竹取物語「火鼠の皮衣」現代語訳・解説 皮衣は本物?頑張った阿倍大臣の結末は!?

古文

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今回は竹取物語から「火鼠ひねずみ皮衣かわぎぬ」について現代語訳・解説をしていきます。

このお話はかぐや姫へ求婚したうちの一人である阿倍大臣が、かぐや姫に出された「火鼠の皮衣を持ってくること」という難題に挑み、見つけ出してかぐや姫のもとに持ってきた場面です。
「美しい衣だけど、本物とは言い切れないよね」というかぐや姫と「この世のものとも思えぬ衣は、本物だと思いなさいよ。阿倍大臣を困らせるんじゃないよ」と諭す竹取の翁。
さて結末はいかに!?

「火鼠の皮衣」現代語訳・解説

では早速、内容を見ていきましょう。
文法や単語についても丁寧に解説をしていきます。
敬語表現も多く出てきますので、誰の誰に向けた敬意なのかについてもおさえていきましょう。

本文と現代語訳(解説つき)

本文(漢字のふりがなは現代仮名遣いで表記)
現代語訳
※青…単語、文法
※赤…敬語の解説

以下本文と現代語訳、そして解説をしていきます。

いえかどに持ていたりて、てり。
(阿倍大臣はかぐや姫の)家の門に(火鼠の皮衣を)持って行き、立っていた。

最初から主語が省略されていますね。
まずは阿倍大臣が、かぐや姫に依頼された火鼠の皮衣を持って登場します。

竹取たけとりて、れて、かぐやひめす。
竹取の翁が出てきて、(その火鼠の皮衣を)受け取って、かぐや姫に見せた。

※見す…サ行下二段活用動詞「見す」(見せる、見させる)の終止形

かぐやひめの、皮衣かわぎぬはく、「うるはしきかわ んめり。わきてまことのかわならむともらず。」
かぐや姫が、(火鼠の)皮衣を見て言うことには、「立派な皮であるように見える。とりわけ本当の皮衣かどうかは分からない。」

※うるはしき…シク活用の形容詞「うるわし」(美しい、立派だ)の連体形
※な…断定の助動詞「なり」の連体形 撥音便発音無表記
※めり…推定の助動詞「めり」の終止形(~であるようだ、~であるように見える)
※わきて…副詞(とりわけ、特に)
※なら…断定の助動詞「なり」の未然形
※む…推定の助動詞「む」の終止形(~だろう、~であろう)

かぐや姫は意地悪ですね~

そもそもかぐや姫は結婚をしたくないので、彼らに無理難題を出したわけですから。
ここでは「う~ん、確かに立派な皮衣だけど、本物っていうこれといった決めてもないわね」という感じです。

竹取たけとりこたへてはく、「とまれかくまれ、まづしょうたてまつらむ。

竹取の翁が(かぐや姫に対して)答えて言うことには、「ともかく、まずは(阿倍大臣を)招き入れ申し上げよう。

※とまれかくまれ…「ともあれかくもあれ」の音便化(どうであろうと、ともかく)
※奉ら…ラ行四段活用の補助動詞「奉る」の未然形
 謙譲語(竹取の翁→阿倍大臣への敬意)
※む…意志(~う、~よう)の助動詞「む」の終止形
(~し申し上げよう)

なかえぬ皮衣かわぎぬのさまなれば、これをとおもたまひね。

この世で見ない皮衣の様子なので、これを(本物の火鼠の皮衣だ)とお思いなさい。

※給ひ…ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の連用形
 尊敬語(竹取の翁→かぐや姫への敬意)

※ね…強意の助動詞「ぬ」の命令形

ここでは「思い給ひね」の「ね」は強意(きっと~、~てしまう)ですが、訳としては省略し、命令形である意味だけを取り上げて「お思いなさい」としています。

ひといたくわびさせたてまつらせたま。」とひて、びすゑたてまつれり。

人を困らせ申し上げなさるな。」と言って、呼び寄せて座らせ申し上げる。

※な~そ…禁止(~するな)
※わびさせ…バ行上二段活用動詞「わぶ」(困る)の未然形+使役の助動詞「す」の連用形
※奉ら…ラ行四段活用の補助動詞「奉る」の未然形
 謙譲語(竹取の翁→阿倍大臣への敬意)

※せ…尊敬の助動詞「す」の連用形
※給ひ…ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の連用形
 尊敬語(竹取の翁→かぐや姫への敬意)
※奉ら…ラ行四段活用の補助動詞「奉る」の已然形
 尊敬語(竹取の翁→阿倍大臣への敬意)

※り…完了の助動詞「り」の終止形
かくびすゑて、このたびかならずずあはむとおうなこころにもおもひをり。
このように(阿倍大臣を)呼び入れて座らせたので、「今度は必ず結婚するだろう」と嫗も心に思い願っている。
※あは…ハ行四段活用動詞「あふ」(結婚する)未然形
※む…推量の助動詞「む」終止形
※思ひ…ハ行四段活用動詞「思ふ」(思い願う、望む)連用形
※をり…ラ行変格活用補助動詞「をり」終止形 

「嫗も」と言っていることから、
翁もかぐや姫が今回こそは結婚するだろうと願っているんですね。

次の翁の言葉からその気持ちが分かります。

このおきなは、かぐやひめのやもめなるをなげかしければ、

この翁は、かぐや姫が独身であるのを嘆かわしいと思うので、

※やもめ…独身
※なる…断定の助動詞「なり」の連体形
※嘆かしけれ…シク活用の形容詞「嘆かし」(嘆かわしい、憂鬱である)の已然形

已然形+ば…順接確定条件
①原因・理由(~ので、~から)
②偶然条件(~と、~ところ)
③恒常条件(~といつも)
※ここでは①原因・理由を採用しています。
よきひとにあはせむとおもひはかれど、

良い人と結婚させようと考えをめぐらせるけれども、

※あわせ…サ行下二段活用動詞「あはす」(結婚させる)の未然形
※む…意志の助動詞「む」の終止形
※思ひはかれ…ラ行四段活用動詞「思ひはかる」(深く考える、考えをめぐらせる)の已然形

よき人とは?
①立派②美しい③人柄が良い④健康状態が良い⑤家柄が良い(裕福である)⑤聡明である、情緒を理解する  と多様な意味があります。

せちに、「いな。」とふことなれば、

ひたすらに、「いやだ」と言うことであるので、

※せちに…ナリ活用の形容動詞「せちなり」(ひたすらに、しきりに)の連用形
※否…いやだ、いいえ

いねば、ことわりなり。

無理強いすることができないので、当然である。

なにが「理なり」なのでしょうか?

「かぐや姫の結婚を強く願うこと」を指しています。
結婚について翁が言っても「いやだ」と言うかぐや姫に無理強いができないので、
かぐや姫の課題に挑戦した阿倍大臣が本物の火鼠の皮衣を持ってきて、結婚に至ることを期待しているのです。

※え~ね(打消の助動詞「ず」已然形)…不可能(~することができない)
※強ひ…ハ行上二段動詞「強ふ」(無理強いする)の未然形
※理なり…当然である

かぐやひめおきなはく、「この皮衣かわぎぬは、かむに、けずはこそ、まことならめとおもひて、ひとふことにもけめ。

かぐや姫が、翁に言うことには、「この皮衣は、火で焼いたとして焼けなかったら、本物であると考えて、人の言うことにも負けて従いましょう。

※(焼か)む…仮定(~として)の助動詞「む」の連体形
※こそ~め…係り結び

※負け…カ行下二段動詞「負く」(相手の勢いに負けて従う)の未然形
※め…意志の助動詞「む」の已然形

この「人」と言うのは阿倍大臣のことです。
かぐや姫は「火鼠の皮衣が本物だと証明できたら、阿倍大臣の言う通りに結婚しましょう」と言っています。

になきものなれば、それをまこととうたがひなくおもはむ。』とのたまふもう

『この世にないものだから、それを本物と疑うことなく思いましょう』と(あなたは)おっしゃる。

※なれ…断定の助動詞「なり」の已然形
※む…意志の助動詞「む」の終止形
※のたまふ…「言ふ」の尊敬語(かぐや姫→竹取の翁への敬意)

『世になき物~』は

「世の中にえぬ皮衣のさまなれば、これをとひね。」という翁の言葉を指しています。

なほ、これをきてこころみむ。」とふ。

それでもやはり、これを焼いて試してみましょう。」と言う。

※なほ…そうは言ってもやはり
※試み…マ行上一段動詞「試みる」(試してみる、やってみる)の未然形
※む…意志の助動詞「む」の終止形

おきな、「それ、さもはれたり。」とひて、大臣おとどに、「かくなむもうす。」とふ。

翁は「それはいかにもおっしゃる通りだ。」と言って、阿倍大臣に、「(かぐや姫が)このように申しております。」と言う。

※(言わ)れ…尊敬の助動詞「る」の連用形(竹取の翁→かぐや姫への敬意)
※申す…「言ふ」の謙譲語「申す」の終止形(竹取の翁→阿倍大臣への敬意)

大臣おとどこたへてはく、
「このかわは、唐土もろこしにもなかりけるを、からうろうじてもとたずたるなり。なんうたがひあらむ。」
阿倍大臣が答えて言うことには、「この皮衣は、中国にもなかったものを、やっとのことで探したずねて手に入れたものです。
何の疑いがあるのでしょう。※唐土…中国の古い呼び名
※なかり…ク活用形容詞「なし」連用形
※ける…過去の助動詞「けり」連体形
※からうじて…副詞(やっとのことで、ようやく)
※たる…完了の助動詞「たり」連体形
※なり…断定の助動詞「なり」終止形
※(あら)む…推量の助動詞「む」終止形

 

「さはもうすとも、はやきて見給みたまへ。」とへば、

「そのように(私もかぐや姫に)申し上げましたが、はやく焼いてみていてただけますか。」と(翁が)言うので、

※(見)給へ…ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の命令形
 尊敬語(竹取の翁→阿倍大臣への敬意)

この言葉は翁の言葉として訳をしましたが、
阿倍大臣の言葉という解釈もあるようです。

その場合は
「そうは申し上げても、本物かどうか確かめたいのならば、早く焼いてごらんなさい」という訳でしょうか。
「(見)給へ」の敬意は阿倍大臣から翁へのものですか?

阿倍大臣から翁への敬意を表すのは、他の文にはありません。
やはりここは、翁の言葉と解釈するのが適切だと思います。

なかにうちくべてかせたまふに、めらめらとけぬ。

火の中にくべて焼かせなさると、めらめらと焼けてしまった。

※うち…強調の接頭語(勢いよく)
※くべ…バ行下二段活用動詞「くぶ」(火の中にくべる、焼く)連用形
※せ…使役の助動詞「す」連用形
※給ふ…ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の連体形

 尊敬語(筆者→竹取の翁への敬意)

阿倍大臣が自分で火の中に入れたのではなく、
お供の者に焼かせたということになります。

「せ」も尊敬と捉えて「せ給ふ」で二重敬語だと思っていました。

「せ給ふ」の「せ」は使役の可能性もあると覚えておいてください。
ここでは大臣自らが火の中に皮衣をくべることは、考えにくいです。
「お焼きになる」という表現は適切ではないということになります。

「さればこそ、異物ことものかわなりけり。」とふ。

「だから言ったではないか、(本物の火鼠の皮衣とは)別の皮だった。」と言う。

※さればこそ…ラ行変格活用動詞「さり」已然形+接続助詞「ば」+強意の係助詞「こそ」
(だから言ったではないか。思った通りだ。)
※異物…別のもの
※なり…断定の助動詞「なり」の連用形
※けり…詠嘆の助動詞「けり」の終止形

本物と信じていた皮衣がめらめらと火に焼ける様子を見た阿倍大臣は…続く

この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

自分の生徒には直接伝えられるけど、
聞きたくても聞けない…などと困っている方にも届けたくて、ブログを始めました。

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