はじめに
今回は『枕草子』の「五月ばかりなどに山里に歩く」の解説をします。
成立:平安時代中期
作者:清少納言
ジャンル:随筆
内容:宮仕えをしていた時の宮中での出来事や、人間模様、季節の自然などを鋭い感性で描いている。「をかし」の文学と言われる。
今回のお話は、五月(現在の初夏にあたる季節)に山里を散策する際の情景です。
見渡す限りの青々とした草葉から始まり、美しい自然をどのように描いているのか、読み取っていきましょう。
また「引き歌」という、才女である清少納言らしい表現にも注目してください。
枕草子「五月ばかりなどに山里に歩く」現代語訳・解説

五月ばかりなどに山里に歩く、いとをかし。
陰暦五月ぐらいなどに山里を牛車で散策するのは、たいそう趣がある。
| 五月 |
名詞(陰暦の五月。現在の日本の暦は太陽の動きを基準にした「陽暦/太陽暦」であるが、当時は月の動きを基準にした「陰暦」であった)
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| ばかり | 副助詞(~ぐらい) |
| など | 副助詞 |
| に | 格助詞 |
| 山里 | 名詞(山の中にある村) |
| に | 格助詞 |
| 歩く、 |
カ行四段活用動詞「歩く」(単に歩ることではなく、乗り物による移動を表す。ここでは牛車による散策を指す)連用形
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| いと | 副詞(とても) |
| をかし。 |
シク活用の形容詞「をかし」(趣がある)終止形
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草葉も水もいと青く見えわたりたるに、
草の葉も水もとても青く一面に見えていて、
| 草葉 | 名詞(草の葉) |
| も | 係助詞 |
| 水 | 名詞 |
| も | 係助詞 |
| いと | 副詞(とても) |
| 青く |
ク活用の形容詞「青し」(青い)連用形
|
| 見えわたり |
ラ行四段活用動詞「見えわたる」(一面に見える)連用形
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| たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
| に、 | 接続助詞 |
上はつれなくて、草生ひ茂りたるを、
表面はさりげなくて、草が生い茂っているところを、
| 上 | 名詞(表面) |
| は | 係助詞 |
| つれなく |
ク活用の形容詞「つれなし」(さりげない)連用形
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| て、 | 接続助詞 |
| 草 | 名詞 |
| 生ひ茂り |
ラ行四段活用動詞「生ひ茂る」(生い茂る)連用形
|
| たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
| を、 | 格助詞 |
長々と、縦さまに行けば、
長い間まっすぐに進んでいくと、
| 長々と、 | 副詞(長い間) |
| 縦さまに | 副詞(まっすぐに) |
| 行け | カ行四段活用動詞「行く」(進んでいく)已然形 |
| ば、 | 接続助詞 |
下はえならざりける水の、深くはあらねど、
下はなんとも言えないほど素晴らしかった水が、深くはないけれども、
| 下 | 名詞 |
| は | 係助詞 |
| え |
副詞 ※えならざりける…なんとも言えないほど素晴らしかった
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| なら | ラ行四段活用動詞「なる」未然形 |
| ざり | 打消の助動詞「ず」連用形 |
| ける | 過去の助動詞「けり」連体形 |
| 水 | 名詞 |
| の、 | 格助詞 |
| 深く | ク活用の形容詞「深し」連用形 |
| は | 係助詞 |
| あら | ラ行変格活用動詞「あり」未然形 |
| ね | 打消の助動詞「ず」已然形 |
| ど、 | 接続助詞(~けれども) |
人などの歩むに、走り上がりたる、いとをかし。
供の者などが歩くにつれて、水しぶきがはね上がったりするのは、とてもおもしろい。
| 人 |
名詞(人、他の人。ここではお供の人を指す)
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| など | 副助詞 |
| の | 格助詞 |
| 歩む |
マ行四段活用動詞「歩む」(歩く)連体形
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| に、 | 格助詞 |
| 走り上がり |
ラ行四段活用動詞「走り上がる」(しぶきが跳ね上がる)連用形
|
| たる、 | 存続の助動詞「たり」連体形 |
| いと | 副詞(とても) |
| をかし。 |
シク活用の形容詞「をかし」(趣がある)終止形
|

「上はつれなくて」とか「下はえならざりける水」とか、よくわかりません。

ここは実は、ある和歌の引き歌になっているのです。

あぁ~、清少納言お得意の「私、こんなのも知ってます」マウントですね!

マウントかどうかは、置いておいて…
まずは、元の歌を解説しますね。そのあとに、清少納言が「いとをかし」と言った、状況を確認しましょう。
引き歌…古い有名な和歌の一部を、自分の文章に引用すること
葦根はふ 泥は上こそ つれなけれ 下はえならず 思ふ心を(拾遺和歌集・恋歌・よみ人知らず)
【意味】葦の根が這っている沼地は、表面こそさりげなく見えるが、その下は並大抵ではないように、私も表面は平静を装って見えるけれども、心の中では並大抵ではない思いを抱いていることよ

情熱的な思いを秘めた和歌ですね。

清少納言は、おそらく雨が降ったあとの晴れた時におでかけをしたのでしょう。この和歌を用いて、その時の情景を表現したのでした。

進む道には草が生い茂っていたの。なんでもない感じだったけど、その下には水がたまっていていたんだわね。
自分は牛車に乗っているけど、お供の人が歩いてついてくるんだけど、その時に、水しぶきが跳ね上がる様子がきれいだったのよ。
左右にある垣にある、ものの枝などの、車の屋形などにさし入るを、
(道の)左右にある垣根にある、何かの枝などが、牛車の屋形などに入り込んでくるのを、
| 左右 | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| ある | ラ行変格活用動詞「あり」連体形 |
| 垣 | 名詞(垣根) |
| に | 格助詞 |
| ある、 | ラ行変格活用動詞「あり」連体形 |
| もの | 名詞(ここでは「何か」と訳) |
| の | 格助詞 |
| 枝 | 名詞 |
| など | 副助詞 |
| の、 | 格助詞 |
| 車 | 名詞(牛車を指す) |
| の | 格助詞 |
| 屋形 |
名詞(ここでは牛車の人が乗る部分を指す。屋根がついていた)
|
| など | 副助詞 |
| に | 格助詞 |
| さし入る |
ラ行四段活用動詞「差し入る」(入り込む)連体形
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| を、 | 格助詞 |
急ぎてとらへて折らむとするほどに、
急いで手でつかんで折ろうとするうちに、
| 急ぎ | ガ行四段活用動詞「急ぐ」連用形 |
| て | 接続助詞 |
| とらへ |
ハ行下二段活用動詞「とらふ」(手でつかむ)連用形
|
| て | 接続助詞 |
| 折ら | ラ行四段活用動詞「折る」未然形 |
| む | 意志の助動詞「む」終止形 |
| と | 格助詞 |
| する | サ行変格活用動詞「す」連体形 |
| ほど | 名詞(うち) |
| に、 | 格助詞 |
ふと過ぎてはづれたるこそ、いと口惜しけれ。
不意に(牛車が)通り過ぎて(手から枝が)外れてしまったのは、とても残念なことだ。
| ふと | 副詞(不意に) |
| 過ぎ |
ガ行上二段活用動詞「過ぐ」(通り過ぎる)連用形
|
| て | 接続助詞 |
| はづれ |
ラ行下二段活用動詞「はづる」(外れる)連用形
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| たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
| こそ、 | 係助詞 ※結び:けれ |
| いと | 副詞(とても) |
| 口惜しけれ。 |
シク活用の形容詞「口惜し」(残念だ)已然形
|
蓬の、車に押しひしがれたりけるが、
ヨモギで、牛車に押しつぶされたものが、
| 蓬 | 名詞(野草の名前。他の話でもヨモギの香りに触れ、五月の節句にヨモギや菖蒲の香りが混ざり合うのが趣深いと言っている) |
| の、 | 格助詞 |
| 車 | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| 押しひしがれ |
ガ行四段活用動詞「押しひしぐ」(押しつぶす)未然形
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| たり | 完了の助動詞「たり」連用形 |
| ける | 過去の助動詞「けり」連体形 |
| が、 | 格助詞 |
輪の回りたるに、近ううちかかりたるもをかし。
牛車の車輪が回転した時に、(自分の顔の)近くに(ヨモギの香りが)飛び散ってくるのも趣深いものである。
| 輪 | 名詞(ここでは牛車の車輪を指す) |
| の | 格助詞 |
| 回り | ラ行四段活用動詞「回る」(回転する)連用形 |
| たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
| に、 | 格助詞 |
| 近う |
ク活用の形容詞「近し」(近い)連用形「近く」のウ音便
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| うちかかり |
ラ行四段活用動詞「うちかかる」(液体が飛び散る→香りが立ちのぼり自分に飛び散ってくるようだと表現している)連用形
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| たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
| も | 係助詞 |
| をかし。 |
シク活用の形容詞「をかし」(趣深い)終止形
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まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は『枕草子』の「五月ばかりなどに山里に歩く」について解説をしました。初夏の山里での散策の様子が、五感を使って表現されていました。
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見渡す限りの青: 草葉も水も一面に青く見える瑞々しい景色(視覚)
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隠れた水と足元: 深くはないものの、歩くと跳ね上がる「えならざりける」水(視覚)
※跳ね上がる水音で、聴覚も使われていたのではないかと考察し、「五感」としています。 -
牛車でのリアルな瞬間: 入り込んだ枝をつかみ(触覚)折り損ねる残念さや、車輪に踏まれたよもぎが近くで香る(嗅覚)
自然描写の巧みさ、そして「引き歌」。
清少納言のすごさが、てんこ盛りなお話だったと思いませんか?


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