十八史略より「燕雀安知鴻鵠之志哉(燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや)」について見ていきます。
この記事では
・書き下し文(読み仮名付き)
・語句の意味/解説
・現代語訳
以上の内容について順番に説明していきます。
「燕雀安知鴻鵠之志哉(燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや)」現代語訳・解説
内容(白文・書き下し文・現代語訳・語句解説)
① 陽城人陳勝、字渉。
陽城の人陳勝、字は渉。
語句 | 意味/解説 |
陽城 | 地名。現在の河南省鄭州市を指す。 |
陳勝 | 人名。字は渉。農民を率いて挙兵した。 |
【訳】陽城の人で陳勝は、字を渉と言う。
② 少与人傭耕。
少くして人と傭耕す。
語句 | 意味/解説 |
少くして | 若い時に、幼い時に |
傭耕す | 人にやとわれて田畑を耕す |
【訳】若い時は人に雇われて耕作していた。
③ 輟耕之隴上。
耕を輟め隴上に之く。
語句 | 意味/解説 |
耕 | 耕作する |
輟め | やめる、手を休める |
隴上 | 畑の中の小高い所 |
之く | 行く |
【訳】(陳勝はある時)耕作する手を休めて畑の中の小高い所へ行った。
④ 悵然久之曰、「苟富貴無相忘。」
悵然たること之を久しくして曰はく、「苟くも富貴となるも相忘るること無からん。」と。
語句 | 意味/解説 |
悵然 | 嘆く様子 |
之 | 「悵然たること」を指す |
久しくして | 長い時間が経って |
苟くも~ | 【仮定】もし~としても |
富貴 | 金持ちで身分が高いこと |
相 | 仲間、みんな |
【訳】長い時間嘆いて言うことには、「もし私が金持ちで身分が高くなってもみんなのことは忘れないようにしよう。」
陳勝は、自分が人に雇われて働かなくてはならないことを嘆いているようですね。
⑤ 傭者笑而曰、「若為傭耕。何富貴也。」
傭者笑ひて曰はく、「若傭耕を為す。何ぞ富貴とならんや。」と。
語句 | 意味/解説 |
傭者 | 雇われて働く人。ここでは陳勝と共に働く仲間を指す。 |
若 | おまえ |
何~(也)や | 【反語】どうして~か、いや~ない。 |
【訳】雇われている仲間が笑って言うことには、「おまえは雇われて耕作している。どうして(おまえが)金持ちで身分の高い人になるだろうか、いやならない。」と。
「傭者」は「雇い主」と「雇われた人」という相反する意味がありますが、ここでは陳勝と同じ「雇われた人」として訳をしました。
⑥ 勝大息曰、「嗟呼、燕雀安知鴻鵠之志哉。」
勝大息して曰はく、「嗟呼、燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや。」と。
語句 | 意味/解説 |
勝 | 陳勝のこと。 |
大息 | ため息をつく |
燕雀 | ツバメとスズメのような小鳥。度量の小さい人物を指す。 |
安くんぞ~(哉)や | 【反語】どうして~だろうか、いや~ない。 |
鴻鵠 | オオトリやクグイのような大きな鳥。偉大な人物を指す。 |
知る | 理解する |
【訳】陳勝がため息をついて言うことには、「ああ、ツバメやスズメのような小鳥にどうして大鳥の志が理解できるだろうか、いや理解できない。」と。
陳勝は自分のことを「鴻鵠」とし、自分の大きな志を理解してくれない雇われ仲間たちを「燕雀」と表現したのでした。
陳勝は本気で「富貴」になるつもりで言ったのに、「俺らと同じ雇われの身で何を言ってるんだよ」と笑われたことに「はぁ~、こいつら何もわかってないな」って感じでため息をついた感じですね。
⑦ 至是与呉広起兵于蘄。
是に至り呉広と兵を蘄に起こす。
語句 | 意味/解説 |
是に至り | その後 |
呉広 | 人名。 |
蘄 | 地名。現在の安徽省宿州市 |
起こす | 挙兵する |
【訳】その後呉広と蘄で挙兵した。
⑧ 時発閭左戌漁陽。
時に閭左を発して漁陽を戌らしむ。
語句 | 意味/解説 |
時に | その時 |
閭左 | 秦の門の左側に貧民を住まわせていた。労働や税金を免除された。 |
発して | 徴発して ※徴発…強制的に兵士として召集すること |
漁陽 | 地名。匈奴の国に隣接している地域。 |
戌る | 国境を守る |
しむ | 【使役】~させる |
【訳】その時閭左を徴発して漁陽を守らせた。
⑨ 勝・広為屯長。
勝・広屯長と為る。
語句 | 意味/解説 |
勝 | 人名。陳勝のこと。 |
広 | 人名。呉広のこと。 |
屯長 | 小隊長 |
【訳】陳勝と呉広は小隊長となった。
陳勝と呉広は閭左の長として、漁陽に向かっていました。
⑩ 会大雨、道不通。
大雨に会ひて、道通ぜず。
語句 | 意味/解説 |
会ひて | 遭う |
通ぜず | 通じていない |
【訳】大雨に遭って、道が通れなかった。
漁陽に向かう途中で大雨に遭い、道が水没してしまいました。
⑪ 乃召徒属曰、「公等失期。法当斬。
乃ち徒属を召して曰はく、「公等期を失す。法斬に当たる。
語句 | 意味/解説 |
乃ち | そこで |
徒属 | 部下 |
召して | 呼び寄せる |
公等 | あなたがた、諸君 |
期を失す | 期日に遅れる |
法 | 法律 |
斬 | 斬刑、死刑。 |
当たる | 相当する |
【訳】そこで部下を呼び寄せて言うことには、「諸君は期日に遅れる。法では斬刑に相当する。
雨により道が通れなくなったため、期日までに入陣するのは無理だと判断したんですね。
決められた日までに漁陽に到着しなければ、斬首刑にされてしまうのです。
⑫ 壮士不死則已。
壮士死せずんば則ち已む。
語句 | 意味/解説 |
壮士 | 勇壮な男 |
Aば則ちB | 【仮定】Aならば、その時にはB。 |
已む | 止める |
【訳】勇壮な男が命を捨てる覚悟がないならばそれまでだ。
直訳すると…
「勇壮な男として死ななければ、その時にはやめる。」となります。
死ぬのが怖いのならばやめるが…ということです。
⑬ 死則挙大名。
死せば則ち大名を挙げんのみ。
語句 | 意味/解説 |
大名 | 大きな名声、名誉 |
挙げんのみ | (名を)挙げる |
【訳】命を捨てる覚悟があるならばその時には大きな名声を挙げるしかない。
「命を捨てる覚悟があるならば、反乱を起こして名声を手に入れようではないか!」と訴えている感じですね!
⑭ 王侯将相、寧有種乎。」
王侯将相、寧くんぞ種有らんや。」と。
語句 | 意味/解説 |
王侯将相 | 王、諸侯、将軍、宰相を指す。身分が高い人たち。 |
寧くんぞ~(乎)や | 【反語】どうして~か、いや~ない。 |
種 | 血統、家柄 |
【訳】王、諸侯、将軍、宰相になるのに、どうして家柄や血統が(関係)あるだろうか、いや(関係)ない。」と。
さらに、「家柄や血筋は関係ない!貧しい農民ではあるが名前をあげて将軍などになれるチャンスがある」と言っています。
⑮ 衆皆従之。
衆皆之に従ふ。
語句 | 意味/解説 |
衆 | 群衆。ここでは陳勝と呉広についていた閭左の人たちを指す。 |
之 | 陳勝と呉広を指す |
【訳】仲間たちはみなこれに従った。
これを聞いて、みな陳勝の言葉に従ったのでした。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
十八史略から「燕雀安知鴻鵠之志哉(燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや)」の解説をしました。
今回のお話では、2つの名言がありました。
→小人物は偉大な人物の考える事は理解できない
陳勝は貧しい農民であっても大きな野望を持ち、高らかに宣言しました。
→家柄や血統でなく、誰にでも高貴な身分につくチャンスはある。
こちらは、実力主義の世であることを示した言葉ですね。
農民であっても王の言いなりになるのではなく、自分で考えて行動しようと訴えたのです。
反乱軍のスローガンとも言える言葉でした。
この反乱は後に「陳勝・呉広の乱」と呼ばれます。
半年ぐらいで秦に鎮圧されてしまいますが、これによって秦は弱体化しました。
陳勝は、雇われの貧しい農民から、一国の王となりました。
最初に陳勝は「金持ちになって身分が高くなっても、みんなのことは忘れないぞ」と言っていました。
しかし、反乱軍の王となり勢力が大きくなるにつれて、かつての仲間を無視するようになります。
その結果、部下に命を奪われてしまいました。
陳勝は勇敢で行動力のある人物でしたが、人間的に少し至らない点があったと思われます。
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