李白「子夜呉歌」現代語訳・解説

漢文

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今回は李白の「子夜呉歌しやごか」について解説をしていきます。

子夜呉歌は、楽譜題がふだいとなっています。
楽譜題とは、後世の人々が詩の主題や楽曲を受けて替え歌を作る「お題」となる歌を言います。
つまり今回の作品は、最初に子夜という女性が東晋時代に作った歌に基づいて、李白が創作したものとなります。

この作品は春夏秋冬の四首連作となっており、この詩は秋の詩です。
どのような思いが込められているのか、読み取っていきましょう。

この記事では

・白文
・書き下し文(読み仮名付き)
・語句の意味/解説
・現代語訳
・漢詩の形式や技法

以上の内容を順番にお話していきます。

李白「子夜呉歌」現代語訳・解説

白文・書き下し文(読み仮名付き)・語句解説・現代語訳

題名:子夜呉歌
子夜呉歌

語句 意味/解説
子夜 人名。
地名

【訳】子夜という女性が作り、呉の地で流行した歌

 

① 長安一片月

長安ちょうあん一片いっぺんつき

語句 意味/解説
長安 地名。中国の古い都とされた都市
一片 一つの月

【訳】長安に一つの月

 「一片の月」の解釈が分かりません。

ここは解釈が分かれるところです…
「一片」は「ひとかけら」「ほんの少し」「辺り一面」と意味が幅広いです。
今回は、漢詩において「月」といえば「満月」であること、特に秋は月がキレイに見える季節であることから半月などではなく、「一つの月」とシンプルに訳しました。

月が、家々を照らしているのですね。

 

② 万戸擣衣声

万戸ばんこころもつのこえ

語句 意味/解説
万戸 多くの家、あちこちの家
擣つ きぬたの上で打つ

【訳】あちらこちらの家から砧で布を打つ音が聞こえてくる

砧というのは、どのような意味なのでしょうか?

洗濯後の生乾き状態の衣類を叩いて柔らかくしたり、シワを伸ばすための道具であり、作業そのものを指すこともあります。

しかし砧の音というのは、作業としてではなく「秋の夜に愛する人を想う」ことを表現するものとして多くの作品に用いられているのです。

 

③ 秋風吹不尽

秋風しゅうふうきてきず

語句 意味/解説
秋風 秋の風
吹きて尽きず 吹きやまない

【訳】秋の風は吹きやまない

冷たくなってきた秋の風は、寂しい思いをさらに強めます。

 

④ 総是玉関情

すべ玉関ぎょくかんじょう

語句 意味/解説
総て是れ これらは全て~である。
玉関 玉門関のこと。長安の北西から2000キロ離れた所にある関所。
(夫を思う)思い

【訳】これら(月の光・砧の音・秋風)はすべて玉門関(に遠征している夫)を思う(気持ちをかきたてる)

 「総て」とは「一片月」「擣衣声」「秋風」を指しています。

 

⑤ 何日平胡虜

いずれの胡虜こりょたいらげて

語句 意味/解説
何れの日か いつの日に
胡虜 中国の北側にある匈奴の国。北方の異民族。
平らげて 討ち鎮める、平定する

【訳】いつの日に(なったら夫は)北方の異民族を平定して、

平定…力で圧倒して支配下におさめること

匈奴の国はたびたび中国北部に侵入し、華北地域を支配することもあり対立関係にありました。
夫はその最前線に遠征しているということです。

毎日心配でしょうね…
無事に帰ることを待ちわびる気持ちが、よくわかります。

 

⑥ 良人罷遠征

良人りょうじん遠征えんせいめん

語句 意味/解説
良人 妻が夫を呼ぶ呼び方。
遠征 遠くの地まで匈奴の国を征伐に行くことを指す
罷めん やめる、終える

【訳】あの人は遠征を終え(て帰ってくる)のであろうか

 

詩の形式・表現技法

今回は古体詩で、五言古詩です。
唐の初めにできた近体詩のような型にはまったものではなく、比較的自由な形になっています。

押韻は、偶数句末となるのが原則です。

押韻…2句目「声」4句目「情」6句目「征」

韻を踏んでいるように見えませんが…

古代の発音を確認してみたところ、この三つの漢字は晋の時代には全て「jieng」という同じ読み方をされていました。

参照:「中古音

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は李白の「子夜呉歌」を取り上げました。
これは楽譜題を用いて、李白が作った歌でした。
遠く離れた場所で任務についている夫を想う心情が、悲しげに詠まれています。

「あちらこちらの家から聞こえる」という「砧で布を打つ音」から、たくさんの女性が夫の帰りを待っていた状況も感じられます。
その時の政治を行っていた人たちに向けて、李白が「国の為に働いている男性には、こんな思いをしている家族がいるんだよ」と伝えたメッセージだったとも言われています。
子夜呉歌は他にも詠んでいる人がいるので、見比べてみると解釈の違いなどを感じ取ることができて楽しめると思います。

この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

自分の生徒には直接伝えられるけど、
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