父の大納言は亡くなり、母である北の方は、古風な人で由緒ある家柄で、
※いにしへの人…古風な人
※よしある…由緒ある家柄
両親がそろっていて、今のところ世間の評判も盛んに時めいているお方たちにも大して劣ることなく、
※うち具し…サ行変格活用動詞「うち具す」(十分に整っている) 連用形
※さしあたりて…今のところ
※世のおぼえ…世間の評判
※はなやかなる…ナリ活用形容動詞「はなやかなり」(盛んに時めいている) 連体形
「うち具す」は「十分に整っている」ですが、
ここでは両親がそろっているという意味で解釈しました。
他の女御、更衣たちのことを言っています。
どんな儀式をもとりおこないなさるけれども、
※何事…どれもこれも
※もてなし…サ行四段活用動詞「もてなす」(とりおこなう) 連用形
※給ひ…「給ふ」連用形 尊敬語(作者→北の方への敬意)
この部分の主語は「北の方」であることをおさえましょう。
特別に取り上げてしっかりしている後見人がいるわけではなかったので、特別な出来事がある時は、やはり頼りにするところがなく不安である。
※取り立て…タ行下二段動詞「取り立つ」(特別に取り上げる) 連用形
※はかばかしき…シク活用形容詞「はかばかし」(しっかりしている)
※後ろ見…経済的・政治的な支援者、後見人
※拠りどころ…頼りにするところ
冒頭部分で桐壺の更衣のことを「いとやむごとなき際にはあらぬ」とありましたが、当時の女性は父親の役職に応じて宮中の役職が決まり、また夫や父親の権力が大切だったのです。
桐壺の更衣はいくら母親である北の方が良家の出身とは言え、父親は亡くなっており、後ろ盾としては頼りなく、肩身の狭い思いをしていたことがわかります。
前世からの御宿命が深かったのでしょうか、世にまたとなくすぐれて清らかで美しい、玉のように光り輝く皇子までがお生まれになった。
※前の世…前世
※契り…宿命
※けむ…過去推量の助動詞「けむ」の連体形(係助詞「や」を受けて結びが連体形)
※世になく…世にまたとなくすぐれている
※給ひ…尊敬語「給ふ」連用形(作者→光源氏への敬意)
※ぬ…完了の助動詞「ぬ」終止形
(帝は)「早く(光源氏を見たい)」と待ち遠しくじれったくお思いになって、急いで(光源氏を)参上させて御覧になると、
※心もとながら…ラ行四段動詞「心もとながる」(待ち遠しくじれったく思う)未然形
※せ…尊敬の助動詞「す」連用形(作者→帝への敬意)
※給ひ…尊敬語「給ふ」連用形(作者→帝への敬意)せ給ひ…二重敬語
※す…使役の助動詞「す」連用形
当然ですが、帝はどんなに早く光源氏を見たいとは思っても、
自分からは見に行きません。
光源氏を(連れて)参上させるのです。
めったにないくらいすばらしい皇子のご様子である。
※めづらかなる…ナリ活用形容動詞「めづらかなり」(めったにない様子) 連体形
第一皇子は、右大臣の女御の息子で、後ろ盾となる人がしっかりしていて、
※腹…その女性のから生まれたこと、生まれた人
※寄せ…後ろ盾となって世話をする人
※重く…ク活用形容詞「重し」(しっかりしている) 連用形
弘徽殿の女御を指しています。
この皇子は後の朱雀帝として描かれています。
疑いもなく後退しとして、世間では大切に世話をし申し上げるけれども、
※儲けの君…皇太子
※もてかしづき…カ行四段活用「もてかしづく」(大切に世話をする) 連用形
※聞こゆれ…ヤ行下二段活用補助動詞「聞こゆ」(お~申し上げる) 已然形
謙譲語(作者→第一皇子への敬意)
※ど…逆接の接続助詞
この(光源氏の)つややかなお美しさにはお並びになることがなかったので、
※にほひ…つややかな美しさ
※給ふ…尊敬語「給ふ」終止形(作者→帝への敬意)
※べく…可能の助動詞「べし」連用形(終止形に接続する)
※ざり…打消の助動詞「ず」連用形
※けれ…過去の助動詞「けり」已然形
※ば…原因理由の接続助詞
(帝は第一皇子に対して)一般的に大切だというご寵愛で、この君(光源氏)のことは自分の秘蔵っ子とお思いになって大切にお育てになることこの上ない。
※やむごとなき…ク活用形容詞「やむごとなし」(大切だ) 連体形
※私者…自分の所有物として大切にする
※思ほし…尊敬語「思ほす」連用形(作者→帝への敬意)
※かしづき…カ行四段動詞「かしづく」(大切に育てる) 連用形
※給ふ…尊敬語「給ふ」連体形(作者→帝への敬意)
※限りなし…ク活用形容詞「限りなし」(この上ない) 終止形
一の皇子(第一皇子) … 次の帝になる存在として一般的に大切にしている
玉の男皇子(光源氏) … 自分のかわいい息子としてとても大切にしている
まとめ
いかがでしたか?
本来、喜ばしいはずの帝の寵愛が辛くもあった桐壺の更衣。
その理由は自分の身分、そして父を亡くし後ろ盾が弱いことが原因でした。
「大した身分でもないのに帝に可愛がられて、おもしろくないわ!」と同僚に疎まれ、それに反してますます深くなっていく帝の寵愛…。
きまりが悪い思いもすることになりました。
桐壺のことを大切に思うならば、まわりの女御たちの嫉妬による攻撃もなんとかしてあげなよ!と思ってしまうのは私だけでしょうか?
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