今回は伊勢物語から「芥川」について現代語訳・解説をしていきます。
伊勢物語は恋愛物語が中心の短編小説集のような歌物語です。
暗い夜に逃げてきた男と女。
その女を守ろうと雨をしのぐために男が選んだ場所は、鬼がいる蔵の中でした。
夜が明けて男が蔵の中を見ると、女は鬼に食べられてしまっていたというお話です。
・和歌に込められた男の思いとは?
・物語の真相とは?
和歌が苦手という方にもわかりやすく解説していきます。
伊勢物語「芥川」現代語訳・解説
では早速内容をみていきましょう。
文法や単語についても確認しながら、しっかりと読んでいきましょう。
和歌についても男の思いを知るポイントになりますので、理解していきましょう。
本文と現代語訳
※青…単語、文法
※赤…指示語、敬語
以下本文と現代語訳、そして解説をしていきます。
昔、ある男がいた。
「昔、男」「昔、男ありけり」
伊勢物語はこの「男」が主人公であると言えます。
またこの男は在原業平だと言われています。
※けり…過去の助動詞「けり」終止形
女で手に入れることができなかった(人)を、
※まじかり…不可能の助動詞「まじ」連用形
※ける…過去の助動詞「けり」連体形→続く「人」が省略されている
長い年月が過ぎてずっと求婚し続けていたのを、やっとのことで(女を)盗み出して、
※経…ハ行下二段動詞「経」(長い年月が過ぎる) 連用形
※よばひわたり…ずっと求婚し続ける
※ける…過去の助動詞「けり」連体形
※かろうじて…やっとのことで
※けり…過去の助動詞「けり」終止形
手に入れることができない女とは、どのような人のことなのでしょうか?
女は男より高貴な身分でした。
身分違いの恋をし、求婚し続けた男はある暗い夜、闇に紛れて女を盗んで連れてきてしまったのです。
「盗み出でて」ということは、駆け落ちみたいな相思相愛の関係ではなかったのでしょうか?
それについては、女の様子を見ていくとわかります。
続きを読んでいきましょう。
とても暗い(ところ)に来た。
芥川と言う川に連れて行ったところ、(女は)草の上におりている露を、「あれは何ですか。」と男に尋ねた。
※率…ワ行上一段活用動詞「率る」(連れて行く) 連用形
※置き…カ行四段活用動詞「置く」(露や霜がおりる) 連用形
※たり…存続の助動詞「たり」連用形
※かれ…あれ
※なむ…係助詞、過去の助動詞「けり」連体形「ける」
草の上に降りた露を「あれは何?」って聞けちゃうということは、男が一方的にさらったのではなく、女も合意の上だったのかなと思います。
目的地までの道のりは遠く、夜もふけてしまったので、
※多く…たくさん
「行くさき多く」を直訳すると「目的地がたくさんある」となります。
意味がよくわからないですよね。
「行くさきとほく」と記述されている本もあります。
「目的地までの道のりは遠く」と訳すのがいいでしょう。
※に…完了の助動詞「ぬ」連用形
※けれ…過去の助動詞「けり」已然形
ここで急に鬼ですか!?
※さへ…添加を表す副助詞(その上~までも)
荒れて壊れかけた蔵に、女を奥に無理に押し入れて、
※(女を) ば…係助詞「は」の濁音化したもの
※押し入れ…ラ行下二段活用動詞「押し入る」(無理に押し入れる) 連用形
男は、弓と胡簶を背負って戸口に座っていて、
※をり…ラ行変格活用動詞「をり」(座っている) 連用形
鬼が中にいると知っている皆さんはもどかしいですよね。
でも男は雨が降る中、女を守るために入口を見張ります。
誰にもとられたくない!という、男の強い想いが感じられます。
※なむ…願望を表す終助詞(~てほしい)
※て…完了の助動詞「つ」連用形
※けり…過去の助動詞「けり」終止形
(女は)「あ~れ~」と言ったけれども、雷が鳴っていて騒がしかったので、(男は女の声を)聞くことができなかった。
※あなや…強い驚きを表す言葉。
※騒ぎ…騒がしいこと
※ざり…打消の助動詞「ず」連用形
※けり…過去の助動詞「けり」終止形
いや~!!鬼こわっ…
だんだんとしだいに夜が明けてきたので、(男が蔵の中を)見ると、連れてきた女もいない。
※明けゆく…カ行四段活用動詞「明けゆく」(しだいに夜が明けていく) 連体形
※来し…カ行変格活用動詞「来」未然形+過去の助動詞「き」連体形
※かひなし…ク活用の形容詞「かひなし」(どうしようもない) 終止形
※白玉…真珠
※消え…ヤ行下二段活用動詞「消ゆ」(消えてなくなる、死ぬ) 連用形
※な…強意の助動詞「ぬ」未然形
※まし…実現不可能な希望を表す助動詞「まし」連体形
意味
①反実仮想(もし~だとしたら…だろうに)
②実現不可能な希望(~ならよかったのに)
③ためらいの意志(~うかしら)
④推量(~だろう)
※ものを…逆接の確定条件+詠嘆の終助詞( ~なのになぁ)
この和歌は女が男に、草の上におりた露を「かれは何ぞ。」と
聞いた場面のことを詠んでいます。
好きすぎて盗んで駆け落ちしてきた女がいなくなってしまったのに、蔵の中を確認すればよかったとか、俺が彼女を連れてきたからだ…でもなく、自分があの時消えていればよかったって何ですか!?
「こんな悲しい思いをするなら、あの時死んでしまえばよかった…」と自分のことしか考えていない発言ですね。
そのような男についてきたために、女は鬼に食べられてしまったことになります。
しかし、どうやらこのお話の真相は違うようなのです。
鬼の正体は一体誰なのかをご紹介します。
鬼は誰?真相はいかに!?
冒頭で「男」は在原業平がモデルだとお話しました。
在原業平は藤原高子と恋に落ちました。
高子は藤原家の女性です。
時めく貴族である高子とイケメンだけど落ちぶれ貴族と化した業平。
身分違いの恋でした。
本文にある「かれは何ぞ。」と草の上の露が何かわからないほど、高子は超がつくほどの世間知らずのお嬢様だったことが伺えます。
そのことを考えると、高子は業平の勢いに流されただけなのかもしれません。
いずれにしてもこの二人は、高子の兄によって引き裂かれてしまいます。
つまりこの「鬼」は高子の兄だったということです。
天皇の奥さんになる予定の可愛い妹が、よくわからない男にさらわれたとなれば血眼になって探しますよね。
高子も蔵の中で近づいてきたのが兄または兄の関係者だったとしても、暗闇でわからなかったかもしれません。
女は鬼に食べられたのではなく、兄によって連れ戻されたのでした。
その後、高子は清和天皇の女御となり、次期天皇となる第一皇子も出産しています。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
身分違いの恋をした男が、女をさらって駆け落ちします。
草の上の露も見たことがなかった世間知らずの女。
男を愛してついてきたのか、男の勢いになんとなくついてきたのかは定かではありませんでした。
そんな女を男は必死で守ろうと、雷が激しく鳴る雨の中、夜通し番をします。
その甲斐なく、蔵の中にいた鬼に女は食べられてしまったというお話です。
しかしその真相は実は鬼に食べられたのではなく、女の兄が連れ戻しに来たというものでした。
世間知らずのお嬢様が、色男に人生狂わされなくてよかったのかなと個人的には思いました。
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