今回は、老子より「小国寡民」について見ていきます。
小さな国土に、人口は少ない方がよいと言う老子が理想とする、国家形態を指しています。
どういうことなのか、詳しく本文をみていきましょう。
この記事では
・書き下し文(読み仮名付き)
・語句の意味/解説
・現代語訳
以上の内容について順番に説明していきます。
「小国寡民」現代語訳・解説

内容(白文・書き下し文・現代語訳・語句解説)
① 小国寡民。
小国寡民。
| 語句 | 意味/解説 |
| 小国 | 小さな国土 |
| 寡民 | 民が少ないこと |
【訳】小さな国土に人民は少ない(とする)。
② 使有什伯之器而不用。
什伯の器有れども用ゐざらしむ。
| 語句 | 意味/解説 |
| 什伯の器 | いろいろな器具 ※什伯=十百 |
| 用ゐ | 使う |
| しむ(使) | 【使役】~させる |
【訳】(そこでは)いろいろな器具があるが使わせない。
③ 使民思死而不遠徙、
民をして死を重んじて遠く徙らざらしめば、
| 語句 | 意味/解説 |
| 徙る | 場所を移動する |
| もしAをしてBし(使)めば | 【仮定・使役】もしAにBさせたならば |
【訳】人民に命を大切にし遠くへ移動させないようにしたならば、

「死を重んじる=命を大切にする」と考えましょう。
④ 雖有舟輿、無所乗之、
舟輿 有りと雖も、之に乗る所 無く、
| 語句 | 意味/解説 |
| 舟輿 | 小舟と車 |
| 雖も | 【仮定】~であっても |
| 之 | 舟輿を指す |
| 所無く | ~することがない |
【訳】小舟と車があったとしても、これに乗ることがなく、
⑤ 雖有甲兵、無所陳之。
甲兵 有りと雖も、之を陳ぬる所なからん。
| 語句 | 意味/解説 |
| 甲兵 | 鎧と武器 |
| 之 | 甲兵 |
| 陳ぬる | 並べる |
【訳】鎧と武器があったとしても、これを並べることはない。(=戦争はしない)
⑥ 使人復結縄而用之、
人をして復た縄を結びて之を用ゐ、
| 語句 | 意味/解説 |
| 復た | 昔に立ち返って |
| 縄を結び | 文字のない時代の、縄に結び目を作って約束の印とする方法。※ここでは、太古の時代のように縄の結び目で気持ちを伝える |
| 之 | 「縄を結ぶ」ことを指す |
| 用ゐ | 用いる、取り入れる |
【訳】人民に昔に立ち返って(文字のない時代のように)縄を結ぶことを約束の印とする方法を用いて、
⑦ 甘其食、美其服、安其居、楽其俗、
其の食を甘しとし、其の服を美とし、其の居に安んじ、其の俗を楽しましめば、
| 語句 | 意味/解説 |
| 食 | 食事 |
| 甘し | おいしい、美味い |
| 服 | 衣服 |
| 美 | 美しい |
| 居 | 住居、住まい |
| 安んじ | 満足する |
| 俗 | 生活様式 |
| 楽しま | 楽しむ |
| し(使)めば | 【使役+仮定】~させたならば |
【訳】(自分が食べる)その食事をおいしいと感じ、(自分が身につける)その衣服を美しいと思い、(自分が住む)その住居に満足し、(住んでいる地域の)その生活様式を楽しませたならば、
⑧ 隣国相望、鶏犬之声相聞、
隣国相望み、鶏犬の声相聞こゆるも、
| 語句 | 意味/解説 |
| 隣国 | 隣の町 |
| 相望み | お互いに眺める |
| 鶏犬の声 | 鶏や犬の声 |
| 相聞こゆる | お互いに聞こえる |
【訳】隣の町がすぐ見える距離にあり、鶏や犬の鳴き声までが聞こえるほどではあるが、

「隣の町をお互いに眺め、鶏や犬の声がお互いに聞こえるが」だと少しわかりにくいので、それだけ隣の国と距離が近いことがわかる訳にしました。

「鶏犬の声相聞こゆる」で思い出す作品がありませんか?

あ~、陶淵明の「桃花源記」ですね!

そうです。
陶淵明が描いた平和な村は、「小国寡民」で言っている「共同体のあるべき姿」そのものと言えます。
⑨ 民至老死、不相往来。
民老死に至るまで、相往来せざらん。
| 語句 | 意味/解説 |
| 老死 | 年老いて死ぬこと |
| 至る | なる |
| 相往来せ | お互いに行き来する |
| ざらん | ~ないだろう |
【訳】人民は年老いて死ぬことになるまで、お互いに行き来することはないだろう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
老子から「小国寡民」の解説をしました。
今回のお話は、老子が理想とする共同体の在り方が語られていました。
これは「無為自然」の思想に基づいたものです。
「無為自然」とは、自然のままに何も人の手を加えず、あるがままに任せることを言います。
老子は学んで知識をつけたり、欲を持つことは社会に混乱や争いを招くと考えました。
技術の進歩や文明の利器がないような時代の生活に立ち返り、その生活に満足するのがいいと言っているようです。
それによって相手をうらやんだり、相手から奪おうとすることがなくなるということです。
しかし、老子の考えは諸侯たちに採用されることはありませんでした。
戦国の世で、どの諸侯も自分の国を強くすることを考えていた時代ですから仕方ありません。
そして進化すること、技術の発展を進めてきた人類には受け入れがたい説だったとも感じます。
みなさんは、どのように感じましたか?




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