今回は後漢書より「糟糠之妻」について解説をしていきます。
糟糠の妻とは、無名の貧しい時代から苦労をともにしてきた妻のことを言います。
糟糠というのは、酒粕と米ぬかのことを指します。
これがなぜそのような意味になったのか、また糟糠の妻とは誰のことなのかも読んでいきましょう。
この記事では
・白文
・書き下し文(読み仮名付き)
・語句の意味/解説
・現代語訳
以上の内容を順番にお話していきます。
「糟糠之妻」書き下し文・現代語訳
白文
①帝姉湖陽公主新寡。
②帝与共論朝臣、微観其意。
③主曰、「宋公威容徳器、群臣莫及。」
④帝曰、「方且図之。」
⑤後弘被引見。
⑥帝令主坐屏風後、因謂弘曰、
⑦「諺言、『貴易交、富易妻。』人情乎。」
⑧弘曰、「臣聞、『貧賤之交不可忘。糟糠之妻不下堂。』」
⑨帝顧謂主曰、「事不諧矣。」
書き下し文(読み仮名付き)・語句解説・現代語訳
①帝の姉湖陽公主新たに寡となる。
語句 | 意味/解説 |
帝 | 後漢の光武帝のこと |
湖陽公主 | 称号。帝の娘を指す。(ここでは光武帝の姉:劉黄のこと) |
新たに | ~したばかり |
寡 | 配偶者を亡くした男または女(ここでは光武帝の姉が夫を亡くした婦人であるということを言う) |
【訳】光武帝の姉である湖陽公主は、夫を亡くしたばかりだった。
②帝与に共に朝臣を論じ、微かに其の意を観る。
語句 | 意味/解説 |
与に | 一緒に |
共に | 一緒に |
朝臣 | 朝廷に仕えている家臣 |
論じ | 議論する |
微かに | ひそかに |
其の意 | 湖陽公主の気持ち(意中の人) |
観る | 見る(注意して見る、比べながら見る) |
【訳】光武帝は(湖陽公主と)一緒に朝廷に仕えている家臣について議論して、ひそかにその(湖陽公主の)気持ちを注意して見た。
「誰か良いと思ってる人いないの?」って探っているみたいですね。
③主曰はく、「宋公の威容徳器、群臣及ぶ莫し。」と。
語句 | 意味/解説 |
主 | 湖陽公主のこと |
宋公 | 光武帝を補佐した実績のある功臣 |
威容 | 重々しく立派な姿 |
徳器 | 身に備わっている徳と才能。 |
群臣 | 多くの臣下 |
及ぶ | 匹敵する、かなう |
莫し | ~がない |
【訳】湖陽公主が言うことには、「宋公の立派な姿や徳と才能は、多くの臣下の中でもかなう者がいません。」と。
「ほうほう…宋公がいいんだな?」ってニヤニヤする光武帝が想像できます。
④帝曰はく、「方に且に之を図らんとす。」と。
語句 | 意味/解説 |
方に | ちょうど今 |
且に~んとす | 【再読文字】今にも~ようとする |
之 | 湖陽公主と宋公の再婚のこと |
図らん | とりはからおう※物事がうまくいくように考えて処理しよう※ |
【訳】光武帝が言うことには、「ちょうど今からこれについて取り計らおう。」と。
早速、光武帝の作戦がスタートするんですね。
⑤後、弘引見せらる。
語句 | 意味/解説 |
後、 | のち |
弘 | 宋弘(宋公) |
引見せ | サ変動詞「引見す」(身分・地位の高い者が、人を部屋などに引き入れて対面すること)未然形 |
ら(被)る | 受身の助動詞「らる」のため、書き下し文ではひらがなに直す |
【訳】その後、宋弘(宋公)は(光武帝に呼び出されて)謁見した。
⑥帝主をして屏風の後ろに坐せしめ、因りて弘に謂ひて曰はく、
語句 | 意味/解説 |
~をして…し(令)め | 【使役】~に…させる |
坐 | 座る |
因りて | そこで |
弘 | 宋弘(宋公) |
謂ひて曰はく | AがBに言うことには |
【訳】光武帝は湖陽公主に屏風の後ろに座らせて、宋弘(宋公)に言うことには、
「曰はく」と「謂ひて曰はく」の違いは何ですか?
どちらも「言う」という意味では同じです。
言う相手が明確である場合に「謂ひて」を使うという点です。
今回は光武帝が宋弘(宋公)に言ったということです。
⑦「諺に言ふ、『貴くして交はりを易へ、富みて妻を易ふ』と。人の情か。」と。
語句 | 意味/解説 |
諺 | ことわざ |
貴くして | 身分が高くなれば |
交はり | 交流、付き合い |
易へ | 取り替える、入れ替える |
富みて | 富を得たら |
妻を易ふ | 妻を取り替える |
人の情 | 人が自然に備わっている感情 |
~か(乎) | 【詠嘆】~だなあ |
【訳】「諺に『身分が高くなれば付き合いを替え、富を得たら妻を入れ替える。』と言う。人として自然なことだなぁ。」と。
光武帝、ずいぶん遠回しなプッシュですね。
そうですね。
それにしても、身分が高くなれば自然と関わる人が変わってくるのは理解できますが、富を得たらこれまでの妻を捨てて、グレードの高い女と一緒になれ!って…
⑧弘曰はく、「臣聞く、『貧賤の交はりは忘るべからず。糟糠の妻は堂より下さず』と。」
語句 | 意味/解説 |
弘 | 宋弘(宋公) |
臣 | 私※主君に対して自分のことを言う |
貧賤 | 貧乏で身分が低いこと |
交はり | 交流、付き合い |
忘るべからず(可不) | 【禁止】忘れてはいけない |
糟糠 | 酒粕や米の糠のこと。貧乏生活の粗末な食事の例え。 |
堂 | 住まい |
下さず | おろさない(ここでは「追い出さない」と解釈) |
【訳】宋弘(宋公)が言うことには、「私は『貧乏で身分が低い時の付き合いは忘れてはいけない。貧乏生活(を共にしてきた)妻は住まいから追い出さない』と聞いています。」と。
宋公様、めっちゃいい男ですね!
宋公は、「どんなに自分が偉く立派になったとしても、苦労時代を支えてくれた妻を見捨てることはしない」とはっきりと言っています。
帝顧みて主に謂ひて曰はく、「事諧はず。」と。
語句 | 意味/解説 |
帝 | 光武帝 |
顧みて | 振り返って見る |
主 | 湖陽公主 |
事 | 湖陽公主と宋公の再婚のこと |
不諧 | 思い通りにいかない |
矣 | 置き字【詠嘆】 |
【訳】光武帝は振り返って湖陽公主に言うことには、「思い通りにいかない。」と。
ここでは置き字を踏まえると「うまくいかないものだなぁ~」という感じです。
断られるのは予想外だったかもしれません。
「俺の言うことを聞け!」と無理強いしないところが、またいいですね。
光武帝には、部下の思いを尊重できる度量の大きさが感じられますね。
また宋公は、主君の命令も退けて、情に厚い人物であることがわかります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
糟糠の妻とは、無名の貧しい時代から苦労をともにしてきた妻のことでした。
宋公は主君である光武帝のすすめる再婚話を断り、長く連れ添った妻を選んだのです。
このお話における「糟糠の妻」とは「宋公の妻」だったというわけです。
ダジャレのようになってしまいましたが、皆さんはどのように思いましたか?
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