ここまでのお話は…源氏物語「須磨の秋①須磨には、いとど~」
では続きを読んでいきましょう。
源氏物語「須磨の秋②げにいかに思ふらむ~」現代語訳・解説

本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳
「げにいかに思ふあらむ、わが身一つにより、
「本当に、(この者たちは)どのように思っているのだろうか、自分一人のために、
| 語句 | 意味 |
| 「げに | 副詞(本当に) |
| いかに | 副詞(どのように) |
| 思ふ | ハ行四段活用動詞「思ふ」終止形 |
| らむ、 | 現在推量の助動詞「らむ」(~ているだろうか)連体形 |
| わ | 代名詞 |
| が | 格助詞 |
| 身 | 名詞 |
| 一つ | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| より、 | ラ行四段活用動詞「よる」(頼りにする)連用形 |

「わが身一つにより」の意味がわかりません。

「わが身一つ」は、自分一人という意味です。「よる」は頼りにするという意味があります。
直訳すると「自分一人を頼りにして」となります。つまり、「自分一人のために(須磨の地までついて来てくれた)」ということになります。
親はらから、かた時たち離れがたく、ほどにつけつつ思ふらむ家を別れて、
親兄弟、いっときも離れるのが辛く、それぞれの状態に関して大切に思っているだろう家から離れて、
| 語句 | 意味 |
| 親はらから、 | 名詞(親、兄弟姉妹) |
| かた時 | 名詞(ほんの少しの間、いっとき) |
| たち離れがたく、 | ク活用の形容詞「たち離れがたし」(立ち離れる…離れる、がたし…~しがたい、するのが辛い)連用形 |
| ほど | 名詞(様子、状態) |
| に | 格助詞 |
| つけ | カ行下二段活用動詞「つく」(~に関して)連用形 |
| つつ | 接続助詞 |
| 思ふ | ハ行四段活用動詞「思ふ」(大切にする、恋しく思う)終止形 |
| らむ | 現在推量の助動詞「らむ」連体形 |
| 家 | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| 別れ | ラ行下二段活用動詞「別る」(別れる、離れる)連用形 |
| て、 | 接続助詞 |

この文も、複雑ですね。

文の構造としては、①親はらから ②かた時たち離れがたく、ほどにつけつつ思ふらむ家という二つから「別て」となっていることを押さえましょう。
「ほどにつけつつ」は直訳しました。つまりは「お供の人それぞれに、大切に思う家族や故郷がある」ということです。
かく惑ひ合へる。」とおぼすに、いみじくて、
このようにさすらっている。」とお思いになると、とても悲しくて、
| 語句 | 意味 |
| かく | 副詞(このように) |
| 惑ひ合へ | ハ行四段活用動詞「惑ひ合ふ」(途方に暮れる)已然形 |
| る。」 | 存続の助動詞「り」連体形 ※1 |
| と | 格助詞 |
| おぼす | サ行四段活用動詞「おぼす」(お思いになる)連体形 【尊敬】書き手→源氏への敬意 |
| に、 | 格助詞 |
| いみじく | シク活用の形容詞「いみじ」(とても悲しい)連用形 |
| て、 | 接続助詞 |

源氏はお供の人々に対して、「こんなところまでついて来てくれて…」と感謝と申し訳なさを感じているような気がしました。
「いとかく思ひ沈むさまを、心細しと思ふらむ。」とおぼせば、
「本当にこのように(自分が)ふさぎ込む様子を(見せたら)、心細いと思っているだろう。」とお思いになるので、
| 語句 | 意味 |
| 「いと | 副詞(本当に) |
| かく | 副詞(このように) |
| 思ひ沈む | マ行四段活用動詞「思ひ沈む」(ふさぎ込む、物思いに沈む)連体形 |
| さま | 名詞 |
| を、 | 格助詞 |
| 心細し | ク活用の形容詞「心細し」(心細い)終止形 |
| と | 格助詞 |
| 思ふ | ハ行四段活用動詞「思ふ」終止形 |
| らむ。」 | 現在推量の助動詞「らむ」終止形 |
| と | 格助詞 |
| おぼせ | サ行四段活用動詞「おぼす」已然形 【尊敬】書き手→源氏への敬意 |
| ば、 | 接続助詞 |

ここの部分は、丁寧に見ていきましょう。
「おぼす」と「思ふ」が誰のものなのか、チェックしてみましょう。
②「げにいかに思ふ」のは誰?→ お供の人々
③「ほどにつけつつ思ふ」のは誰?→ お供の人々
④「心細しと思ふ」のは誰?→ お供の人々
昼は何くれとたはぶれごとうちのたまひ紛らはし、
昼は、あれこれと冗談をふとおっしゃっては気をまぎらわし、
| 語句 | 意味 |
| 昼 | 名詞 |
| は | 係助詞 |
| 何くれと | 副詞(あれこれと) |
| たはぶれごと | 名詞(冗談) |
| うちのたまひ | ハ行四段活用動詞「うちのたまふ」(ふとおっしゃる、ふとお話になる) 【尊敬】書き手→源氏への敬意 |
| 紛らはし、 | サ行四段活用動詞「紛らわす」(気をまぎらわす)連用形 |
つれづれなるままに、いろいろの紙を継ぎつつ手習ひをし給ひ、
所在ないままに、さまざまの色の紙をつなぎ合わせては歌をお書きになり、
| 語句 | 意味 |
| つれづれなる | ナリ活用の形容動詞「つれづれなり」(所在ない、手持ちぶさた)連体形 |
| まま | 名詞 |
| に、 | 格助詞 |
| いろいろ | 副詞(さまざまの色) |
| の | 格助詞 |
| 紙 | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| 継ぎ | ガ行四段活用「継ぐ」(つなぎ合わせる)連用形 |
| つつ | 接続助詞 |
| 手習ひ | 名詞(和歌を書き流すこと)※書き流す…思いつくままにさらさらと書くことを言う |
| を | 格助詞 |
| し | サ行変格活用動詞「す」連用形 |
| 給ひ、 | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形 【尊敬】書き手→源氏への敬意 |
めづらしきさまなる唐の綾などにさまざまの絵どもを書きすさび給へる、
珍しい様子の唐の綾織物などにさまざまな絵などを気の向くままに描いていらっしゃる、
| 語句 | 意味 |
| めづらしき | シク活用の形容詞「めづらし」(珍しい)連体形 |
| さま | 名詞 |
| なる | 断定の助動詞「なり」連体形 |
| 唐 | 名詞(中国のことを指す) |
| の | 格助詞 |
| 綾 | 名詞(綾織物) |
| など | 副助詞 |
| に | 格助詞 |
| さまざま | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 絵ども | 名詞(絵など) |
| を | 格助詞 |
| 書きすさび | バ行四段活用動詞「書きすさぶ」(気の向くままに描く)連用形 |
| 給へ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」已然形 【尊敬】書き手→源氏への敬意 |
| る、 | 存続の助動詞「り」連体形 |
屏風のおもてどもなど、いとめでたく、見どころあり。
屏風の表の絵などは、本当にすばらしく見ごたえがあった。
| 語句 | 意味 |
| 屏風 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| おもてども | 名詞(表の絵など) |
| など、 | 副助詞 |
| いと | 副詞(本当に) |
| めでたく、 | ク活用の形容詞「めでたし」(すばらしい)連用形 |
| 見どころ | 名詞(見ごたえ) |
| あり。 | ラ行変格活用動詞「あり」終止形 |
人々の語り聞こえし海山のありさまを、はるかにおぼしやりしを、
人々がお話申し上げた海や山の様子を、遠くはるかに想像なさったのを、
| 語句 | 意味 |
| 人々 | 名詞(これは現在のお供の人々ではなく、都にいた時に話していたことを指す) |
| の | 格助詞 |
| 語り | ラ行四段活用動詞「語る」(話す)連用形 |
| 聞こえ | ヤ行下二段活用補助動詞「聞こゆ」(申し上げる)連用形 【謙譲】書き手→源氏への敬意 |
| し | 過去の助動詞「き」連体形 |
| 海山 | 名詞(海と山) |
| の | 格助詞 |
| ありさま | 名詞(様子) |
| を、 | 格助詞 |
| はるかに | ナリ活用の形容動詞「はるかなり」(遠く離れている)連用形 |
| おぼしやり | ラ行四段活用動詞「おぼしやる」(想像なさる)連用形 【尊敬】書き手→源氏への敬意 |
| し | 過去の助動詞「き」連体形 |
| を、 | 格助詞 |
御目に近くては、げに及ばぬ磯のたたずまひ、二なく書き集め給へり。
間近になさって、本当に想像もつかない(ほど素晴らしい)磯の様子を、この上なく(上手に)お描き集めなさっている。
| 語句 | 意味 |
| 御目 | 名詞(目) 【尊敬】書き手→源氏への敬意 |
| に | 格助詞 |
| 近く | ク活用の形容詞「近し」連用形 |
| て | 接続助詞 |
| は、 | 係助詞 |
| げに | 副詞(本当に) |
| 及ば | バ行四段活用動詞「及ぶ」(到達する ※ここでは人々から聞いて想像していた海山の景色を、実際の磯の様子は超えていたことを表している)未然形 |
| ぬ | 打消の助動詞「ず」連体形 |
| 磯 | 名詞(岩石の多い水辺を指す) |
| の | 格助詞 |
| たたずまひ、 | 名詞(様子) |
| 二なく | ク活用の形容詞「二なし」(この上ない)連用形 |
| 書き集め | マ行下二段活用動詞「書き集む」(描き集める)連用形 |
| 給へ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」已然形 【尊敬】書き手→源氏への敬意 |
| り。 | 存続の助動詞「り」終止形 |
「このころの上手にすめる千枝、常則などを召して、
「近ごろ世間で名人と言われているような千枝、常則などをお呼びになって、
| 語句 | 意味 |
| 「こ | 代名詞 |
| の | 格助詞 |
| ころ | 名詞 ※このころ…近ごろ |
| の | 格助詞 |
| 上手 | 名詞(巧みなこと) |
| に | 格助詞 |
| す | サ行変格活用動詞「す」終止形 |
| める | 婉曲の助動詞「めり」連体形 |
| 千枝、 | 名詞(人名。詳細は不明だが、飛鳥部常則と同時期に活躍した絵師だと考えられる) |
| 常則 | 名詞(人名。実在した宮廷画家である飛鳥部アスカベ常則のこと) |
| など | 副助詞 |
| を | 格助詞 |
| 召し | サ行四段活用動詞「召す」(お呼びになる)連用形 【尊敬】お供の人々→源氏への敬意 |
| て、 | 接続助詞 |

「上手にすめる」とは、直訳すると「巧みにするような」となります。それを意訳すして「名人と言われるような」としました。
作り絵つかうまつらせばや。」と心もとながり合へり。
(源氏が描いた)墨書きの絵に色を塗って差し上げたいものだ。」とじれったく思い合っている。
| 語句 | 意味 |
| 作り絵 | 名詞(墨で描いた絵に色を塗ること) |
| つかうまつら | ラ行四段活用動詞「つかうまつる」(してさしあげる)未然形 【謙譲】お供の人々→源氏への敬意 |
| せ | 使役の助動詞「す」未然形 |
| ばや。」 | 願望の終助詞(~たいものだ) |
| と、 | 格助詞 |
| 心もとながり合へ | ハ行四段活用動詞「心もとながり合ふ」(じれったく思い合う)已然形 |
| り。 | 存続の助動詞「り」終止形 |

このセリフは、誰の言葉かわかりますか?

お供の人々のものです。

そうですね。
「合へり」という言葉から、複数の人々が源氏の絵を見て思ったことを口々に話している様子が伺えます。
また、敬語や使役が出てきて、現代語訳がしにくかったのではないでしょうか?
ここはシンプルに「色を塗って差し上げたい」としましたが、使役と謙譲語の意味を明らかにするならば「(千枝や常則に)色を塗らせて、(源氏にその絵を)差し上げたい」というニュアンスで解釈すると良いのではないでしょうか。
なつかしうめでたき御さまに、世のもの思ひ忘れて、
親しみやすく立派な源氏のご様子に、世の中の悩みも忘れて、
| 語句 | 意味 |
| なつかしう | シク活用の形容詞「なつかし」(親しみが持てる)連用形「なつかしく」のウ音便 |
| めでたき | ク活用の形容詞「めでたし」(すばらしい、立派だ)連体形 |
| 御さま | 名詞(ご様子) |
| に、 | 格助詞 |
| 世 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| もの思ひ | 名詞(心配、悩み) |
| 忘れ | ラ行下二段活用動詞「忘る」(忘れる)連用形 |
| て、 | 接続助詞 |
近う慣れつかうまつるをうれしきことにて、四、五人ばかりぞつと候ひける。
(源氏の)身近で親しみお仕え申し上げることがうれしくて、四、五人ほどがずっとお仕えしていた。
| 語句 | 意味 |
| 近う | ク活用の形容詞「近し」(身近にいる)連用形「近く」のウ音便 |
| 慣れつかうまつる | ラ行四段活用動詞「慣れつかうまつる」(親しみお仕え申し上げる)連体形 【謙譲】書き手→源氏への敬意 |
| を | 格助詞 |
| うれしき | シク活用の形容詞「うれし」(嬉しい、喜ばしい)連体形 |
| こと | 名詞 |
| にて、 | 格助詞 |
| 四、五人 | 名詞 |
| ばかり | 副助詞(~ほど) |
| ぞ | 係助詞(係) |
| つと | 副詞(ずっと) |
| 候ひ | ハ行四段活用動詞「候ふ」(お仕え申し上げる)連用形 【謙譲】書き手→源氏への敬意 |
| ける。 | 過去の助動詞「けり」連体形(結) |
源氏の気遣いが感じられますね。
- あれこれと冗談を言う
- さまざまな色の紙を継いで和歌を書きつける
- 唐の綾織物に絵を描く
- 自分のために家族や故郷から離れさせてしまって、かわいそう。申し訳ない。
- 自分が気落ちしていたら、心細く感じさせてしまう。
→明るく振る舞い、歌や絵をかいて少しでも楽しんでもらおうと思っている。
→源氏の主人としての立派さや優しさを感じ取り、辛い悩みも忘れ、そんな源氏のそばに仕えることが嬉しいと感じている。

源氏は女性だけではなく、部下の男性にも優しかったんですね。
人としてモテる人だったんだんだなぁ~と感じる場面でした。


コメント