今回は枕草子より「宮に初めて参りたるころ①」(宮に初めて参りたるころ~)について解説をしていきます。
枕草子とは、平安時代中期の作品です。
作者である清少納言は、中宮定子に仕えた女房でした。
そこで見聞きしたことや、日々感じることなどをつづっています。
今回のお話は、平安のキャリアウーマンとも言われる彼女が、宮仕えをはじめたばかりの頃のことが語られています。
この記事では
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説
以上の内容を順番にお話していきます。
枕草子「宮に初めて参りたるころ①」(宮に初めて参りたるころ~)品詞分解・現代語訳・解説
本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳
宮に初めて参りたるころ、
語句 | 意味 |
宮 | 名詞(御所。ここでは中宮定子の御所を指す) |
に | 格助詞 |
初めて | 副詞 |
参り | ラ行四段活用動詞「参る」(参上する)連用形【謙譲】作者→中宮への敬意 |
たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
ころ、 | 名詞 |
【訳】(中宮定子様の)御所に初めて参上したころ、
清少納言は中宮定子に仕えていました。
中宮定子とは藤原道隆の娘です。
一条天皇の奥様ということになります。
もののはづかしきことの数しらず、
語句 | 意味 |
もの | 名詞(物事。※漠然とした対象を表す) |
の | 格助詞 |
はづかしき | シク活用の形容詞「はづかし」(気が引ける、恥ずかしい)連体形 |
こと | 名詞 |
の | 格助詞 |
数 | 名詞 |
知ら | ラ行四段活用動詞「知る」未然形 |
ず、 | 打消の助動詞「ず」連用形 |
※数知らず | 【連語】数えきれないほどたくさん |
【訳】物事で気が引けてしまうことが数えきれないほどたくさんで、
どういうことでしょうか?
ここでの「物事」とは、初めて宮仕えをして見るものすべて、その場の雰囲気などを指しています。
涙も落ちぬべければ、
語句 | 意味 |
涙 | 名詞 |
も | 係助詞 |
落ち | タ行上二段活用動詞「落つ」連用形 |
ぬ | 強意の助動詞「ぬ」終止形 |
べけれ | 推量の助動詞「べし」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
【訳】今にも涙が落ちそうなので、
「きっと涙が落ちてしまう」というのがしっくりこないので、「今にも涙が落ちそう」と訳しました。
男性顔負けの知識と教養を持つ、バリキャリの清少納言にもこんな初々しい時があったのですね。
↑そんな清少納言をわかりやすく、面白く紹介している本です。
夜々参りて、三尺の御几帳の後ろに候ふに、
語句 | 意味 |
夜々 | 名詞(毎夜) |
参り | ラ行四段活用動詞「参る」(参上する)連用形【謙譲】作者→中宮への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
三尺 | 名詞(約90cmを表す) |
の | 格助詞 |
御几帳 | 名詞(尊敬の意を表す接頭語「御」+几帳) |
の | 格助詞 |
後ろ | 名詞 |
に | 格助詞 |
候ふ | ハ行四段活用動詞「候ふ」(お仕えする)連体形【謙譲】作者→中宮への敬意 |
に、 | 接続助詞 |
【訳】毎夜参上して、三尺の御几帳の後ろにお仕えしていると、
顔を見られるのが恥ずかしくて、夜だけ宮仕えをしていたそうです。
参上しても、几帳の後ろに隠れるようにして仕えていたのですね。
そんなイメージはなかったです。
絵など取り出でて見せさせ給ふを、
語句 | 意味 |
絵 | 名詞 |
など | 副助詞 |
取り出で | ダ行下二段活用動詞「取り出づ」(取り出す)連用形 |
て | 接続助詞 |
見せ | サ行下二段活用動詞「見す」(見せる)未然形 |
させ | 尊敬の助動詞「さす」連用形 作者→中宮への敬意 |
給ふ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連体形【尊敬】作者→中宮への敬意 |
を、 | 接続助詞 |
【訳】(中宮様が)絵などを取り出して見せてくださるのを、
「させ給ふ」で二重敬語となっていることもポイントです。
手にてもえさし出づまじう、わりなし。
語句 | 意味 |
手 | 名詞 |
にて | 格助詞 |
も | 係助詞 |
え | 副詞(+打消:~できない) |
さし出づ | ダ行下二段活用動詞「さし出づ」(差し出す)終止形 |
まじう、 | 打消推量の助動詞「まじ」連用形「まじく」のウ音便 |
わりなし。 | ク活用の形容詞「わりなし」(どうしようもない)終止形 |
【訳】(私は)手を差し出すこともできないくらいに、(恥ずかしくて)どうしようもない。
「これは、とあり、かかり。それが、かれが。」などのたまはす。
語句 | 意味 |
「これ | 代名詞(差し出した絵を指す) |
は、 | 係助詞 |
と | 副詞(そのように) |
あり、 | ラ行変格活用動詞「あり」連用形 |
かかり。 | ラ行変格活用動詞「かかり」(こうだ)終止形 |
それ | 代名詞(その人) |
が、 | 格助詞 |
かれ | 格助詞(あの人) |
が。」 | 格助詞 |
など | 副助詞 |
のたまはす。 | サ行四段活用動詞「のたまはす」(おっしゃる)終止形【尊敬】作者→中宮への敬意 |
【訳】「この絵は、そのようにあって、こうだ。その人が、あの人が。」などとおっしゃる。
中宮は緊張している清少納言に、優しく声をかけている様子が伺えますね。
「この絵はこうなっていてね、これがこうなの。その人が…、あの人が…。」と話しかけているのですね。
高坏に参らせたる大殿油なれば、
語句 | 意味 |
高坏 | 名詞(脚台が付いた食事を置く台などとして使われた。火皿を置き、灯台の代用にもしていた) |
に | 格助詞 |
参らせ | サ行下二段活用動詞「参らす」(差し上げる、献上する)連用形【謙譲】作者→中宮への敬意 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
大殿油 | 灯火(宮中の御殿の灯台にともす) |
なれ | 断定の助動詞「なり」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
【訳】高坏に灯して差し上げた灯火であるので、
「参らす」は「差し上げる」ですが、「何を」というと前後の文章から判断して「灯す」と表現しました。
髪の筋なども、なかなか昼よりも顕証に見えてまばゆけれど、
語句 | 意味 |
髪 | 名詞 |
の | 格助詞 |
筋 | 名詞 |
など | 副助詞 |
も、 | 係助詞 |
なかなか | 副詞(かえって) |
昼 | 名詞(昼間) |
より | 格助詞 |
も | 係助詞 |
顕証に | ナリ活用の形容動詞「顕証なり」(際立っている。目立っている) |
見え | ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」(見える)連用形 |
て | 接続助詞 |
まばゆけれ | ク活用の形容詞「まばゆし」(恥ずかしい、きまりが悪い) |
ど、 | 接続助詞 |
【訳】髪の毛の筋なども、かえって昼間よりも目立って見えて、恥ずかしいけれど、
清少納言は、くせ毛だったと言われています。
黒髪ストレートが美人の象徴と言われていた当時、彼女の容姿に対するコンプレックスとなっていたのです。
だから「髪の毛の筋が目立って恥ずかしい」と言っているのですね。
昼間だとはっきり見えて恥ずかしいから、夜にだけ出仕していたのに、結局灯りで照らされて、逆に目立つじゃん!
念じて見などす。
語句 | 意味 |
念じ | サ行変格活用動詞「念ず」(我慢する)連用形 |
て | 接続助詞 |
見 | マ行上一段活用動詞「見る」連用形 |
など | 副助詞 |
す。 | サ行変格活用動詞「す」終止形 |
【訳】我慢して(中宮様が見せて下さる絵を)見たりする。
いとつめたきころなれば、
語句 | 意味 |
いと | 副詞(とても) |
つめたき | ク活用の形容詞「つめたし」(寒い)連体形 |
ころ | 名詞 |
なれ | 断定の助動詞「なり」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
【訳】とても寒いころなので、
さし出でさせ給へる御手のはつかに見ゆるが、
語句 | 意味 |
さし出で | ダ行下二段活用動詞「さし出づ」(差し出す)未然形 |
させ | 尊敬の助動詞「さす」連用形 |
給へ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」已然形【尊敬】作者→中宮への敬意 |
る | 存続の助動詞「り」連体形 |
御手 | 名詞(尊敬の接頭語「御」+「手」) |
の | 格助詞 |
はつかに | ナリ活用の形容動詞「はつかなり」(ほんの少し) |
見ゆる | ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」連体形 |
が、 | 格助詞 |
【訳】(中宮様が)差し出されるお手がほんの少し見えるのが、
いみじうにほひたる薄紅梅なるは、限りなくめでたしと、
語句 | 意味 |
いみじう | シク活用の形容詞「いみじ」(とても)の連用形「いみじく」のウ音便 |
にほひ | ハ行四段活用動詞「にほふ」(美しくつややかである)連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
薄紅梅 | 薄紅梅色 |
なる | 断定の助動詞「なり」連体形 |
は、 | 係助詞 |
限りなく | ク活用の形容詞「限りなし」(この上ない)連用形 |
めでたし | ク活用の形容詞「めでたし」(すばらしい) |
と、 | 格助詞 |
【訳】とても美しくてつややかである薄紅色であるのは、この上なく美しいと、
「めでたし」は、文脈によっては「立派だ」「美しい」などと訳すこともあります。
ここでは「美しい」としました。
見知らぬ里人心地には、
語句 | 意味 |
見知ら | ラ行四段活用動詞「見知る」(見てよく知っている) |
ぬ | 打消の助動詞「ず」連体形 |
里人 | 名詞(宮仕えをしていない人) |
心地 | 名詞(気持ち) |
に | 格助詞 |
は、 | 係助詞 |
【訳】(宮中のことを)見てよく知らない宮仕えをしていない人の気持ちには、
かかる人こそは世におはしましけれと、
語句 | 意味 |
かかる | ラ行変格活用動詞「かかり」(このようだ)連体形 |
人 | 名詞 |
こそ | 係助詞 ※結び:けれ |
は | 係助詞 |
世 | 名詞 |
に | 格助詞 |
おはしまし | サ行四段活用動詞「おはします」(いらっしゃる)【尊敬】作者→中宮への敬意 |
けれ | 詠嘆の助動詞「けり」已然形【係り結び】 |
と、 |
【訳】このような(すばらしく美しい)人がこの世にいらっしゃるのだなあと、
おどろかるるまでぞ、まもり参らする。
語句 | 意味 |
おどろか | カ行四段活用動詞「おどろく」(はっとする) |
るる | 自発の助動詞「る」連体形 |
まで | 副助詞(~ほど) |
ぞ、 | 係助詞 ※結び:参らする |
まもり | ラ行四段活用動詞「まもる」(見つめる) |
参らする。 | サ行下二段活用補助動詞「参らす」(お~申し上げる)【謙譲】作者→中宮への敬意 |
【訳】はっとするほど、お見つめ申し上げる。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は枕草子より「宮に初めて参りたるころ①」を解説しました。
28歳で初めて宮仕えをすることになった清少納言。
当時17歳の定子を見て、一目惚れ(人間として)します。
知識と教養、人間的すばらしさと美しさ。
自分の容姿にコンプレックスがあるからこそ、美しい人に目を奪われてしまったのかもしれませんね。
初めての集団生活、きらびやかな人々に囲まれることに、とても緊張して恥ずかしい思いをしていたとつづられていました。
平安時代のキャリアウーマンと言われる清少納言にも、こんな初々しい時があったのですね。
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