平家物語「壇ノ浦の合戦(能登殿の最期)②」現代語訳・解説

古文

※当サイトはアフィリエイト広告を利用しています。

平家物語より「壇ノ浦の合戦(能登殿の最期)②」について解説をしていきます。

平家物語とは、軍記物語というジャンルです。
鎌倉時代前期に成立した文学作品です。

大まかには事実に基づいて書かれていますが、単なる歴史物語ではありません。
戦に負けた平家一門については人間らしいすばらしさ、源義経の武勇伝など、物語として人々の共感を呼びました。
琵琶法師による語りよって、広く人々に親しまれてきました。

今回のお話も、前回に続き平家物語の中でも有名で、一番心を動かされる場面です。
敵の大将である判官(源義経)を討つ最大のチャンスを逃してしまった能登殿(平教経)。
最期を悟った能登殿がどのような行動をとったのか、読み取っていきましょう。

この記事では

・本文(読み仮名付き)
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説

以上の内容を順番にお話していきます。

平家物語「壇ノ浦の合戦(能登殿の最期)②」品詞分解・現代語訳・解説

本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳

これまでのお話:平家物語「壇ノ浦の合戦(能登殿の最期)①」およそ能登守教経の矢先に回る者こそなかりけれ~

 

いまうとおもれければ、太刀たち長刀なぎなたうみれ、かぶといでてられけり。

語句 意味
名詞
係助詞
かう 副詞(もうこれまで)
格助詞
思は ハ行四段活用動詞「思ふ」未然形
尊敬の助動詞「る」連用形 作者→能登殿への敬意
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ば、 接続助詞
太刀、 名詞
長刀 名詞
名詞
格助詞
投げ入れ、 ラ行下二段活用動詞「投げ入る」(投げ入れる)連用形
名詞(かぶと)
係助詞
脱い ガ行四段活用動詞「脱ぐ」の連用形「脱ぎ」のイ音便
接続助詞
捨て タ行下二段活用動詞「捨つ」未然形
られ 尊敬の助動詞「らる」連用形 作者→能登殿への敬意
けり。 過去の助動詞「けり」終止形

【訳】もうこれまでとお思いになったので、太刀、長刀を海へ投げ入れ、かぶとも脱いでお捨てになられた。

 「今はこう」…【意味】もうこれまで、これでおしまい

 

よろい草摺くさずりかなぐりて、どうばかり大童おおわらわになり、大手おおでひろげてたれたり。

語句 意味
名詞
格助詞
草摺 名詞(鎧の胴の下の垂れた部分のこと)
かなぐり捨て、 タ行下二段活用動詞「かなぐり捨つ」(引きちぎって捨てる)連用形
名詞
ばかり 副助詞(~だけ)
カ行上一段活用動詞「着る」連用形
接続助詞
大童 名詞(童…元服前の少年を指す。少年のように髪を束ねずに乱れている様子を指す)
格助詞
なり、 ラ行四段活用動詞「なる」連用形
大手 名詞(両手を大きく広げる様子)
格助詞
広げ ガ行下二段活用動詞「広ぐ」連用形
接続助詞
立た タ行四段活用動詞「立つ」未然形
尊敬の助動詞「る」連用形 作者→能登殿への敬意
たり。 完了の助動詞「たり」終止形

【訳】鎧の草摺を引きちぎって捨て、胴(の部分)だけを着て髪を束ねずに乱れた状態になって、両手を大きく広げてお立ちになった。

 

大柄の能登殿が髪を振り乱し、大きく手を広げて立っている様子を想像すると恐ろしいですね。

 

およそあたりをはらてぞえたりける。

語句 意味
およそ 副詞(だいたい、大まかに)
あたり 名詞(周囲、まわり)
格助詞
はらつ ハ行四段活用動詞「はらふ」連用形「はらひ」のイ音便
接続助詞
係助詞 ※結び:ける
見え ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」連用形
たり 完了の助動詞「たり」連用形
ける。 過去の助動詞「けり」連体形【係り結び】

【訳】だいたい周囲を追い払うような威勢に見えた。

 

その姿はやはり周りの人を追い払ってしまうほどの、威圧感だったのですね。

 

おそろしなんどもおろかなり。

語句 意味
恐ろし シク活用の形容詞「恐ろし」(恐ろしい、怖い)終止形
なんど 副助詞(など)
係助詞
おろかなり。 ナリ活用の形容動詞「おろかなり」(言い尽くせない)終止形

【訳】恐ろしいなどという言葉では言い尽くすことができない。

 

能登殿のとどの大音声だいおんじょうをあげて、「われおもものどもは、教経のりつねんでりにせよ。

語句 意味
能登殿 名詞
大音声 名詞(大きなとどろく声)
格助詞
あげ ガ行下二段活用動詞「あぐ」連用形
て、 接続助詞
「我 代名詞
格助詞
思は ハ行四段活用動詞「思ふ」未然形
婉曲の助動詞「ん」連体形
者ども 名詞(者たち)
は、 係助詞
寄つ ラ行四段活用動詞「寄る」(近寄る)連用形「寄り」のイ音便
接続助詞
教経 名詞(能登殿自身を指す)
格助詞
組ん マ行四段活用動詞「組む」(組み合う)連用形「組み」の撥音便
接続助詞
生け捕り 名詞
格助詞
せよ。 サ行変格活用動詞「す」命令形

【訳】能登殿は大きなとどろく声をあげて、「我こそはと思う者たちは、近寄って来て教経(俺)と組み合って生け捕りにしろ。

 

鎌倉かまくらくだて、頼朝よりともうて、ものひとことんとおもぞ。

語句 意味
鎌倉 名詞(地名。源氏軍の本拠地)
格助詞
下つ ラ行四段活用動詞「下る」(行く)連用形「下り」の促音便
て、 接続助詞
頼朝 名詞(人名。源頼朝のこと)
格助詞
あう ハ行四段活用動詞「あふ」連用形「あひ」のウ音便
て、 接続助詞
もの 名詞
一言葉 名詞(一言)
言は ハ行四段活用動詞「言ふ」未然形
意志の助動詞「ん」終止形
格助詞
思ふ ハ行四段活用動詞「思ふ」連体形
ぞ。 終助詞

【訳】(そうすれば)鎌倉に下って、源頼朝に会って、一言言ってやろうと思うぞ。

 

れやれ。」とのたまども、もの一人いちにんもなかりけり。

語句 意味
寄れ ラ行四段活用動詞「寄る」命令形
間投助詞
寄れ。」 ラ行四段活用動詞「寄る」命令形
格助詞
のたまへ ハ行四段活用動詞「のたまふ」(おっしゃる)【尊敬】作者→能登殿への敬意
ども、 接続助詞
寄る ラ行四段活用動詞「寄る」連体形
名詞
一人 名詞
係助詞
なかり ク活用の形容詞「なし」連用形
けり。 過去の助動詞「けり」終止形

【訳】寄ってこい、寄ってこい。」とおっしゃるが、近寄る者は一人もいなかった。

 

「生け捕りにして、俺を頼朝のところに連れて行け!」と言っています。

 

武器も全て捨てたのに、誰も近寄れないほど恐ろしい存在なんですね。

 

ここに土佐とさのくに住人じゅうにん安芸郷あきのごう知行ちぎょうしける安芸あきの大領だいりょう実康さねやすに、

語句 意味
ここに 接続詞(そこで)
土佐国 名詞(地名。現在の高知県にあたる)
格助詞
住人、 名詞
安芸郷 名詞(地名。現在の高知県安芸郡のあたり)
格助詞
知行し サ行変格活用動詞「知行す」(土地を領有して支配すること)連用形
ける 過去の助動詞「けり」連体形
安芸 名詞
大領 名詞(役職名。郡の長官を指す)
実康 名詞(人名。安芸実康)
格助詞
名詞
に、 格助詞

【訳】そこで土佐の国の住人で、安芸郷を支配した安芸の大領実康の子どもで、

 

安芸あきの太郎たろう実光さねみつとて、三十人さんじゅうにんちからたる大力だいぢからこうこうあり。

語句 意味
安芸太郎実光 名詞(人名。安芸実光の子。)
とて、 格助詞
三十人 名詞
格助詞
名詞
持つ タ行四段活用動詞「持つ」連用形「持ち」の促音便
たる 存続の助動詞「たり」連体形
大力 名詞(怪力)
格助詞
剛の者 名詞(強くて勇敢な者)
あり。 ラ行変格活用動詞「あり」終止形

【訳】安芸太郎実光と言って、30人分の力を持っている怪力の強くて勇敢な者がいる。

これまたイカツイ人が出てきましたね。

 

われにちともおとらぬ郎等ろうどう一人いちにんおとと次郎じろう普通ふつうにはすぐれたるしたたかものなり。

語句 意味
代名詞(自分。安芸太郎実光のこと)
格助詞
ちつとも 副詞(+打消…少しも~ない)
劣ら ラ行四段活用動詞「劣る」未然形
打消の助動詞「ず」連体形
郎等 名詞(家来)
一人、 名詞
名詞
格助詞
次郎 名詞
係助詞
普通 名詞
格助詞
係助詞
優れ ラ行下二段活用動詞「優る」(並外れている)連用形
たる 存続の助動詞「たり」連体形
したたか者 名詞(非常に強い人)
なり。 断定の助動詞「なり」終止形

【訳】自分(安芸太郎実光)に少しも劣らない家来が一人と、弟の次郎も普通よりは優れている非常に強い人物である。

 

怪力三人組が現る!

 

安芸あきの太郎たろう能登殿のとどのたてまもうしけるは、

語句 意味
安芸太郎、 名詞
能登殿 名詞
格助詞
マ行上一段活用動詞「見る」連用形
奉つ ラ行四段活用動詞「奉る」連用形「奉り」の促音便【謙譲】作者→能登殿への敬意
接続助詞
申し サ行四段活用動詞「申す」連用形謙譲】作者→能登殿への敬意
ける 過去の助動詞「けり」連体形
は、 係助詞

【訳】安芸太郎が、能登殿を見申し上げて申し上げたことには、

安芸三兄弟は力は強いかもしれませんが、地方の役人です。
平家の大将であるの方が身分が上として、能登殿に対して敬語が使われています。

 

「いかにたけうましますとも、われ三人さんにんりついたらんに、

語句 意味
「いかに 副詞(どんなに)
猛う ク活用の形容詞「猛し」(強い)連用形「猛く」ウ音便
まします サ行四段活用動詞「まします」(いらっしゃる)終止形【尊敬】安芸太郎→能登殿への敬意
とも、 接続助詞
我ら 代名詞
三人 名詞
取りつい カ行四段活用動詞「取りつく」(取りすがる)連用形「取りつき」イ音便
たら 完了の助動詞「たり」未然形
仮定の助動詞「ん」連体形
に、 格助詞

【訳】「どんなに(能登殿が)強くていらっしゃっても、私たち三人が取りすがったとしたら、

 

たとたけ十丈じゅうじょうおになりとも、などかしたがざるべき。」

語句 意味
たとひ 副詞(たとえ~でも)
名詞(背丈)
十丈 名詞(単位。30メートルを指す)
格助詞
名詞
なり 断定の助動詞「なり」終止形
とも、 接続助詞
などか 副詞【反語】(どうして~か、いや~ない)
従へ ハ行下二段活用動詞「従ふ」(屈服させる)未然形
ざる 打消の助動詞「ず」連体形
べき。」 可能の助動詞「べし」連体形

【訳】たとえ背丈が30メートルの鬼であったとしても、どうして屈服させないことがあるだろうか、いや屈服させることができる。」

 

とて、主従しゅうじゅう三人さんにん小舟こぶねて、能登殿のとどのふねならべ、「えい。」とうつり、

語句 意味
とて、 格助詞
主従 名詞(主人と家来のこと。安芸太郎、弟の次郎、家来の三人を指す)
三人 名詞
小舟 名詞(小さな舟)
格助詞
乗つ ラ行四段活用動詞「乗る」連用形「乗り」のイ音便
て、 接続助詞
能登殿 名詞
格助詞
名詞
格助詞
押し並べ、 バ行下二段活用動詞「押し並ぶ」(強引に並べる)連用形
「えい。」 感動詞
格助詞
言ひ ハ行四段活用動詞「言ふ」連用形
接続助詞
乗り移り、 ラ行四段活用動詞「乗り移る」連用形

【訳】と言って、主従三人で小舟に乗って、能登殿の舟に強引に並べ、「えいっ!」と言って乗り移り、

 

かぶとしころをかたぶけ、太刀たちいて、一面いちめんてかかる。

語句 意味
名詞
格助詞
名詞(かぶとの左右や後ろに垂れた部分を指す)
格助詞
かたぶけ、 カ行下二段活用動詞「かたぶく」(傾ける)連用形
太刀 名詞
格助詞
抜い カ行四段活用動詞「抜く」連用形「抜き」のイ音便
て、 接続助詞
一面に 副詞(一斉に)
討つ タ行四段活用動詞「討つ」連用形「討ち」の促音便
接続助詞
かかる。 ラ行四段活用動詞「かかる」(襲いかかる)終止形

【訳】かぶとの錣を傾けて、太刀を抜いて一斉に討って襲いかかる。

 

甲の錣で首を守りながら前傾姿勢で、一斉に能登殿に討って襲いかかります。

素手の能登殿一人に対して、大男三人が刀を持って一斉にとは、卑怯ではないですか?

 

能登殿のとどのともさわたまず、さきすすんだる安芸あきの太郎たろう郎等ろうどうを、

語句 意味
能登殿 名詞
ちつとも 副詞(少しも)
騒ぎ ガ行四段活用動詞「騒ぐ」(動揺する)連用形
給は ハ行四段活用補助動詞「給ふ」未然形【尊敬】作者→能登殿への敬意
ず、 打消の助動詞「ず」連用形
真つ先 名詞(一番先)
格助詞
進ん マ行四段活用動詞「進む」連用形「進み」の撥音便
だる 完了の助動詞「たり」連体形
安芸太郎 名詞
格助詞
郎等 名詞(家来)
を、 格助詞

【訳】能登殿は少しも動揺されることなく、いちばん先に進んだ安芸太郎の家来を、

 

「進んだる」の元の形は「進みたる」です。
「進み」が撥音便になることで、たるも濁っています。

 

 

すそせて、うみへどうどたま

語句 意味
名詞
格助詞
合はせ サ行下二段活用動詞「合はす」連用形
て、 接続助詞
名詞
格助詞
どうど 副詞(どぶんと)
蹴入れ ラ行下二段活用動詞「蹴入る」(蹴り入れる)終止形
給ふ。 ハ行四段活用補助動詞「給ふ」終止形【尊敬】作者→能登殿への敬意

【訳】裾を合わせて、海へどぶんと蹴り入れなさる。

 

まずは安芸太郎の家来が、あっさり海へ蹴り落とされましたね!

裾を合わせる…接近して戦ったということを表している

 

 

つづいて安芸あきの太郎たろうを、弓手ゆんでわきはさみ、

語句 意味
続い カ行四段活用動詞「続く」連用形「続き」のイ音便
接続助詞
寄る ラ行四段活用動詞「寄る」(近寄る)連体形
安芸太郎 名詞
を、 格助詞
弓手 名詞(弓を持つ手…左手を指す)
格助詞
名詞
格助詞
取つ ラ行四段活用動詞「取る」(つかまえる)連用形「取り」の促音便
接続助詞
挟み、 マ行四段活用動詞「挟む」連用形

【訳】続いて近寄る安芸太郎を、左手の脇に捕まえて挟み、

 

おとと次郎じろうをば馬手めてわきにかいはさみ、ひとめて、

語句 意味
名詞
格助詞
次郎 名詞
格助詞
係助詞
馬手 名詞(馬に乗る時に手綱を持つ手…右手を指す)
格助詞
名詞
格助詞
かい挟み、 マ行四段活用動詞「かい挟む」(抱えるように挟む)連用形
ひと絞め 名詞(一回絞めること)
絞め マ行下二段活用動詞「絞む」連用形
て、 接続助詞

【訳】弟の次郎を右手の脇に抱えるように挟み、一回絞めあげて、

 

「いざうれ、さらばおのれら死出しでやまともせよ。」

語句 意味
「いざ 感動詞(さあ)
うれ、 代名詞(お前たち)
さらば 接続助詞(それでは)
おのれら 代名詞(お前たち)
死出 名詞
格助詞
名詞
格助詞
名詞
せよ。」 サ行変格活用動詞「す」命令形

【訳】「さあお前たち、それではお前らが死出の山(を越える旅)の供をしろ。」

死出の山…三途の川のようなもの

 

とて、生年しょうねん二十六にじゅうろくにてうみへつとぞたも

語句 意味
とて、 格助詞
生年 名詞(年齢。)
二十六 名詞
にて 格助詞
名詞
格助詞
つつと 副詞(さっと)
係助詞 ※結び:給ふ
入り ラ行四段活用動詞「入る」連用形
給ふ。 ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連体形【係り結び】

【訳】と言って、26歳で海へさっとお入りになった。

 

能登殿は安芸太郎とその弟の次郎を両脇に抱えて、海に飛び込みました。

その人たちを道連れにして、自害したということですか…

 

新中納言しんぢゅうなごん、「るべきほどのことはつ。いま自害じがいせん。」

語句 意味
新中納言、 名詞(人名。平知盛)
「見る マ行上一段活用動詞「見る」終止形
べき 当然の助動詞「べし」連体形
ほど 名詞
格助詞
こと 名詞
係助詞
マ行上一段活用動詞「見る」連用形
つ。 完了の助動詞「つ」終止形
名詞
係助詞
自害 名詞
サ行変格活用動詞「す」未然形
ん。」 意志の助動詞「ん」終止形

【訳】新中納言は、「見るべきことは見た。今は自害しよう。」

これで平家一門が全て尽きたことを見届けて、新中納言は思い残すことがないと命を絶つことにしました。

 

とて、めのと伊賀いがの平内へいない左衛門ざえもん家長いえながして、

語句 意味
とて、 格助詞
めのと子 名詞(乳母子。乳兄弟のこと)
格助詞
伊賀平内左衛門家長 名詞(人名。新中納言の乳兄弟)
格助詞
召し サ行四段活用動詞「召す」(お呼びになる)連用形【尊敬】作者→新中納言への敬意
て、 接続助詞

【訳】と言って、乳母子の伊賀平内左衛門家長をお呼びになって、

 

「いかに、約束やくそくたがまじきか。」とのたまば、

語句 意味
「いかに、 感動詞(おい)
約束 名詞
係助詞
違ふ ハ行四段活用動詞「違ふ」(背く)終止形
まじき 打消意志の助動詞「まじ」連体形
か。」 係助詞【疑問】
格助詞
のたまへ ハ行四段活用動詞「のたまふ」(おっしゃる)已然形【尊敬】作者→新中納言への敬意
ば、 接続助詞

【訳】「おい、約束に背くつもりはないだろうな。」とおっしゃると、

 

子細しさいにやおよびそうろ。」と中納言ちゅうなごんよろい二領にりょうたてまつり、

語句 意味
「子細 名詞
格助詞
係助詞【反語】※結び:候ふ
及び バ行四段活用動詞「及ぶ」連用形
候ふ。」 ハ行四段活用補助動詞「候ふ」連体形【丁寧】家長→新中納言への敬意
【係り結び】
格助詞
中納言 名詞(人名。新中納言を指す)
格助詞
名詞
二領 名詞(一領…鎧などのひとそろい)
着せ サ行下二段活用動詞「着す」(着せる)連用形
奉り、 ラ行四段活用補助動詞「奉る」連用形【謙譲】作者→新中納言への敬意

【訳】「とやかく言うことがありましょうか、いやありません。」と中納言に鎧を二領を着せ申し上げ、

子細に及ぶ…とやかく言う

 

鎧二領を着せるというのは、どういうことなのでしょうか?

鎧を二枚重ねて着た、入水の際に海に沈みやすくするためです。
もしも浮き上がってしまったら、源氏軍に弓で攻撃されてしまうことになります…

 

わがよろい二領にりょうて、んでうみへぞりにける。

語句 意味
代名詞
格助詞
名詞
係助詞
名詞
二領 名詞
カ行上一段活用動詞「着る」連用形
て、 接続助詞
名詞
格助詞
取り組ん マ行四段活用動詞「取り組む」(取り合う)連用形「取り組み」の撥音便
接続助詞
名詞
格助詞
係助詞【強調】※結び:ける
入り ラ行四段活用動詞「入る」連用形
完了の助動詞「ぬ」連用形
ける。 過去の助動詞「けり」連体形【係り結び】

【訳】自分自身も鎧を二領着て、手を取り合って海に入ってしまった。

 

これをて、さぶらいども二十にじゅうにんおくれたてまつらじと、

語句 意味
これ 代名詞
格助詞
マ行上一段活用動詞「見る」連用形
て、 接続助詞
侍ども 名詞(武士たち)
二十余人 名詞(20人あまり)
おくれ ラ行下二段活用動詞「おくる」連用形
奉ら ラ行四段活用補助動詞「奉る」未然形【謙譲】作者→新中納言への敬意
打消意志の助動詞「じ」終止形
と、 格助詞

【訳】これを見て、武士たち20人あまりが遅れ申し上げまいと、

 

んで、一所いっしょしずみけり。

語句 意味
名詞
格助詞
名詞
格助詞
取り組ん マ行四段活用動詞「取り組む」連用形「取り組み」のイ音便
で、 接続助詞
一所 名詞(同じ一つの場所)
格助詞
沈み マ行四段活用動詞「沈む」連用形
けり。 過去の助動詞「けり」終止形

【訳】手に手を取り合って、同じ一つの場所に沈んだ。

 

そのなかに、越中えっちゅう次郎じろう兵衛びょうえ上総かずさの五郎ごろう兵衛びょうえ悪七あくしち兵衛びょうえ飛騨ひだの四郎しろう兵衛びょうえは、なんとしてかのがれたりけん、そこをもまたちにけり。

語句 意味
代名詞
格助詞
名詞
に、 格助詞
越中次郎兵衛・ 名詞(たいらの盛嗣もりつぐの別名。平氏の武士。)
上総五郎兵衛・ 名詞(藤原ふじわらの忠光ただみつの別名。景清の兄。平家の侍大将)
悪七兵衛・ 名詞(藤原ふじわらの景清かげきよの別名。平家に仕えて戦った。「悪」は悪党と同じくらい勇ましくてとても強いことを指す。)
飛騨四郎兵衛 名詞(藤原ふじわらの景俊かげとしの別名)
は、 係助詞
何と 副詞(どのように)
サ行変格活用動詞「す」連用形
接続助詞
係助詞【疑問】※結び:けん
逃れ ラ行下二段活用動詞「逃る」連用形
たり 完了の助動詞「たり」連用形
けん、 過去推量の助動詞「けん」連体形【係り結び】
そこ 代名詞
格助詞
係助詞
また 副詞
落ち タ行上一段活用動詞「落つ」(逃げ落ちる)連用形
完了の助動詞「ぬ」連用形
けり。 過去の助動詞「けり」終止形

【訳】その中で越中次郎兵衛・上総五郎兵衛・悪七兵衛・飛騨四郎兵衛は、どのようにして逃れたのだろうか、そこ(壇ノ浦)もまた逃げ落ちてしまった。

急に脈絡なく、この四人が出てきた感じがしますが。
どういうことなのでしょうか?

 

壇ノ浦の戦いでは、

① 入水という形で自害した者(能登殿や新中納言など)

② 生け捕りにされた者

③ 逃げて行方をくらました者
がいました。
ここで書かれた四人は③ということです。
戦場から姿を消し、逃げ落ちたのです。

もともと平家は一の谷、屋島、そして壇ノ浦と落ちてきたのです。
だから「そこをも」と言っています。

また天皇が入水し、平家が滅亡したにも関わらず、逃げ落ちるというのは名声を失うことを指しています。

敵である源氏の強者を道連れに入水した能登殿とは、対照的ですね。

 

海上かいしょうには赤旗あかはた赤印あかじるして、かなぐりてたりければ、

語句 意味
海上 名詞
格助詞
係助詞
赤旗、赤印 名詞(平家の赤い旗、鎧やかぶとにつけた赤い目印のこと)
投げ捨て、 タ行下二段活用動詞「投げ捨つ」連用形
かなぐり捨て タ行下二段活用動詞「かなぐり捨つ」(乱暴に放り去る)連用形
たり 完了の助動詞「たり」連用形
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ば、 接続助詞

【訳】海の上には平家の赤旗、赤印が投げ捨て、乱暴に放り去ってあったので、

 

竜田たつたがわ紅葉もみじあらしらしたるがごとし。

語句 意味
竜田川 名詞(現在の奈良県北西部を流れる川)
格助詞
紅葉葉 名詞(紅葉の葉)
格助詞
名詞
格助詞
吹き散らし サ行四段活用動詞「吹き散らす」連用形
たる 完了の助動詞「たり」連体形
格助詞
ごとし。 比況の助動詞「ごとし」終止形

【訳】竜田川の紅葉の葉を嵐が吹き散らしたようだ。

 

みぎわする白波しらなみも、薄紅うすぐれないにぞなりにける。

語句 意味
名詞(水際)
格助詞
寄する サ行下二段活用動詞「寄す」(寄せる)連体形
白波 名詞
も、 係助詞
薄紅 名詞
格助詞
係助詞【強調】※結び:ける
なり ラ行四段活用動詞「なる」連用形
完了の助動詞「ぬ」連用形
ける。 過去の助動詞「けり」連体形【係り結び】

【訳】水際に寄せる白波も、薄紅色になってしまった。

 

ぬしもなきむなしきふねしおかれ、かぜしたがて、

語句 意味
名詞(主人)
係助詞
なき ク活用の形容詞「なし」連体形
むなしき シク活用の形容詞「むなし」(からっぽだ)連体形
名詞
係助詞
名詞
格助詞
引か カ行四段活用動詞「引く」未然形
れ、 受身の助動詞「る」連用形
名詞
格助詞
従つ ハ行四段活用動詞「従ふ」連用形「従ひ」の促音便
て、 接続助詞

【訳】主人がないからっぽの舟は潮に引かれ、風(が吹くの)に従って、

 

いづくをすともなくられくこそかなしけれ。

語句 意味
いづく 代名詞(どこ)
格助詞
指す サ行四段活用動詞「指す」(目指す)終止形
格助詞
係助詞
なく ク活用の形容詞「なし」連用形
揺ら ラ行四段活用動詞「揺る」(揺られる)未然形
受身の助動詞「る」連用形
行く カ行四段活用動詞「行く」連用形
こそ 係助詞【強調】※結び:悲しけれ
悲しけれ。 シク活用の形容詞「悲し」已然形【係り結び】

【訳】どこを目指すともなく揺られていくことは悲しいものだ。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は平家物語より「壇ノ浦の戦い能登殿の最期②」を解説しました。

能登殿の最期の戦いは、さらに勇ましく躍動感あふれる描写で鬼気迫るものがありました。
能登殿の入水後に全てを見届けた新中納言があとに続き、その後の海はなんとも悲しいものでした。
鮮やかな赤色と、主人のいない船が揺られる様子の対比がより一層悲しさを感じさせるのではないでしょうか。

この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

自分の生徒には直接伝えられるけど、
聞きたくても聞けない…などと困っている方にも届けたくて、ブログを始めました。

≫詳しいプロフィールはこちら

あずきをフォローする
古文
あずきをフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました