今回は服部土芳『三冊子』のについて解説をしていきます。
成立:江戸時代前期
作者:服部 土芳
ジャンル:俳論書
内容: 松尾芭蕉の教えを集めたもの。『白冊子』『赤冊子』『黒冊子」の三部からなる。この話に出てくる「師」とは、松尾芭蕉を指す。服部土芳とは
江戸時代中期の俳人。松尾芭蕉に俳諧を学んだ。芭蕉の弟子の中では、中心的な存在であった。
ここでは、
・現代語訳
・品詞分解
以上の内容を、順番にお話していきます。
「三冊子」現代語訳・品詞分解・解説

読み仮名付き本文・現代語訳・品詞分解
詩歌連俳はともに風雅なり。
漢詩・和歌・連歌・俳諧は(みな)同じように芸術である。
| 詩歌連俳 | 名詞(漢詩・和歌・連歌・俳諧のこと) |
| は | 係助詞 |
| とも | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| 風雅 | 名詞(雅な趣があること。芸術) |
| なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 |
上三つのものには余すところも、その余すところまで俳は至らずといふところなし。
初めの三つのもの(=漢詩・和歌・連歌)では詠み残したところも、その読み残したところまで俳諧は及ばないということはない。
| 上 | 名詞(最初、初め) |
| 三つ | 名詞 ※「上三つ」とは、先の「詩歌連俳」のうちの「詩歌連(漢詩・和歌・連歌)」を指す |
| の | 格助詞 |
| もの | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| は | 係助詞 |
| 余す | サ行四段活用動詞「余す」(取り残す ※ここでは詠み残すという意味)連体形 |
| ところ | 名詞 |
| も、 | 係助詞 |
| そ | 代名詞 |
| の | 格助詞 |
| 余す | サ行四段活用動詞「余す」(取り残す ※ここでは詠み残すという意味)連体形 |
| ところ | 名詞 |
| まで | 副助詞 |
| 俳 | 名詞(俳諧の略) |
| は | 係助詞 |
| 至ら | ラ行四段活用動詞「至る」(及ぶ)未然形 |
| ず | 打消の助動詞「ず」終止形 |
| と | 格助詞 |
| いふ | ハ行四段活用動詞「いふ」連体形 |
| ところ | 名詞 |
| なし。 | ク活用の形容詞「なし」終止形 |
花に鳴く鶯も、「餅に糞する縁の先」と、まだ正月もをかしきこのころを見とめ、
花に鳴く鶯も、「(鶯や)餅に糞する縁の先」と、まだ正月の風情があるこの時期に着目し、
| 花 | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| 鳴く | カ行四段活用動詞「鳴く」連体形 |
| 鶯 | 名詞(春の季語) |
| も、 | 係助詞 |
| 「餅 | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| 糞 | 名詞 |
| する | サ行変格活用動詞「す」連体形 |
| 縁 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 先」 | 名詞 ※縁(の)先…縁側の外の側の端 |
| と、 | 格助詞 |
| まだ | 副詞 |
| 正月 | 名詞(新年を表す季語) |
| も | 係助詞 |
| をかしき | シク活用の形容詞「をかし」(風情がある)連体形 |
| こ | 代名詞 |
| の | 格助詞 |
| ころ | 名詞(時期) |
| を | 格助詞 |
| 見とめ、 | 「見とむ」(着目する)連用形 |
【意味】正月の餅を縁側に干していたところに、鶯がやってきて糞を落としていったのだろう
※「鶯」と言えば、「ホーホケキョ」という鳴き声に注目したり、梅の花と合わせて詠まれるものである。それを日常で目にする一瞬を切り取って、詠みあげるのが俳諧の面白さであるとしている。
また、水にすむ蛙も、古池に「飛び込む水の音」と言い放して、草に荒れたる中より蛙の入る響きに俳諧を聞きつけたり。
また、水に住む蛙も、古池に「飛び込む水の音」と言い切って、草が生い茂って荒れている中から蛙が(池に)入る(水音の)響きに俳諧の趣を聞きつけている。
| また、 | 接続詞(また) |
| 水 | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| すむ | マ行四段活用動詞「すむ」連体形 |
| 蛙 | 名詞 |
| も、 | 係助詞 |
| 古池 | 名詞(古い池) |
| に | 格助詞 |
| 「飛び込む | マ行四段活用動詞「飛び込む」連体形 |
| 水 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 音」 | 名詞 |
| と | 格助詞 |
| 言い放し | サ行四段活用動詞「言い放す」(きっぱりと言う、言い切る)連用形 |
| て、 | 接続助詞 |
| 草 | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| 荒れ | ラ行下二段活用動詞「荒る」(荒れ果てる)連用形 |
| たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
| 中 | 名詞 |
| より | 格助詞 |
| 蛙 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 入る | ラ行四段活用動詞「入る」連体形 |
| 響き | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| 俳諧 | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| 聞きつけ | カ行下二段活用動詞「聞きつく」(聞いて気付く) |
| たり。 | 存続の助動詞「たり」終止形 |
【意味】古池にカエルが飛び込む水の音が聞こえるよ
※「蛙」じたいが、和歌などではあまり詠まれる題材ではなかった。詠まれる場合には、鳴き声に注目されていた。蛙が水に飛び込む音に着目したのは、芭蕉以前にはなかった。

「古池」というところから、静かな感じがします。そこにカエルが飛び込む音が響くことで、より静かさが際立ちますね。

「花に鳴く鶯、水にすむ蛙の声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌を詠まざりける。」という『古今和歌集 仮名序』の「やまと歌は」の一節を受けています。
見るにあり、聞くにあり、作者感ずるや句となるところは、すなはち俳諧の誠なり。
(俳諧は)見ることにあり、聞くことにあり、作者が心を動かされたことがそのまま句となるところが、つまり俳諧の本質である。
| 見る | マ行上一段活用動詞「見る」連体形 |
| に | 格助詞 |
| あり、 | ラ行変格活用動詞「あり」連用形 |
| 聞く | カ行四段活用動詞「聞く」連体形 |
| に | 格助詞 |
| あり、 | ラ行変格活用動詞「あり」連用形 |
| 作者 | 名詞 |
| 感ずる | サ行変格活用動詞「感ず」(強く心が動かされる、感動する)連体形 |
| (こと) | 省略されていると考える |
| や | 係助詞【係】 |
| 句 | 名詞 |
| と | 格助詞 |
| なる | ラ行四段活用動詞「なる」連体形【結】※「ところ」に続くので自然と連体形になっている |
| ところ | 名詞 |
| は、 | 係助詞 |
| すなはち | 接続詞(つまり) |
| 俳諧 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 誠 | 名詞(本質) |
| なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 |

何を言っているのでしょうか…?

これは、作者が見聞きして感動した情景をそのまま句として表現するのが、俳諧の本質であると言っています。
師の風雅に、万代不易あり。一時の変化あり。
師(=松尾芭蕉)の俳諧の道には、万代不易(=永久に変わらないこと)がある。(そして、)一時の変化(=時とともに変化すること)がある。
| 師 | 名詞(先生。ここでは松尾芭蕉を指す) |
| の | 格助詞 |
| 風雅 | 名詞(蕉風俳諧における、俳諧の道。蕉風俳諧とは、芭蕉一門が確立した俳諧の作風のことを言う) |
| に、 | 格助詞 |
| 万代不易 | 名詞(永久に変わらないこと) |
| あり。 | ラ行変格活用動詞「あり」終止形 |
| 一時 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 変化 | 名詞(変わること) |
| あり。 | ラ行変格活用動詞「あり」終止形 |
この二つに極まり、その本一つなり。
(師の俳諧は)この二つ(=万代不易と一時の変化)に行き着き、その二つの根本は一つである。
| こ | 代名詞 |
| の | 格助詞 |
| 二つ | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| 極まり、 | ラ行四段活用動詞「極まる」(達する、行き着く)連用形 |
| そ | 代名詞 |
| の | 格助詞 |
| 本 | 名詞(根本) |
| 一つ | 名詞 |
| なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 |

ちょっと何言ってるか、分かりません…

次の文からその説明に入るので、ひとまず読み進めてみましょう。
その一つといふは風雅の誠なり。
その(根本の)一つというのは風雅の誠(=俳諧の道の真実)である。
| そ | 代名詞 |
| の | 格助詞 |
| 一つ | 名詞 |
| と | 格助詞 |
| いふ | ハ行四段活用動詞「いふ」連体形 |
| は | 係助詞 |
| 風雅 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 誠 | 名詞(真実) |
| なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 |
不易を知らざれば、実に知れるにあらず。
不易(というのがどういうことなのか)を理解しなければ、(師の俳諧を)本当に理解しているとは言えない。
| 不易 | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| 知ら | ラ行四段活用動詞「知る」(理解する)未然形 |
| ざれ | 打消の助動詞「ず」已然形 |
| ば、 | 接続助詞 |
| 実に | 副詞(本当に) |
| 知れ | ラ行四段活用動詞「知る」(理解する)已然形 |
| る | 存続の助動詞「り」連体形 |
| に | 断定の助動詞「なり」連用形 |
| あら | ラ行変格活用動詞「あり」未然形 |
| ず。 | 打消の助動詞「ず」終止形 |
不易といふは、新古によらず、変化 流行にもかかはらず、誠によく立ちたる姿なり。
不易というのは、新しいことや古いことに左右されず、時代の変化やそれに伴い句風が変化することにも関係なく、風雅の誠の上に立派に成り立っている表現の仕方のことである。
| 不易 | 名詞 |
| と | 格助詞 |
| いふ | ハ行四段活用動詞「いふ」連体形 |
| は、 | 係助詞 |
| 新古 | 名詞(新しいことと古いこと) |
| に | 格助詞 |
| よら | ラ行四段活用動詞「よる」未然形 |
| ず、 | 打消の助動詞「ず」連用形 |
| 変化 | 名詞(変わること ※ここでは時代の変化を指す) |
| 流行 | 名詞(蕉風俳諧において、句風が時代とともに変化することを言う) |
| に | 格助詞 |
| も | 係助詞 |
| かかはら | ラ行四段活用動詞「かかはる」(関係を持つ)未然形 |
| ず、 | 打消の助動詞「ず」連用形 |
| 誠 | 名詞(真実) |
| に | 格助詞 |
| よく | 副詞(立派に、見事に) |
| 立ち | タ行四段活用動詞「立つ」 |
| たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
| 姿 | 名詞(表現の仕方) |
| なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 |
代々の歌人の歌を見るに、代々の変化あり。
歴代の歌人の歌を見ると、その時代時代の作風の変化がある。
| 代々 | 名詞(その時その時) |
| の | 格助詞 |
| 歌人 | 名詞(和歌を詠む人) |
| の | 格助詞 |
| 歌 | 名詞(和歌) |
| を | 格助詞 |
| 見る | マ行上一段活用動詞「見る」連体形 |
| に、 | 接続助詞 |
| 代々 | 名詞(その時その時) |
| そ | 代名詞 |
| の | 格助詞 |
| 変化 | 名詞(変わること ※ここでは作風の変化を指す) |
| あり。 | ラ行変格活用動詞「あり」終止形 |

過去の歌人の作品を見ても、その時代ごとに作風は違っていると言っていますね。
また、新古にも渡らず、今見るところ昔見しに変はらず、あはれなる歌多し。
また、新しいとか古いとかにも関係なく、今(の私たちが)見て味わったところが昔(=その歌が詠まれた頃の人が)見て味わったのと変わらず、趣深い歌が多い。
| また、 | 接続詞 |
| 新古 | 名詞(新しいことと古いこと) |
| に | 格助詞 |
| も | 係助詞 |
| 渡ら | ラ行四段活用動詞「渡る」(関係する)未然形 |
| ず、 | 打消の助動詞「ず」連用形 |
| 今 | 名詞 |
| 見る | マ行上一段活用動詞「見る」(見て判断する→見て味わうと訳)連体形 |
| ところ | 名詞 |
| 昔 | 名詞 |
| 見 | マ行上一段活用動詞「見る」(見て判断する→見て味わうと訳)連用形 |
| し | 過去の助動詞「き」連体形 |
| に | 格助詞 |
| 変はら | ラ行四段活用動詞「変はる」未然形 |
| ず、 | 打消の助動詞「ず」連用形 |
| あはれなる | ナリ活用の形容動詞「あはれなり」(趣深い)連体形 |
| 歌 | 名詞 |
| 多し。 | ク活用の形容詞「多し」終止形 |
これまづ不易と心得べし。
このこと(=前文を指す…昔の歌が昔と変わらずに今の人も感動させていること)をまず不易と理解するのがよい/理解しなさい。
| これ | 代名詞(このこと) |
| まづ | 副詞(まず) |
| 不易 | 名詞 |
| と | 格助詞 |
| 心得 | ア行下二段活用動詞「心得」(理解する)終止形 |
| べし。 | 命令/適当の助動詞「べし」終止形 |

やっと、不易が何かわかりましたね?

はい!時代によって作風に変化していっても、昔の歌が昔と同じように今の人をも感動させることを「不易」と言っています。
また、千変万化するものは自然の理なり。
また、様々に変化するというのは本来そうなる道理である。
| また、 | 接続詞 |
| 千変万化する | サ行変格活用動詞「千変万化す」(様々に変化する)連体形 |
| もの | 名詞 |
| は | 係助詞 |
| 自然 | 名詞(本来そうなること) |
| の | 格助詞 |
| 理 | 名詞(道理) |
| なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 |

この世界は変わらずにいることなどなく、すべてのものやことが、時の流れとともに様々に変化することは当たり前のことだと言っています。
変化に移らざれば、風 改まらず。
変化に移らなければ、(=時代の変化が起きている方向へ、自分の視点や立ち位置を切り替えなければ)、句風も新しくならない。
| 変化 | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| 移ら | ラ行四段活用動詞「移る」(変化する)未然形 |
| ざれ | 打消の助動詞「ず」已然形 |
| ば、 | 接続助詞 |
| 風 | 名詞(様式 ※ここでは句風を指す) |
| 改まら | ラ行四段活用動詞「改まる」(新しくなる)未然形 |
| ず。 | 打消の助動詞「ず」終止形 |
これにおし移らずといふは、一旦の流行に口質時を得たるばかりにて、その誠を責めざるゆゑなり。
これ(=時代の変化)に移り変わらないというのは、一時的な(句風の)流行に(自分の)作風が合ってもてはやされているだけであって、その誠(=風雅の誠)を追究しないからである。
| これ | 代名詞 |
| に | 格助詞 |
| おし移ら | ラ行四段活用動詞「おし移る」(移り変わる)未然形 |
| ず | 打消の助動詞「ず」終止形 |
| と | 格助詞 |
| いふ | ハ行四段活用動詞「いふ」連体形 |
| は、 | 係助詞 |
| 一旦 | 名詞(一時) |
| の | 格助詞 |
| 流行 | 名詞(蕉風俳諧において、句風が時代とともに変化することを言う) |
| に | 格助詞 |
| 口質 | 名詞(※辞書にない語だが、ここでは口調や作風のこととして解釈) |
| 時 | 名詞(好機) |
| を | 格助詞 |
| 得 | ア行下二段活用動詞「得ウ」(自分のものにする)連用形 ※時を得る…時流に乗って栄える・成功する |
| たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
| ばかり | 副助詞(~だけ) |
| に | 断定の助動詞「なり」連用形 |
| て、 | 接続助詞 |
| そ | 代名詞 |
| の | 格助詞 |
| 誠 | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| 責め | マ行下二段活用動詞「責む」(追究する)未然形 |
| ざる | 打消の助動詞「ず」連体形 |
| ゆゑ | 名詞(~のため) |
| なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 |
責めず、心を凝らさざる者、誠の変化を知るといふことなし。
(風雅の誠を)追究せず、心を集中させない者は、誠の変化(=風雅の誠を追究することによる句風の変化)を理解するということはない。
| 責め | マ行四段活用動詞「責む」(追究する)未然形 |
| ず、 | 打消の助動詞「ず」連用形 |
| 心 | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| 凝らさ | サ行四段活用動詞「凝らす」(集中させる)未然形 |
| ざる | 打消の助動詞「ず」連体形 |
| 者、 | 名詞 |
| 誠 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 変化 | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| 知る | ラ行四段活用動詞「知る」(理解する)終止形 |
| と | 格助詞 |
| いふ | ハ行四段活用動詞「いふ」連体形 |
| こと | 名詞 |
| なし。 | ク活用の形容詞「なし」終止形 |
ただ人にあやかりてゆくのみなり。
単に人に影響を受けてまねをしていくだけである。
| ただ | 副詞(単に) |
| 人 | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| あやかり | ラ行四段活用動詞「あやかる」(影響を受けて似る、まねをする)連用形 |
| て | 接続助詞 |
| ゆく | カ行四段活用動詞「ゆく」連体形 |
| のみ | 副助詞(~だけ) |
| なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 |
責むる者は、その地に足をすゑ難く、一歩自然に進む理なり。
(風雅の誠を)追究する者は、現在の場所にとどまることが難しく、一歩(前へと)自然と進む道理である。
| 責むる | マ行四段活用動詞「責む」(追究する)連体形 |
| 者 | 名詞 |
| は、 | 係助詞 |
| そ | 代名詞 |
| の | 格助詞 |
| 地 | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| 足 | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| すゑ難く、 |
ク活用の形容詞「すゑ難し」(とどめておくのが難しい)連用形
|
| 一歩 | 名詞 |
| 自然 | 名詞 |
| に | 格助詞 ※または「自然に」(自然と、独りでに)という副詞 |
| 進む | マ行四段活用動詞「進む」連体形 |
| 理 | 名詞(道理) |
| なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 |

「風雅の誠」を追究すると、自然と変化してしまうものだと言っていますね。
行く末 幾千変万化するとも、誠の変化はみな師の俳諧なり。
将来 たとえ(俳諧が)いくら様々に変化しようとも、誠の(追究による)変化はみな師の俳諧である。
| 行く末 | 名詞(将来、この先) |
| 幾千変万化する |
接頭語「幾」(いくら、どれだけ)+サ行変格活用動詞「千変万化す」(様々に変化する)連体形
|
| とも、 | 接続助詞(たとえ~ても) |
| 誠 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 変化 | 名詞 |
| は | 係助詞 |
| みな | 名詞(全て) |
| 師 | 名詞(先生。ここでは松尾芭蕉を指す) |
| の | 格助詞 |
| 俳諧 | 名詞 |
| なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 |

風雅の誠を追究していく上で、自分の句風に変化が生じたとしても、表面上は師とは異なると感じるかもしれないが、その本質は師の俳諧のものだと言っています。

本質をしっかりと理解した上で、様々な変化を受け止めながら自分の句を発展させることが大切なのですね。
「仮にも古人の涎をなむることなかれ。
「決して昔の人の涎をなめてはいけない(=昔の人のやり方をまねするだけではいけない)。
| 「仮にも | 副詞+打消など(決して) |
| 古人 | 名詞(昔の人) |
| の | 格助詞 |
| 涎 | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| なむる | マ行下二段活用動詞「なむ」(なめる)連体形 |
| こと | 名詞 |
| なかれ。 | ク活用の形容詞「なし」命令形 |
何も考えずに昔の人の言うことに従い、やり方をまねをすること。 進歩がないこと。ここでは、風雅の追究もせずに、自分の考えなく先人のやり方をまねることを指す。
四時のおし移るごとくもの改まる、みなかくのごとし。」とも言へり。
四季が移り変わるように物事が新しくなる、全てこのようなものだ。(=俳諧もそのように新しくなっていくのだ)。」とも(師は)言った。
| 四時 | 名詞(四季) |
| の | 格助詞 |
| おし移る | ラ行四段活用動詞「おし移る」(移り変わる)連体形 |
| ごとく | 比況の助動詞「ごとし」連用形 |
| もの | 名詞(物事) |
| 改まる、 | ラ行四段活用動詞「改む」(新しくなる)連体形 |
| みな | 名詞(全て) |
| かく | 副詞(このように) |
| の | 格助詞 |
| ごとし。」 | 比況の助動詞「ごとし」終止形 |
| と | 格助詞 |
| も | 係助詞 |
| 言へ | ハ行四段活用動詞「いふ」已然形 |
| り。 | 完了の助動詞「り」終止形 |
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は『三冊子』を解説しました。
文章が歯切れよく、リズミカルに感じるのは土芳が俳人だからでしょうか。しかしその分、文章が簡潔すぎて内容を理解するのが難解になります。
言葉を補いながら、土芳がいいたかったことをしっかりと読み取ることが大切です。
土芳は、漢詩・和歌・連歌・俳諧はすべて風雅なものであるが、俳諧には他の三つと異なる点があると言っていました。
見たままの感動をそのまま句にすることができる、自由なものであることです。
また、師である松尾芭蕉の「不易と流行」の考えを述べ、本質を理解する重要性を語っています。
本質を理解し、風雅の誠を追究すると変化は自然としてしまうものであり、表面上は変化したように見えてもそれは師の俳諧であることに変わりはないということでした。
同じく芭蕉の門弟であった、向井去来の『去来抄』もぜひ読んでみてほしいです。



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