十八史略より「完璧」について解説をしていきます。
「完璧」という言葉の意味は、ご存知でしょう。
「完璧」は「一つの欠点もないこと。完全なこと。」を言います。
今回は、その言葉のもとになったお話をご紹介します。
史記の「完璧帰趙」の内容を参考にしながら、補って解説していきます。
この記事では
・白文
・書き下し文(読み仮名付き)
・語句の意味/解説
・現代語訳
以上の内容を順番にお話していきます。
「完璧」書き下し文・現代語訳・解説
白文
① 趙恵文王、嘗得楚和氏璧。
② 秦昭王、請以十五城易之。
③ 欲不与畏秦強、欲与恐見欺。
④ 藺相如曰、「願奉璧往。
⑤ 城不入則臣請、完璧而帰。」
⑥ 既至
⑦ 王無意償城。
⑧ 相如乃紿取璧、怒髪指冠。
⑨ 卻立柱下曰、
⑩ 「臣頭与璧倶砕。」
⑪ 遣従者懐璧間行先帰、身待命於秦。
⑫ 秦昭王賢而帰之。
書き下し文(読み仮名付き)・語句解説・現代語訳
① 趙の恵文王、嘗て楚の和氏の璧を得たり。
語句 | 意味 |
趙 | 国名 |
恵文王 | 人名。趙の第7代君主。 |
嘗て | 昔。以前。 |
楚 | 国名 |
和氏の璧 | 宝玉の原石 ※下記「MEMO」参照 |
得たり | 手に入れた |
【訳】趙の恵文王は、昔楚の(国の宝であった)和氏の璧を手に入れた。
春秋時代に楚の卞加(和氏)という人が、山中で宝玉の原石を手に入れた。
磨けば美しい宝石になるからと王に献上したが、信じてもらえず左足を切断されてしまう。
その次の王にも、嘘つき呼ばわりされて右足を失う。
のちの文王に、やっと真の宝玉であると認められた。
→滅多に手に入らないほどの宝物を指す言葉となる。
② 秦の昭王、十五城を以つて之に易へんことを請ふ。
語句 | 意味 |
秦 | 国名 |
昭王 | 人名。秦の第28代君主。昭襄王のこと。 |
城 | (城壁に囲まれた)街 |
之 | 和氏の璧を指す |
易へん | 交換したい |
請ふ | 願い出る |
【訳】秦の昭王は、十五の街とこれを交換したいと願い出た。
③ 与へざらんと欲すれば、秦の強きを畏れ、与へんと欲すれば、欺かるるを恐る。
語句 | 意味 |
与へ | 与える |
~んと欲す | ~しようとする |
強き | 強さ |
畏れ | 恐れ |
欺かるる | だまされる |
恐る | 心配する |
【訳】(恵文王は秦に和氏の璧を)与えないようにしようとすれば、秦の強さを恐れ、与えようとすればだまされることを心配した。
恵文王は「本当は秦に渡したくないけれど、渡さなければ秦が怒って攻撃してきたら怖いし、渡したら約束を守ってもらえずに、和氏の璧を奪われて終わるのではないか」と危惧しているのですね。
④ 藺相如曰はく、「願はくは、璧を奉じて往かん。
語句 | 意味 |
藺相如 | 人名(趙の政治家。恵文王の家臣。) |
願はくは~ん | 【願望】どうか~させてください |
璧 | 和氏の璧を指す |
奉じて | 謹んで承って |
往か | 行く |
【訳】藺相如が言うことには、「どうか(私に)和氏の璧を謹んで承って(秦の国への使者として)行かせてください。
⑤ 城入らずんば、則ち臣請ふ璧を完うして帰らん。」と。
語句 | 意味 |
ずんば則ち | もし~でなかったら |
臣請ふ~ん | ~することをお願いします→~していいでしょうか |
璧 | 和氏の璧のこと |
完うして | 完全な状態を保つ |
【訳】もし街が手に入らなかったら、私に和氏の璧を完全な状態を保って帰らせてください。」と。
⑥ 既に至る。
語句 | 意味 |
既に(して) | やがて |
至る | 到着した |
【訳】やがて(藺相如は秦に)到着した。
⑦ 秦王城を償ふに意無し。
語句 | 意味 |
秦王 | 秦の王(昭王) |
償ふ | 報酬として与える |
意無し | 意志がなかった |
【訳】秦王は街を報酬として与える意志がなかった。
⑧ 相如乃ち紿きて璧を取り、怒髪冠を指す。
語句 | 意味 |
相如 | 藺相如のこと |
乃ち | そこで |
紿きて | だまして |
取り | 奪い |
怒髪冠を指す | 怒りで逆立った髪の毛が冠を突き上げること。 |
【訳】藺相如はそこで(秦王を)だまして和氏の璧を奪い、怒りで髪の毛が冠を突き上げるほどだった。
ここはかなり省略されていて、意味が分かりにくいですね。
秦王は藺相如が持ってきた和氏の璧を受け取ると、周りにいた侍女や家来たちに見せた。
「わぁ~すごい!」と人々は喜んだ。
その様子に、「秦王には街と交換する気がない」と藺相如は悟る。
「その璧には傷があります。秦王にお教えしましょう。」と嘘をつき、
藺相如は、秦王から和氏の璧を取り返した。
⑨ 柱下に卻立して曰はく、
語句 | 意味 |
柱下 | 柱の下 |
卻立して | 後ろに下がって立つ |
【訳】柱の下まで下がって立って言うことには、
⑩ 「臣が頭は璧と倶に砕けん」と。
語句 | 意味 |
倶に | 一緒に |
【訳】「私の頭はこの和氏の璧と一緒に(柱にぶつけて)砕けるだろう」
めっちゃキレてますね
藺相如は、
「趙では璧を渡すかで揉めた。
議論の結果、秦への敬意を払うために渡すことを決めた。
なのに、璧を手にした後のあんたらの態度はなんだ。
馬鹿にしていますよね?街との交換の話も嘘だと分かった。
私は、璧を取り戻すことにしたのです。
秦王がどうしても私を殺して璧を奪おうとするならば、私の頭は璧とともに柱に打ち付けて粉々になるでしょう。」とにらみつけた。
脅迫ですね…
⑪ 従者をして璧を懐きて間行して先づ帰らしめ、身は命を秦に待つ。
語句 | 意味 |
従者 | お供の者 |
懐きて | 胸に持つ |
間行 | こっそりと隠れて行くこと |
先づ | 先に |
~をして…しめ | 【使役】~に…させて |
身 | 自分自身 |
命 | 命令 |
【訳】お供の者に和氏の璧を胸に持たせてこっそりと隠れて先に行かせて、自分自身は(秦王からの)命令を秦で待った。
⑫ 秦の昭王、賢として之を帰らしむ。
語句 | 意味 |
賢 | 賢い人。優れた人。 |
之 | 藺相如を指す |
しむ | 【使役】~させた |
【訳】秦の昭王は、(藺相如を)優れた人だとして帰らせた。
おとがめなしだったということですね?
藺相如は、こっそり璧を趙へ持ち帰らせたことも秦王に告げる。
「秦王をだました罪で裁かれる覚悟はある。
釜茹でにでもしてくれ!」と言う。
しかし秦王は、「藺相如を殺しても璧が手に入るわけではない。
趙との関係を断つことにもなってしまうので、手厚くもてなして帰らせた方が良い」と指示した。
結局、秦は趙に街を与えず、趙も秦に璧を渡さなかったということですね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は十八史略より「完璧」を解説しました。
藺相如という優れた武将によって、趙は和氏の璧を守ることができました。
藺相如は国を守るためには嘘をついたりと、冷静で巧みな策略家な部分と、それを遂行するためなら死すらもいとわない豪胆な部分がある人物だったようです。
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