解説
本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳
三代の栄耀一睡のうちにして、
語句 | 意味 |
三代 | 名詞(藤原清衡、基衡、秀衡の三代。平安時代に栄えていた奥州藤原氏。) |
の | 格助詞 |
栄耀 | 名詞(栄華、繁栄) |
一睡 | 名詞(ひと眠りの間の夢→はかなく消え去ること) |
の | 格助詞 |
うち | 名詞 |
に | 断定の助動詞「なり」連用形 |
して、 | 接続助詞 |
【訳】(奥州藤原氏の)三代の栄華もひと眠りの間の夢のようにはかなく消え、
「一睡のうちにして」のもとになった故事成語は「一炊の夢」です。
唐の時代にある青年が出世がかなうという枕を借りて寝た。
すると良い妻を得て、栄華をきわめるという夢を見た。
しかし目を覚ますと、まだ粟が炊き上がっていないという短い時間であった。
→ひと眠りの間に見た夢のように、はかなく消えることを言う
大門の跡は一里こなたにあり。
語句 | 意味 |
大門 | 名詞(奥州藤原氏の拠点である平泉館の正門を指す) |
の | 格助詞 |
跡 | 名詞 |
は | 係助詞 |
一里 | 名詞(距離を表す。一里=約4km) |
こなた | 代名詞(こちら) |
に | 格助詞 |
あり。 | ラ行変格活用動詞「あり」終止形 |
【訳】大門の跡は約4キロメートルこちら側にある。
どういう意味でしょうか?
諸説ありますが、ここではお屋敷の入口から門までの距離が一里もあるほど大きなお屋敷だったということが言いたいのです。
秀衡が跡は田野になりて、
語句 | 意味 |
秀衡が跡 | 名詞(秀衡の住まいだった館の跡地) |
は | 係助詞 |
田野 | 名詞(田畑や野原) |
に | 格助詞 |
なり | ラ行四段活用動詞「なる」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】秀衡の館の跡は田畑や野原になって、
金鶏山のみ形を残す。
語句 | 意味 |
金鶏山 | 名詞(岩手県にある山。秀衡が築いた山。) |
のみ | 副助詞(~だけ) |
形 | 名詞 |
を | 格助詞 |
残す。 | サ行四段活用動詞「残す」終止形 |
【訳】金鶏山だけが昔の形を残している。
まづ高館に登れば、
語句 | 意味 |
まづ | 副詞(はじめに) |
高館 | 名詞(源義経の住まいの跡地。高台にあった。) |
に | 格助詞 |
登れ | ラ行四段活用動詞「登る」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
【訳】はじめに高館に登ると、
義経は源平合戦で大活躍したものの、その後頼朝とケンカをして追われることに。
そこで秀衡を頼って平泉へ逃げてきた。
しかし秀衡の次男である泰衡に襲撃され、高館で自害した。
北上川、南部より流るる大河なり。
語句 | 意味 |
北上川、 | 名詞 |
南部 | 名詞(現在の岩手県盛岡市を中心とする地方。南部氏の領地であった。) |
より | 格助詞 |
流るる | ラ行下二段活用動詞「流る」連体形 |
大河 | 名詞 |
なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 |
【訳】北上川は南部地方から流れる大河である。
衣川は和泉が城を巡りて、
語句 | 意味 |
衣川 | 名詞(北上川の支流の川) |
は | 係助詞 |
和泉が城 | 名詞(秀衡の三男の和泉三郎忠衡の住まいがあった場所) |
を | 格助詞 |
巡り | ラ行四段活用動詞「巡る」(周囲を囲む)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】衣川は和泉が城の周囲を囲んで(流れ)、
高館の下にて大河に落ち入る。
語句 | 意味 |
高館 | 名詞 |
の | 格助詞 |
下 | 名詞 |
にて | 格助詞 |
大河 | 名詞 |
に | 格助詞 |
落ち入る。 | ラ行四段活用動詞「落ち入る」(流れ込む)終止形 |
【訳】高館の下で大河(北上川)に流れ込む。
泰衡らが旧跡は、衣が関を隔てて南部口をさし固め、
語句 | 意味 |
泰衡ら | 名詞(泰衡…秀衡の次男) |
が | 格助詞 |
旧跡 | 名詞 |
は、 | 係助詞 |
衣が関 | 名詞(高館の近くにあった古い関) |
を | 格助詞 |
隔て | タ行下二段活用動詞「隔つ」(隔てる、仕切る)連用形 |
て | 接続助詞 |
南部口 | 名詞(南部からの入口) |
を | 格助詞 |
さし固め、 | マ行下二段活用動詞「さし固む」(固く守る)連用形 |
【訳】泰衡たちが(住んでいた場所の)旧跡は、衣が関を隔てて南部からの入口を固く守り、
夷を防ぐと見えたり。
語句 | 意味 |
夷 | 名詞(蝦夷) |
を | 格助詞 |
防ぐ | ガ行四段活用動詞「防ぐ」終止形 |
と | 格助詞 |
見え | ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」(見える)連用形 |
たり。 | 存続の助動詞「たり」終止形 |
【訳】蝦夷(の侵入)を防いでいたと見える。
平泉は防衛の拠点でもあったのですね。
さても、義臣すぐつてこの城にこもり、
語句 | 意味 |
さても、 | 接続詞(ところで。それにしても。) |
義臣 | 名詞(忠義の心もあつい家来) |
すぐつ | ラ行四段活用動詞「すぐる」(優れたものを選び出す)連用形「すぐり」の促音便 |
て | 接続助詞 |
こ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
城 | 名詞 |
に | 格助詞 |
こもり、 | ラ行四段活用動詞「こもる」(閉じこもる。立てこもる。)連用形 |
【訳】ところで、(義経は)忠義の心のあつい家来を選び出してこの城に立てこもり、
功名一時の叢となる。
語句 | 意味 |
功名 | 名詞(手柄を立てること) |
一時 | 名詞 |
の | 格助詞 |
叢 | 名詞(草むら) |
と | 格助詞 |
なる。 | ラ行四段活用動詞「なる」終止形 |
【訳】手柄を立てたが、その功名も一時のことで、今ではその場所は草むらになっている。
話題が変わって、高館の歴史に思いをはせていますね。
この短いフレーズにそんな意味が込められているのですか?
句を詠む芭蕉らしい、圧縮した表現になっています。
「国破れて山河あり、城春にして草青みたり。」
語句 | 意味 |
「国 | 名詞 |
破れ | ラ行四段活用動詞「破る」(敗れる。壊れる。)連用形 |
て | 接続助詞 |
山河 | 名詞(山や川) |
あり、 | ラ行変格活用動詞「あり」連用形 |
城 | 名詞 |
春 | 名詞 |
に | 断定の助動詞「なり」連用形 |
して | 接続助詞 |
草 | 名詞 |
青み | マ行四段活用動詞「青む」(青々と茂る)連用形 |
たり。」 | 存続の助動詞「たり」終止形 |
【訳】国は破壊されたが山や川は(変わらずに)あり、(荒れ果てた)城に春が来て、草が青々と茂っている。
杜甫の「春望」という漢詩の一節に基づいて作られています。
国破れて山河あり(国は破壊されたが、山や川は変わらずにある)
城春にして草木深し(荒れた城には春が来て、草木が青く茂っている)
芭蕉は、平泉もこの詩の状況に似ていると感じたのです。
と、笠うち敷きて、時の移るまで涙を落とし侍りぬ。
語句 | 意味 |
と、 | 格助詞 |
笠 | 名詞 |
うち敷き | カ行四段活用動詞「うち敷く」(敷く)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
時 | 名詞 |
の | 格助詞 |
移る | ラ行四段活用動詞「移る」(過ぎる)連体形 |
まで | 副助詞 |
涙 | 名詞 |
を | 格助詞 |
落とし | サ行四段活用動詞「落とす」(こぼす。流す。)連用形 |
侍り | ラ行変格活用動詞「侍り」連用形【丁寧】作者→読者への敬意 |
ぬ。 | 完了の助動詞「ぬ」終止形 |
【訳】笠を敷いて、時が過ぎるまで涙を流しました。
一面草むらになった場所に笠を敷いて座りながら、人間のはかなさを感じて涙を流しています。
これまで情景や事実を述べていましたが、自分の様子を「侍り」という読者に向けた敬語を用いて表現しています。
句:夏草や 兵どもが 夢の跡
語句 | 意味 |
夏草 | 名詞【季語→夏】 |
や | 間投助詞【切れ字】 |
兵ども | 名詞(兵士。武士。ここでは義経とその家来のこと) |
が | 格助詞 |
夢 | 名詞 |
の | 格助詞 |
跡 | 名詞 |
【訳】夏草が生い茂っているよ。(ここは)義経とその家来たちの夢は、はかなく消え去った場所なのだ。
涙を流しながら松尾芭蕉の詠んだ句です。
何を言っているのでしょうか。
「人は力を持ったとしても、必ず失う」とし、栄華は永遠に続くわけではないという、人間のはかなさを詠んでいます。
いつでも生い茂っている夏草と人間の無力さを対比させています。
句:卯の花に 兼房 見ゆる 白毛かな 曽良
語句 | 意味 |
卯の花 | 名詞(夏に咲く花)【季語→夏】 |
に | 格助詞 |
兼房 | 名詞(義経の家来の一人。白髪を振り乱して戦ったとされている。) |
見ゆる | ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」連体形 |
白毛 | 名詞(白髪) |
かな | 終助詞【切れ字】 |
曽良 | 名詞(芭蕉と旅をしていた弟子) |
【訳】卯の花を見ていると、兼房が白髪を振り乱しながら戦っているように見えることだよ。 曽良
こちらが、同行者である弟子の曽良が詠んだ句ですね。
かねて耳驚かしたる二堂開帳す。
語句 | 意味 |
かねて | 副詞(前から) |
耳 | 名詞 |
驚かし | サ行四段活用動詞「驚かす」(驚かせる。びっくりさせる。)連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
二堂 | 名詞(中尊寺の経堂と光堂を指す) |
開帳す。 | サ行変格活用動詞「開帳す」(普段公開しない秘仏を一般の人でも拝めるようにすること) |
【訳】前から聞いて驚いていた二堂が開帳されている。
経堂は三将の像を残し、
語句 | 意味 |
経堂 | 名詞 |
は | 係助詞 |
三将 | 名詞(清衡・基衡・秀衡を指す) |
の | 格助詞 |
像 | 名詞 |
を | 格助詞 |
残し、 | サ行四段活用動詞「残す」連用形 |
【訳】経堂には三人の像を残し、
光堂は三代の棺を納め、
語句 | 意味 |
光堂 | 名詞(清衡が建立した金色堂のこと) |
は | 係助詞 |
三代 | 名詞(清衡・基衡・秀衡を指す) |
の | 格助詞 |
棺 | 名詞 |
を | 格助詞 |
納め、 | マ行下二段活用動詞「納む」連用形 |
【訳】金色堂には(その)三人の棺を納め、
三尊の仏を安置す。
語句 | 意味 |
三尊 | 名詞(阿弥陀如来・観世音菩薩・勢至菩薩を指す) |
の | 格助詞 |
仏 | 名詞(仏像) |
を | 格助詞 |
安置す。 | サ行変格活用動詞「安置す」終止形 |
【訳】三尊の仏像を安置している。
七宝散り失せて、
語句 | 意味 |
七宝 | 名詞(金・銀・メノウ・サンゴなどを言う。光堂の装飾品を指す) |
散り失せ | サ行下二段活用動詞「散り失す」(散り落ちてなくなる)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】(光堂を飾る)七宝は散り落ちてなくなり、
珠の扉風に破れ、
語句 | 意味 |
珠 | 名詞(宝石) |
の | 格助詞 |
扉 | 名詞 |
風 | 名詞 |
に | 格助詞 |
破れ、 | ラ行下二段活用動詞「破る」(壊れる。傷つく。)連用形 |
【訳】宝石で飾られた扉は風で壊れ、
金の柱霜雪に朽ちて、
語句 | 意味 |
金 | 名詞 |
の | 格助詞 |
柱 | 名詞 |
霜雪 | 名詞( 霜や雪) |
に | 格助詞 |
朽ち | タ行四段活用動詞「朽つ」(腐る。朽ちる。)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】金箔を貼った柱も霜や雪によって腐り、
すでに頽廃空虚の叢となるべきを、
語句 | 意味 |
すでに | 副詞(もう少しで) |
頽廃 | 名詞(崩れてだめになること) |
空虚 | 名詞(何もなくなること) |
の | 格助詞 |
叢 | 名詞 |
と | 格助詞 |
なる | ラ行四段活用動詞「なる」終止形 |
べき | 当然の助動詞「べし」連体形 |
を、 | 格助詞 |
【訳】もう少しで崩れて何もない草むらになるはずだったところを、
四面新たに囲みて、
語句 | 意味 |
四面 | 名詞(四方) |
新たに | ナリ活用の形容動詞「新たなり」(新しい)連用形 |
囲み | マ行四段活用動詞「囲む」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】(後世の人たちが金色堂の)四方を新しく囲んで、
甍を覆ひて風雨をしのぎ、
語句 | 意味 |
甍 | 名詞(瓦葺の屋根) |
を | 名詞 |
覆ひ | ハ行四段活用動詞「覆ふ」連用形 |
て | 接続助詞 |
風雨 | 名詞 |
を | 格助詞 |
しのぎ、 | ガ行四段活用動詞「しのぐ」(防ぐ)終止形 |
【訳】茅葺の屋根で覆って風雨を防ぎ、
しばらく千歳の記念とはなれり。
語句 | 意味 |
しばらく | 副詞(少しの間) |
千歳 | 名詞(長い年月) |
の | 格助詞 |
記念 | 名詞(記念物) |
と | 格助詞 |
は | 係助詞 |
なれ | ラ行四段活用動詞「なる」已然形 |
り。 | 存続の助動詞「り」終止形 |
【訳】少しの間長い年月(をしのぶ)記念物となっている。
「しばらく」と言っているのはなぜですか?
芭蕉には「永遠などありえない」という考えがあります。
金色堂を残す努力をし、実際に残ってはいるけれども、これが永遠に残り続けるとは言えないとしているのです。
句:五月雨の 降り残してや 光堂
語句 | 意味 |
五月雨 | 名詞【季語→夏】 |
の | 格助詞 |
降り残し | サ行四段活用動詞「降り残す」連用形 |
て | 接続助詞 |
や | 間投助詞【切れ字】 |
光堂 | 名詞 |
【訳】五月雨は金色堂を避けて降ったのだろうか。光堂は昔のように光輝いている。
「降り残す」とはどういう意味ですか?
金色堂だけが降らずに残っている…つまり「避けて降った」ということです。
人間は守る努力をすれば、受け継ぐことはできるのだという感動と、その努力に対する賞賛も込められてます。
まとめ
いかがでしたか。
今回は奥の細道より「平泉」を解説しました。
短い文章に芭蕉の思いがぎっしり詰まっているのを感じられたでしょうか。
芭蕉が強く影響されたと言われているのが、中国の詩人である杜甫と李白です。
漢語が用いられることで、力強くリズムが良い文体となっています。
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